福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

あさかぜ基金だより(1)

あさかぜ基金法律事務所 所員 佐古井 啓太(72期)

1 ごあいさつ

このたび、あさかぜ基金法律事務所に入所しました、所員弁護士の佐古井啓太と申します。

出身は中国山地の山村でありまして、高校は岡山、大学は東京、修習は松山と各地を転々としてきました。福岡は、縁もゆかりもないのですが、名古屋や札幌と並ぶ勢いのある地方都市ということで以前から関心があり、この地で弁護士としての第一歩を踏み出せることを大変嬉しく思っています。

2 趣味

私の趣味は旅行であり、週末は、電車や車、バイクなどで、行ったことのない土地によく出かけています。名勝・旧跡だけでなく、商店街やロードサイドのようなその地の生活が垣間見える場所だったり、川沿いの道や峠道など地形の変化に富むような場所だったり、更には"酷"道・"険"道と呼ばれるような通行がなかなかに困難な道路だったりと、いろいろな所を見て回るのが好きです。

松山修習の際は、少ない修習給付金からローンを組んで、125ccのバイクを買い、暇さえあれば愛媛県内を走っておりました。愛媛県は、面積だけ見れば福岡県より少し広いくらい(ちょうど対馬1つ分ほど)なのですが、東西・南北ともに150キロメートルほどある細長い県です。したがいまして、長距離を走ることも多く、原付二種だと高速道路が使えないので、行って帰るだけで一日かかることもあり、なかなかに疲れる趣味でもありました。愛媛県は、多島海である瀬戸内海や宇和海を擁し、海が非常に身近である一方で、西日本最高峰の石鎚山をはじめ峻険な峰々の連なる四国山地が東西を貫き、海のすぐ側まで山が迫るなど、非常にバラエティに富んだ地形をしています。そのため、走っていて楽しい道が多く、とりわけ、標高1,500メートルの高所に広がる四国カルストや、洋上から遥か広島県まで島々を見渡せるしまなみ海道の来島海峡大橋、トンネルの合間から突如として視界に宇和海のあらわれる国道56号の法華津峠、製紙工場の煙突が立ちならぶ三島・川之江の町を一望できる具定展望台など、記憶に残る風景がいくつもありました。

3 あさかぜに入所した理由

私があさかぜを志望したのは、将来は中国山地の故郷に戻って開業することを考えているからです。出身が過疎の村ということもあり、どんどん寂れていく様子を見て、郷里の振興のために何かしたいと思っており、弁護士になるなら、いずれは故郷に帰って地元の人々になんとか少しでも役に立ちたいと考えています。

そこで、司法過疎地で活躍する弁護士を何人も送り出してきた実績のあるあさかぜを志望いたしました。同じような養成事務所はあさかぜ以外にもいくつかありますし、法テラスという道もあります。しかしながら、九州という土地にこれまで縁がなく、一度住んでみたいと思っていたことや、あさかぜを応援してくださっている先輩弁護士から手厚い指導を受けられるという点に魅力を感じたため、そのような事務所の中からあさかぜを選びました。

4 抱負

私があさかぜに入所してから、はや2か月が経ちました。あさかぜの委員会関連の仕事があったり、本稿のようなあさかぜ所員が持ち回りで書いている原稿を執筆したりと、入所前は思ってもいなかった仕事があったりして、なかなか忙しくはありますが、多くの先輩弁護士から事件を紹介していただき、事件処理に追われる充実した日々を過ごしています。この恵まれた環境を無駄にすることのないよう、司法過疎地域でいずれ独り立ちする日に向けて、日々、精進していきたいと思っていますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

2020年3月 1日

公害環境委員会 荒尾の干潟は世界の宝

公害環境委員会委員 後藤 富和(55期)

2019年10月30日、公害環境委員会は熊本県の荒尾干潟の現地調査を行った。

荒尾干潟は、単一の干潟として国内有数の広さを持つ砂質干潟であり、甲殻類、貝類、ゴカイ類などの底生生物や、それらをエサにする水鳥、浅瀬を利用する魚類など多様な生物が生息している。特に、シギ・チドリなど渡鳥のオアシスとなっている。そのため、国際的に重要な湿地として、2012年にラムサール条約に登録された。有明海では初めての登録となり、その後、佐賀県の東よか干潟と肥前鹿島干潟の登録が続いた。福岡県内では未だラムサール登録はない。

ラムサール登録に際しては、湿地を保護することで鳥類が増え漁業や農業に影響が出るといった懸念から地元の漁業者や農業者の理解を得ることが鍵となる。荒尾干潟の登録にあたっては、地元漁協の組合長が荒尾干潟の保全・賢明利用推進協議会の会長に推進するなど準備段階から地元利害関係者の理解が得られており、スムーズに登録が実現した。

2019年8月には、環境省が設置し荒尾市が運営する荒尾干潟水鳥・湿地センターがオープン。年間2万人の来場者を予定しているところ、オープン2か月余りで約7000人が来場している。

荒尾干潟では、環境保護NGOによる子ども干潟観察会や、地元漁協主催のマジャク(アナジャコ)釣り体験、地元高校生による干潟体験など、干潟の価値や保全の必要性などを学習する場が地元市民を中心に行なわれており、この活動はラムサール条約が定める「懸命な利用(Wise use)」として高く評価されている。

今後は、干潟の活用、保全、情報発信を担う人材の育成が課題となるが、荒尾干潟では、地元漁協が積極的に関与していることから、この課題は克服できていると言える。有明海の漁師が長年の経験から得た豊富な知識を市民に伝えることで、市民に対して生きた知識を伝えることができ、漁師にとっても、市民と触れ合うことが喜びとなっている。

荒尾干潟の砂質干潟は、人が歩いても沈み込むことがない。この特徴を活かして、漁師たちはトラクター(テーラー)を使って干潟上を移動して漁をしている。現在、センターでは、テーラーで干潟上の海床路を移動する体験が来場者に人気である。

