福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

朝見行弘会員内閣総理大臣表彰記念講演会 ~茶のしずく石鹸訴訟における実務と研究の架橋~

消費者委員会 是枝 秀幸(60期)

昨年5月、当会の朝見行弘会員が、2021年度消費者支援功労者表彰の最高賞となる内閣総理大臣表彰を授与されました(福岡県内初の表彰)。

そこで、令和4年2月23日(祝)、福岡県弁護士会会館において(zoom併用)、福岡県弁護士会主催の記念講演会が開催されました。

藤村和正会員と中村啓乃会員が司会をしました。

1 経歴と表彰

朝見会員は、当会会員であるとともに、久留米大学法学部教授、特定非営利活動法人消費者支援機構福岡(CSO福岡)理事長でいらっしゃいます。

弁護士としては、茶のしずく石鹸訴訟等の製造物責任訴訟に関わられており、僭越ながら私も被害者弁護団にて約10年間ご一緒しました。

表彰に関する主な活動実績は次のとおりです。

  • 消費者法の専門家として、消費者契約法、製造物責任法等の法制度の研究や大学で講義を通じて消費者保護の法理論確立や人材育成に尽力。
  • 福岡県消費生活審議会の会長として、第1次及び第2次の福岡県消費者教育推進計画の策定等に尽力し、消費者行政の推進に寄与。
  • 消費者庁消費者安全調査委員会の委員として4年間(第2期及び第3期)にわたり、様々な事案について消費者安全のための原因究明に貢献。
2 会長挨拶と祝辞

記念講演会では、まず、伊藤巧示会長から、朝見会員の製造物責任法等の研究や消費者被害防止の活動を讃えるご挨拶をいただきました。

次に、九州産業大学岡田希世子准教授や当会黒木和彰会員から、祝辞をいただきました。

岡田准教授は、朝見会員から、福岡大学大学院で指導を受けていたそうですが、いつも印象に残っていた言葉が「外に行きなさい」「現状を知らないとダメだ」という現場主義だったそうです。

黒木会員は、朝見会員とは、黒木会員が日弁連の貸金業の金利規制に関する調査で2001年に米国に行く際、朝見会員へコーディネーターをお願いしてからのご縁ということでした。

お二人の祝辞の後は、消費者庁を始めとする様々な団体からの祝辞が披露されました。

3 朝見会員の記念講演

朝見会員からは、参加者へ、これまでの活動に関する講演と感謝の言葉をいただきました。

  • 元々は大学人・研究者
    朝見会員は、名古屋大学大学院修士課程終了後、1979年~80年に米国留学をされたそうです。
    当時、森嶌昭夫教授の指導の下、環境法を研究しており、学部時代は四日市ぜんそくの住民調査に、米国留学中は米国で行政訴訟となっていた湿地保護の現地調査に、取り組まれていたそうです。
    そんななか、米国留学中にシカゴで弁護士の集まりがあるということで参加してみたところ、それが製造物責任のシンポジウムだったそうです。
    今の我々にとっては製造物責任やその無過失責任は最早当たり前の考え方ですが、1979年当時はとても突拍子のないものに感じたそうです。
    そして、民事陪審制度やディスカバリー等、日本と米国で訴訟手続が大きく異なることから、面白いと思い、米国法にのめりこんでいったそうです。
    とはいえ、当時は今と違い全てが紙媒体であり、じっくり読むのは帰国後にしようと考え、朝見会員は、環境法の研究の合間に、毎日夜遅くまで図書館であらゆる文献をコピーする毎日だったそうです。
    そんな朝見会員も、当時どうしても欲しくてNYの古本屋で買った書籍があり、「Restatement 2nd」という本(米国で異なる内容の各州の法律の共通ルールをまとめた書籍)だそうです。この本は今でも大切に持っているそうで、勝手ながら朝見会員の青春時代を仄かに感じ取れるお話でした。
  • 製造物責任法への立法提案「実質的製造業者」
    朝見会員は、帰国後、大量のコピーを持ち帰り、製造物責任を研究するようになったそうです
    。 しかし、1975年に我妻栄博士を中心とする製造物責任研究会が「製造物責任法要綱試案」を発表した程度で、1980年前半は日本国内で無過失責任である製造物責任に関する学者は少なかったそうです。
    それでも研究を続けていたところ、1985年のEC指令により製造物責任法制定の機運が高まりました。
    そして、私法学会も1990年のシンポジウムで製造物責任を取り扱うことになり、朝見会員もパネリストとして参加したそうです。
    その後、シンポジウムの内容を取りまとめて立法提案をしたそうですが、そこで、朝見会員たちは、責任主体について、「表示製造業者」に加えて「実質的製造業者」についても、提案したそうです。
    当時、たくさんの立法提案がなされていたそうですが、この提案は他にはないもので、「表示製造業者」だけでは責任主体から逃れられてしまうことを防ぐために「実質的製造業者」を加えたそうです。
    その後、朝見会員は立法担当者へ助言をする等、製造物責任法の成立に関与したそうです。
    このようにして、製造物責任法の2条3項3号に、実質的製造業者の規定も盛り込まれました。
  • 茶のしずく石鹸訴訟と弁護士登録
    製造物責任法の成立は、当時、ニュース等で華々しく取り上げられたそうですが(余談ですが、当時中3だった私も通学時のラジオで製造物責任法施行のニュースが流れたことをよく覚えています。)、その後、特に大きな事件もなく、学者の関心も薄れるなか、朝見会員は研究を続けていたそうです。
    2011年5月、茶のしずく石鹸の小麦アレルギー誘発問題が大きく取り上げられると、平田広志会員から朝見会員へ連絡があり、朝見会員が弁護団へアドバイザーとして参加することになり、弁護士として参加すべきだろうということになり、朝見会員は大学の許可を得て10月に当会会員となりました。
    ちなみに、弁護団に参加した当初は、言いたいことを理論構築するという研究者のスタンスと、勝つための理論構築をするという弁護士のスタンスの違いに、戸惑いもかなり大きかったそうです。
    茶のしずく石鹸訴訟について、差し支えない範囲で紹介すると、販売業者の製造業者性も一応争点になっていたのですが、販売業者が自身を製造業者として表示せずに販売した製造物についても、朝見会員が立法提案した「実質的製造業者」のおかげで、特段問題なく、製造業者性が認められました。
    朝見会員は、来年古希とのことですが、今後は、デジタルプラットフォーマー(DPF・要するにamazon等)の製造物責任に関して研究・活動していきたいとのことで、研究意欲はつきないようです。
    その他にもご紹介すべきお話はまだ沢山あるのですが、紙面の都合で割愛させていただきます。
福岡県弁護士会 朝見行弘会員内閣総理大臣表彰記念講演会 ~茶のしずく石鹸訴訟における実務と研究の架橋~

