福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

委員会の一冊 番外編 広報委員会からの一冊

うさこちゃんとたれみみくん
広報委員長 服部 博之(57期)
ディック・ブルーナ 作、松岡 享子 訳
福音館書店 2007年

私は、ミッフィー(nijntje、miffy、うさこちゃん)が好きである。ミッフィーと生みの親であるディック・ブルーナを語るには、いかに月報製作責任者として与えられた権限を逸脱・濫用しても足りぬところではあるが、きっと、ミッフィーとブルーナの偉大さは、皆が認めるものであろうと信じる。ブルーナは、ミッフィーをはじめとし、たくさんの作品を世界に生み出し、2017年2月に89歳で逝去した。人の命には限りがあり、惜しむべきものであるが、生み出した作品は永遠である。

私のようなミッフィー好きの公言者も少なくはないが、実は口には出さないまでも実はミッフィー好きであるとの人は、おそらく会員が考えているよりももっと多い。毀誉褒貶あることはキャラクターの宿命というべきものであるが、少なくとも私は「ミッフィーが嫌いだ」という人を見たことがない。また、ミッフィーを描けないという会員もきっといないであろう(一定の絵心があれば格別、私のように絵心がない者は、「うさぎ」を描くことになれば、きっとミッフィーの特徴である長い耳・2つの目と「×」(この「×」はうさぎの「鼻と口」が表現されたものである。)を描くことになろう。)。さらに、ミッフィーとの一切の接触を断って、人生を送ることは不可能であると言っても過言ではない。特に、子育ての過程においては、ミッフィーは常に生活の一部となる。思い返してみると、私のミッフィーとの出会いも、物心が付く前、兄からのお下がりのタオルケットにミッフィーが描かれていたというものであった。

ブルーナの数多くの作品の中で1冊に絞ることは難しいことであるが、弁護士会の月報ということもあり、ここでは「うさこちゃんとたれみみくん」を挙げておくこととする。ミッフィーは常に正面を向いて語りかけてくる。ミッフィーには大人となった今だからこそ感じるべきものがある。

ノルウェイの森
前委員長 桑野 貴充(55期)
村上 春樹 著
講談社 1987年

「ノルウェイの森」にまつわるアレコレ
「この1冊を」と問われてこれを選ぶのは、余りにも「ベタ」な選択と言われそうで気恥ずかしくもある。それほどの大ベストセラーであるが、今までに一番読んだ本がこれなのだから仕方ない。初めて読んだのは中3か高1の頃だったと思うが、その後少なくとも20回以上は読んだし、学生のときには英訳本も読んだ。ただ、何度も読んで原文が殆ど頭に入っていたため、読んでいるそばから原文が頭に湧き出てきて、全く英語の勉強にならなかったのを覚えている(因みに、その次に読んだ回数が多いのは「羊をめぐる冒険」で、これも20回は読んだと思う。どうやら私は村上春樹が好きなようだ。)。

この本が発売された当時、本の帯には「100%の恋愛小説」と書かれていたが、私は、作者のことを堂々と本音を書くような人だと思っていなかったので、むしろこの本は恋愛小説ではない、恋愛小説の形を借りて別のテーマに取り組んだ小説だと受け取った。そう思って読み進めると、いわゆる羊3部作や「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」などのそれまでの作品に連なるテーマが扱われているように読めて、そのテーマからさらに1歩前に踏み出そうとしていると感じたものであった。もちろん、それまでの作品のテーマというのも、作者による公式見解があるわけではなく、私が勝手に感じたものに過ぎないが。ここでこれらの小説の解釈論を語りだすと、とてもではないが誌面が足りないし、私の解釈など誰も興味がないと思うので、ここでは踏み込まないでおく。

主人公は大学生となり上京して、とある学生寮に入るが、この学生寮は実在する(大学、出身地を問わず入寮可能)。そして、私も大学入学当初、親からこの寮に入れられた(因みに、当会の某会員は寮の先輩で、弁護士になって再会した。)。「入れられた」と書いたのは、本当は一人暮らしをしたかったのだが、スネをかじらせてもらう手前抵抗もできず、渋々入寮したからである。入寮後間もなく、寮の先輩から「ノルウェイの森は読んだことあるか?」と問われ、「一番の愛読書です」と答えたら、「ここは、あの小説に出てくる寮だ。村上春樹もここにいたらしい」と聞き、とてもとても驚いた。親の言いつけには従ってみるものだなとも思った。私が学生のころには毎朝の国旗掲揚はなかったが、隣のホテル(かの有名な椿山荘)が夏に蛍を放していたような記憶はある。かといって、隣のホテルから蛍が飛んできたというような心温まる出来事はなかった(因みに、このモチーフは「蛍」という短編小説で先に書かれ、これを下敷きにノルウェイの森は書かれた。)。

主人公は2年ほどで退寮し、吉祥寺の郊外に引っ越すが、私は8か月ほどで退寮し、吉祥寺のわりと街中に引っ越した。主人公を意識したわけではなかったが、偶々そうなった。偶然だが小説の世界をトレースしたようで、今振り返っても不思議な感じがする。

このようなこともあり、この小説の背景については、時代は異なるものの妙にリアルに感じることができる。これも、この小説が私を捉えて離さない理由かもしれない。村上春樹の最近の小説は繰り返し何度も手に取ることはないが、初期の作品群は今も折に触れ読み返す。おそらく、これからもそうだと思う。

チューダー王朝弁護士 シャードレイク
副委員長 松本 幸太(61期)
C・J・サンソム 著/越前 敏弥 訳
集英社文庫 2012年

私からは、弁護士モノをご紹介。
とはいっても、我々弁護士の日常が描かれているとか、裁判の様子が忠実に再現されている、といった類のものではなく、「チューダー王朝」という冠のとおり、歴史小説になります。ちなみに、著者は、作家になる以前は弁護士(ソリスタ)として活動していたそうです。
物語は、かの有名なヘンリー8世(チューダー朝の第2代イングランド王。6人の妻を娶り、離婚したいがために宗教制度を変えたという話が有名で、童話「青髭」のモデルという説もありますね。)の時代が舞台です。

ヘンリー8世の側近であるトマス・クロムウェルの命令で、主人公のマシュー・シャードレイクは、ある修道院で起きた殺人事件の調査を開始します。しかし、その命令の裏で、修道院を解散することを修道院院長に承認させるようにとの密命をクロムウェルから与えられたシャードレイク。

様々な欲望が渦巻く修道院や、陰鬱で生々しい時代背景。王政の財政回復のために修道院を解散させ、その土地・財産を没収したという史実。弁護士として有能ではあるものの、障がいを持ち、決して華やかではないシャードレイクの人間臭さ。女性から少し優しくされるだけで、「自分に好意を持っているのでは!?」と勘違いする、奥ゆかしくもチャーミングなシャードレイク。魅力的な脇役やセリフの妙。