荒尾市においては万田坑の世界遺産登録と合わせて観光資源として活用しようとの動きも出ており経済的な側面からもラムサール条約登録の効果が現れつつある。

今後は、ラムサール条約に登録された有明海の3つの干潟が連携を取り、行政の枠を超えて生物多様性基本計画の策定も検討するなど画期的な取り組みも期待されている。

福岡県内にも豊かな湿地が多数存在している。福岡県弁護士会は、和白干潟と今津干潟を含む博多湾のラムサール条約登録を求める意見書、曽根干潟のラムサール条約登録も求める意見書を採択している。現在、平尾台・広谷湿原のラムサール条約登録の機運も盛り上がっており、2021年に中国の武漢で開催されるラムサール条約締約国会議において福岡県内の湿地の登録が期待されている。

公害環境委員会 荒尾の干潟は世界の宝

2020年2月 1日

第2回求人広告トラブル110番 ~いつの間にか有料に~

中小企業法律支援センター 副委員長 碇 啓太(62期)

1 実施概要

令和元年12月10日(火)13:00~17:00に、「求人広告トラブル110番」として、中小企業法律支援センターの有志が相談担当をして、電話相談会を実施しました。2018年末ころから相談が急増していますが、現状でも未だトラブルが発生している状況です。そのため、第2回目の相談会を実施いたしました。

2 求人広告トラブル事案

事業者(主として中小零細企業)が無料だと考えて求人広告の掲載をしたところ、有料期間に入ったとして数十万円の請求を受けるというものです。

多くの事案では、主に3週間無料で求人広告をWEBに掲載しませんかとの営業の電話があり、その営業を受けた事業者が無料ならと考えて申し込んだところ、いつの間にか有料になっていて数十万円の請求が来て困ってしまうというものでした。

3 実施結果

電話相談の結果としては、9件の相談があり、相談者の所在は、福岡県内が2件、県外が7件で、栃木県、群馬県、千葉県、神奈川県、山口県からの相談がありました。すべての事案で、ハローワークに求人広告を掲載しており、広告事業者はハローワークの求人広告を架電の契機としているものと思われます。

4 法的問題点や対応方針

私たちは、事案の違いがあることを前提に、基本的に以下のような対応をする方針で、相談対応をしました。

(1) 相談時

相談を受けた際には、リスクを説明した上で、安易に支払いを促すようなアドバイスをせずに、支払をしない方向で検討をするなど慎重な対応をすべきだと考えています。

(2) 交渉段階

まずは、内容証明などで、(1)支払をしない旨の意思表示と(2)掲載されている広告の削除の要求をすべきです。訴訟提起まで至る事業者は限られていること等もあり、支払をする前提での和解をすることには慎重であるべきだと思います。

(3) 訴訟対応

広告事業者によっては弁護士が代理人となって訴訟提起してくることもあります。

基本的には、相手方は証拠書類が形式的には揃っている事案が多いものの、しっかりと事情を聴きとれば、契約の不成立、詐欺、錯誤、公序良俗違反による無効などの主張をすべき事案が多いと思います。

なお、公序良俗違反の主張については、厚生労働省のWEB上の「民間企業が行うインターネットによる求人情報・求職者情報提供と職業紹介との区分に関する基準について」という記事と、東京地裁平成28年3月28日判決が参考になります。

(4) 最終的な解決

現時点では、本記事で想定している求人広告トラブル事案で判決まで至っている事案はないようです。その理由は、多くの事案で、和解しているほか、広告事業者が請求の放棄、訴えの取下げをしているからだと思われます。私自身が裁判対応した事案でも、判決になる前に相手が請求の放棄をしてきました。

5 最後に

弁護士として悩ましいのは、依頼者の経済的利益のとの兼ね合いで、依頼を受けるときの弁護士費用です。ただ、被害者である中小企業救済・社会貢献という観点から、弁護士全体として、依頼しやすい金額で提案をして、積極的に助言・対応をしていければ望ましいと思っています。中小企業法律支援センターとしては、今後も中小企業の法的支援のために有益な情報提供に努めて参ります。

第2回求人広告トラブル110番 ~いつの間にか有料に~

全県で利用可能な触法障がい者刑事弁護支援スキーム(福岡県立ち直りサポートセンター)モデル事業が始まりました

触法障がい者支援ワーキンググループ委員 石井 謙一(59期)

1 はじめに

2019年(令和元年)9月から、福岡県が「福岡県立ち直りサポートセンター」(以下「サポートセンター」といいます。)事業を開始しました。

これまでは、被疑者・被告人に障がいがある場合の刑事弁護活動において福祉的支援を受けるための制度は、当該被疑者・被告人が希望する帰住先が福岡市か北九州市の場合にしか利用できませんでした。

しかし、サポートセンターの事業開始により、希望帰住先が福岡県内であれば、市町村による制限を受けることなく福祉的支援を利用できるようになりました。

2 被疑者・被告人に障がい等がある場合の刑事弁護活動とは

刑事弁護事件の中には、被疑者・被告人に障がい等があるために社会内での生きづらさを抱え、犯罪に及んでしまったと考えられる事案もあります。このような被疑者・被告人については、福祉的支援につなげることで生活環境や生きづらさが改善されることが期待できる場合もあります。

そこで、そのような場合には、福祉職の方と連携することで、被疑者との接見に同行してもらい、障がいの特性や必要な支援の内容についてアドバイスを受けたり、場合によっては受入先施設の選定に協力してもらうことができます。また、検察官や裁判所に働きかけを行う際の資料とするために、上記活動の成果を「更生支援計画」としてまとめて頂き、今後の支援について法廷で証言してもらうことができる場合もあります。

3 これまでのスキーム

そこで当会では、北九州市及び福岡市の基幹相談支援センターと連携し、当該地域への帰住を希望している被疑者については、福祉職と弁護人をつなぐためのスキームを運用しています。

このスキームの利用方法については同じく会員専用ページの「書式・資料」からダウンロードすることができる当番弁護士・当番付添人 被疑者・被告人国選 Q&Aをご参照下さい。

4 全県下で、障がいに限らず、福祉的支援を得られます!

