福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2014年5月号 月報

「転ばぬ先の杖」(第5回)

月報記事

会 員 原 田 直 子(34期)

Aさんとは、20年くらい前に遺産分割の手続きのご依頼を受け、その後ずっと季節のご挨拶を頂いてお付き合いがありました。ご自分で届けてくださるので、時々のご心配事なども伺っていました。ご自身が再婚で、ご夫婦にはお子さんがなく、先妻のお子さんを小さいときに養子に出しているので、何かの時にはよろしくというおつもりだと解釈していました。私は度々遺言書をお勧めしましたが、突然倒れられ亡くなってしまいました。

不動産と預貯金はすべて妻Bさんに相続させるという自筆の遺言書が見つかり、検認も済ませました。ところが、相続財産を調査すると、自宅の他は、株や保険、投資信託などが主で、不動産と預貯金という文言ではカバーできない内容でした。さらに、相続対策と思われたのか、知的障がいのある末弟Cさんと養子縁組をされていました。結局、後見人を選任して遺産分割したのですが、遺留分以上の財産を分割しました。

Cさんは、独身だった2人の姉からも相当の遺産を相続しておられ、施設に入所して障がい年金で事足りているので、貯金が増えただけになりました。もっと強く、遺言書の相談をしていただくよう、お勧めすればよかったと後悔しました。

妻のBさんも、一人暮らしになった途端、物忘れがひどくなり、不安だと言われるので、将来に備え、任意後見契約と見守り契約を締結しました。毎月お電話をし、3か月に一度は姪御さんと打ち合わせて自宅を訪問し、おしゃべりをして、おいしいものを食べることにしました。女性3人、Aさんの思い出(悪口?)に花を咲かせ、楽しいひとときでした。私も、2人のお姉さんの遺産分割に関わり、親戚の方々の関係を把握していたので、話に入れたのです。

先日、Cさんがふとお墓参りに行きたいと漏らされたと聞き、姪御さんも誘って一緒にお寺に行き、Cさんの好物だった鰻屋さんに行きました。足が不自由になり、2人の姪御さんが両脇から抱えるようにして、お連れしました。Cさんの後見人も一緒でした。昔話に花が咲き、楽しい半日。帰りには、Bさんの大好きなチョコレートを買いに、博多チョコレートショップにお連れしたところ、目を輝かせて、チョコレートを選んでおられました。

ここで気づいたことは、Cさんの後見人が全く話の輪に入れないこと。選任されてから3年ほどですが、3か月に一度施設を訪問してはいるものの、一人では話すことがないので、姪御さんを同行し、姪御さんとの交流を見ているだけのようでした。「おじさん(Cさんのこと)は、お金はあっても、好きなことに使えないのはつまらないですね・・。」とは姪御さんの言葉でした。判断能力が低下してから士業の専門家が後見人になると、本人との交流は難しいようです。身上監護してくれる身内がいればまだいいですが、そうでなければ、ちょっと寂しい老後だなとしみじみ思ったことでした。

私自身も、子育てが終わり、親を見送り、還暦を過ぎて、自分の老後を真剣に考える時がやってきました。自分で自分のことを決められる間に、自分がどのようにして人生の終末期を過ごしたいか、その実現を誰に託すのか、決めることはたくさんあるなと感じながら、皆さんにも任意後見をお勧めし、元気な間は、みなさんの「転ばぬ先の杖」になろうと思う出来事でした。

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