福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2019年11月号 月報

福岡国税不服審判官による研修のご報告

月報記事

会員 牟田 遼介(68期)

1 はじめに

令和元年9月18日、福岡県弁護士会館にて福岡国税不服審判官による研修会が行われました。当研修では、福岡国税不服審判所から現役の国税審判官をお招きし、不服申立制度の概要や実務に役立つ事例紹介等について御講義頂いています。当研修は、ここ数年、毎年1回開催されており、痒い所に手が届く研修として好評を博しています。

2 研修の概要

研修前半は、福岡国税不服審判所の金沢孝志所長より、まず国税に係る不服申立制度について御講義頂きました。国税不服審判所の事務運営の特色として、争点主義的運営であること(昭45.3.24 参議院大蔵委員会附帯決議)、国税庁長官通達に拘束されないこと(国税通則法99条)、基本は書面審理であること、原則1年以内に事件が終結するように処理していること(同法77条の2)など説明頂きました。また、審査請求書を提出する場合、必要事項の記載漏れがあると、補正の対象となるため、提出前に「審査請求書作成・提出時のセルフチェックシート」(国税不服審判所HPから入手可能)等を活用して、必要事項の記載漏れの有無につき、しっかりと見直して頂きたいとのことでした。

次に、最近の裁決事例の紹介として、"通帳の提示もれと仮想隠ぺい行為"が問題となった事案(平成29年8月23日裁決)につき、当事者の主張を踏まえて解説頂きました。当該事案の結論は、当初から所得を過少に申告する意図を有していたと認めることはできないとされました。紙面の都合上、事案の詳細な解説は割愛致しますので、ご興味がある方は、国税不服審判所HPの裁決事例集からご覧下さい。

研修後半では、福岡国税不服審判所の佐久間玄任国税審判官より、「実務に役立つ税務事例(裁決例等の紹介)」として、次の2つの事例を基に御講義頂きました。

事例①は弁護士が弁護士会等の役員としての活動に伴い支出した懇親会費等が、その事業所得の計算上必要経費に算入することができるかが問題となった事例(東京高裁平成24年9月19日判決)です。事例(1)では、(ア)弁護士会等の役員等として出席した懇親会等の費用のうち、弁護士会等の公式行事後に催される懇親会、業務に関係する他の団体との協議会後の懇親会、会務の執行に必要な事務処理をすることを目的とする委員会を構成する委員に参加を呼び掛けて催される懇親会等は必要経費に該当する(但し、二次会の費用は除く)としました。しかしながら、(イ)弁護士会会長又は日弁連副会長に立候補した際の活動等に要した費用、(ウ)日弁連事務次長の親族の逝去に伴う香典、弁護士会の事務員会の活動費に対する寄付金等については、必要経費に該当しない旨判示しました。

事例(2)は司法書士が支出したロータリークラブの会費等が、その事業所得の計算上必要経費に算入することができるかが問題なった事例(平成26年3月6日裁決)です。事例(2)では、司法書士が支出したロータリークラブ等の会費について、「クラブの会員として行った活動を社会通念に照らして客観的にみれば、その活動は、登記又は供託に関する手続について代理することなど司法書士法第3条«業務»第1項各号に規定する業務と直接関係するものということはできず、また、その活動が司法書士としての業務の遂行上必要なものということはできない」として、必要経費への算入はできない旨判示しました。

事例(1)、(2)ともに、紙面の都合上、要旨のみしか記載できませんでしたので、事案の詳細について知りたい方は、判決文等をご覧ください。

なお、現在、国税不服審判所では、国税不服審判官の特定任期付職員の採用を行っています。審判官の仕事に興味・関心がある方は、是非ご応募ください。

3 終わりに

税務分野は、専門性が高く、敬遠しがちですが、知っておくと実務で大変役立つことが多いと痛感しました。税務分野に苦手意識を持つことなく、これから見識を深めて行きたいと思った次第です。

最後になりましたが、今回講師を務めて頂きました福岡国税不服審判所の金沢孝志所長、佐久間玄任国税審判官に深く御礼申し上げるとともに、簡単ではありますが、ご報告させて頂きます。

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