上記のように、これまでのスキームでは、被疑者・被告人の希望帰住先が北九州市または福岡市でなければ利用することができませんでした。また、福祉的支援の対象は、障がいを持つ方に限られ、しかも福岡市の場合には、療育手帳等が必要でした。

しかし、サポートセンターの運用が開始したことにより、福岡県内であれば帰住先が北九州市または福岡市でなくとも福祉的支援を受けることができるようになりました。

また、県の事業は、障がいに関する手帳を取得していることが要件とはされていません。さらに、障がい者だけでなく、高齢者、住居不定の方、依存症の方も対象となります。

5 サポートセンター利用のための手続

サポートセンター利用の流れは、後掲「福岡県立ち直りサポートセンターの利用の流れ」をご参照下さい。

会員専用ページの書式及び資料→刑事事件・精神保健関連→触法障がい者等支援」から申込書をダウンロードして必要事項を記入し、各所属部会事務局宛てファクスして頂ければ利用することができます。

6 注意点等

サポートセンターご利用にあたっては、上記申込書と同じところにアップされている案内とフローチャートをよく読み、利用の際の条件や注意点をご理解の上お申し込み下さい。

なお、特にご注意頂きたい点は以下のとおりです。

(1) サポートセンターは令和3年3月までのモデル事業です。

そのため、令和3年3月を過ぎると、正式な事業として開始するか、モデル事業として継続されない限り利用ができなくなります。

また、予算も非常に限られているため、場合によってはお申込み頂いてもサポートセンターが支援を断る場合もあり得ます

(2) 申し込み後に被疑者・被告人の同意書の提出が求められます。

(3) 上記のように、サポートセンターの予算が限られているため、既存の北九州市または福岡市のスキームが利用できる場合には、そちらを優先してお申し込み下さい(後掲フローチャート参照)。

7 おわりに

各会員におかれては、サポートセンターの事業をご活用頂き、今後も障がいのある被疑者・被告人の刑事弁護活動をより一層充実して頂きますようお願い致します。

全県で利用可能な触法障がい者刑事弁護支援スキーム(福岡県立ち直りサポートセンター)モデル事業が始まりました 全県で利用可能な触法障がい者刑事弁護支援スキーム(福岡県立ち直りサポートセンター)モデル事業が始まりました

「来たれ、リーガル女子!」 ~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!~

会員 馬場 安紀子(71期)

1 はじめに

令和元年11月3日、福岡県弁護士会において、内閣府・男女共同参画推進連携会議・日弁連などが主催の、学生・保護者・教員向けシンポジウム「来たれ、リーガル女子!」~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!~が開催されましたのでご報告いたします。このシンポジウムは、内閣府の男女共同参画推進事業の一環として位置づけられ、主に女子中高生を対象に、将来の選択肢として、弁護士、裁判官、検察官といった法曹の魅力や普段の生活について知ってもらうイベントです。今回は東京、大阪、福岡に次いで名古屋を主会場とした4回目の開催になります。

2 当日の状況

当日は、中高生53人、保護者教員21人の参加がありました。開始時刻の随分前から会場に入場し、資料を見て待っている学生が多数おり、学生の意識の高さ、当イベントへの関心の高さがうかがわれました。

第1部では、主会場である名古屋大学アジア法交流館とZoom中継を受け、愛知県弁護士会会長をご経験された池田桂子弁護士より、「女性弁護士の歩みと魅力」について女性法曹の社会的意義や女性弁護士の仕事の魅力等についてご講演いただきました。

第2部では、同じく名古屋大学からZoom中継を受け、弁護士、裁判官、検察官それぞれ1名ずつをパネリストにもうけ、職業選択の動機や、やりがい等をパネルディスカッション形式でお話いただきました。いずれの方からも、法曹として幅広い業務(司法研修所教官、社外取締役、公職等)が経験できること、子育てと仕事の両立を取りやすい職業であること、裁判官と検察官は引っ越しのプロになれること等(笑)についてお話いただき、学生の方々にとっては初めて聞く内容で興味深かったのではないかと思います。

第3部のグループセッションでは、「刑事裁判」、「子どもの権利」、「民事(女性の権利)」、「国際関係」、「企業内・自治体」をテーマに、各グループを設け、学生と講師としての弁護士、裁判官、検察官がテーブルを囲んで質疑応答をするというグループセッションが行われました。

私は、「国際関係」のグループで書記係を務めさせていただきました。初めは学生の方も緊張していたようで質問がなかなか出ませんでしたが、講師や司会の方が話を振ると、「日本人として他の国の弁護士になることもありますか?」や、「現地の人との交渉はどうやって乗り越えるんですか?」等具体的な質問や、「弁護士としてどのような能力が必要ですか?」や「学歴は大事ですか?」といった質問まで積極的に質問してくれました。

法曹として国際関係の仕事に携わりたいと考えている学生の皆さんの意識の高さや熱意は非常に学ばされるところも多く、とても刺激になりました。また、講師をしてくださった先生方のご経験や姿勢をお伺いする機会はとても貴重で、私にとっても大変勉強になりました。

なお、中学生・高校生がグループセッションを行っている間は、保護者・教員向けに宇加治先生より進路説明会が行われ、福岡市の法科大学院の教授もご参加いただき、各法科大学院の特色の説明や、新たな法曹コースについての説明がありました。将来の選択肢として法曹を目指す場合、保護者や教員の理解も必要ですので、このような説明会もとても意義あるものだと思います。

3 その他

本イベントでは、イベントに参加する方やスタッフのお子さんについて託児サービスを設けたり、手話通訳を手配する等福岡県弁護士会としては初めての企画も実施しました。手話通訳は事前の申込がなかったため、準備にとどまりましたが、託児サービスについては、スタッフ及びイベント参加者の保護者からの依頼があり、計7名のお子さんの託児サービスが実施されました。保育士に預けられたお子さんは皆泣くこともなく、保育士の用意した遊びに興じるなどして、イベント終了時まで無事に託児がなされました。他の委員会のイベント時にもこのような託児サービスの実施もご検討いただければ、より皆が参加しやすいイベントになるのではないかと思います。

イベント終了後では、会館4階談話室及びテラス席を利用して懇親会が開かれました。キャンドルやフラワー付きのとてもお洒落なコーディネートケータリングで、お食事もおいしく、生ビールのサーバーもあり、和やかな雰囲気で当日の感想を交わすことができました。テラス席も利用した懇親会は初めてのこととのことで、清々しい空気を感じながら飲むお酒は格別でした。