最初は読むのに時間がかかりましたが、読み進むにつれ、臨場感ある当時の時代背景の描写にはまり込み、正しくありたいと思いつつも当時の価値観に制約され葛藤するシャードレイクの心の揺れ動きを感じ、読み終わると、なんとも言い難い、複雑な気持ちになります。
また、一冊では物足りない読書家の皆様には、続編として、「暗き炎-チューダー王朝シャードレイク」(またもクロムウェルからの命を受けて頑張るシャードレイク)、「支配者-チューダー王朝弁護士シャードレイク」(クロムウェル失脚後の話。表紙はヘンリー8世です。)が刊行されており、さらにイギリスでは、第7部まで続編があり、読み応えは十分です。残念ながら日本語翻訳版は第3部までしか刊行されておらず、翻訳を待ち望んでいる日本の読者は少なくありません。

イギリスの歴史が好きな人もそうでない人にも、秋の夜長におすすめの一冊(シリーズ)です。

2021年9月 1日

あさかぜ基金だより

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 社員 石井 智裕(72期)

○先輩弁護士

あさかぜ基金法律事務所は、平成20年9月22日に設立された事務所です。

設立以来あさかぜ基金法律事務所には29人の弁護士が入所しました。

このように、たくさんの先輩弁護士がいることがあさかぜ基金法律事務所の良いところと思っています。

○共同受任

他の弁護士から紹介を受けた事件のうち、その2割から3割があさかぜ基金法律事務所の先輩弁護士からの紹介事件であり、共同受任をして事件処理を進めています。

その中で、依頼者にどのように伝えればわかりやすいのか、書面で強調すべきポイントは何かなどを教えていただき、また議論を掘り下げるようにがんばっていています。

○所内研修

あさかぜ基金法律事務所では、事務所独自の研修(あさかぜ研修)で先輩弁護士の事務所を訪問することがあります。

最近では、ひとよし法律事務所の中嶽修平弁護士や豊前総合法律事務所の西村幸太郎弁護士には事務所を開設する準備や事務所経営を軌道に乗せるための工夫、そしてどんな苦労をしたのかについて、話を聴きました。

このように、先輩弁護士が実際に過疎地でどのようにして開業し、事務所を運営していったのか知ることができることによって、近い将来の私自身の過疎地への赴任に向けて具体的なイメージを持つことができます。

○保管記録の活用

あさかぜ基金法律事務所には先輩弁護士の事件記録が残っています。この記録を見ることが事件を進めていくうえで参考になっています。

たとえば、私が入所してすぐのころ、破産申立書の書き方について、所内のチェックを受けたとき不十分だという指摘を何回も受けました。それで私は、過去の事件記録を読んで破産申立書の書き方を一生懸命に勉強しました。

また、少年事件を初めて受任したときは、服部晴彦弁護士のデータにあった検討事項書をみることができ、何を検討しなければならないのか、いつの時期までにどのような活動をしなければならないのかを把握することができました。さらに、古賀祥多弁護士が残していった記録には事件をどのように進めたかが細かく書かれていて、どのように事件を進めていけばよいのか、どんな点をポイントとすべきなのかを具体的につかむことができました。

○所内ゼミナール

今年度から新しく運営委員の光安正哉弁護士や井口夏貴弁護士が主催するゼミナールが所内で開かれています。

第1回のゼミでは、交通事故の証拠収集の方法、民事保全の手続について学びました。第2回、第3回のゼミでは、要件事実の整理をどのように訴状や準備書面で活かすかということを解説してもらいました。

○先輩弁護士とのつながり

あさかぜ基金法律事務所は指導担当弁護士など事件紹介をしてくれる弁護士だけではなく、これまで在籍していた先輩弁護士のつながりが強く、先輩弁護士の尽力により支えられている事務所です。

セミナー「この人に聞く コロナ時代に打ち勝つ経営」

中小企業法律支援センター 委員 山本 恭輔(71期)

1 はじめに

令和3年7月20日、株式会社タケノ代表取締役・竹野孔氏、エンドライン株式会社取締役・石谷莉沙氏のご両名を講師としてお招きし、「この人に聞く コロナ時代に打ち勝つ経営」との題でご講演いただきました。本セミナーは、「全国一斉中小企業のための無料法律相談会及びシンポジウム」の一環として行われたものです(詳しくは後記2をご参照ください。)。本年は、新型コロナウイルス感染症の影響により、エルガーラホール7階中ホールを主会場としつつ、Zoom配信も併用する形で開催されました。

本年は、中小事業者の方々をはじめ、大企業の社員の方、弁護士や隣接士業の先生方などから多数のご参加を賜り、会場参加が約70名、Zoomによる参加が約30名と、合計約100名程度にご参加いただく盛況ぶりとなりました。

本稿では、本セミナーの内容と、本セミナーに関連する中小企業法律支援センターの取組みについて報告いたします。

2 「一斉シンポ」について

中小企業法律支援センターでは、例年、日弁連の要請により、全国の弁護士会と共に「全国一斉中小企業のための無料法律相談会及びシンポジウム」を開催してきました。

中小企業庁は、令和元年より、中小企業基本法の公布・施行日である7月20日を「中小企業の日」としましたので、昨年からはこれに合わせ、7月に「一斉シンポ」が開催されています。本年は、「中小企業の日」当日、7月20日に開催することができました。

伊藤会長の開会挨拶

伊藤会長の開会挨拶

3 セミナーの内容

本年は、新型コロナウイルス感染症の影響が継続している状況に鑑み、中小企業の方々に実践的にお役立ていただくため、実際にコロナ禍と闘いながら企業の舵を取られている経営者の方々にご講演いただくというコンセプトで、標記のようなタイトルにてセミナーを実施することとなりました。

私も参加のうえ拝聴して参りましたで、以下にそれぞれのご講演内容を私の雑感と共にまとめさせていただきます。

(1)第1部(竹野氏ご担当)

第1部は、「博多ぐるぐるとりかわ」などが人気の居酒屋「竹乃屋」をはじめ、福岡県を中心に12業態44店舗を展開する飲食チェーン、株式会社タケノの竹野孔社長にご登壇いただきました。テーマは、「コロナ時代に打ち勝つ経営」です。

同社は、酒類を提供する飲食事業を中心とするため、やはりコロナ禍で業績は大きく落ち込んだとのことです。竹野氏は、誰にも答えが見えず、勘に頼らざるを得ない意志決定の連続であったとこれまでのコロナ禍を振り返りました。その中で、竹野氏が改めて思ったこととして、①内部留保と金融与信による事業継続力の強化②お客様、ご縁のある方の支え③業態と業種の多角化によるリスクヘッジ④事業継続計画(BCP)の策定等による危機管理といった4点の重要性を挙げられました。

