福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2018年1月号 月報

「修習給付金の創設に感謝し、「谷間世代」1万人の置き去りについて考える福岡集会」のご報告

月報記事

司法修習費用給費制復活緊急対策本部委員 市原 史雄(69期)

1 はじめに

平成29年11月19日(日曜日)の午後2時から午後5時30分頃まで、福岡市内のエルガーラホール7階多目的ホールにて、当会主催、日弁連・九弁連・ビギナーズ・ネットの共催で「修習給付金の創設に感謝し、『谷間世代』1万人の置き去りについて考える福岡集会」が開催されました。

2 いま集会を行う意味

本集会は、同年4月、修習給付金制度が創設されて以降、福岡では初めて行われた市民集会です。同制度創設にご協力してくださった国会議員や市民の方々等関係者への感謝を述べつつ、何らの手当てもされなかった修習新65~70期の貸与世代(いわゆる「谷間世代」)に対する救済を求める活動のキックオフ集会という意味合いがあります。

3 プログラム

本集会のプログラムは、(1)修習給付金の内容と制度創設に至るまでの経緯紹介、(2)71期修習予定者による感謝の言葉、(3)国会議員ご挨拶、(4)若手弁護士の活動報告、(5)市民の方からの応援メッセージ、(6)パネルディスカッションという内容でした。

71期修習予定者として登壇した3名の方からは、「思いがけず給付金をもらえることなりうれしい」といった素直な感想や、制度創設に向けて活動した関係者らへの感謝の意が述べられるとともに、谷間世代となった先輩や友人らが、自分達と全く同じ内容の修習に従事したにもかかわらず71期以降の修習生と大きな金銭的格差が生じていることが不合理・不平等であるという思いも語られました。

当会の若手弁護士として、中小企業・小規模事業者支援活動に携わる松村達紀会員(65期)、今年の九州北部豪雨被災者支援活動に当たっている金谷比呂史会員(68期)から、それぞれ活動報告がなされました。いずれの活動も市民にとって大きな助けとなっていること、弁護士が公益的存在であること、「谷間世代」が公益活動の第一線で活躍していることが紹介されました。

市民の方からの応援ということで、東日本大震災で被災され、現在は福岡県に避難されている方にも登壇していただきました。原発避難者訴訟の原告となっている方で、自分たちが支えてもらっているような公益的な活動を若手弁護士に心置きなくやっていただきたい、これからの世代を担う若い弁護士の希望の芽を摘むようなことを国にはしてほしくはない、谷間世代の不公平感、心のもやもや、割り切れない思いを抱えたまま、若い弁護士の活動が阻害されるようなことがあってはいけないと、優秀な人材を集めるためにも谷間世代を救済することの必要を市民の目線から訴えかけられました。

パネルディスカッションでは、日弁連司法修習費用給費制存続緊急対策本部本部長代行の新里浩二弁護士(仙台弁護士会)、日本退職者連合事務局長で2010年来、司法修習生に対する給与の支給継続を求める市民連絡会事務局長としても給費制復活の向けた運動を支援してこられた菅井義夫氏(東京)、ビギナーズ・ネットの共同学生代表池田慎介氏(札幌)、「谷間世代」当事者の清田美喜会員(当会、66期)をパネリストに迎え、髙木士郎会員(当会対策本部事務局長)の司会で、それぞれの立場から、給費制の事実上の復活に向けた運動を振り返るとともに、残る課題としての給付金制度の問題点、谷間世代救済の必要性などが語られました。給付金制度創設に向けた活動を振り返り、一定の成果が得られたことへの評価はなされているものの、谷間世代の声としては、「谷間世代は切り離されたと思った」、「同じ修習を受けたのに自分たちだけ何らの手当てもないのは不平等・不合理だと思った」という率直な意見があることが紹介されました。また谷間世代については、毎年の貸与金返済が足枷となって採算の合わない事件に全力を傾注しづらくなるのでは、弁護団事件のように着手金や報酬が期待できない手弁当での活動に積極的に参加するのを躊躇してしまう傾向が出ないかなど、これまでの弁護士像と乖離をして行く恐れがあるという深刻な問題点が指摘されました。