4 最後に

グループセッションの講師としてお越し頂いたそれぞれ2名の裁判官、検察官、13名の弁護士の先生方には、学生の方々に貴重な生の声を届けていただきました。改めて感謝申し上げます。

また、当日は、帰省中の日弁連副会長の原田直子先生にも、イベント内でのご挨拶や学生の方との記念写真撮影に応じていただく等、多大なご協力をいただき、とても価値のあるイベントになったと思います。
今後もこのような機会に参加して、未来のある学生らに対して少しでも法曹に興味を持っていただけたらと思います。

「来たれ、リーガル女子!」 ~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!~ 「来たれ、リーガル女子!」 ~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!~ 「来たれ、リーガル女子!」 ~女性の弁護士・裁判官・検察官に会ってみよう!~

市民とともに考える憲法講座「守ってくれるのは軍隊?それもとも憲法?」のご報告~内外から見た沖縄基地問題

会員 米倉 大樹(65期)

1 憲法市民講座の開催、中村哲医師への追悼

2019年12月21日14時から、福岡県弁護士会館大ホールにおいて、「憲法改正問題に取り組む 全国アクションプログラム 憲法市民講座」として、沖縄基地問題から平和憲法を考えるとのテーマの下、琉球新報・編集局長の松元剛さん、弁護士であり、新外交イニシアティブ(ND/New Diplomacy Initiative)代表も務める猿田佐世さんにご講演いただきました。講演会の様子は、北九州弁護士会館でも中継放送されました。

また、講演会に先立ち、長年にわたりアフガニスタンやパキスタンで人道支援活動に従事された中村哲医師が、12月4日、現地で護衛者らとともに銃撃を受け、逝去されたことを受け、改めて追悼の意が表されました。北九州でも2015年8月2日にウェルとばた大ホールで「9条あっての国際貢献~アフガニスタンでの医療協力31年~」のご講演をいただき、会場一杯に市民の方々が足を運ばれ、中村医師の活動への関心の高さを目の当たりにしたことを覚えています。

2 松元剛さんの講演~沖縄から見た「沖縄基地問題」~命の格差、二重基準

まず、松元さんから、沖縄の内側から見た「沖縄基地問題」について語られました。そもそも基地担当の記者がいることが沖縄の特殊性を表しており、沖縄基地問題の核心は、ウチナーンチュと、本土やアメリカ本国に住む人々との命の重さをめぐる度を超えた「二重基準」にあります。沖縄の人々の命は、本土やアメリカ本国に住む人々との命と比べて、明らかに軽んじられているということです。

基地の現状として、普天間基地から嘉手納基地までの距離は僅か9.5~10キロメートルであり、海兵隊と空軍の拠点がこれほど近い所は他にないそうです。普天間基地の直ぐ近くには普天間第二小学校があり、教室内でも騒音は119デシベルに達するとのことです。このレベルの騒音になると会話は不可能とされます。また。2008年5月2日付の琉球新報「〔嘉手納基地から〕F15が未明に10基離陸」、「爆音 砂浜で112デシベル」という見出しの記事を示され、この出来事の背景には、日本を午前5時頃に離陸することでアメリカへの到着時刻を日中にし、過酷な訓練に臨むパイロットへの負担を軽減する配慮があることに触れられました。

ハワイでは、地域住民からのカメハメハ大王の生誕遺跡が荒れるとの反対意見などに配慮し、オスプレイの離着陸訓練が中止されたり、アメリカとの地位協定があるイタリアでは、アメリカ軍が事前にイタリア側に訓練を報告し、事故があった時はイタリアの国内法に基づいてイタリアが主導して、アメリカ軍がそれに協力をすることになっており、シエスタ(昼寝)の習慣にも配慮がなされ、その時間帯は訓練させないことになっているとのことです。

指摘されたいくつかの記事、事例を見ても、日本、沖縄への配慮とは雲泥の差があり、沖縄の人々の命が軽んじられている現状が伝わりました。普天間基地の名護市辺野古への移設についても、沖縄県民投票で反対が70%を越えたことに加え、軟弱地盤の問題やそれに伴う工費の莫大な膨張を指摘され、2014年1月1日付で琉球新報が特報した日米地位協定の秘密解釈文書「日米地位協定の考え方」にも触れられました。日米地位協定の不自然さを浮き彫りにし、見直しの必要性を考えさせる内容の講演でした。

最後に、2004年8月13日に普天間飛行場に派遣されていた米海兵隊所属ヘリコプターが、沖縄国際大学の本館ビルに墜落、激突後に、爆発炎上した事故について、当時の動画を流されました。アメリカ兵によって現場への立ち入りや撮影が厳格に規制されている様子を捉えており、事故直後の現場の物々しい雰囲気が伝わりました。イタリアにおける地位協定の在り方も踏まえ、改めて主権とは何か考えさせられました。

3 猿田佐世さんの講演~沖縄の外から見た「沖縄基地問題」~ワシントン拡声器、「アメリカの声」の主

引き続き、猿田さんから、沖縄の外側(国外)から見た「沖縄基地問題」について語られました。猿田さんが代表を務める「新外交イニシアティブ」は、政策提言・情報発信を通じ、日米及び東アジア地域において、外交・政治の現場に新たに多様な声を吹き込むシンクタンクです。現在の取り組みの8割は沖縄問題であり、猿田さん自身、月に1回ほど沖縄を訪問されていた時期もあるとのことです。沖縄問題は、実は本土の問題であり、根本的な原因は東京の永田町にあります。

日本の政策に影響を与える「アメリカの声」の発信元は、多くても30人ほどの非常に限られた知日派アメリカ人であり、日本の政府や大企業から情報や研究資金の提供を受けています。日本では、こうした「声」を通じて伝えられる「アメリカの意向」が大きな圧力として働きます。この仕組みを「ワシントン拡声器」と表現されています。

