福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2015年2月 1日

◆憲法リレーエッセイ◆ 2014年のノーベル平和賞から日本国憲法9条、集団的自衛権を考える

憲法リレーエッセイ

九弁連憲法委員会連絡協議会委員長
椛 島 敏 雅(31期)

<2014年ノーベル平和賞受賞>

2014年のノーベル平和賞は女性や子供の教育を受ける権利を訴えて活動するパキスタンのマララ・ユスフザイさん(17)とインドの人権活動家のカイラシュ・サティヤルティさん(60)が受賞し話題になりました。マララさんはテロによる銃撃で瀕死の重傷を負いながら活動を続ける勇気ある最年少のノーベル賞受賞者である。また、インドとパキスタンというカシミール地方の領有権をめぐって核兵器を開発保有してまで対立する両国の、普遍的な人権活動家がノーベル平和賞を受賞したことは互いの国の人権が伸長しすべての人にあまねく教育が施されていけば武力によらず平和が達成できるという強いメッセージでもある。二人の今後の活動に注目していきたい。

また、そのノーベル平和賞選考過程で、「憲法9条を保持している日本国民」がノーベル平和賞候補にノミネートされたことも話題を呼んだ。残念ながら受賞には至らなかったが、アフリカ内戦の悲惨さや祖母から聞いた戦争の体験談に戦争の罪深さを深刻に感じていた主婦が憲法9条を読み、それを日本国民が70年間守ってきたことに感動して発案した取り組みが、日本国憲法9条をノーベル平和賞の候補にして、その存在を世界に知らしめたのである。仮定の話しであるが、もし、受賞決定になっていたら、国民を代表して安倍首相が受賞式に列席するという栄誉に浴していたかもしれない。しかし、安倍首相は、憲法9条を敵視し廃止したいと願っている改憲論者であるから、本意でない栄誉を受けることを強く固辞していたであろう。受賞式には日本国憲法を公布し、憲法で日本国民統合の象徴として、憲法を守っていくと発言されている天皇陛下が参列されることになっていたであろうか。

<安倍晋三内閣総理大臣>

安倍晋三氏は、戦後の歴代総理大臣の中で、唯一公式に憲法9条の改憲を主張する総理大臣である。2014年7月には、戦後、自民党政権が一貫して憲法9条のもとでは集団的自衛権の行使は認められないとして来た憲法解釈を、内閣法律顧問の法制局長官の首をすげかえて変更し、集団的自衛権行使容認の閣議決定をした責任者である。第2次安倍政権になり憲法96条の改正手続条項を緩和する変更をしようとして、国民の大反発を受けて断念し、「解釈」改憲を企図している。その政治姿勢は立憲主義違反であるとの意見をまったく意に介しない総理大臣である。

<ノーベル平和賞候補にふさわしい活動を>

新しい年2015年は、総選挙で「安定多数」を占めた安倍政権が閣議決定している集団的自衛権行使容認の具体的な法整備を強行してくる年になる。昨年の弁護士会のシンポで基調講演された小林節慶応義塾大学名誉教授は、集団的自衛権は「日本が他国(同盟国)の戦争に加担することである。」とその本質を分かりやすく説明された。集団的自衛権をその様に理解されるとまずいと思ったか、安倍政権は新要件であるとして「わが国と密接な他国に対する武力攻撃が発生し、わが国の存立が脅かされ、国民の人権が根底から覆される明白な危険がある場合に限り、わが国も参戦できる。」と説明するようになった。しかし、どのように言い繕いをしようとも、日本が他国の戦争に参戦していくことに変わりはない。これは国権の発動たる戦争を永久に放棄し、交戦権の否認、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しないと定める現行憲法9条に違反することは明らかであり、憲法に基づく政治、立憲主義を踏みにじるものである。

このような状況の中で、私たち弁護士会が行う立憲主義を守れとの声明やパレード等の行動提起は貴重である。私は、

憲法は法律の根本にあるものです。その憲法解釈を一内閣で変えることは認められていません。

他国のために武器を持って外国へ行く理屈は憲法からは出て来ません。

国会では少数派でも、草の根では多数派です。弁護士会も立ちあがっています。

みなさんも一緒に声を上げてください。

等々と訴えて行きたいと思っています。
日本国民が70年間近く護り通してノーベル平和賞候補にもなった憲法9条が踏みにじられる行為を黙って傍観しておくことは出来ない。

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