このうち、③の「多角化によるリスクヘッジ」については、株式会社タケノでの取組みをかなり具体的にご紹介いただき、掘り下げてくださいました。同社は、竹野氏のモットー「完璧よりもスピード」にのっとり、この一年でなんと6つの新規事業を立ち上げたそうです。元々の主軸であった店舗事業、店舗事業に付随した農業事業に加え、通販事業、催事事業、食物販事業、発酵食品事業、FC事業、ヘルスケア事業を立ち上げることで、コロナ禍に対応できる多角化体制を目指されていることが理解できました。元来事業の中心であった店舗事業についても、売上げの苦戦による撤退だけでなく、コロナ禍の中、過去最多の出店計画を立てており、本年上半期だけで9店舗をオープン済みで、以降も16店舗をオープン予定とのことです。このお話を最初に伺った際には、コロナ禍の影響で赤字が拡大するかもしれない中、積極路線をとることに驚きました。しかし、竹野氏からは、スクラップアンドビルドによる事業の再構築であるとの説明があり、コロナ禍への対応、そしてその先を見据えた経営戦略なのだと得心いたしました。

最後に、「人生もビジネスもご縁、出会いで決まる」「挑戦すれば答えは二つ 成功か学びか」の二言と、「まだまだ当社は大変な状況だが、この挑戦の答えは1年後に出る。挑戦しなければ失敗はないが、成功も学びもない。」という熱いメッセージにて、セミナーは締めくくられました。

全体を通して、コロナ禍で苦境に立たされながらも挑戦を続ける竹野氏の姿勢が印象的で、聴いているこちらも前向きになることができるセミナーでした。このようなセミナーで、コロナ禍で試行錯誤する企業の実態を知ることは、企業と接する弁護士業務にも役立ちますし、竹野氏の経営に関する視点は事務所経営にも活きてくるように思われます(「完璧よりもスピード」などは、何事もつい二の足を踏んで後回しにしがちな私にとって胸に刺さるお言葉でした。)。竹野氏は、終始ユーモアを交えながら語る一方で、お世話になった方とのご縁の話題になるとやや感極まられるなど、まさに笑いあり涙ありのセミナーになり、会場も非常に盛り上がっていた印象でした。

コロナ禍の振返りをされる竹野氏

コロナ禍の振返りをされる竹野氏

(2)第2部(石谷氏ご担当)

第2部は、エンドライン株式会社取締役の石谷氏に講師をご担当いただき、「コロナに打ち勝つ 超アナログ会社のDX実践術!!」をテーマにセミナーが行われました。「DX」とは、Digital Transformationの略で、ITの浸透が人々の生活をより良いものへと変化させるという概念のことです。

エンドライン株式会社は、「モリアゲアドバイザー」をキャッチコピーに、住宅・工務店・各種店舗の集客サポートや、スポーツ会場の装飾などを手掛ける会社です。石谷氏は、今回のセミナーでもまさしく「モリアゲアドバイザー」として、同社商品であるのぼり旗を背負って登壇され、会場は大いに沸きました。

同社は、かつてはあらゆる資料を紙媒体で管理し、人事評価は社長次第という「超アナログ会社」だったそうです。しかし、書類の管理が負担になること、出張・外回りで業務が滞る不便さから、ペーパーレス化などITを活用した業務改善を平成29年頃からスタートさせました。その結果、昨年の新型コロナウイルス感染症の流行を受け、昨年4月・5月を完全在宅勤務にするなど、スムーズにコロナ禍に対応できたということでした。

セミナーでは、エンドライン株式会社でのDXに関する取組みを、具体的に多数ご紹介いただきました。一例を挙げると次のとおりです。

  1. 社内コミュニケーション
    会議をオンライン化することはもちろん、次のように在宅勤務に対応している。
    • 社員各自のスマートフォンからの発信で会社の電話番号を相手に通知し、電話代は会社に請求されるアプリを活用する→在宅でも電話対応が可能に。
    • 在宅での業務依頼・管理依頼には、内容と期日が表示されタスク管理が可能になるアプリを利用。
    • 様々なデザインの「サンクスカード」を贈りあうアプリの導入→社内コミュニケーションが希薄になるという在宅勤務の難点を緩和。
  2. 営業活動
    商談のオンライン化、電話代行や名刺管理アプリの活用をはじめ、営業資料をクラウドで共有するなどしている。
  3. 勤怠管理
    システム上で出社退社の打刻ができ、残業・有給申請にも対応したアプリを導入し、在宅勤務に対応している。
  4. 経費申請
    領収書をスマートフォンで読み取って経費申請ができるアプリを活用している。
  5. 人事評価
    評価のポイントを決定して公開し、各々のポイントについての従業員の自己評点、評価者による評点と評価の理由を相互に「見える化」することで、在宅でも公平な評価を実現している。

以上のほか、SNSによる情報発信についても簡潔にご紹介がありました。

ITの導入に関する話題でしたが、石谷氏は、まったく小難しくなることなく、全体を通して明るく楽しくお話してくださいました。内容としても、機能が完成されたアプリをインストールして運用するという取り組みやすいものが多く、IT化の遅れが指摘されている弁護士にとっても、大変役立つセミナーだったと感じました。個人的には、「IT化=効率化」というイメージを持っていましたが、人事評価をIT化することで公平さを担保できるといった視点が特に興味深かったです。

のぼり旗を背に講演される石谷氏

のぼり旗を背に講演される石谷氏

4 セミナー終了後のイベントについて

本セミナー終了後には、質疑応答が行われました。竹野氏にはメニュー開発やマーケティングの裏側、石谷氏にはIT化の際の社員からのハレーションなど、踏み込んだ内容にもお答えいただき大変ありがたかったです。

その後、株式会社日本政策金融公庫の中嶋氏より、「新型コロナウイルス感染症特別貸付」につきご案内いただきました。

当会からは、当会の本年5月27日付け「中小企業・小規模事業者の経営を支援することにより、経営者、従業員とその家族の生活、取引先の経営を守る宣言」を紹介し、セミナーは閉会となりました。

セミナー閉会後は、無料法律相談会が開催されました。会場には4つのブースが設置されていたところこれが満席となり、Zoomでも4件の相談をいただくなど、多くの方々が活用してくださいました(私も法律相談員を担当させていただき、とても勉強になりました。)。

5 おわりに

以上のとおり、本セミナーは、中小事業者の方にとっても弁護士にとっても、大変有意義なものになったのではないかと考えております。

私自身も、本セミナーで得た知見を活かして、今後の中小企業支援に還元していきたいと考える次第です。

満席の会場の様子

満席の会場の様子

よりよい高齢者支援とは?