朝見先生

4 花束贈呈と閉会

記念講演会終了後は、司会の中村啓乃会員や、茶のしずく石鹸訴訟の事務局長の鳥居玲子会員から、朝見会員へ、花束が贈呈され、閉会しました。

コロナ禍で朝見会員のお好きな祝賀会はお預けになりましたが、刺激的な内容の記念講演でした。
今後も、研究者と実務家を架橋する存在として、朝見会員のご活躍とご健勝を祈念いたします。

福岡県弁護士会 朝見行弘会員内閣総理大臣表彰記念講演会 ~茶のしずく石鹸訴訟における実務と研究の架橋~

花束贈呈

福岡県弁護士会 朝見行弘会員内閣総理大臣表彰記念講演会 ~茶のしずく石鹸訴訟における実務と研究の架橋~

2022年3月 1日

創業支援セミナーについてのご報告

中小企業法律支援センター 小林 由佳(73期)

■概要

令和4年1月27日、福岡市スタートアップカフェ、日本政策金融公庫、福岡県弁護士会の三者共催で、福岡市スタートアップカフェにて「創業したいけど、どうしたらいいの?」というタイトルで、オンライン創業セミナーを開催しました。

それぞれ違う視点・役割で創業支援を行っている機関・団体が一堂に会して得意分野をまとめてお伝えしたら情報が詰まった面白い企画になるのではないかという趣旨で企画されたものです。

本稿では当日の様子についてご紹介します。

■講演

福岡市スタートアップカフェからは、「起業相談から人材マッチングまで」というテーマで、スタートアップカフェの機能についてご紹介いただきました。

毎日の起業相談だけでなく、従業員雇用を希望するスタートアップ企業とスタートアップ企業への就労を希望する人材とのマッチングサービスまで行っており、創業者の方はスタートアップカフェに行きさえすれば、ワンストップで創業までのサポートを受けられます。

日本政策金融公庫からは、「創業計画書を作成する目的は創業者自身のため?」というテーマで、創業時のアイディアを創業計画書に具体化していく際のポイントについてご講演いただきました。

創業計画書といえば、金融機関から融資を受けるために、淡々と事業内容や企業の収益の見込みなどを記入して作成するもの、というイメージがおありかと思います。

しかし、創業計画書を作成していく過程においては、資金繰りや事業の見通しといった点だけでなく、創業動機、事業経験の有無・内容、事業のセールスポイントについても検討する必要があります。

この検討作業をしていくなかで、創業者自身が考える事業構想を整理し、事業化するための課題と「やるべきこと」を明確にすることができます。

このように、創業計画書作成の目的は単に資金調達のためだけではなく、創業者自身が立ち上げた事業を確実に継続していくためのアイディア整理のためにもある、とのことでした。

弁護士会からは、私が登壇させていただき、「トラブル未然防止の重要性」というテーマで、法的な観点から創業時に注意していただきたいポイントや、創業前から弁護士に相談するメリットについて、具体的な事例を交えつつご紹介しました。

福岡県弁護士会 創業支援セミナーについてのご報告

司会は牧智浩先生にご担当頂きました。

■クロストーク

講演を終えた後、三者で

  1. アイディア出し・アイディア整理
  2. 創業計画書とトラブル防止

という2つのテーマからクロストークを行いました。

福岡県弁護士会 創業支援セミナーについてのご報告

クロストークの様子

■創業者の方に是非おすすめしたいもの
○創業計画書の書き方について

日本政策金融公庫が作成している「創業の手引」は、創業計画書の記入例だけでなく、創業時のアイディア整理の方法や、創業時の基礎知識についてもまとまっているので非常におすすめです。

さらに、日本政策金融公庫の公式HPには、業種ごとに創業計画書作成時のポイントをまとめたものが掲載されています。

創業を志す方が身近にいらっしゃる場合には、ぜひその方へおすすめしていただきたいです。

○グレーゾーン解消制度について

グレーゾーン解消制度とは、現行の規制の適用範囲が不明確な具体的事業計画について、予め規制の適用の有無を確認することができる制度です。経済産業省のHPで確認できます(「グレーゾーン解消制度 経済産業省」で検索するとすぐに出てきます。)

トラブル防止の観点から、弁護士に事前に相談することに加え、こういった制度を活用することも有用です。

■最後に

今回はコロナウイルスの影響でオンラインのみでの開催となりましたが、今回のセミナーやスタートアップカフェで開催されている無料相談会を通じ、創業者の方々に少しでも弁護士を身近に感じていただけたら嬉しく思います。

2022年2月 1日

中小企業法律支援センターだより「公庫の融資課長が語る決算書から見るコロナ禍における中小企業の実情と今後の展望」研修報告

中小企業法律支援センター 委員 泊 祐樹(68期)

1 はじめに

令和3年12月22日、日本政策金融公庫福岡支店国民生活事業融資第三課長の中嶋康夫様を講師にお招きし、「公庫の融資課長が語る決算書から見るコロナ禍における中小企業の実情と今後の展望」と題する研修を開催しました。

コロナ禍を考慮し、ライブ(県弁護士会館2階大ホール)とZoom併用で実施したところ、会場18名、Zoom39名、合計57名の会員にご参加いただきました。

本稿では、講演の内容のうち、コロナ禍における日本政策金融公庫の取り組みや融資実務における中小企業の決算書の着目ポイントなど、皆様に有益な情報を共有させていただきます。

2 日本政策金融公庫の概要

講演の冒頭で、日本政策金融公庫の紹介がありました。

日本政策金融公庫は、株式会社日本政策金融公庫法に基づいて設立された、財務省所管のいわゆる「政府系金融機関」の一つであって、全国に152支店を有し、現在117万先にのぼる小規模事業者に融資をしています。

国民生活事業の1先あたりの平均融資残高は1008万円で、小口融資が主体となっているそうです。

福岡県弁護士会 中小企業法律支援センターだより「公庫の融資課長が語る決算書から見るコロナ禍における中小企業の実情と今後の展望」研修報告

公庫中嶋課長講演

3 新型コロナウイルス感染症関連融資の状況

続いて、新型コロナウイルス感染拡大に関連する日本政策金融公庫の取り組みについて報告がありました。

新型コロナウイルス感染症関連の融資は、令和3年9月末日時点で約93万件、約16兆円にまで及んでいるそうです。これは、リーマンショックの影響を大きく受けた平成21年度の年間実績を大きく上回る水準であるとのことでした。

福岡県の融資決定件数についても、令和2年4月(単月)には9389件であったのが、令和3年8月の累計件数では4万6464件にのぼるなど、急激な増加を見せています。

4 急増する相談への対応状況

日本政策金融公庫では、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者からの融資の申し込みの急増に対応するため、通常の業務体制では対応できず、定期人事異動の凍結(引き継ぎ等による業務の遅滞を防止するため)、OBの採用に始まり、休日電話相談、提出書類の簡素化、審査手続の簡略化など、特別の対応を行わざるを得なかったとのことです。