具体的な仕組みは、ワシントンは世界中の問題についてアジェンダ(議題)設定能力を有し、評価・権威付けを行うところ、(1)一部の日本人がアメリカの知日派やシンクタンクなどに資金や情報を与える。(2)与えられた情報に基づき彼らが発言したり、報告書を発表したりする。(3)日本の政府やメディアが、アメリカ側から出てくる情報の中から自分達の推進したい政策の追い風となる情報を選択し、選択した情報を「ワシントン発」の声として日本に向けて「拡声」しながら伝える。(4)アメリカの影響力を追い風に、日本国内で自分達の望む政策を実現するというものです(猿田佐世『自発的対米従属-知られざる「ワシントン拡声器」』68頁~135頁(角川新書、2017))。

知日派で知られるアーミテージ元国務副長官が普天間基地の返還を巡り「沖縄であれだけ反対しているのだから、辺野古以外のプランB(代替案)があった方がいい。」と語ったことや、アメリカでは原発が斜陽産業と認識されており、日本の使用済み核燃料再処理に反対していることなどが日本国内のメディアでは伝えられておらず、アメリカの声の「アメリカ」とはいったい誰なのかと疑問を投げかけられました。

日本ではアメリカの出来事が連日のように報道される一方、アメリカ人で日本のことを考えている人はほぼ皆無とのことです。2015年9月21日、翁長知事が国連人権理事会(ジュネーブ)で声明を発表し、沖縄の人々の人権や自己決定権がないがしろにされている辺野古の状況を世界中から関心を持って欲しいと訴えたことに触れ、今後も、アメリカの中枢に「沖縄の声」を届けるとともに、辺野古が唯一の選択肢ではないことを働きかけていきたいと語られました。

4 質疑応答~沖縄基地問題の今後の展望

質疑応答において、猿田さんによると、トランプ政権の下でも強固なパイプは健在であり、「ワシントン拡声器」を利用した既存外交に変わりはないとのことです。松元さんは、今後も基地の周辺で、小さな事故が重なりやがて重大事故につながる恐れや統計的に見てまた沖縄の人々が事件に巻き込まれる可能性を危惧し、時間的にも、費用的にも終わりの見えない辺野古への移設問題にも触れ、なぜここまでしてアメリカに、日米地位協定にすがらなければならないのか、考える分岐点にあるとの認識を示されました。

基地の引取運動について、松元さんは、一部の地域の人々に過剰な負担をかけず、国民全体の問題と捉えようとする動きとして正当性があると評価されましたが、猿田さんは、アメリカに提言すると実際にそのように動く可能性があり、議論が成熟するのを待ちたい。まずは日本の外交を変えなければならないと述べられました。

5 最後に~本講座の持つ意義、まず関心を持つことの重要性

松元さんが講演の冒頭で今年10月31日に首里城が炎上したことに触れ、今この時期に、国民の目が沖縄に向くことは、基地問題や憲法改正を結びつける何かのメッセージではないかと語られたことが印象に残りました。また、猿田先生の著書、講演に接し、伝達される情報がどのような過程を経て届けられているのかを知ることの大切さ、重要性を感じました。今年3月9日に開催された憲法市民講座「広告で憲法が変えられる?」において、著述家の本間龍さんが講演されたメディアによる情報操作の危険性にも通じるものがあると思います。

今回の講演会を通じ、沖縄基地問題、憲法改正のいずれも、国民一人一人がまず関心を持つこと、関心を持った上で理解・知識を深めていくことが大切であり、このような機会を弁護士だけでなく、一般市民の方々にも提供する場として、本講座の持つ意義を改めて感じました。
多数の情報が氾濫する中、実際に現場で活動される方々の生の声を、直接、より多くの方に届けることが、問題の所在と本質への理解、議論を深め、より良い方策の発見、解決への一助となるのではないかと思います。

2020年1月 1日

九州レインボープライド

LGBT委員会委員 会員 西 亜沙美(71期)

1 はじめに

令和元年11月4日、福岡市冷泉公園にて九州レインボープライド2019が開催されました。本稿では、九州レインボープライド2019の概要、イベントで行われたパレードの様子等についてご報告いたします。

2 九州レインボープライドについて

九州レインボープライドとは、LGBTをはじめとするセクシャル・マイノリティ(性的少数者)を筆頭に、世の中の差別や偏見から子どもたちを守り、子どもたちが前向きに、自分らしく生きていく事ができる社会の実現を目指して、開催されているイベントです。イベントでは、毎年多くの協賛企業や団体がブースを出展し、アーティストによるパフォーマンスやトークショー、イベント参加者によるパレードが行われます。5年目となる今年は、12000もの来場者を数え、1200人がパレードに参加しました。

3 企業や団体の取り組み

各出展ブースでは、各企業や団体の活動が紹介され、体験イベントを通して来場者との交流が行われていました。福岡県弁護士会もブースを出し、LGBTに関する無料法律相談会を実施しました。セクシャル・マイノリティの中には、自身の性について周りに打ち明けておらず、誰にも相談ができないという人もいます。そのため、LGBTに関する相談は、一般的な法律相談と比べて悩みを打ち明けるハードルが高く、相談者のプライバシーと性のあり方に配慮が必要です。イベント会場内のブースでの相談ということもあって、どれくらいの数の相談が実際あるのか予想がつきませんでしたが、本相談会では少なくない数の相談が寄せられました。レインボープライドに来場され、それが相談の契機になった人もいたのではないかと思います。本相談が、なかなか悩みを打ち明けられない人の一助になったのであれば幸いです。

4 パレードを歩いて

レインボープライドのイベントの一つとして、参加者によるパレードがあります。参加者は、より社会に知ってほしい、差別偏見なく誰もが生きやすい街になってほしいという思いで、約1時間かけて福岡の街をパレードしました。このパレードに福岡県弁護士会も参加しました。パレードに参加しながら沿道の人々を見ると、パレードに無関心の人もいましたが、中には手を振ってくれた人もいて、様々でした。

5 最後に

九州レインボープライドは毎年参加人数が増え、以前はパレードが通っても無関心だった人が多かったそうですが、今では沿道の人が手を振って応援の言葉をかけてくれます。福岡県弁護士会だけでなく、九州レインボープライドを通じた多くの企業や団体等の地道な取り組みが、差別や偏見をなくしLGBTを始めとするあらゆる少数派が多様性豊かに住みやすい街・福岡ひいては九州を作っていくのだと実感しました。