消費者委員会 委員 川渕 春花(72期)

第1 シンポジウムの概要

令和3年7月17日、弁護士会館及びウェビナー併用にて「地域共生社会と消費者の安全~地域社会は、高齢者一人ひとりを取り残さないケアが可能か~」と題して、第63回人権擁護大会プレシンポジウムを開催しました。

筆者は、シンポジウムを主催した消費者委員会の委員であり、当日の司会進行役を務めましたので、その立場から見た本シンポジウムの様子についてご報告いたします。

本シンポジウムでは、東京大学名誉教授の上野千鶴子先生によるオンライン基調講演を行いました。著名な上野先生のご講演ということで、当日は、法曹関係者のみならず市民の方々にも多数ご参加いただきました。

第2 シンポジウムの趣旨説明

まずは冒頭、藤村元気弁護士より、高齢者社会の進行及び高齢者の消費者被害の件数が多い現状に鑑み、高齢者のケアについて考えるという本シンポジウムの趣旨説明がなされました。

第3 上野千鶴子先生の基調講演

続いて、上野先生のオンライン講演(「賢い消費者になるために~当事者主権の福祉社会へ~」)を行いました。

上野先生からは、「当事者主権」をキーワードに、よいケアの最終判定者は当事者である高齢者本人にもかかわらず、高齢者本人(介護される側)を対象とした研究が進んでいないことの指摘、そして、実際に独居高齢者の在宅医療・在宅看取りを可能にしたケースをご紹介いただきました。

なかでも、高齢者ケアとは、決して現・高齢者だけの問題ではなく、"自分が高齢者になった時にどのようなケアを受けたいか"というどの世代にも通じる問題であるとのご指摘が非常に印象的でした。

第4 自治体からのご報告

続いては、福岡県・久留米市・大牟田市より基調報告をいただきました。

  1. 最初は、福岡県人づくり・県民生活部生活安全課消費者安全係長の石川正洋氏より、高齢者・障がい者の消費者被害の現状と特徴にふれたうえで、消費者安全確保地域協議会の設置状況を示し、春日市での取組について具体例をあげてご説明いただきました。
  2. 次に、久留米市健康福祉部地域福祉課長吉塚哲氏より、久留米市の取り組みをご紹介いただきました。久留米市が行う重層的支援会議・支援会議はオンラインを利用して開催され、この支援会議では、本人の同意がなくても守秘義務のもとで個人情報の共有ができるそうです。
  3. 最後に、大牟田市保健福祉部福祉課・総合相談担当課長の松枝芳昭氏より、大牟田市の包括的支援体制構築事業についてご報告いただきました。企業の人手不足問題と地域とのつながりづくりを組み合わせる取組として、宅配におけるラストワンマイルの配達を、小規模多機能型居宅介護施設の利用者が可能な限り手渡しで行う等の取り組みが紹介されました。
第5 パネルディスカッション

休憩をはさんだ後半は、司会進行を是枝秀幸弁護士にバトンタッチしまして、後半のメインイベント、上野先生、大牟田市の松枝氏、消費生活相談員の青峰万里子氏、消費者委員会委員の桑原義浩弁護士によるパネルディスカッションが行われました。

前半の基調講演でフォーカスされた、高齢者本人が意思決定の主体であることと、第三者が介入して消費者被害から高齢者を守る法的制度(成年後見人の契約取消等)との対比が気になるところでしたが、桑原弁護士が挙げられた成年後見の具体例が呼び水となって活発な議論が行われ、聴き応え抜群のパネルディスカッションとなりました。

パネルディスカッションの後は、時間の許す限りで質疑応答を行い、本シンポジウムは無事閉会いたしました。

第6 最後に

本シンポジウムでは、高齢者にとって良いケアは何かという観点及び高齢者を狙う消費者被害の防止という観点から、今後の高齢者支援のあり方について検討を行いましたが、いずれの観点からも周囲の見守り及び情報の共有が非常に重要であることが度々指摘されました。

弁護士は、特に成年後見人として、高齢者の見守り・情報の共有の一翼を担う立場にあります。既に進んでいる自治体や医療・介護分野の取り組みにアンテナを張りながら、よりよい高齢者支援のあり方を常に模索し、アップデートしていく必要があることを実感しました。

2021年8月 1日

「女性の権利ホットライン」のご報告

両性の平等に関する委員会 委員 小野 佳奈子(68期)

1 はじめに

平成11年6月23日に「男女共同参画社会基本法」が公布・施行されたことにちなみ、毎年6月23日から29日は「男女共同参画週間」として様々な取組がなされています。

取組の一環として、この期間を中心に全国各地で「女性の権利ホットライン」(旧「女性の権利110番」)が例年どおり実施されました。

「女性の権利ホットライン」では、女性に対する暴力や離婚問題、職場における差別など、女性の権利一般に関する問題について無料電話相談を受け付けました。

2 当会における実施状況

当会は、福岡県と福岡市から後援をいただき、県内各所の男女共同参画センターと共催して、以下の日程で「女性の権利ホットライン」を実施しています。


6月23日
福岡県弁護士会館、ハートピアぶぜん
大野城まどかぴあ男女平等推進センター
筑後弁護士会館
久留米市男女平等推進センター
田川市男女共同参画センター

6月24日
福岡県男女共同参画センター
大牟田市男女共同参画センター
飯塚法律相談センター

6月25日 福岡市男女共同参画推進センター

6月28日 直方市男女共同参画センター

6月29日 筑後市男女共同参画推進室

6月30日 北九州市男女共同参画センター


今年は合計80件もの相談が寄せられました。

特に離婚や内縁・男女関係についての相談は全相談数の6割を超え、また女性に対する暴力については14件もの相談が寄せられており、男女間のトラブルで悩まれている方が多い印象でした。

3 当日の対応

私は、春日市にある福岡県男女共同参画センター(あすばる)を担当しました。

あすばるでは、まずはセンターの相談員の方が受電をし、法律相談にあたる場合には待機中の弁護士2名のいずれかに引継ぐという仕組みをとっていました。普通の法律相談とは異なり時間制限がなかったので、相談の内容に合わせじっくり対応することができました。

なお、私の待機中には法律相談ではないため弁護士に引き継がずに相談を終えるケースも複数あり、各センターは相談場所のない女性にとって駆込寺的役割を果たしているのだと感じました。

4 おわりに

相談員の方と雑談をする中で、コロナ以降相談量が一割くらい増したように感じるとのお話や、若い方のDV・モラハラ相談が増えた気がする等のお話がありました。コロナ禍では家庭内の問題が増えやすいと言われていますが、相談員の方の話を聞いて「女性の権利ホットライン」の重要性を改めて実感しました。