また、HPに特設ページを開設し、動画を活用してオンライン案内を拡充したり、来店希望の場合は事前予約制を導入したりするなどして、支店自体が密にならないようにする対応にも力を入れたそうです。

福岡支店では、コロナ禍前の通常時に抱えていた案件の、実に10倍以上の件数を各担当者に割り振られることになり、皆様非常に忙しい日々を過ごされたと聞き、新型コロナウイルス感染拡大による融資現場の状況について、臨場感をもって知ることができました。

福岡県弁護士会 中小企業法律支援センターだより「公庫の融資課長が語る決算書から見るコロナ禍における中小企業の実情と今後の展望」研修報告

公庫中嶋課長講演

5 融資決定のための決算書の着目ポイント

多忙を極める中、日本政策金融公庫としては「速やかに」融資希望者の決算書に目を通し、経営実態を掴み、融資を決定するということがより求められていたそうです。

本研修では、損益計算書や貸借対照表の具体的にどこをチェックしているのかということを、事案が特定できないよう工夫したうえで具体的な資料に基づき、解説いただきました。私が代わりに説明するにはハードルが高すぎるので、中嶋課長が指摘した「ポイント」だけ説明いたします。

  1. 単純な売上だけでなく、減価償却費や役員報酬などにも着目し、「法人・代表者一体の収益力」を確認するようにしている。
  2. 売上が増減している場合、その原因が価格設定の変動にあるのか販売方法や販売量の変更にあるのか等、事業者に質問して具体的に確認するようにしている。
  3. 経費が増減している場合、その原因が、販促費・従業員数(人件費)・店舗数の変更等、どこにあるのか、事業者に質問して具体的に確認するようにしている。
  4. 財務状況を確認する上で一番重要視するのはやはり「現預金」。1カ月の売上(月商)程度(理想は2カ月分以上)の残高があるかを確認している。
  5. 現預金に、架空の現金が計上されていないかを確認するようにしている(ここでの粉飾が多い)。
  6. 売掛金について、不良分の計上があったり、前倒しで計上されているものがあったりしないかを確認するようにしている。
  7. 借入金について、事業規模に比して過大な借り入れをしていたり、高利の借り入れをしていたりしないかを確認するようにしている。
  8. 売上高及び仕入高を月単位に変更したうえで、各勘定を月商で割って指数化し、前期・前々期と比較して大きく変動している科目には注目するようにしている。併せて、推定有高との整合性がない科目にも注意している。
6 倒産動向

福岡支店が担当している事業者における、令和3年4月から11月までの(広義での)倒産件数は86件とのことです。これは前年度と比較して約2割増の水準だそうです。

つまり、現状において、倒産件数が(増加傾向にはあるものの)顕著に増えているというわけではないそうです。

ただし、これにはコロナ禍であることを理由に据置返済(元金の返済はストップして利息のみの返済だけとする方法)を認めていることなどが大きく影響しているそうで、このままコロナ禍が続くと、据置返済期間も終了し、倒産件数が増加してしまうのではないか、という懸念があるとのことでした。

7 日本政策金融公庫の現在の取り組み状況

日本政策金融公庫では、利用者の増加に対応するため、電話で簡単に融資相談や事業継続・成長支援を行ったりする等、コロナ禍での経験を生かした新しい支援を実施しているそうです。オンライン面談やインターネットでの融資申し込みを受け付けるなど、デジタル化の推進も進んでいます。

また、創業・事業承継支援、新型コロナ資本性劣後ローンの推進をすべく、セミナーを開催したり民間金融機関への制度周知に尽力していたりするそうです。

8 おわりに

弁護士として、日常の相談や受任段階で決算書に目を通す機会があると思いますが、その際にどのような視点で精査・検討するかが重要です。今回中嶋課長より融資担当者が着目するポイント、すなわち当該決算を行っている事業者の財務状況(現在そして将来性も含めて)を把握するために見るべき箇所をご教示いただき、大変勉強になりました。

最後になりましたが、中小企業法律支援センターの幽霊委員であった私にマリンワールド水族館にて気さくにお声をかけていただき当日の司会まで任せていただきました池田耕一郎先生、私の復帰(?)を温かく迎え入れてくださいました牧智浩委員長、準備段階から当日まで細やかなご配慮をいただいた松村達紀先生、井川原有香先生をはじめとした委員の皆様、ありがとうございました。

虐待の違法と予防の違い ~ 経済的虐待の裁判例を題材にした「あいゆう研修」レポート

高齢者・障害者委員会 委員 野中 嵩之((73期)

1 研修概要

令和3年11月26日、高齢者・障害者委員会主催(日弁連との共催)の「あいゆう研修」を福岡県弁護士会館(ZOOM併用)にて実施したのでご報告いたします。

本研修は二部構成で行い、前半は「近時の高齢者・障害者虐待に関する裁判例の紹介」と題して裁判例の紹介、後半は「ケーススタディディスカッション」と題して行政の不作為が第1審で違法とされた裁判例を題材にパネルディスカッションを行いました。

前半は、当委員会の委員である郷司佳寛先生に講演いただき、後半は上記裁判例の原告側代理人である齋藤真宏先生、社会福祉士の小幡秀夫様、当委員会委員松澤麻美子先生にパネルディスカッションをしていただきました。

2 第2部の概要

(1) 第2部では、滋賀県近江八幡市での裁判例(大津地裁平成30年11月27日判時 2434号3頁)を題材に、議論は進みました。
テーマは、「どうすれば虐待を防げるか≠どうすれば違法にならないか」、つまり裁判における事後的な違法判断ではなく、行政的な視点での事前予防策に視点をあてた研修でした。

(2) 上記裁判例の事案の大枠は以下です。交通事故で夫が事故に遭い、重度の後遺障害を負いました。夫婦は新婚で、第1子ができた矢先の事故でした。その後、妻から夫に対する虐待が疑われるようになり、交通事故に伴う多額の賠償金が入金されてからは、1年に約1300万も支出があるということが2年連続確認されています。また、ある弁護士が保佐申立てをしていたにもかかわらず、上記の明らかに不自然な支出に気付くことはできませんでした。

3 第2部のディスカッションで学んだこと
(1) 違法と予防の視点の違い

上記裁判例では、行政の不作為が違法と認定されたのは相当後の時点でした。その上、第2審では行政の対応に違法はなかったとすら判断されています(現在、最高裁に上告中です。)。このように、違法となる時期は遅くなる傾向にあると感じる一方で、いかに虐待を防ぐかの視点では相当早期の段階で対策を打つべきとの議論がなされました。

とくに、社会福祉士の小幡様は、原告本人(夫)が施設に入るも「家族が面会に来ない」「(交通事故の保険から休業補償が入ったのに)利用料が滞っている」という段階から、行政としては介入すべきであったとします。行政による権限行使というハードなものではなく、子育て支援に寄り添うソフトな対応を早期のうちにしていれば結果は違ったかもしれないとのことでした。