九州レインボープライド

第19回情報ネットワーク法学会の報告

IT委員会委員 後藤 大輔(63期)

【はじめに】

去る令和元年11月2日・3日に、関西大学千里山キャンパスにて開催された第19回情報ネットワーク法学会に参加してきましたので、報告します。

今年度の情報ネットワーク法学会では、開催地である関西大学の河田惠昭教授による基調講演(「国難災害が起これば破綻する災害関連法」)を皮切りに、2日間の開催期間中に11の分科会と14の個別報告が行われました。メインコンテンツともいうべき分科会ではAIやロボット法、eスポーツといった近年社会の関心の高さが伺える話題や、個人情報保護法制、ヘイトスピーチ、プロバイダ責任制限法やシステム開発紛争など、弁護士業務との高い関連性が伺われる分野に関して最先端の議論が繰り広げられ、大いに知的好奇心を掻き立てられる内容でした。ここでその全てを語りつくすにはとても紙面が足りないため、本稿では個人的に特に関心が深かった部分に絞っての報告とさせていただきます。なお、報告内容の紹介に関しては、専ら私の理解不足を原因とする不正確な標記が存在するかもしれませんが、その点はご容赦頂ければと思います。

【1日目の分科会】

学会1日目は、上でも紹介した河田教授の個別報告の後、第2分科会「eスポーツの法律問題」と第3分科会の「ヘイトスピーチ規制の着地点」を聴講しました。ここではそのうち、第2分科会の「eスポーツの法律問題」について報告をしようと思います。

この分科会では、弁護士以外にも日本のゲーム産業史を研究されている大学教授や、実際にプロチームの監督業を行っている元プロゲーマーの方、プロゲーマー育成事業を行う専門学校の方などを報告者として、それぞれの立場からeスポーツの歴史と現状、今後の問題点などを切り取り、解説を加えるというものでした。

まずは、ゲーム産業史からの観点として、日本がゲーム先進国でありながら昨今のeスポーツの流れに乗り遅れた理由についての考察(日本ではコンシューマーとアーケードが発展した一方、eスポーツはPCゲームから発展していったこと)が紹介され、個人的には膝を打つ内容でした。また、プレイヤー育成の面では、ゲーム技術だけではなく人間力(!)が必要とされること、そのために毎日の挨拶や筋トレ、メンタルトレーニングや英会話(海外大会への参戦を視野に入れて)を取り入れているという報告があり、昔ながらのゲームマニアという印象を持っていた自分にとっては目から鱗の内容でした。

監督業との関連では、チームとプレイヤーとの間の業務委託契約に関して契約期間についての現場感覚(3か月毎更新とすることが多く、これでも長いと言われることもある、等)や、プレイヤーの移籍に関して問題に直面することが多いという話を伺うことが出来ました。プレイヤーは大会出場や実績のためにチームに所属するが、同時にチーム内での役割分担を課せられることにもなり、その両立が難しい(チーム内での負担が自身のスキル向上につながらない場合もある)と短期間でも退団という話になる(あるいは引き抜かれる)という話は、実力重視を地で行く話でもあり、制度整備が追い付いてないなと感じる部分でした。

その他、弁護士サイドからは、プレイヤーに関連する契約(選手契約やスポンサー契約、用具提供契約、コーチ指導契約、ライセンス契約、マネジメント契約等々)についての簡単な説明や、特有の法律問題(誹謗中傷対策や、未成年との契約が多くなることとの関係でのゲームのレーティングの取扱いや依存症対策)、eスポーツにおける「プロ資格」の意味合いと獲得賞金額との問題、移籍制限と独禁法違反との関係について)についての議論状況を知ることができ、大変有意義でした。

【2日目の個別報告及び分科会】

2日目ですが、午前中の個別報告では「訴訟記録閲覧の権利化による閲覧情報拡散の抑止」と「デジタルアイデンティティとデータ保護法制に関する一考察」、並びに「「信託としてのプライバシー論」の理論的前提-新たなプライバシー権論に向けた理論構築」を選択し、午後からは第6分科会「セキュリティ要件におけるベンダ・ユーザーの責任分界点~ハッキング事故の分析を通じて~」と第9分科会「プロバイダ責任制限法研究会:デジタルプラットフォームとプロバイダ関連法」、第11分科会「利用規約とプライバシーポリシー~企業の立場から関連施策を考える~」を聴講しました。

個別報告はいずれも興味深い内容だったのですが、ここでは特に信託としてのプライバシー論について少し紹介をします。話の骨子としては、例えばインターネット上のサービスに関して「第三者提供への同意を求める利用規約・プライバシーポリシーの存在」→「利用者はそれらの規約類を読まないが、同意しないとサービスを使えないので規約への同意はする」→「情報管理者が、受けた同意に基づき個人情報を第三者提供する」→「第三者提供に伴い漏えい等の問題が生じる」といったケースで、漏えいさせた第三者に責任追及できないかという問題点に対し、同意の有無(自己情報コントロール権)の問題ではなく信託類似の理論(信認義務)で解決しようと試みるものであり、まさに実務と理論の架橋というべき流れだなと感じたところでした。

午後からの分科会については、第9分科会の内容を簡単に紹介します。この分科会では、まず名誉権侵害に基づく削除請求に関して、近時話題になった最判H29.1.31以降の裁判例の流れが紹介され、次にログイン型投稿(twitterやinstagram)における開示請求の状況に関する流れが紹介されました。余談とはなりますが、その議論の流れで、海外プラットフォーマーに対するディスカバリー制度活用の話が聞けたのは、収穫だったと考えています。その他にも、SNS上のいわゆる企業アカウントの運営に関する大阪高判H31.3.27の紹介や死者の情報・契約上の地位の承継についての話を聞くことができ、まさに最先端の議論が展開されていました。個人的には、最判H29.1.31以降の最高裁の判断枠組みの中でいわゆる「明らか」要件の検討を行うにあたり、プラットフォーマーの性質(情報流通の基盤といえる存在か否かで)次第で要件該当性判断を変えるというのは、ギリギリ理解できなくもないですが、実際の事案で問題となっているプラットフォーマーをどう捉えるかというあてはめの段階における裁判所の判断には甚だ疑問を感じているところです。

