イベント報告

2016年11月15日開催被害者支援は弁護士の責務 −明石市・泉房穂市長のご講演−ご報告

条例制定に向けた全国の機運

犯罪被害者が刑事裁判に参加できる「被害者参加制度」が開始してはや7年が経過しました。被害者参加事件に関与する会員も増えていると思われます。

犯罪被害者給付金制度、損害賠償命令制度、ワンストップセンターの創設など、犯罪被害者に対する法的な支援は確実に広がりつつあります。

さらに、全国的には各自治体が犯罪被害者の支援のための条例を制定する機運が高まっているところです(日弁連でも、昨年12月26日にシンポジウムが開催され、モデル条例案が公表されています。)。ところが、ここ福岡県では、被害者条例を制定している自治体がわずか2市ときわめて少なく、今後の取り組みが求められるところです。

そこで、昨年11月15日、福岡県弁護士会館3階ホールにおいて、全国に先駆けて被害者条例を制定・改正し、被害者の支援に積極的に取り組んでおられる兵庫県明石市の泉房穂市長にお越しいただき、被害者支援・被害者条例の制定についてのご講演をいただきました。

明石市・泉市長の熱い思いを聞き、私も一弁護士として血が沸き立つような興奮を覚えました。若干の裏話も含め、ご講演の様子をご報告します。

市長の熱い思い

(1) 経歴等

泉市長はNHK、テレビ朝日のディレクター等を経て弁護士となり(49期)、衆議院議員の後に、明石市長に当選されました(現在2期目)。市長のベースには、障害者や犯罪被害者などに優しい社会づくりをしたいという強い信念があり、その信念のもと活発に行動されています。

(2) 市長とご対面

講演の30分ほど前に到着されたのですが、到着のときから市長の熱気が伝わってきました。

被害者を支援する弁護士が、時効中断のため再度の訴訟提起をする際に、一銭も実入りのない被害者(遺族)から着手金として数十万円をいただくことに強い違和感を持ち、明石市では、そのような場合の弁護士費用を支援していく条例改正を検討していることを話されました。当会や当委員会でも、関係機関に呼びかける等して、そのような場合に支援策を検討する余地がありそうです。

(3) 講演が始まって

午後4時、犯罪被害者委員会の林誠委員の司会のもと、藤井大祐委員長による市長のご紹介があった後、市長による熱意ある講演が始まりました。ネイティブの関西弁を駆使し、熱血的に話す泉市長の姿に、最初は皆が圧倒されました。

しかし、徐々に熱意だけでなく、理論的にも学ぶべきことや課題が多いことが分かってきました。

被害者支援は誰のためかとの問いには、明日被害に遭うかもしれない「全ての市民のため」と明言されました。

残念ながら、(他の自治体でもほぼ同様ですが)明石市の条例では過去の被害者やその遺族は救済されません、ですが過去の被害者や遺族たちは、将来の被害者となるであろう人々の権利向上のために立ち上がり、声を上げ続けています。具体的には、医療的ケア、家族(遺族)のケア(家事援助、一時保育費用補助)、経済的なケア(支援金、家賃補助)など、将来の被害者のための総合的な支援が可能となる条例を制定しているのです。

被害に遭っただけでも苦痛なのに、その人が自ら声を上げなければ何の助けも受けられないのでは、社会は生きやすいと言えるでしょうか。私たちは、過去の被害者や遺族により切り拓かれ、少しは被害者に優しくなった社会に今、生きています。

将来の被害者にとってさらに優しい社会となるよう、今、私たちにできること、その一つが、条例を制定し、継続的で質の高い支援体制を整備することだと感じています。

日弁連条例シンポジウム

先述しましたが、平成28年12月26日、日弁連でも条例制定に関するシンポジウム(犯罪被害者支援モデル条例案セミナー)が開かれました。

地方自治体による条例制定は今、社会から求められている"熱い"テーマといえます。
法務研究財団の研究班によるモデル条例案も発表されましたので、条例制定の機運はますます高まるものと期待されます。

今後の展望

福岡県内では、こと性犯罪の被害が多い(ここ数年、認知件数では全国ワースト5位以内、人口当たりの発生率では全国ワースト2位や3位)にもかかわらず、まだまだ条例を制定している自治体が少なく、被害者への支援は不十分といえます。

被害者支援条例が福岡県内の各自治体で制定され、被害者がもれなく継続的で質の高い支援を受けられるようになることを願うとともに、そのためには弁護士においても各自治体(地域)の実情・特質に応じた条例制定に関与するための研鑽を積むことが求められていることを感じられた、刺激の多い講演でした。

活動報告一覧