虐待というと、どうしても「悪者」として責任追及すべき対象と捉えがちですが、本件の妻も子供ができて子育てが大変となった直後に夫が重度の後遺障害を負っており、不安でならなかった、そんな孤独の中で行政等の支援すらもなければどうなるのか。このようなことを考えさせられた議論でした。

(2) 経済的虐待の難しさ

また、上記裁判例では明らかに不自然な多額のお金の支出が2年連続で行われていますが、小幡様は身体虐待やネグレクトと比べると経済的虐待は少ない印象であるとご指摘したように、経済的虐待自体、他の虐待類型とはまた違う難しさがあるのかもしれないと感じました。

原告代理人の齋藤先生は、この頃の行政の不作為について当時の福祉課が証人尋問で「家庭によって経済的事情は違うので、一概に経済的虐待と判断することは難しかった」と聞き取ったことを受けて、「家族にはスタイルあるからと言って、月100万円を使うことも許容されるのか?」と疑問を呈されていました。まさに、経済的虐待では、この問題にいかに向き合うかという難しさがあるのではないのでしょうか。

今後の経済的虐待を考えるにあたってのひとつの視点にもなるかもしれません。

(3) 保佐人としての姿勢

上記裁判例の事案では、保佐人として弁護士が関与してたにもかかわらず上記の不自然な金銭の動きに気付くことができませんでした。

齋藤先生は、当該保佐人は原告本人の顔も見ていないとのことで苦言を呈されていました。この話を聞いて、弁護士である自分も決して他人ごとではないと肝を冷やす思いをしました。

虐待に興味がないとしても、たとえば後見人として知らず知らずに経済的虐待にある種加担することもありうる。このことは、たとえ興味がないとしても知るべきことがある、また今後経済的虐待など議論が進むに従い知識を補充していくべきではないかと思いました。

4 おわりに

普段、弁護士の業務上も裁判例は数多く目にしますが、本研修のように専門家の方や実際に関与された代理人の先生からのコメントや知見を踏まえ、予防の視点で裁判例を読み解いたことは私自身初めての経験で、非常に刺激のある研修内容でした。

経済的虐待の問題、これを取り巻く行政、家裁、弁護士などの各専門家がいかに考え関与していくのか。そして、いかにして虐待を予防していくか。虐待自体に興味がない方でも知るべきことがあること。 私自身、これらの問題について弁護士人生を通して考えていきたいと思います。

2022年1月 1日

シンポジウム「誰もが幸せになれる学校」

LGBT委員会 委員 井口 奈緒子(72期)

1 シンポジウムの概要

2021年11月7日、福岡県弁護士会主催のシンポジウム「誰もが幸せになれる学校」がオンラインで開催されましたので、ご報告いたします。

本シンポジウムは、LGBTをはじめとするセクシャル・マイノリティ(性的少数者)を筆頭に、世の中の差別や偏見から子ども達を守り子ども達が前向きに、自分らしく生きていく事ができる社会の実現を目指して開催された「九州レインボープライド2021」というイベントの一環として行われました。

前半では、パネリストの皆さまより、それぞれの立場から、制服をはじめとする校則をテーマにお話しいただきました。後半では、中学校教務主任である明石浩司さんより、フィンランドでの学校教育について、海外派遣研修での経験談をもとにお話しいただきました。

オンラインでの開催ではありましたが、41名の方にご参加いただきました。教師の方、中学生やその保護者の方、子ども関係のNGOの方など幅広い層の方々にご参加いただき、盛況となりました。

2 パネリストのご紹介

本シンポジウムでは、後藤富和弁護士を進行役として、Proud Futures共同代表の小野アンリさん、LGBTの家族と友人をつなぐ会in福岡の中島みつこさん、福岡市立東住吉中学校教務主任の明石浩司さん、福岡県弁護士会校則PT座長の佐川民弁護士にパネリストとしてご登壇いただきました。

3 選択制標準服の課題

まず、ProudFutures共同代表の小野アンリさんより、選択制標準服についてお話しいただきました。

女はスカート、男はズボンという固定概念が、LGBTをはじめとするセクシャル・マイノリティの子ども達に甚大な精神的ストレスを与え、学校に行くことを難しくさせている現状があります。そこで、選択制標準服の導入が検討され始め、福岡県内の中学校でも導入する動きが広がっています。

しかし、アンリさんによれば、今はまだ過渡期であるとのことでした。就学前の段階や小学校では変化の風が吹いていないこと、導入されている標準服は限定的な選択制であること等がその理由です。

選択制標準服では、女子がスラックスを選べるようになっていますが、選択制といいつつ「男子」がスカートを選ぶことのハードルは高く、そもそも選ぶことを想定していない学校もあり、限定的な選択制にとどまっていること、また、「女子」がスラックスを選ぶことについても偏見が残っていることなどをお話しいただきました。

一般社会において、トランスジェンダーであってもなくても、女性が毎日スカートを履いているわけではありません。学校のシステムは、子ども達の価値観の形成に大きな影響を与えることから、大人側で門戸を閉ざさないこと、凝り固まった頭をほぐすことが何より重要であると教えていただきました。

福岡県弁護士会 シンポジウム「誰もが幸せになれる学校」
4 男女分けの現状

LGBTの家族と友人をつなぐ会in福岡の中島みつこさんには、就学前の幼稚園や保育園、小学校で気になる男女分けについてお話しいただきました。

小学校では、水筒を置いておくかごを男女で色分けしたり、「ちゃん」「くん」などの呼称、発表会の出し物、運動会での催しを男女で分けており、ありとあらゆる場面で男女分けがなされている現状があることをお話しいただきました。

就学前の幼稚園や保育園でも同様の男女分けがされおり、その理由を教育関係者に聞くと、特に年少では男女の別を認識できないことから、性別があることを認識させるために良かれと思ってやっていることがわかったとのことです。

また、2015年に地域の男女共同参画推進委員が要望書を提出したことで、小学1年生に配布していた黄色い帽子の形が男女で統一された福岡市での事例をご紹介いただき、地域の大人が声をあげることの重要性を教えていただきました。

大人が声をあげることは、不必要な男女分けを撤廃する動きにつながるだけでなく、子ども達が男女分けの現状に気付き、自身や友達の「選択」について考えるきっかけになります。

中島さんがおっしゃっていた言葉の中で、子ども達がいきいきと生きることが何より大事であり、それを応援している大人達がいる(いた)ことを思い出してほしい、という言葉がとても印象的でした。

5 福岡県弁護士会の取り組み

佐川民弁護士には、校則に関する福岡県弁護士会の取り組みをお話しいただきました。

福岡県弁護士会では、2017年にシンポジウム「LGBTと制服」を開催し、その後福岡市と北九州市におけるジェンダーレス標準服の実現につながりました。そして、2020年度、情報公開請求により福岡市のすべての公立中学校の校則を調査し、その結果を公表し、シンポジウム「これからの校則」を開催しました。2021年2月には弁護士会から中学校校則の見直しを求める意見書を提出しました。それを受けて、同年7月、福岡市立中学校校長会が「よりよい校則を目指して」を発表し、現在、福岡市内の各中学校において校則の見直しが行われています。