【おわりに】

学会で得ることのできた情報は、日頃の業務に従事するだけでは到底キャッチアップできない情報ですし、他方で個人的にも興味を持っている分野に関する最先端の情報でした。そして今回、私が学会に参加する機会を得たのも、所属委員会であるIT委員会の委員の方々からの勧めがあったことによる部分が大きかったと考えております。本稿の内容に多少でも興味を持たれた会員の方は、ぜひともIT委員会への委嘱を希望してみてはいかがでしょうか。

高齢者・障害者総合支援センター「あいゆう」研修報告

会員 郷司 佳寛(71期)

1 はじめに

去る令和元年11月20日(水)午後1時から、福岡県弁護士会館2階大ホールにおいて、令和元年度「あいゆう」研修が開催されました。

近年、福岡県内でも豪雨災害などの大規模災害が多発し、災害時における高齢者・障害者の方などの要支援者に対する支援が喫緊の課題となっております。そこで、今年度の本研修は、「避難行動要支援者に対する支援」をテーマに、「避難行動要支援者名簿」の制度の紹介や活用事例の報告などが実施されました。

2 避難行動要支援者名簿制度について(第1部)

第1部では、福岡市市民局防災・危機管理課の小田素久さんを講師にお迎えし、「避難行動要支援者名簿制度について」と題し、同制度の紹介をしていただきました。

まず、避難行動要支援者名簿は、災害対策基本法により、市町村長に作成義務があるもので(同法49条の10第1項)、この名簿には要支援者の氏名、生年月日、性別、住所又は居所、電話番号その他の連絡先、避難支援等を必要とする事由などが記載されます(同条2項)。この名簿に記載される避難行動要支援者は、福岡市地域防災計画によると、(1)移動することが困難な者、(2)日常生活上、介助が必要な者、(3)情報を入手したり、発信したりすることが困難な者、(4)精神的に著しく不安定な状態をきたす者、とされています。

作成された名簿は、避難行動要支援者本人の同意を得て、避難支援等関係者(校区・地区自治協議会等、校区・地区社会福祉協議会、民生委員、児童委員)に提供され、電話等での安否確認や避難所までの避難支援の際にの活用されることになります。福岡市で同意が得られているのは、名簿登録者(36、000人)の約4割に過ぎず、同意文書へ返信をしていない方が約5割、提供を拒否された方が約1割いるとのことでした。

第1部:福岡市役所小田様による制度紹介
3 避難行動要支援者名簿の活用について(第2部)
(1) 事例紹介(1)

第2部の事例紹介(1)では、福岡市西区金武校区より、同校区自治協議会の藤内寛幸さん、同校区自主防災会の倉光利博さん、同校区社会福祉協議会井長京子さん、西区金武公民館の西知加子さんより、金武校区の名簿の活用事例の紹介をしていただきました。

金武校区は、平成29年10月16日に校区防災会議予備会議を開催し、避難行動要支援者名簿の活用を検討する機会を西区内でいち早く設けたそうです。具体的には、各種団体の連携の機会を設けることや、避難行動要支援者を見守るためのマップを作成し、町内の状況が目で見て分かり、情報の共有がしやすい環境の整備を実施しているとのことでした。

その後、平成30年7月5日から6日にかけての豪雨災害では、初めて避難所の運営や要支援者の避難誘導を経験したそうです。このときは、自主防災会を組織したものの、災害時には各種団体との連携が上手くいかないことや、避難行動要支援者の把握はできていたものの声掛けのタイミングに苦慮し、避難しないといった住民の方もいたこと、などの課題が見つかったとのことでした。そのため、「金武校区よかネット」を立ち上げ、校区内の介護事業所等と地域とが連携し災害時の情報共有や対応などを協議する機会を設けたそうです。また、名簿の活用についても、金武方式として、各町内会・自治会別に連絡網を作成し、名簿に登載されていないが支援が必要と思われる世帯も色を分けて記載するなどの工夫をされているとのことでした。

第2部:事例紹介1の様子
(2) 事例紹介(2)

第2部の事例紹介(2)では、福岡市社会福祉協議会・地域福祉課の小山浩俊さんを講師に迎え、福岡市社会福祉協議会での取組みについて紹介していただきました。

社会福祉協議会はふれあいネットワーク(見守り活動)やふれあいサロン(閉じこもり予防、孤立予防)といった様々な地域の活動の支援をされており、社会福祉協議会での名簿の活用支援の代表例についても紹介していただきました。

まず、地域の関係団体が集まって座談会やワークショップを開催し、地域の現状や課題を地域で共有することから始めるとのことです。そして、地域で情報収集をして見守りが必要と判断した名簿と、行政が把握した名簿では齟齬が生じていることがあるため、これらの情報を突合し、より詳しい地域の情報を集め、情報共有を図るとのことでした。その後は、把握した情報をもとに、要支援者の居所を地図上に印をつけ、「誰が」「誰を」支援するのか具体的に決めて、支援者と要支援者とを地図上に矢印を付けることで、地図を用いて一目で支援体制を把握することができるとのことでした。その後は、この体制がどれほど機能するのかを検証するため、災害時を想定した安否確認訓練を繰り返し、臨機応変に対応ができるように準備をしている校区が多いとのことです。

第2部:事例紹介2の様子
4 パネルディスカッション(第3部)

第3部では、第1部と第2部の講師の方々のほか、岡直幸会員が加わり、「避難行動要支援者等の支援のあり方と問題点について」と題して、パネルディスカッションをしていただきました。

岡会員から、骨折をした場合や足を切断した場合には、災害時に支援していただけるのかという疑問が投げかけられました。避難行動要支援者名簿は、福岡市の場合には身体障害者手帳を持っているなどの要件を設けているため、名簿に載ることはなく公助は期待できないとのことでした。また、足を切断した場合には、名簿への登録は可能ですが、年に1回しか更新されず、6月に名簿が避難支援等関係者の手元に渡るため、支援を受ける側も地域の行事などに参加するなどして、普段から地域と方々と顔の見える関係づくりをすることが大事であるとのことでした。