「女性の権利ホットライン」は電話相談なので、直接弁護士を頼ることができない方でも気軽に相談していただけると思います。今後も行政と連携し、一人で悩む女性が少しでも減るよう「女性の権利ホットライン」をより充実したものにしていきたいと思いました。

学校で弁護士が楽しく授業をする時代に 法教育・いじめ予防授業研修報告

法教育委員会 委員長 本江 嘉将(59期)

1 はじめに

6月25日に法教育センター登録研修を兼ねた法教育・いじめ予防授業研修を開催しました。

2 研修の目的

法教育センターは、法教育の普及を図る目的で平成23年に設置、主に法教育を実施する講師のあっせんを業務として、法教育委員会の委員が主体となって運営されています。法教育センターでは、講師として派遣される担当弁護士・通称GT(ゲスト・ティーチャー)の名簿が作成され、毎年、名簿登載のために登録研修を行っています。

現在、GTの名簿登録者数は、今回の受講者22名含めて、福岡部会127名、北九州部会31名、筑後部会29名、筑豊部会8名、合計195名に達しています。

法教育委員会では、部会ごとにセンターの運営委員が学校からの申込みを受けると講師選定・打診をしています。年間100件前後のクラス数を対応していると、GT登録者数はまだまだ足りていません。

3 研修の内容
(1)研修の流れ
  • 委員長挨拶
    まず委員長の私からセンター設立の経緯・趣旨と併せて、法教育とは何かを簡単に説明しました。「法律専門家ではない一般の人々が、法や司法制度、これらの基礎になっている価値を理解し、法的なものの考え方を身につけるための教育」が法教育です。単なる知識教育ではなく、より良い社会を作るための紛争解決・予防に何が必要かを考え、自分や他者の権利や責任を理解する力を伸ばすことが求められます。その普及に弁護士が携わることは自然なことで、学校現場のニーズも高いです。
    ただ、近年のスマホ普及に伴い、実際の学校からの派遣要請の大半はネットトラブル防止の授業です。福岡県教育委員会の「保護者と学校児童生徒の規範意識育成事業」の一環として、県内各地から多数の申込みがあります。
  • DVDの視聴と授業内容の説明
    続いて、数年前に鍋島先生に担当していただいた「救急車の有料化」をテーマに主権者教育を取り扱った出前授業のDVDを視聴してもらい、実際の授業の模様を感じてもらい、続けて、鍋島先生からは、授業実施の流れや、注意点など実践の場で得た経験を語っていただきました。
  • いじめ予防授業の説明
    更に、森俊輔先生から、いじめ予防授業について、教材解説、授業実施の際の注意点を語っていただきました。重要なのは子どもに考えさせ、気づかせることだと改めて感じました。
  • 手続の流れ
    最後に、佐渡先生から、出前授業派遣の手続や学校との打合せなどの流れについて、フローチャートを踏まえた説明がありました。法教育センターでは、1クラス1名のGTが派遣され、リーガルアクセスセンターから報酬が支給されます。教材等は、アレンジされたものも含めて多くのストックがあり、今もストックが増え続けています。
(2)授業内容について

実際に弁護士がGTとして授業に出向くだけでも、学校現場では子どもたちにとって新鮮で刺激的な経験として喜ばれます。

法教育の出前授業は、さらに一歩進んで、生徒たちのアクティブラーニングを意識しています。双方向的な構成での授業(進行はプロである教諭に任せられます。)を盛り上げるため、冒頭のアイスブレーク(体を動かすゲームなど)で発言しやすい雰囲気を作るなど、充実した学びの時間にする工夫が大切です。

子どもたちには、正解がないテーマについて積極的に意見を出してもらい、主体的に取り組んでもらうことが重要です。そのためには、誰よりもGT自身が楽しんで授業をしていただくことが大事だと感じます。GTに選ばれた先生方が、普段の業務とは程遠いストレスフリーな空間で授業に臨んでいただくことは、多くの未来あふれる市民にとって、弁護士のポジティブな面を見るいい機会になるはず。引き続き、教材開発や授業方法の研究を通じ、GTの先生方をバックアップできるよう励んで参ります。

倒産業務等支援センター 委員会からのおすすめの書籍「破産法実務 全訂版」

倒産業務等支援センター委員会委員 原田康太郎(65期)

従前、福岡における破産業務においては、福岡地裁本庁での運用と書式が記載されている「破産法実務」が広く愛読されており、会員の皆様も一度は目にしたことがあると思います。
この度、「破産法実務」が全面的にリニューアルされ出版される運びとなりました。
「破産法実務」の前回の改訂は平成22年6月のことであり、10年以上が経過していることから、時と共に制度や運用が変化し、「破産法実務」での記載内容と実際の運用が異なっている部分も増えてきました。そこで、当委員会では、有志を募り、平成27年3月、「破産法実務」の改訂PTを立ち上げることとなりました。
改訂にあたっては、単に、旧版の記載のうち、運用が異なる部分を修正するだけではなく、内容の充実度も向上させることを意識して作業を進めることになりました。
さらに、破産業務に関する基本書、実務本は勿論のこと、他県の書式集についても全国から資料を収集し適宜参考にさせていただきました。
そして、改訂PTの立ち上げから苦節6年、打合せを重ねること104回、ついに「破産法実務」の改訂が実現しました。
内容としましては、第1編「留意事項編」、第2編「書式編」、第3編「巻末付録編」、第4編「破産レター編」の四本立てとなり、その内容の充実度は大きく向上しております。
「留意事項編」は、破産申立から破産管財業務の終了に至るまでの流れがコンパクトにまとまっており、ここを通読すれば、ポイントを押さえつつ、破産に関する業務の流れが把握できます。手続の流れのみを記載しているのではなく、各業務において対応する書式の番号も挿入されており、参照のしやすさへも配慮されております。
「書式編」では、その収録数を、旧版の170個の書式から212個に大幅に増やしました。例えば、許可申請書や報告書関連の書式のパターンを増やし、より参考にしやすい書式集になっております。しかも、書式に関連して、実務上迷いがちな点をQ&A方式で適宜挿入しており、書式の利用に合わせて疑問点を解決できる作りになっております。
「巻末付録編」、「破産レター編」では、福岡地方裁判所第4民事部から出された通知を中心に、資料を取りまとめております。
旧版と比較して、約100頁の大幅な増量となっているだけでなく、上記の通り、その内容も充実度を増しております。
福岡における破産実務に即しており、 破産業務をするうえで必携の一冊と言っても過言ではありません。PTメンバーの情熱が注ぎ込まれた本作をどうぞみなさんも手に取って、今後の破産業務に生かしていただければと思います。
なお、「破産法実務」の研修会を予定しております(9月1日18時~20時ライブ研修、同月7日・13日15時~17時DVD研修、いずれもZoom併用)。改訂のポイント等を説明する予定ですので、ぜひ奮ってご参加ください。

