福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2016年6月号 月報

特集/障害のある人もない人も共に生きる社会への第一歩! ~障害者差別解消法が施行されました~

月報記事

会員 國府 朋江(65期)

はじめに

2016年4月1日、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下では単に「差別解消法」といいます。)が施行されました。差別解消法は、障害者を差別しないという、当たり前のことを内容としたものですが、行政機関等のみならず、事業者に対する義務も定めており、適用される範囲が広い上、どのようなことが差別となり、禁止されるのかは同法には定義されていません。

このたび、月報の紙面をいただきましたので、差別解消法の内容について簡単に説明した上で、会員の皆様が具体的な相談を受けるに際し、どのような資料を参照すればよいのかについて触れたいと思います。また、福岡県弁護士会高齢者障害者委員会における、差別解消法に関する取り組みについてもご紹介させていただきます。

なお、本年4月1日から、障害者雇用促進法も改正されましたが、紙面の関係上、差別解消法との適用関係についての説明に留め、内容の説明は割愛させていただきます。

Ⅰ 差別解消法
1 差別解消法制定の経緯

日本は2007年9月に障害者権利条約に署名し、2014年1月、同条約を批准しました。

障害者権利条約は障害者に対する差別の禁止や尊厳と権利保障を義務付けています。日本では、障害者の権利保障のための国内法が整備されていなかったため、障害者権利条約の批准だけが先行してしまうことに危機感を持った障害者団体の声により、国内法整備の後に条約が批准されることとなりました。そのため、署名から批准までの間に時間のずれがあるのです。

これまでは、障害を個人の問題とし、機能の障害を福祉で補い、いかに健常者社会に障害者を溶け込ませるかという視点が中心でしたが(障害の医学モデルの考え方)、健常者を中心として作られた社会が、少数者である機能障害のある人々にとっての社会的な障壁を生み出しているのであり、社会の側が積極的に障壁をなくさなければならないという視点(障害の社会モデルの考え方)にシフトチェンジするための法整備が進められました。障害者基本法改正(2011年)、差別解消法の制定(2013年)、障害者雇用促進法の改正(同年)などです。

社会モデルの考え方とは、例えば、駅に階段しかなく、車椅子ユーザーが電車に乗ることができない場合に、駅に階段しか設置していないことによって、移動が妨げられるという生きづらさが発生しているという考え方です。これに対し、医学モデルの考え方からは、同じ状況について、足が動かなかったり、内部障害で車椅子を使用しなければならないという機能障害自体から移動が妨げられていると考えます。

差別解消法や改正障害者雇用促進法は、障害を理由とする差別をしてはいけないということだけでなく、合理的配慮を提供しなければならない点を規定しました。この合理的配慮という概念が法律で定められたという点が重要です。

2 法律の概要(内閣府作成の法律概要参照)

差別解消法は、行政機関等に対し、不当な差別的取扱いを禁止し、合理的配慮の提供を義務付けています(7条)。事業者に対しては、不当な差別的取扱いを禁止していますが、合理的配慮の提供を努力義務と定めています(8条)。

具体的にどのようなことをすべきか、すべきでないかということは、差別解消法には規定されていません。

では、どこに記載されているかというと、法に策定することが義務付けられている、政府全体の方針を示す基本方針(6条)、基本方針に即して作成される国・地方公共団体等の機関における取組に関する対応要領(9条、10条。地方公共団体は努力義務)、主務大臣が事業分野毎に定める事業者向けの対応指針(11条)に具体的な対応が書かれています。

全ての生活分野が対象となりますが、雇用の場面における差別や合理的配慮の提供については障害者雇用促進法が適用され、差別解消法は適用除外されます(13条)。

対応要領は行政職員の服務規律となり、懲戒処分の対象となることに注意が必要です。

実効性の確保のため、法に反する状態が続く事業者に対しては、特に必要な場合に主務大臣による事業者に対する報告の徴収、助言、指導、勧告ができることとされています(12条)。

第4章では、差別を解消するための支援措置として(1)相談及び紛争の防止等のための体制の整備(14条)(2)啓発活動(15条)(3)情報の収集、整理及び提供(16条)(4)障害者差別解消支援地域協議会(17条~20条)が定められています。

3 「障害者」(2条1号)

差別解消法は、障害者を「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義し、障害の社会モデルの考え方を採用することを明らかにしています。

したがって、対象となる障害者とは、障害者手帳の交付の有無を問いません。

4 行政機関等(2条3号~6号)

国の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人をいいます。ただし、地方独立行政法人の行う業務の中で、主に事業の経費を当該事業の経営に伴う収入をもって充てる事業で、軌道、自動車運送、鉄道などの事業や病院事業などは除外されています(2条6号)。

5 事業者(2条7号)

「商業その他の事業を行う者(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)をいう。」と定義されています。

社会的地位に基づいて継続、反復して行われることが予定されている事柄を行う者で、個人・法人、営利目的・非営利目的を問いません。

6 不当な差別的取り扱い(7条1項、8条1項)

正当な理由なく、障害を理由として、障害のある人とない人で異なる取扱いをすることや、一見して障害を理由としていないものの、サービス等の提供にあたって場所や時間を制限することによって実質的に障害者がサービスを利用できないようにすること、障害者でない者に対しては付さない条件を付けてサービスを利用できないようにすることは、不当な差別的取扱いとして禁止されます。

