福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2018年10月号 月報

第1回 新科目<公共>授業セミナー ~新しい授業のあり方を考える~

月報記事

法教育委員会 委員 見越 あけみ(69期)

1 はじめに

平成30年8月10日(金)福岡ビル9階 大ホールにおいて開催されました「第1回 新科目<公共>授業セミナー ~新しい授業のあり方を考える~」について、ご報告致します。

本セミナーは、教育関係者(高等学校・小中学校の教員や教育委員会)、教科書出版社など教科書作成に携わる方々、弁護士を対象として、2022年度より高校の必修科目として導入される「公共」(現行科目「現代社会」は廃止となります。)について、授業のあり方や教科書(教材)の内容について考えることを目的として開催されました。

2 セミナーの内容

セミナーは、(1)基調講演2本、(2)「公共」の授業内容・教科書に関する報告、(3)弁護士が目指すモデル授業案の提示、(4)パネルディスカッションという盛りだくさんの内容でした。

まず、(1)基調講演(その1)として、橋本康弘先生(福井大学教授)より、「『公共』の基本的な考え方と授業づくり」というテーマでご講演いただきました。新科目「公共」のキーワードは「見方・考え方」、授業づくりのポイントは「見方・考え方」をしっかり使うことにある(=主題を設定し、「見方・考え方」を使いながら、その主題の解決のあり方を構想する。)とのことでした。「公共」では、決論に至る手続の公正、機会の公正、結果の公正という視点に加え、「世代間公正」「地域間公正」という視点からも結論の妥当性判断が求められるようです。

基調講演(その2)では、吉村功太郎先生(宮崎大学大学院教授)が、「シティズンシップ教育から新科目『公共』に期待するもの~社会の担い手である市民としての資質・能力の育成~」というテーマでご講演されました。英国のシティズンシップ教育論に触れた上で、問題を多面的・多角的に捉え、自らの選択・判断基準を反省的に磨いていくことのできる授業が求められる旨お話しされました。

次に、(2)「公共」の授業内容・教科書に関し、日弁連 市民のための法教育委員会 委員長の野坂佳生先生(福井弁護士会)よりご報告がありました。公(おおやけ)と私(わたくし)の概念、事実と論拠に基づいて主張を組み立てることなど、「見方・考え方」に関する分析的な視点が示されました。

続いて、(3)当会の法教育委員会 委員長の甲木真哉先生より、弁護士会が目指すモデル授業案のご提案がありました。法教育委員会が行っている「出前授業」と「公共」が目指す思考訓練には通ずるものがあるという観点から、「公共」の授業運営のヒントとして、出前授業の教材や授業進行案が提示されました。

そして、本セミナーのメイン企画、(4)パネルディスカッションです。当会会員で九弁連の法教育に関する連絡協議会委員長を務める春田久美子先生をコーディネーターとして、基調講演をしてくださった橋本先生、吉村先生に加え、福岡県折尾高校社会科教諭の中野孝太先生、当会法教育委員会副委員長の柏熊志薫先生の4名のパネリストが、それぞれのお立場から意見を述べ、議論されました。「論理的思考力」という世界ベースで求められる能力を、教育課程の中でいかに生徒に習得させるか、教員の指導力に依拠する面もあり、期待と不安が混在する現場の状況が窺えました。

「公共」は、単に知識の習得を目的とするのではなく、多角的・論理的な思考力の習得を目指す科目であるという特性から、質疑応答の場面では、評価方法に関する質問も多く出されました。評価するためには思考過程の見える化が必要なこと、その際には言語力も求められること、だとすれば国語で使用される評価基準も参照に値するのではないか・・・などなど、活発に意見交換が行われました。

3 最後に(感想)

今回、「現社(現代社会)」が「公共」に変わる!?、「公共」とは何ぞや・・・という興味から本セミナーに参加させていただきました。

高校の授業で論理的思考力が重視されることは歓迎すべきことと思いますが、授業内容や評価方法、試験対策など未知数の部分が多くあり、教育関係者も不安を抱えているように感じました。

「公共」と法教育委員会が行う出前授業とは精通する部分も大いにあるように思いますので、教育関係者と弁護士とが密に協力・連携することで、「公共」も出前授業も質の向上につながればよいなと感じました。私もその一助となれるよう尽力出来ればと思います。

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