2021年7月 1日

あさかぜ基金だより

あさかぜ基金法律事務所 弁護士 佐古井 啓太(72期)

はやくも1年半が過ぎて・・・・・・

あさかぜ基金法律事務所に入所して、はや1年半が過ぎました。入所当時、机を並べていた弁護士も既に3人が司法過疎地へと旅立ちました。うち1人は同期であり、一足早くあさかぜを卒業して、さっそく所長弁護士としてバリバリ活躍している姿を見ると、自分もがんばらないといけないなと身の引き締まる思いです。

さて、今回はその1人である小林洋介弁護士が所長をつとめる飛鸞ひまわり基金法律事務所を訪問したときのことを報告します。

飛鸞ひまわり基金法律事務所

飛鸞(ひらん)ひまわり基金法律事務所は長崎県平戸市にあります。平戸市は人口3万人の市で、平戸島その他の島しょ部と九州本土部(旧田平町)から構成されており、長崎地家裁の平戸支部が置かれています。裁判所や市役所のある市中心部は、平戸城を仰ぎ見る旧城下町であり、平戸島に位置しています。本土ではなく島側に行政の中心がある珍しいまちでもあります。

平戸支部は平戸市と隣接する松浦市を管轄しており、その管内人口は5万人です。弁護士が多数いる佐世保市までは車で1時間ほどかかる司法過疎地であり、新たな法律事務所の設置が望まれていたところ、令和2年7月に、小林弁護士が、新たにひまわり基金法律事務所を開設しました。「飛鸞」というのは平戸の古名であり、日本酒の名前にもなっています。以前、この地に平戸ひまわり基金法律事務所があったことから、同じ名称を避けて、この名前にしたそうです。

小林弁護士は、あさかぜ基金法律事務所で2年半ほど養成を受けたあと、飛鸞ひまわりの初代所長としてスタートしました。活動を始めて1年近くたっており、日々、平戸地区の人々のために活躍されています。小林弁護士は、人当たりがよく親しみのもてる弁護士であり、依頼者から顧問になってほしいとお願いされることもありました。あさかぜ時代の最後の4か月だけですが、私も、小林弁護士と一緒に事件を共同することがあり、その依頼者に対する真摯で丁寧な姿勢は、とても勉強になりました。

飛鸞ひまわりを訪問した経緯

あさかぜ基金法律事務所は、九州・沖縄の司法過疎地に派遣する弁護士を養成する目的で作られた事務所です。所員弁護士は、この先赴任することになる司法過疎地とはどのような場所なのか、実際に先輩弁護士がどのように活動しているのかを実地に学ぶために、年数回、先輩弁護士の事務所を研修として訪問しています。今回も、そのような研修の1つとして、飛鸞ひまわりを訪問しました。

平戸を訪問して

当日は、車で平戸に向かいました。福岡市内からは、西九州自動車道が平戸市の手前の松浦市まで通っているので、非常に便利です。車に揺られること約2時間、本土から平戸島に架かる平戸大橋が見えてきたところで、飛鸞ひまわり事務所に到着しました。事務所は、本土側の旧田平町中心部の国道沿いにあり、周辺地域からのアクセスも良さそうな場所で、裁判所までも車で8分ほどの便利な所にあります。開設したばかりの事務所ということもあって、室内は真新しい備品のそろったきれいな事務所でした。

小林弁護士からは、現在、どのような事件をやっているのか、平戸での弁護士活動について話を聞きました。民事事件では、あさかぜ時代に経験しなかったような幅広い事件を受けており、飛び込みの相談も時々あるそうです。また、管財事件や相続財産管理など裁判所からくる事件もあるとのことでした。刑事事件では、早くも裁判員裁判が回ってきたとのことで、地域に弁護士が少ないと、他に受ける弁護士もいないため、重大事件を避けては通れないようです。裁判員裁判は長崎地裁の本庁で行われるので、被告人も長崎の拘置所に移されて、接見するだけでも大変なので、長崎本庁管内の弁護士と一緒に弁護人をやっているとのことでした。スタートして早々から、多くの事件を抱えている小林弁護士の話を聞いて、司法過疎地でも弁護士が必要とされていることが改めて実感できました。

小林弁護士に話を聞いたあとは、事務所で用意してもらった昼食をいただきました。大皿にいっぱいの刺身の盛り合わせをごちそうになり、平戸の海の幸を堪能しました。

食事が終わってから、平戸のシンボルである平戸大橋を渡り、平戸島内の川内峠展望台に行きました。丘の上に広がる草原の中を一本の道路が走っていて、東西に海を広々と見渡せる、とても気持ちの良い所でした。平戸は風光明媚で名高い土地で、自動車のテレビCMなどが多く撮影されているそうです。他にも訪問したい所はあったのですが、平戸島は南北に32キロと思ったより大きく、時間の関係で断念せざるを得ず、中心市街地と平戸城を少しだけ見て、後ろ髪をひかれる思いで、未練たっぷりのまま福岡へ帰りを急ぎました。

帰り道に道の駅によって、土産を買いました。せっかく平戸に行ったので新鮮な魚を買いたかったのですが、調理ができないのでやむを得ず、長崎の定番のカステラを買って帰りました。

これからもがんばります

あさかぜ所員は、司法過疎地には弁護士が足りていないので、地方に行くととても歓迎されるということを常日頃から聞かされていますが、こうして実際に平戸を訪問すると、そのことを強く実感することができます。

いずれ私も、その地方の人々に頼られるような弁護士になるべく、いっそう研鑽に励んでいくつもりです。

2021年5月 1日

あさかぜ基金だより

井口法律事務所 弁護士 古賀 祥多(69期)

福岡に戻ってきました

私は、2016年12月から弁護士法人あさかぜ基金法律事務所(あさかぜ事務所)に入所し、2年間の養成期間を経て、2019年1月に壱岐ひまわり基金法律事務所に赴任しました。その後、2年の任期を終え、この4月に再び福岡県弁護士会へ登録替えして戻ってきました。

元あさかぜ事務所の所員弁護士として、壱岐でどんなことをしていたのか、報告させていただきます。

多くの人を魅了する「壱岐」

壱岐は、福岡市博多港から郷ノ浦港まで西北に76キロメートル、佐賀県唐津東港から印通寺港まで北に41キロメートルの位置にある離島で、南北約17キロメートル、東西約15キロメートルのやや南北に長い亀状の島で、総面積は139.42平方キロメートル、壱岐本島と23の属島(有人島4、無人島19)からなる全国で20番目(沖縄を除く)に大きな島です。

