福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2018年2月号 月報

あさかぜ基金だより

月報記事

会員 小林 洋介(70期)

自己紹介

このたび、あさかぜ基金法律事務所へ入所しました、所員弁護士の小林洋介です。私は、長崎県佐世保市で生まれ、高校までを過ごしました。長崎は、大小様々な島があるとともに、大村湾で東西が分断される地理的特徴があり、加えて、北は平戸、南は島原半島が突き出る形となっていて、県内各所の交通アクセスが非常に不便な県でもあります。

長崎県には、長崎市と佐世保市が中核市としてありますが、私が住んでいた当時、佐世保には中心市街地にわずかに弁護士がいるというくらいで、身近な存在ではありませんでした。

私は母子家庭で育ちました。母子3人で古アパートに住んでいましたが、ある日、退去要請通知が送られてきました。アパートを壊すから出て行ってくれというものでしたが、母の収入だけで家計を支える家庭にとって、新しく住む場所を探し、引っ越しをするということは、経済的にも時間的にも容易なことではありません。しかし、無知とは酷なもので、私たち一家が正当事由や立退料など知るはずがありません。むしろ、貸主から出て行けといわれれば出て行かなければならないのが当然という認識です。母は、仕事をしながら家を探したり引っ越し準備をしたり、時間的にも経済的にも大変だったと思います。そのため、とうとう体調を崩してしまいました。

法律家へのアクセスが容易でない地域では、法の支配は後退し、人治による紛争解決が横行します。ひとたび紛争が生じると、当事者の社会的力関係がそのまま反映されてしまい、力のあるものが有利な立場に立ち、弱いものが不利な立場に立たされるという、まさに、強いものが勝つ世界です。

私はこのような経験から、弁護士が身近にいることの重要性を身をもって感じるようになりました。弁護士の存在を必要とする地域がまだまだあり、弁護士が近くにいるだけで救われる人々が必ずいる。そういう人々のために仕事をしたいとの思いから、司法過疎地域への赴任を考えるようになりました。就職活動も、法テラスと公設事務所に絞り、最終的には自分が生まれ育った九州の地で貢献していきたいとの思いから、あさかぜ基金法律事務所への入所を決めました。将来の赴任先はまだ分かりませんが、故郷である長崎に貢献できる日が来ればありがたいなという思いを抱きつつ、あさかぜで弁護士としての第一歩を歩み始めたところです。

あさかぜ基金法律事務所の紹介

あさかぜ基金法律事務所は、司法過疎地域へ派遣する弁護士を養成するために設立された都市型公設事務所です。所員弁護士は、2、3年の養成期間を経たあと、九弁連管内の司法過疎地域に赴任することになります。2017年1月には、中田弁護士が壱岐ひまわり基金法律事務所へ、河野弁護士が島原中央ひまわり基金法律事務所へ赴任したのに加え、2018年春からは若林弁護士が対馬へ赴任することが決まっています。当事務所は2008年の設立以来、九州各地の司法過疎地域へ弁護士を派遣していますが、派遣弁護士の定着により公設事務所としての役目を終える事務所も増えてきているなど、司法過疎の解消に着実に成果をあげています。

当事務所では、債務整理、家事事件、国選弁護事件を多く扱っています。また、法テラスの利用が多いのも当事務所の特徴といえます。生活保護受給者については、法テラスの立替金が免除になる場合もあり、そのことを説明するとほっとした表情を浮かべて依頼者の方は帰って行かれます。このような依頼者の姿を見るにつけ、法律扶助制度の果たす役割の重要さを感じます。

入所後の抱負

弁護士数が少ない過疎地域では、都市部と異なり数ある中から弁護士を選ぶことができません。地域の人々の法的権利が守られるかどうかは、赴任した弁護士の力量にかかっているところも大きいと思います。養成期間を過ごすにあたっては、このことを肝に銘じ、真摯に誠実にひとつひとつの事件にあたるとともに、日々研鑽を積んでいきたいと考えています。

また、あさかぜ基金法律事務所は、九弁連や福岡県弁護士会会員の支援をはじめ、あさかぜ出身弁護士のこれまでの尽力により支えられている事務所です。これまで受け継がれてきたバトンをしっかりと受け取り、引き継いでいけるよう努めていきますので、引き続きのご指導ご鞭撻をよろしくお願いします。

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