このような弁護士会の取り組みの中で、想像以上に細かい内容の不合理な校則が多く存在すること、生徒が校則に対して何も意見を言えない状況が明らかになったことをご報告いただきました。

その上で、本来は、人と人とが円滑に過ごしていくために設定するものがルールであり、自由を制限するものではないにもかかわらず、現在の校則は生徒の自由を制限し、生徒を管理するためのツールになっている面があり、また、校則違反による「連帯責任」という言葉はいじめの原因を作りかねず非常に問題であることをご指摘いただきました。

6 校則見直しの動きと現状

福岡市立東住吉中学校教務主任の明石浩司さんには、校則見直しの動きや学校現場の現状をお話しいただきました。

学校では、校則検討委員会が立ち上がり、本シンポジウムの開催当時、校則見直しを行うために、生徒の意見交換などを行っているとのことでした。

校則見直しの動きが進む中で、学校現場においては、教師が置かれている環境や考え方の「3つのトライアングル」の中に生徒が存在するという構造があり、教育現場が抱えている課題が存在することを、明石さん自身が作成された図を示しながらご説明いただきました。

具体的には、教師において、(1)しつけや指導を中心とした従来の教育観が根強く残っていること、(2)授業、生活指導、部活動、保護者対応などで多忙であり時間的余裕がないこと、(3)社会とのかかわりが少なく視野が狭くなりがちであることから、そのしわ寄せが生徒にきてしまい、生徒自身が考えることをやめてしまう傾向を作り出している現状があるとのことでした。

進行役の後藤富和弁護士からは、校則の見直しに際し、生徒が幸せになるためにという目的をもって根本から見直そうとしている学校と、上から言われたから仕方ないといってやっている学校があるという厳しい現実についてもご指摘いただきました。

福岡県弁護士会 シンポジウム「誰もが幸せになれる学校」
7 フィンランドの教育現場

明石さんも、以前は生徒に校則を守らせることが教育であると考え、熱心に指導されていました。

しかし、海外派遣研修でフィンランドの教育現場を実際に目にし、自身の教育に対する意識が変わったとのことで、フィンランドの教育についてご報告いただきました。

フィンランドでは、「すべての人が平等に質の高い教育を受けられる」ように国をあげて取り組んでおり、教員の社会的地位が高いこと、1クラス20人以下の少人数制で授業を行うことで子ども達が話し合う場が多く設けられ、生徒ができるまで学習する環境づくりや支援体制があること、教師と生徒が対等でお互いにリスペクトしている関係が構築されていること、校長のほとんどが女性で性別などにとらわれない多様性があらゆる場面で尊重されていること等が日本との違いであるとお話しいただきました。

8 最後に

参加者の方からは、「パネリストの方々1人1人に体験を通してえた言葉の力があって、勇気をもらえました。」「画期的な取り組みです。学校内部にいる者としては何でも教材にしたい」などのご意見をいただきました。パネリストの方々をはじめ、ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。

【筑後部会】ジュニアロースクール2021in筑後

法教育委員会 委員 塙 愛恵(71期)

1 はじめに

令和3年11月21日、福岡県弁護士会筑後部会会館において「ジュニアロースクール2021in筑後」を開催しましたので、ご報告させていただきます。

2 模擬裁判とディスカッション

去年に引き続き新型コロナ対策のためZOOMを用いてのオンライン開催となり、県内の中高生13名が参加しました。

参加者には裁判員役として、殺人事件の模擬裁判をZOOMで見てもらい、その後、少人数のグループに分かれてディスカッションをし、グループごとに被告人の有罪・無罪を判断してもらいました。

裁判官、検察官、弁護人、被告人、目撃者の役をそれぞれ弁護士が演じ、人定質問から論告、弁論まで模擬裁判を実演しました。

「旦那様がコップに毒を入れたのを見ました。旦那様が奥様を殺したのに間違いありません!」と証言する目撃者の家政婦と、「妻は自殺したのです」と殺人そのものを否定する被告人。

客観的証拠と共に2人の食い違う供述の信用性を判断し、最終的には被告人の有罪・無罪まで判断するという難易度高めな事件に参加者は様々な角度から意見を出し、ディスカッションをしてくれました。

3 事前準備と当日の運営

会館での模擬裁判の様子をZOOMで配信し、その後ZOOMの「ブレイクアウトルーム」機能で少人数のグループに分かれてディスカッションを行うという流れのために、事前のリハーサルでは、カメラ配置、音声機器のチェック、参加者に誰が発言しているのか分かりやすいように模擬裁判中には発言している人にZOOM上でスポットライトを当てる等の工夫が行われ、事前に入念な準備が行われました。

当日も、WEB班、出演班、連絡班等の連携で臨機応変に対応することができ、特段問題が生じることなく最後まで行うことができました。

4 参加者の感想・反応

模擬裁判終了後には、参加した生徒から、「裁判官(裁判員)から証拠をもっと出してほしいといえるのか」、「裁判中に被告人が罪を認めた場合には裁判はどうなるのか」等刑事裁判に対して関心の高い質問もありました。

また参加者アンケートでは、面白かったという感想とともに、公平な目で見ることは難しい、供述の信用性を判断するのは難しかった、様々な視点を見られて楽しかった等の感想もあり、裁判の難しさや多角的な視点で考えることの重要性を実感してもらえたようです。

5 さいごに

コロナ禍でオンラインイベントも増えておりますが、今回実行役として参加することで、その実現には多くの準備がかかっていることを実感できたと同時に、真剣に模擬裁判に参加する学生達と交流できたことで、広報を頑張って来年はさらに多くの方にご参加いただきたいと思いました。

最後に、今回ご尽力頂きました全ての先生方に、この場を借りて御礼申し上げます。

福岡県弁護士会【筑後部会】ジュニアロースクール2021in筑後 福岡県弁護士会【筑後部会】ジュニアロースクール2021in筑後

今年も開催しました!来たれ、リーガル女子! in福岡2021

【イベント概要】

2021年11月28日(日)、福岡県弁護士会館において、「来たれ、リーガル女子!in福岡2021」が開催されました。

2018年に、内閣府の男女共同参画推進事業の一環として、学生・保護者・教員向けシンポジウム「来たれ、リーガル女子!」~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!~が西南学院大学法科大学院棟で開催されて以降、毎年、福岡では本イベントが行われています。今年は4回目の開催で、会場参加とオンライン(zoom)参加を併用して行われました。

本イベントの目的は、その題名にも表れているように、女性の法曹人口(当会の立場からすると、特に女性弁護士数)を増やすことにあります。2021年3月31日時点で、全国単位会の女性弁護士の割合は平均19.3%です。当会に目を向けると、女性弁護士数は1418名中259名であり、微増しているものの、その割合は18.3%となお低い状態です。このような現状を踏まえ、将来の進路を考える女子中高生及びその保護者に対して、普段の生活ではあまり接することのない女性法曹と触れ合う機会を設け、将来の有力な選択肢として法曹を考えてもらうべく、今年度から立ち上がった男女共同参画推進本部を中心に準備し、開催しました。