ただし、障害者の事実上の平等を促進し、または達成するための措置は不当な差別的取扱いには当たりません。

差別類型 相手方が持ち出す理由 相手方の行為態様
直接差別 障害 異別取扱
間接差別 障害そのものではないが、
障害に関連する事由
同一取扱(同一基準)
関連差別 異別取扱

基本的な考え方は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」に、具体例は各省庁の対応要領の別紙・留意事項に書かれています(いずれも内閣府のホームページにあります。)。留意事項に不当な差別的取り扱いに当たりうるものとして記載されているのは

  • 障害を理由として窓口対応を拒否する
  • 障害を理由に対応の順序を後回しにする
  • 障害を理由に書面の交付、資料の送付、パンフレットの提供等を拒む

いったものがあります。

7 合理的配慮(7条2項、8条2項)

(1) 規定

障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をする旨が定められています。

前述のとおり、合理的配慮の提供は、行政機関等は法的義務、事業者は努力義務とされています。

(2) 具体例

合理的配慮の具体例を挙げると、ホームページ上に文字データをアップする時に、ルビありのものや、テキストデータのものもアップする(知的障害、発達障害、視覚障害のある人向け)、筆談の対応をする(聴覚障害のある人向け)、難病で疲れやすい人がいる場合に、休憩をこまめに入れるなどです。ただし、これらの配慮は、個人によって求めるものは様々です。当事者に聞いてみたり、試行錯誤してみたりしましょう。以下も参考になります。

(障害者権利条約策定の過程で使用された"Nothing about us without us"【私たち抜きに私たちのことを決めるな】という言葉があります。この考え方を常に念頭に置くことが大切だと思います。)

  • 各省庁の対応要領別紙・留意事項(内閣府HP「関係府省庁における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」からダウンロードできます)
  • 合理的配慮サーチ(内閣府HP)
  • 厚生労働省の各事業者向け対応指針
  • みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年度版)

(3) 意思の表明

差別解消法は、非常に広い範囲で適用されるため、相手方になる行政機関や事業者にとっては、当該障害者に何が社会的障壁となっているのか知り得ない場合もあります。そこで、差別解消法は意思の表明を求めています。

意思の表明は手話や点字、その他コミュニケーションを図る際に必要な手段であれば何でも構いません。また、知的障害や精神障害(発達障害を含む)等により本人の意思表明が困難な場合には、家族や介助者等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含むこととされています(基本方針)。

(4) 過重な負担

過重な負担については、事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)、実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)、費用・負担の程度、事務・事業規模、財政・財務状況などの要素を個別の事案ごとに考慮し具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要です。過重な負担に当たると判断した場合は、障害者にその理由を説明し、理解を得るよう努めることが望ましいとされています(以上、対応要領にかかる留意事項)。

もっとも、過重な負担であるとして、本人の求める配慮が提供できない場合であっても、代替手段の有無について検討をすべきです。

8 紛争解決

差別解消法では、国及び地方公共団体は障害を理由とする差別に関する相談に応じ、紛争の防止又は解決を図ることができるような体制の整備を図るものとすると規定しています(14条)。

差別解消法では具体的にどのような機関をおき、どのように紛争を解決するかという点までは定めていないため、このままでは実効的な紛争解決が困難です。

これに対し、具体的な紛争解決の制度を条例の中で設けている自治体が増えてきています。福岡市においても、差別禁止条例をつくる会が取り組みを進めており、市長が2016年3月3日の議会で条例制定に取り組む発言をするなど、盛り上がりを見せています。

九州・沖縄では、長崎県、熊本県、大分県別府市、鹿児島県、沖縄県で差別禁止条例が定められています。

9 参考文献・資料まとめ
Ⅱ 福岡県弁護士会高齢者障害者委員会における取り組み
1 差別解消法に関する研修

高齢者障害者委員会では、差別解消法が施行される2016年4月1日に先立ち、本年3月28日に差別解消法の研修を行いました。

4月15日には、ライブ研修に来ることのできなかった会員向けにDVD研修を行いました。

2 障がい者差別解消ホットラインの実施

差別解消法の施行のタイミングと併せ、電話相談を行いました。

電話相談では次のような相談が寄せられました。

  • 天神地下街は一方の通路しか点字ブロックが設置されていない。運営会社はバリアフリー法に則っているので問題はないという対応をされた。
  • 大学院に進学中、視覚障害の程度が進行し、テキストデータを音声リーダーで読み込み授業等を受けるようになった。その後、同じ大学院のドクターコースへ進学を希望したところ、「一旦あなたのような人を受け入れると今後も同じように受け入れざるを得なくなるから受け入れることはできない」と言われ、進学を諦めた。
  • 福岡市のホームページ上にアップされている文書データがテキスト形式になっていないことがあり、音声リーダーで読み込むことができない。「福岡市 差別解消法」のキーワードで検索して出てきたものがPDF形式で、テキスト形式になっていなかったので非常に残念だった。
    これまでも福岡市に改善を求めてきたが、担当者が変わるとまた元通りになっている。

このように、今後の取組みの参考になるような事案が寄せられ、ホットラインを実施してよかったと感じました。

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