福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2014年7月 1日

◆憲法リレーエッセイ◆ 集団的自衛権と憲法解釈

憲法リレーエッセイ

会 員 埋 田 昇 平(63期)

1 県弁総会での決議の採択

平成26年5月28日、福岡県弁護士会定期総会において、集団的自衛権の行使を可能とする内閣の憲法解釈変更に反対する決議が採択されました(賛成525票、反対1票、棄権2票)。

集団的自衛権とは、政府解釈によれば、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」とされています。

政府は現在、憲法改正という正攻法ではなく、これまでの政府の憲法解釈を変更する、という裏技で集団的自衛権の行使容認に踏み出そうとしています。福岡県弁護士会として、この政府の動きに反対の意思を明示しようというのが決議の趣旨です。

同趣旨の決議は、既に昨年5月に日弁連でも採択されていますし、各単位会においても決議の採択や声明の発表が行われています。

2 安全保障について議論することは必要

平成26年5月27日、政府は与党協議において、集団的自衛権の行使を容認しなければ適切に対処できないものとして、

  1. 周辺有事の際、邦人を輸送するアメリカの艦船を防護すること
  2. 周辺有事の際、攻撃を受けているアメリカの輸送艦や補給艦を防護すること
  3. 周辺有事の際、攻撃国に武器を運んでいる可能性がある不審船を強制的に停船させ検査すること
  4. 日本の上空を横切り、アメリカに向かう弾道ミサイルを迎撃すること
  5. 周辺有事の際、弾道ミサイルを警戒しているアメリカ艦船を防護すること
  6. アメリカ本土が大量破壊兵器で攻撃を受けた際に、日本周辺で対処するアメリカの輸送艦や補給艦を防護すること
  7. 海上交通路で武力攻撃が発生した際の国際的な機雷の掃海活動に参加すること
  8. 武力攻撃発生時に各国と共同で民間の船舶の護衛をすること

などのケースを挙げました。

(1)~(8)のようなケースで日本が積極的に実力行使に出るとなると、日本の負担が増加することは間違いないと思います。また、自衛の概念とかけ離れている印象も受けます。

もっとも、世界中でテロ行為や武力衝突が頻発しており、日本と周辺国の関係悪化も取り沙汰されているため、安全保障のあり方について、政策レベルでの議論はしっかりなされるべきだと思います。そして、この問題は、簡単に結論が出るものでもないと思います。

ただ、積極的に実力を行使する方向に舵を切っていけば、いずれ憲法との整合性が問題になってきます。

3 憲法9条との整合性の問題

日本国憲法9条は

「1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」

と規定しています。集団的自衛権の行使は、国際紛争を解決する手段としての武力による威嚇、武力の行使に該当するでしょうし、法律家の立場からすれば、憲法9条をどのように解釈しようとも、集団的自衛権の行使は認められないという結論に至るはずです。

政府の行き過ぎた権力行使によって国民の人権を侵害しないよう、政府は憲法という法の支配を受けています。しかし、政府が解釈によって憲法の適用範囲を自由に変えられるということになれば、法の支配は形骸化してしまいます。
日本にとって望ましい安全保障体制については種々の意見がありうるとしても、弁護士会としては、政府が法の支配を潜脱することは許されない、ということをはっきりと述べる必要があり、その点で今回の決議の意義は大きいと思います。

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