当日は、第1部・パネルディスカッション、第2部・法曹になるための進路説明、第3部・グループセッションの順に実施されました。

第1部・パネルディスカッション

「弁護士のリアル」と題し、原田直子先生にコーディネーターを務めていただき、パネリストの仲地彩子先生と私が、質問に答えていくという形式で進められました。原田先生から、弁護士を目指した経緯、弁護士としてのやりがい、ライフワークバランスなどについて質問がありました。

仲地先生は弁護士登録に至るまでに留学や大学講師等、本当に様々な体験をされており、原田先生が仰っていたように正に「波乱万丈」な内容でした。他方、私は、法曹資格を有する者の多くが辿ったであろうルート(大学法学部進学→法科大学院進学→司法試験受験)で弁護士登録をしており、法曹においては珍しくない部類です。

参加者アンケートからも、多様な進路ややりがいを感じてもらうことができ、中高生にとって、将来の選択肢を考える上で非常に良い機会になったのではないかと思いました。少し紹介します。

「コーディネーターの方のテンポが良く、弁護士お二方の話をスムーズに聞くことができて面白かったです。また、自分以外の方が法律に関心を持ったきっかけを伺ったり、業務内容や、育児に関する話、挫折や苦しいことを糧にするという話はとても役に立ちました。」
「『自分自身で決めた方針が自分に返ってくる』という、面白い仕事だなと、関心が高まりました。私も人の心に寄り添えるようになりたいと思いました。」
「法曹に関わる人はプライベートも犠牲にしてお仕事をしているというイメージがあったので、イメージよりプライベートに自由な時間があるという事を知れたのは参考になりました。」
「法曹を目指す人でもそれぞれの道のりがあることがわかりました。自分なりのやり方で法曹を目指していいんだと思い、安心しました。」

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第2部・法曹になるための進路説明

私は、第3部の打合せのため、会場の様子を直接見ることはできませんでしたが、福岡の大学教員の先生方と宇加治恭子先生による進路説明では、大学以降の進路について、方法論を具体的に示されていたようです。

参加者アンケートによれば、次のように非常に好評でした。
「法科大学院や法曹コースについてよく知れたと思います。」
「法曹への道が2年も短くなる法曹コースというものがあるんだと知れて、良かったです。」
「具体的にどうすればいいかなど、今後目指すべき場所がはっきりした。」

第3部・グループセッション

弁護士及び裁判官又は検察官を講師として、8名程度のグループに分かれて中高生からの質問に答える形式で行われました。今回は全部で5グループに分かれ、うち2グループはオンラインで行われました。

私は、弁護士及び裁判官が講師を務める会場実施のグループに参加しました。私が参加したグループでは、滅多に交流することができない裁判官への関心が強かった印象で、少々寂しい気もしました。裁判傍聴にも行ったという中高生が複数おり、意識の高さに非常に驚きました。

質疑応答の時間には、業務の内容、一日のスケジュール、やりがいを感じるときはどんなときか、大変だなと感じるときはどんなときか、モチベーションを維持する方法、メンタルの維持について工夫していること、法曹になるためにどのような準備をしたらよいか等、様々な質問がなされました。法曹と直接話をすることで、参加した中高生が少しでも法曹を身近に感じ、将来、法曹(特に当会所属の弁護士)になることを選択してくれたとしたら、非常に嬉しく思います。

参加者アンケートの回答も嬉しいものばかりでしたので、少し紹介します。

「法学部に行くことに関して、友達と真剣に話し合ったりしたことがなかったので、今回リーガル女子に参加してみて年代を問わずこんなにも多くの学生が法律に興味を持って将来について考えているのだと刺激を受けました。」
「グループの弁護士の先生方が本当に面白く、自分に合わせて質問に親身に答えてくださっていたのが本当に嬉しかったです。」
「弁護士の方と裁判官の方がとても優しく笑顔でお話ししてくださったので、初めは緊張していましたが、段々緊張がほぐれてきてとても話しやすかったです。」
「お話の中で、やっぱり自分は法曹になりたいなという気持ちになった。」
「今まで疑問に思っていたこと、パネルディスカッションを聞いて気になったことなどを、現役の弁護士、検察官の方から聞けて、充実した時間が過ごせた。」
「プライベートの話や1日の流れなど裁判官や弁護士の仕事についての話を聞けて裁判官や弁護士についての理解を深めることができました。」

さらに、参加者アンケートから参加の前後で法曹に対するイメージが変わったかという質問に対しては、様々な嬉しい回答がありました。

「参加前は、硬いイメージを持っていたが、仕事とプライベートの切り替えを持った自立したかっこいい大人の女性というイメージに変わりました。」
「真面目で少し怖そうなイメージだったが、皆さんとても優しく、先生のような法曹になりたいと思いました。」
「常に論理的に物事を考え、仕事に明け暮れているイメージがありました。女性が少ない職業なので、法曹界で活躍されている女性は強く勇ましい方ばかりだと思っていました。しかし実際は、子育てや趣味の時間を持ち自分らしく働いているキラキラした方ばかりでした。」
「エリートで雲の上の人だというイメージがあった。しかし良い意味で普通の人なのだと感じた。」
「色々な経歴からの弁護士の道がある事に驚きました。その経歴が弁護士としての活動での基盤になっていると伺って、経験することの大切さを改めて考えさせられました。」
「司法試験や法科大学院での勉強など、現実はそんなに甘くはないこともわかりました。しかし、実際に弁護士の方がやりがいを感じた瞬間のお話などを聞いて、とても印象的に感じたし、自分もそんな経験をしてみたいという気持ちになったので、改めて弁護士になりたいと思いました。」

福岡県弁護士会 今年も開催しました!来たれ、リーガル女子! in福岡2021
最後に

真剣な眼差しの中高生を前にして緊張しましたが、私自身、改めて法曹として頑張ろうと思える大変貴重な機会となりました。本イベントを企画・準備・運営してくださった先生方・関係者の方々には感謝申し上げるとともに、今後も本イベントの開催が継続され、本イベントをきっかけとして多数の法曹が誕生してほしいと思います。

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2021年11月 1日

あさかぜ基金だより

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 社員 宇佐美 竜介(73期)

○先輩弁護士

あさかぜ基金法律事務所は、平成20年9月22日に設立された事務所です。

設立以来あさかぜ基金法律事務所には29人の弁護士が入所しました。現在九州以外の地で活躍している弁護士もいます。

○共同受任

あさかぜ事務所以外の弁護士から紹介を受けた事件のうち、その2割から3割があさかぜ基金法律事務所の先輩弁護士からの紹介事件で、共同受任をして事件処理を進めています。

