福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2013年9月号 月報

発達障害という個性~マジックワード化に注意

月報記事

会 員 三 浦 徳 子(61期)

1 蔓延する「発達障害」

最近よく使われる言葉だ。

一方で、私は、自分も含め、何かにつけて「発達障害」を持ち出す風潮に対し、何となく「本当にそれでよいのか?」という違和感を覚えていた。

2 「発達障害」とは何か~原田剛志医師の講義

私は、ひょんなことから、違和感の理由を知ることとなった。

平成25年7月18日に行われた「福岡市医師会と福岡県弁護士会とのパートナーシップ協議会(医師と子どもの権利委員会有志らとの勉強会)」においてである。

今回は、パークサイドこどものこころクリニック院長・精神科医の原田剛志医師より、「少年事例における発達障害の視点」と題して、発達障害に関する最新の知見や具体例等をご講義いただいた。以下、概要を紹介する。

【定義】 発達障害とは、脳機能の障害であって、発達における凸凹が生活上の障害に至ったものである(育て方の問題ではない)。

【下位分類】 自閉症スペクトラム(障害)、ADHD(多動性障害)、LD(学習障害)等があり、合併症もある。なお、アメリカ精神医学会の最新診断ガイドライン「DSM‐Ⅴ」では、従来の広汎性発達障害は「自閉症スペクトラム(障害)」という名称に変更され、「アスペルガー症候群」に代表される下位分類は廃止された。

【原因】 ADHDの原因は脳の前頭前野のホルモン不足と考えられている。自閉症スペクトラムでは、脳機能の広汎にわたって発育に凸凹が見られる。いずれも根本原因は解明されていない。虐待(環境)により脳の発育に影響があり発達障害を引き起こす場合もあるといわれる。

【対処法】 薬物療法と心理社会的トレーニングが有効とされている。療育の臨界点は中学生までであり、中学生以降はソーシャルワークによる対応が中心となる。

3 「発達障害」とは個性である

その後、原田医師は発達障害を持つ少年の具体例を紹介された。

些細なことにこだわり、正論を曲げない少年。自分をいじめた相手は死んでも構わないと信じている少年。罪悪感がなく反省しない少年・・・。

たしかに度を超えた面はあるだろうが、個人的には「変わった人」の範疇だと思った。事柄によっては、私自身も少年たちに近いものを持っているのではないかとも思われた。

と同時に、発達の凸凹であることの帰結として、優れた才能を持った人にも発達障害が多いとのこと。エジソンやアインシュタインが自閉症だった話は有名だし、トム・クルーズはLDで文字が読めない等々・・・。

そう考えると、発達障害とは「障害」なのか?

最後に、原田医師がこう言われた。

発達障害とは「個性」なのだと。発達障害という言葉を使う主な意義は、「生きづらい人を受け止め、適切な指導法を選択する周りの者にとっての便利さ」にあると。

4 「発達障害」のマジックワード化に注意

原田医師の最後の言葉を聞いて、発達障害を多用することに対する違和感の理由がわかった。「(私だけかもしれないが)発達障害というラベリングをすることにより、あたかも全ての謎が解けたかのように満足しがちだが、実は違う」からであった。

発達障害が個性であるとすれば、論理的には、その「症状」も対処法も発達障害者と言われる人の数だけ存在するはず。

自閉症やADHD等の大まかなラベリングができたとしても、その人の全てを把握できるわけでも、特効薬が見つかるわけでもないのだ。

その意味で、「発達障害」や下位分類というラベルは、皆が気持ちよく過ごすための便利な道具である反面、人の具体的な個性を見落とさせるマジックワードにもなりうる。

発達障害が多様な個性を意味することを頭において、この問題を学んでいかなければならないと感じた。

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