また、地域の活動では、名簿に載っていないが、支援が必要と思われる方の個人情報について、扱いが難しいという悩みがあるとのことでした。地域ごとの取り組みとして、個人情報の手引きを作成し情報を共有する範囲を事前に決めているて校区や、事前に校区版の同意書を作成し一人一人同意を取っていく校区もあるとのことでした。また、ボランティアなどの協力者の高齢化の問題もあり、支援の担い手を探すことも課題であるが、どういった支援ができるか具体的に決めて参加を集えば、それくらいならできると考えて手を挙げてくれる方もいるとのことで、校区ごとの工夫も紹介されました。

第3部:パネルディスカッションの様子
5 おわりに

私は、今回の研修を受け、避難行動要支援者名簿という制度があることや、地域の各種団体等が避難行動要支援者として様々な準備をしていただいていることを知ることができ、非常に勉強になりました。講師をしていただきました方々には、改めてお礼申し上げます。

2019年12月 1日

あさかぜ基金だより~豊前ひまわり基金法律事務所定着式・披露会に出席して~

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 田中 秀憲(69期)

平成28年9月まであさかぜで勤務していた西村幸太郎弁護士が、福岡県豊前市における豊前ひまわり基金法律事務所での3年の赴任期間を経て、事務所名を豊前総合法律事務所に改め同地域に定着することとなりました。その定着式・披露会を紹介します。

豊前地域について

福岡県豊前市は人口が2万5000人(令和元年9月現在)で福岡県の東南端に位置します。周囲には築上町、上毛町、吉富町があり、豊前市とともに豊前地域を形成し、同地域の人口は6万人です。

豊前地域には西村弁護士が豊前ひまわり基金法律事務所を開設するまで40年以上も弁護士が常駐する法律事務所はありませんでした。リーガルサービスを受けられる場所として豊前法律相談センターがありますが、相談できる日時は火、木、金曜の午後2時から午後4時30分までと限られていたため、困りごとがあったときにすぐに弁護士に相談することはできませんでした。

そこで弁護士過疎を解消すべく、平成28年10月に西村弁護士が豊前ひまわり基金法律事務所を開設し、豊前地域のリーガルサービスを担うことになったのです。

定着式

定着式には、豊前市長をはじめとして、築上町、上毛町、吉富町の各町長や市議会議長、商工会議所の関係者、ロータリークラブの関係者など、豊前地域の関係者が出席されていました。豊前市長の挨拶のなかでは、西村弁護士が市民から数多くの法律相談を受けているのみならず豊前市からも法律相談を受けており、これからも豊前地域に法の支配をいきわたらせるには西村弁護士が必要だという力強い励ましがありました。豊前市長は西村弁護士が依頼者に寄り添うリーガルサービスを提供しているエピソードとして、西村弁護士が交通事故の案件で依頼者にわかりやすく説明するために骨格標本を利用しているとの話をしていました。豊前市長は西村弁護士がいつも笑顔で頼りになり、親しみを持てる身近な弁護士であり、西村弁護士のおかげで豊前地域の住民が平穏に暮らせていると話していました。

また、当会の山口雅司会長や原田直子日弁連副会長、宮國英男九弁連理事長も出席し、西村弁護士の3年の赴任期間をねぎらい、あわせて激励の言葉が贈られました。山口雅司会長からは西村弁護士が国選弁護活動などの公益活動はもちろんのこと、商工会議所での講演活動やブログを使っての啓発活動などを行っているとの話があり、西村弁護士が豊前地域で幅広い活動によりリーガルサービスを提供していることが紹介されました。

披露会

披露会では、西村弁護士が挨拶し、とても不安な気持ちで赴任したが、市民のもとに出かけたときには断られることもなく、市民からは何かあれば相談したいと言ってもらい、市民に支えられ、また地域に活かされ定着に至ることできたと笑顔いっぱいの話でした。また、豊前地域での受任件数が毎年増加していて、事件の件数が多いのは、それだけ市民の困りごとがみ過ごされていたためではないかと思う、そのような地域でひまわり基金法律事務所として活動する意義は大きいと話していました。そして、挨拶の最後に西村弁護士はこれからの抱負として、これまでの豊前地域における活動であまねくリーガルサービスの提供の礎になれた、今後もこの地で活動を続けていきたいと話していました。

披露会では、西村弁護士のこれまでのご苦労に対して宮國英男九弁連理事長より感謝状が贈呈されました。

地域の人々とともに

定着式に出席して、西村弁護士が市民のみならず、行政からも厚い信頼を寄せられていることを実感しました。西村弁護士は豊前ひまわり基金法律事務所の初代所長として同事務所を開設し、ゼロから豊前地域の方々と人間関係を築いていきました。そのような苦労を経て今ではたくさんの地元の人々から大きな信頼を得ているのは、豊前地域の人々が西村弁護士を暖かく迎え入れてくれたことはもちろんですが、西村弁護士自身の努力や人柄によるものも大きいと思いました。また、西村弁護士が今後も豊前地域において法の支配を行き届かせることに弁護士会からも大きな期待が寄せられていることもあわせて感じたところです。

私はこの度の定着式・披露会に出席してひまわり基金法律事務所の存在意義を再確認することができました。西村弁護士の話を聞いて弁護士過疎地には法による助力を求めている人たちがたくさんいることを認識し、弁護士過疎地で誰もが平等に法の助力を受けられる社会を実現するために依然としてひまわり基金法律事務所が果たす役割は大きいように思います。

弁護士過疎地へ赴任すれば、その地でのリーガルサービスの多くを赴任した弁護士が担うことになります。そのため赴任する弁護士の責任は重大です。近い将来の私の赴任先の地域の人々が適正なリーガルサービスを受けられるよう、残りの養成期間、しっかりと研鑽を積み、西村弁護士のような赴任先の地域の人々に信頼される弁護士を目指してがんばります。

あさかぜ基金だより~豊前ひまわり基金法律事務所定着式・披露会に出席して~
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