その中で、依頼者にどのように伝えればわかりやすいのか、書面で強調すべきポイントは何かなどを教わり、また議論を掘り下げるように頑張っています。

○所内研修

あさかぜ基金法律事務所では、事務所独自の研修をあさかぜ研修と称していますが、あさかぜ出身の先輩弁護士の事務所を訪問することがあります。

最近では、小林洋介弁護士が所長をつとめる平戸の飛鸞ひまわり基金法律事務所を訪れ、弁護士過疎地において開設する準備や事務所経営を軌道に乗せるための工夫、そしてどんな苦労をしたのかについて、話を聴き、一つの相談からどのようにして顧客を開拓するかのヒントを得ました。

このように、先輩弁護士が実際に過疎地でどのようにして開業し、事務所を運営していったのか知ることができることによって、近い将来の私自身の過疎地への赴任に向けて具体的なイメージを持つことができます。

このほか、今年度から新しく運営委員の光安正哉弁護士や井口夏貴弁護士が主催するゼミナールが所内で開かれています。このとき、要件事実の整理から民事保全の手続や弁護士報酬など、実務にすぐに役立つ幅広いテーマで議論を行っております。

○先輩弁護士とのつながり

あさかぜ基金法律事務所は指導担当弁護士など事件紹介をしてくれる弁護士だけではなく、これまで在籍していた先輩弁護士とのつながりも強く、先輩弁護士の温かく、また強力な指導と援助により支えられている事務所でもあります。

○私のリフレッシュ法

ランチは、前職の裁判所書記官時代は自分の席で弁当を食べることがほとんどでしたが、今では気分転換も兼ねて、天神周辺(いつも別の店)を食べ歩いています。外国人や職人肌など色々な店主との一期一会も非常に刺激的です。

天神の食文化を堪能することで、同じ日はないという気持ちを持ち続けています。

『国際ロマンス詐欺』にご注意! 悪質サイト・国際ロマンス詐欺無料電話相談(10月5日実施)のご報告

消費者委員会 委員 井口 夏貴(61期)

無料電話相談会を行いました!

消費者委員会の企画により10月5日(火)午前10時から午後4時まで、悪質サイト・国際ロマンス詐欺の被害に関する無料電話相談を行いました。

国際ロマンス詐欺ってなに?

みなさんは、「国際ロマンス詐欺」をご存知でしょうか。

今年6月、兵庫等の4県警が、「国際ロマンス詐欺」グループ指示役とみられる外国籍の男を逮捕したとの報道がありました。

報道によれば、男は、今年3月、他のメンバーと共謀して、イエメン在住の韓国人医師と偽り、女性に「あなたは理想の相手だ」「新型コロナウイルス対応で大変な日本の医療機関に寄付したい」とSNSで虚偽のメッセージを送るなどし、現金の配送料や遅延金名目で約370万円を詐取したという被疑事実で逮捕されたようです。

上記のように、「国際ロマンス詐欺」とは、SNSやマッチングアプリなどインターネットで知り合った(自称)外国人と親しく連絡を取り合ううちに、様々な名目で送金を迫られるというものです。

国民生活センターは、昨年2月13日付報道発表で、「-愛のギフトを受け取ってほしい!?- それってもしかして「国際ロマンス詐欺」?」と題して、注意喚起を行っています。

上記発表によれば、消費生活センターへの相談は、2018年末頃から見られたようです。

送金の名目はいろいろありますが、荷物等を送るので代わりに受け取ってほしいと言われ、受け取る際に通関料や運送保険料などの料金を請求されるというものや、近時では、結婚資金作りのためなどとして投資を勧誘し、暗号資産などを送金させられるというものも急増しており、国民生活センターも、今年2月18日付で「出会い系サイトやマッチングアプリ等をきっかけとする投資詐欺にご注意を-恋話(コイバナ)がいつの間にかもうけ話に-」という発表を行って、注意喚起しています。

相手方とはSNSだけのやり取りしかなく、加害者の特定が困難であり、また、海外送金や暗号資産での送金をしてしまうと、その後の追跡も難しいということで、現状では、注意喚起して、送金の手前で被害者に気づいてもらう以外に有効な対策がないところです。

しかし、被害者には恋愛感情があり、相手方に騙されているという自覚を持ちにくく、周囲の注意にも耳を傾けにくいという状態にあることもしばしばであり、未然に被害を防ぐのも簡単ではありません。

そこで、消費者委員会は、今回、注意喚起と被害実態の把握、場合によっては被害の回復につなげることを目的に、国際ロマンス詐欺に関する無料電話相談を企画し、実施しました。

あわせて、新型コロナウイルスの感染拡大の状況下で、インターネット上の取引利用が増えたためか、悪質サイトによる被害の相談も増加傾向にあることから、悪質サイト被害についても、相談対象としました。

相談の結果

今回の無料電話相談は、事前に西日本新聞と朝日新聞に記事を掲載していただいたということもあり、合計11件の相談を受け付けました。

内訳としては、ロマンス詐欺類型が4件、その他の投資詐欺類型が2件、ロマンス詐欺ではありませんが国際貨物の運送保険料名目での詐欺類型が1件、ギャンブルの必勝法詐欺1件、インターネット求人広告被害1件、その他2件でした。被害金額が数百万円に及ぶものも、複数ありました。ロマンス詐欺や投資詐欺の6件のうち、3件は決済手段が暗号資産でした。

ロマンス詐欺、投資詐欺のいずれも、FacebookやLINEで知り合い、その後、LINEでのやり取りを通じて、最終的には投資資金名目で送金をさせられており、投資の結果が良好であるように見せかけられ、次々にお金の追加投資を勧誘され、出金しようとすると手数料や税金を支払わないと出金できないなどといわれて、お金が戻らない、という構造のほか、SNS以外のつながりがなく、加害者の特定が困難という点が共通していました。

今回の相談で見えてきたこと、感じたことなど

今回の相談結果は、近時、SNS等から投資詐欺につながる事案が急増しているという上記の国民生活センターの発表を裏付ける内容となりました。

LINEなどのSNS以外の連絡手段がないにもかかわらず、相手方を信用し、多額の金銭を支払ってしまう、というのは、奇異にも思えますが、IT化の進展に伴い、SNSを介した交流が一般的となり、SNS以外では現実に会ったことがない人ともつながりがある(と思っている)のが昨今それほど珍しくないことを考えると、このような傾向が止むことはないのではないかと考えています。

また、暗号資産という匿名性の高い決済手段の利用は、今後、ますます一般にもなじみとなっていくと思われ、消費者被害が発生した場合を想定して、救済のために法律等による規制が必要ではないかと感じました。

なお、一つ意外だったのは、送金先に、調査がある程度可能な国内の金融機関口座が指定された例もそれなりにあったということです。おそらく、不正に売買された口座が利用されており、容易に加害者にはつながらないと思われますが、口座の入出金状況から何らかの追跡が可能な場合も考えられ、このあたりを突破口にできる場合もあるのではないかと感じました。

注意喚起にご協力をお願いします

上記のとおり、ロマンス詐欺の類型は、いったん被害に遭うと回復が困難です。この記事を読まれたみなさまにも、周囲の方への注意喚起にご協力いただければと思います。

国際ロマンス詐欺については、国民生活センターのウェブサイトに注意喚起用のチラシが掲載されていますので、適宜ご利用いただければと思います(下記URLを参照ください。)。
http://www.kokusen.go.jp/mimamori/pdf/shinsen375.pdf

福岡県弁護士会『国際ロマンス詐欺』にご注意! 悪質サイト・国際ロマンス詐欺無料電話相談(10月5日実施)のご報告

2021年10月 1日

弁護士に会ってみよう!