このような谷間世代の抱く不公平感を解消するためにどのような活動を今後行っていくかという点について、一度できた貸与制という制度を改め給付金制度の創設を成し遂げることができたのは、当事者の声を集約し、それを国会議員をはじめ多くの人たちに届けるという活動を地道に続けてきたからであり、谷間世代の救済についても、谷間世代の声を多くの人たちに届けるとともに、法曹の役割の重要性と国が法曹を養成することの意義について多くの方々から広く理解を得られるよう、活動をもう一度、自信を持って行っていくということが再確認されました。

4 国会議員ご挨拶

本集会には、原田義昭議員(自民党・衆議院)、鬼木誠議員(自民党・衆議院)、河野義博議員(公明党・参議院)、田村貴昭議員(共産党・衆議院)に出席していただきました(いずれも福岡県選出議員)。また、出席いただけなかった議員についても、多くの秘書の方に代理出席していただくとともに応援メッセージも10通以上寄せていただくなど、国政における給費制問題への関心の高さがうかがわれました。

原田議員からは、谷間世代の救済に向けては、強固な理論的根拠が必要だということ、不公平でかわいそうだからという感情論も一つの材料にはなるが、それだけでは不十分であるということが説明されつつも、給費制の復活という稀有なことを成し遂げたのだから、谷間世代の問題についても、国家社会のために立派な法曹を育てるのが国の仕事だという観点から、皆さんとともに頑張っていくと、強い励ましの言葉を頂きました。鬼木議員からは、九大法学部時代の友人らが精神的にも経済的にも苦労して修習を乗り越えた話を聞いたため修習に専念させるためにも修習生の経済的不安は取り除かなければならないと思う、与党の政治家として軽々しくは約束できないが、何とかしてまずは世論を動かしてほしい、一緒に頑張るとの言葉を頂きました。河野議員からは、給費制に関する国会での活動、とりわけ、ビギナーズ・ネットの「青Tシャツ」の広がりや各弁護士会による議員要請活動を目の当たりにし、熱意に動かされたこと、党内の議論としては、まずは給費制の復活が第一歩だとなったが、引き続き、谷間世代の問題に取り組むことが述べられました。田村議員からは、修習専念義務を果たさせるという修習費用の趣旨からして、月額17万円(住宅補助3.5万円を含め)という給付金では生活が成り立たないこと、谷間世代の救済は超党派で取り組むべきであることなどのご発言がありました。

各議員が現状の問題点を指摘していましたが、共通して語られたのは、給付金制度創設で終わりではなく、何としても谷間世代を救済する必要があるということでした。立法に直接携わる国会議員の方々が、与野党を問わず、この問題点を認識・共有し、その解決に向けて前向きに取り組んで頂く姿勢であることを確認できたことで、谷間世代の救済を目指す当本部としては非常に勇気付けられる思いでした。また、弁護士会によるこれまで幾多の議員要請活動をはじめ国会議員との交流についても十分に浸透していることが実感でき、これら活動の方向性が正しかったことを再認識しました。

5 おわりに

当日は90人収容の会場がほぼ満席になり、非常に盛況となりました。北は札幌・仙台から、南は宮崎・熊本まで全国各地からも弁護士や市民の方々が駆けつけてくださいました。また、貴重な日曜日にもかかわらず足を運んでくださった当会会員のみな様方にも本紙面を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

キックオフ集会としては大成功となった本集会ですが、来年7月には新65期の貸与金弁済が始まってしまいます。ひとたび弁済が始まってしまえば、谷間世代救済はいよいよ困難になりかねません。このように時間の無い中で、早急に活動を広めていかなければなりません。

集会の後は、天神にて懇親会が行われました。全国各地から参加の弁護士や、本集会に引き続き作間功会長にもご参加いただき、交流と連帯を深める、楽しく充実した時間となりました。

どうぞ、会員の皆さまのなお一層のご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。

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