現在、人口は26000人弱であり、人口減少、少子高齢化も進行しているなか、積極的に島外移住者を受け入れようと様々な施策を行っています。壱岐は、風光明媚な景色があり、肉・魚などの食も豊かであるため、多くの人を魅了し、毎年多くの観光客が壱岐を訪れ、また、移住者も増えているところです。

私も、壱岐に住んでいるとき、毎日外に食べに出歩いて、地元のお魚や、壱岐牛などを食べて回ったり、温泉に入ったりしていました。また、休日には、猿岩や筒城浜海水浴場などにも足を運び、きれいな景色を眺め、リラックスしました。

あさかぜ基金だより
平和な島のイメージですが・・・

私は、壱岐に赴任する前(赴任前の見学等の際)、平和で豊かな壱岐の島の様子を見て、人と人との争いごと、法的紛争とはほど遠い印象をもっていました。

しかし、実際に赴任してみると、様々な相談が事務所に舞い込んできました。ときには非常にシビアな案件もあり、暴力・DV等が絡む事件も少なからずありました。

実際に壱岐で関わった事件は・・・

この2年間を振り返ると、事件としては、夫婦関係(離婚など)が多く、次いで個人の債務整理案件、そして相続の事件が多かったように思います。しかし、これら事件類型に限られるものではなく、交通事故や労働事件、囲繞地通行権や境界等にかかる事件、根抵当権抹消登記請求などの不動産登記関係の事件、発信者情報開示請求・削除請求事件、法人破産などもありました。

また、裁判所選任案件も多く担当し、破産管財人、個人再生委員、特別代理人、不在者相続財産管理人などを経験することができました。また、成年後見人も5、6件ほど担当しました。

刑事事件は少なく、昨年度は1件しか担当せず、2年間で5、6件しか担当しませんでしたが、私の在任中、3名の共犯事件が対馬で発生し、対馬ひまわり・法テラス対馬の弁護士だけでは対応できないとのことで、3人目の国選弁護人として対馬の事件を担当することになり、週末に対馬を南北横断しつづけ、いささか大変でした。

2年という限られた期間でしたが、事務所での相談件数は247件(毎月1回で開催される社協での「心配ごと相談」を含めると、さらに増えます。)担当させていただきました。また、事件数単位で数えると195件の事件を担当することができました。

弁護士の敷居を下げる努力

このように、いろいろな相談等を担当しましたが、なかには、もう少し早めに事務所に来ていただければ、と思うことが少なからずありました。私の先代の中田昌夫弁護士も、相談のタイミングが遅いケースを担当したとき、壱岐の人々にとって、「弁護士」はまだまだ敷居が高い存在として認識されているのではないか、と気にしており、気軽に相談できるような雰囲気を作ることが大事ではないか、と言っていましたが、そのとおりだと思いました。

そこで、私は、壱岐の皆様が気軽に相談できるよう、法律的な専門用語をかみ砕いて解説し、初めて触れる法律のお話をできる限り分かりやすいように説明するよう努めてきました。また、相談者の不安をできる限り解消できるよう、単に法律の知識等を提供するだけでなく、相談者の気持ちに寄り添って話をするよう心掛けました。

また、相談者のなかには、他に頼るべき人がおらず、親しい人に相談しようとしても、密接な人間関係であるため、どこかで誰かの噂になるのではないか、という不安を抱えている方もいましたので、弁護士には守秘義務が課せられていること、相談で伺ったお話はすべて秘密であることをきちんと説明し、相談することそれ自体の不安も解消するよう努力しました。

さらに、相談者・依頼者が、事務所の弁護士の顔と人となりを知ってもらえるよう、ホームページを開設し、自分の顔写真等を掲載し、相談前に弁護士の顔を知ってもらえるよう工夫しました。

こうした一つ一つの努力がどれくらい功を奏したかは分かりませんが、在任中、常に新規相談の予約が絶えることはなく、後任の西原宗佑弁護士(71期)に引き継いでからも、相談の電話が止むことはありませんでした。

壱岐に常駐型法律事務所が必要な理由

2年間の感想ですが、やはり、壱岐には常駐型の法律事務所が必要だと実感しました。

人が社会で生きていくなかで、法律に関する争いごと、お悩みごと、トラブルは避けては通れません。そうしたなか、法律的なトラブルを解決するため、いつでも、だれでも弁護士に相談できる環境が必要です。

現在、壱岐には26000人弱の人々が暮らしていますが、数万人単位の人間がコミュニティを形成して社会で共同生活をしていれば、確実に法的トラブルは発生します。壱岐島内での法的トラブルを適切に解決するには、弁護士の力が必要です。

また、壱岐は、福岡との交流も盛んであり、島外に住む方とのトラブルも少なからず発生します。そうしたなか、島外在住の人が、近隣都市部の弁護士に依頼して内容証明郵便を送付してきたり、訴訟提起をしてきたとき、壱岐在住の方が武器対等で事件に対応するとすれば、気軽に弁護士に相談できる環境がなければなりません。

もし、壱岐島内に事務所がなければ、福岡・佐賀・長崎の弁護士に相談せざるをえないことになりますが、島民にとって継続的に島外に足を運ぶのは、経済的負担が大きく、また、移動にかかる時間的コストもあるため、弁護士へアクセスできる方々は非常に限定されることになります。そうなると、的確な法的アドバイスを受ける機会を得ることができないまま、何も知らないが故になすがままにされるという不正義が発生することになりかねません。

こうした状況を踏まえると、「壱岐ひまわり基金法律事務所」は、まさしく「市民の駆け込み寺」であり、壱岐にとって必要不可欠な公共インフラとしての側面を有しているといえるのではないでしょうか。

西原弁護士・安河内弁護士をよろしくお願いします

私の後任の西原弁護士は、私と同じくあさかぜ事務所出身の弁護士です。

西原弁護士は、私が壱岐に赴任する直前に、私とほぼ入れ違いであさかぜ事務所に入所したので、私の記憶のなかでは、新人弁護士という印象でした。しかし、この2年間、あさかぜ事務所でいろんなことを経験してきたのでしょう、西原弁護士は、弁護士として技術・力量を培うだけでなく、心構えもできあがっているようで、安心して事務所を引き継ぐことができました。西原弁護士は、きっと、自身の持ち味を生かし、壱岐の皆様に対してよりよいリーガル・サービスを提供してくれることだろうと期待しています。

また、私が福岡県弁護士会に登録替えするのと入れ替わりに、あさかぜ事務所の安河内涼介弁護士(72期)が、対馬ひまわり基金法律事務所に赴任していきました。安河内弁護士もまた、若林毅弁護士(68期)より、同地での業務と所長弁護士の志を引き継ぎ、対馬の人々に対し、素晴らしいリーガル・サービスを提供してくれることだろうと期待しています。