法科大学院運営協力委員会 委員 古賀 祥多(69期)

盛況でした!

2021年(令和3年)8月23日、福岡県弁護士会館にて、「弁護士に会ってみよう!」をオンラインで実施しましたので、ご報告します。

本企画は、当初、裁判傍聴をした後、会館に集まって直接弁護士と懇談するという企画で、中高大学生を対象に参加者を募集していましたが、多くの方の参加申込があり、開始前から大盛況でした。しかし、誠に残念ながら、7月下旬頃より新型コロナウイルスの感染者数が増大し、8月になっても勢いが衰えることなく、ついには8月20日より福岡に緊急事態宣言が発出されたため、裁判傍聴企画を中止し、弁護士との懇談企画もすべてZoom形式で実施するなどして、リアルでの企画をすべてオンライン企画に切り替えざるを得ないこととなりました。

ただ、急遽オンライン開催に変更になったにもかかわらず、当日は、27名の方に参加いただき、大変盛況となりました。

第1部 弁護士に聞いてみよう!

まず、第1部として、佐渡麻奈美委員の司会のもと、稲場悠介委員長、中谷正太事務局長、山之内明委員の3名の対談方式で、弁護士の仕事のことや、弁護士になるための流れ等について説明がありました。

今回の登壇者委員は、弁護士経験がそれぞれ12年、5年、2年で、若手から中堅という構成となっており、自身のこれまでの経験等から、弁護士の仕事を魅力的に語っていました。たとえば、仕事内容や忙しさについては、登壇者の弁護士経験年数や、事務所での立場(イソ弁なのかどうか等)も異なっていて、若手のときは忙しくて仕事が大変だが、ある程度弁護士として経験すると少しずつ変わっていったりするといった具体的な話もされました。

また、各登壇者から、弁護士を目指そうとしたきっかけ、弁護士を目指そうと思った時期について話があり、大学学部生のときに法律家を目指そうと思った登壇者もいれば、小学校のときや、子供の頃に弁護士を目指そうと考えたという登壇者もいて、それぞれの目指すきっかけはさまざまで大変興味深く思いました。

さらに、事務所に弁護士が何人いて、どんな感じで仕事をしているのか、といった具体的な話もされました。

途中、実際に弁護士になるための方法について、法科大学院と予備試験などの司法試験受験資格に関する制度や司法修習制度について、委員より説明がありました。アンケートを見てみると、具体的な進路のことはあまり知らなかったので、今回の企画で大変勉強になりました、というご感想がありました。

最後に、司会より弁護士はオススメの職業なのか、と聞かれたとき、登壇者全員が、オススメの職業です!とハッキリと回答していたのが印象的でした。

第2部 弁護士と話してみよう!

次に、各参加者と弁護士がいくつかのグループに分かれ、個別の小グループでの質問タイムが開かれました。私も、松井仁副委員長とともに5名の学生と話をしました。各参加者からは、なぜ弁護士になったのか、弁護士の仕事で失敗したことやつらいことはあるか、弁護士になる前にどんなことを勉強しておけば良かったと思うか、といった話や、企業内弁護士はどんな仕事をしているのか、といったことまで、様々な質問を受けました。

私は、あまり含蓄のある話ができませんでしたが、これまでの弁護士経験のなかで経験したことなどをお話しました。たとえば、弁護士は依頼者に寄り添って、依頼者に近いところで事案の問題点を探し出し、裁判官を説得する、そして説得活動が功を奏し、こちらの言い分を理解してもらうことができたときはやりがいを感じる、もちろん、ときには弁護士が一生懸命やっていても依頼者から強くあたられるときはあるが、それは自分を信頼してくれていることの裏返しと思って、自分を励まして仕事をする、というような話をしました。

松井副委員長は、非常に魅力的で、とてもためになる話をされていました。たとえば、参加者より「日弁連とは何か」という質問をされた際、弁護士自治・弁護士の独立について、他国と比較しながら、端的に、かつ、わかりやすく丁寧に説明されていました。また、松井副委員長が、これまでの実務家経験の中で、先輩の実務家から聞いた話をされて、「裁判官になるには世間を知らないといけない。世間を知らないまま裁判ができるのか。」といった話や、「負けたときに感謝される弁護士を目指しなさい」といった格言を聞くことができました。さらに、ADRのことや、組織内弁護士(企業・自治体)のことなど、弁護士が様々な場面で活躍していることを、具体的な場面に触れながら、かつ、その魅力にも触れながら話をされていて、私自身、非常に勉強になるとともに、弁護士の魅力を再確認することができました。

今度はリアル企画で!

本企画実施後のアンケートでは、参加者の方より、「普段知ることのできない弁護士の仕事を具体的に知ることができて勉強になった」「直接弁護士の方とお話ができて法曹への興味がでてきた」といったご意見を多数いただきました。きっと、今回本企画に参加していただいた皆様には、「弁護士」という仕事の魅力を知っていただけたのではないか、と思います。私も、今回、本企画に出席し、弁護士のことを知らない学生に対して自分の仕事について話をしたり、あるいは、他の弁護士の仕事のことについて話を聞いたりすることができ、あらためて「弁護士」という仕事がどんな仕事なのか、再確認することができました。

ただ、今回、緊急事態宣言により当初の企画を中止・変更せざるを得なかったのは心残りでした。特に、参加者の中には、裁判傍聴を心待ちにしていた方々が多数いらっしゃっていたようで、私が第2部で参加したグループのメンバーだった5名の方は、全員、実際に裁判傍聴をしてみたいというご意見でした。また、本企画のアンケートでも、緊急事態宣言のなかで本企画が実施されたことについて感謝の言葉をいただいた一方で、やはり直接弁護士と会って話を聞きたかった、裁判傍聴企画が実施されなかった、というご意見も寄せられました。

昨年から続く新型コロナウイルスの流行により、直接面談での企画がなかなか難しい中、オンライン会議システム等を利用して実施することにより、様々な企画を実施することができるようになりました。しかし、他方で、やはり直接会って見聞きすることができる企画には普遍的なニーズがあるものと実感しました。

今年は残念ながらオンライン開催となりましたが、新型コロナが沈静化した後、改めてリアルでの企画を実施したいと思いました。

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