ただ、西原弁護士、安河内弁護士がこれから負うべき責務は非常に重く、いろいろな苦労があるかと思います。福岡県弁護士会の弁護士の皆様には、引き続き、両名に対するご支援等をよろしくお願い申し上げます。

あさかぜ事務所の弁護士をよろしくお願いします

あさかぜ事務所には、田中秀憲弁護士、佐古井啓太弁護士、石井智裕弁護士、宇佐美竜介弁護士の4名が所属し、それぞれ、これから弁護士過疎偏在地域へ赴任をすべく、日々、研鑽を積んでいます。どの弁護士も、その志は高く、非常に熱意をもっていますが、彼らの熱意や努力は、弁護士過疎偏在問題、全国津々浦々にあまねく法の支配を貫徹し、広くリーガル・サービスを提供する上で、必要不可欠なものといえます。

皆様には、引き続き、あさかぜ所員弁護士に対し、たゆまぬご支援をお願いしたいと思います。

また、所員弁護士には、その情熱を絶やすことなく、日々、研鑽を積んでいただきたいと思います。私ができることには限りがありますが、皆様の熱意を後押しすべく、できる限りのお手伝いをしたいと思います。

重ねてお礼を申し上げます

最後に、あさかぜ事務所での養成期間において、厳しくも熱心にご指導・ご鞭撻いただきまして、誠にありがとうございます。また、壱岐での2年間も、大変ご支援をいただきまして、まことにありがとうございます。

この壱岐での2年間で得られた様々な経験は、私の「原点」だと思います。壱岐での経験を、いつまでも、大切にしていきたいと思います。

引き続き、ご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

あさかぜ基金だより

「ジュニアロースクール2021春in福岡」開催!

法教育委員会 委員 稲吉 佑紀(73期)

1 はじめに

去る令和3年3月30日、「ジュニアロースクール2021春in福岡」が開催されました。今年はコロナ禍ということもあり、私にとって初のJLSは、福岡部会初のオンライン開催となりました。

以下、当日までの準備や当日の様子についてご報告させていただきます。

2 当日までの準備

(1) 福岡県弁護士会では、平成20年以降ほぼ毎年JLSを開催しており、例年好評をいただいて参りました。そのため、当然2020年も開催しようと計画を進めていたのですが、開催予定日である3月27日が近づくにつれ新型コロナウイルスも猛威を振るい始めていたため、泣く泣く開催を断念いたしました。

そこで、今年こそはなんとか開催しようということでオンラインでの開催を決定し、また昨年準備してきたことをできるだけ活用しようということで、議論のテーマや教材等はそのまま引き継ぐことことなりました。

(2) 今年1月に執行部で企画が承認されてから開催までの3か月足らずの間に、打合せやリハーサルを計7回行い、川上キャップを筆頭に周到な準備が進められました。

対外広報としては、当会ホームページやTwitterでのお知らせ、各学校宛てにチラシを郵送、福岡市教育委員会の学校連絡箱への配布など、積極的に行い、その結果、40名余りの参加希望が寄せられました。

3 当日の様子

(1) 当日は急遽不参加となってしまった生徒さんもおり、結局39名の生徒さんが参加してくださいました。テーマは「自転車保険の強制加入の是非」という少し難しいものでしたが、保険の説明から丁寧に行い、立法の考え方を多角的に学ぶことを狙いとしました。

(2) 大まかな流れとしては、

第1部

  1. 自転車保険の強制加入について、予め撮影しておいた寸劇のビデオ視聴で説明(演技とは思えない酔客を演じられた甲木先生、クセ強めのおばあさんを演じられた八木先生、年齢不詳で少し怖い児童を演じられた横山先生やその児童に話しかける本江委員長をはじめ、各委員の先生方の熱演は心に迫るものがありました。)。
  2. 自転車保険の強制加入の是非について、グループに分かれて議論する。
  3. 各グループで出た意見を生徒さんに発表してもらい、全体で共有する。

第2部

  1. 第1部の議論を踏まえ、具体的にどのような条例を作ることが望ましいかを、再びグループに分かれて議論する。
  2. 各グループで出た意見を生徒さんに発表してもらい、全体で共有する。
  3. 逆の立場や異なる内容の条例案を示した他のグループに対し、適宜反論、再反論してもらう。
  4. 議論を踏まえ、自分たちの条例案で変更すべき点や維持すべき点について、グループに分かれて議論する。
  5. 自分たちの条例案について、変更した点を理由とともに発表してもらう。

というものでした。

開会前、最後の打合せをしている様子

開会前、最後の打合せをしている様子。

特に川上キャップ、司会の請川先生、Zoom担当田上先生など運営に携わる先生方は、直前まで緊張感あふれる入念な打合せをされていました(私はその後ろでサンドイッチを食べていました。)。

弁護士会館2階大ホールにて、ソーシャルディスタンスを確保しつつ中高生と議論する様子

弁護士会館2階大ホールにて、ソーシャルディスタンスを確保しつつ中高生と議論する様子。

机の向きを変えるなどして、ハウリングや音声の重複にも配慮していました。

各委員に役割が振られ、皆さん真剣に取り組んでいらっしゃいます。

全体会議の様子

全体会議の様子。

多種多様な意見が出て、隣に座っていた日浅先生が時折唸っていました。

私は一時的に音声が聞こえなくなりましたが、皆さんの表情や日浅先生の唸り声に合わせて相槌を打っておりました。

4 おわりに

振り返ると、総じて大成功だったのではないかと思います。

初のオンライン開催ということで、予期しないトラブルが発生しないか不安はありましたが、本江委員長や川上キャップをはじめとするリーダーの先生方が何度も打合せを行い、入念な準備をしてくださり、また、請川先生の機転を利かせた司会や田上先生の滑らかなZoom操作のおかげで、滞りなく予定どおりに進行することができました(特に活躍できずすみません。)。

中には、Zoomの操作に慣れておらず、なかなかZoomに入れない生徒さんもいました(実は私の従弟です、ご迷惑をおかけしました。)が、全体として特に問題なく、実施後にいただいたアンケートでも大変好評をいただき、オンラインで逆に良かった、また参加したい、という意見も多く寄せられました。

また、中高生の意見の中には私が予想していなかった角度からの鋭い意見も見られ、勉強しているのがどちらなのかよくわからなくなりました。

私はまだ登録後3か月余りの新人中の新人ですが、紛争に溢れた日々の業務の中で、中高生のキラキラと輝く瞳に時折目がくらみつつも、とても癒されました。
今回、JLSのオンライン開催は十分実現可能であることが示されましたが、やはり対面の良さもあるかと思いますので、早く対面でも実施できる日が来ることをお祈りいたします。

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