福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2013年2月号 月報

拘置所による接見妨害とたたかう

月報記事

刑事弁護等委員会委員 丸 山 和 大(56期)

1 拘置所による接見妨害

拘置所と弁護人の接見交通権をめぐる対立は、抜き差しならないところまで来ている。

弁護人が、接見室(面会室)内で被疑者・被告人の心身の状況を記録するためにカメラを使用しようとすると、被疑者・被告人の後方に設置されている覗き窓からこれを見ていた拘置所職員が、断りもなく接見中の接見室内に立ち入り、強制的に接見を中断させ、接見を終了させる。

そして、拘置所長が、当該弁護人の所属する弁護士会に対し、個人名で、当該弁護人の懲戒を申し立てる。

冗談のような話であるが、これが平成22年以降、全国で起きている拘置所による接見妨害の実態である。

2 当会会員による接見妨害国賠訴訟

監獄法に代わる刑事収容処遇法が施行され、被疑者・被告人の権利が明示されたことにより、被疑者・被告人との接見交通権は従前に比して確保されるかにみえた。ところが、現実には、従前よりも接見交通権が妨害されるという皮肉な状況となっている。

現在、当会会員を原告、福岡拘置所(国)を被告とする二つの接見交通国賠訴訟が係属している。

一つは、上田國廣会員を原告とする、再審請求弁護人からの再審請求人への文書差し入れが妨害されたことなどを原因とする「上田国賠」であり、もう一つは、田邊匡彦会員を原告とする、接見室内での写真撮影中に拘置所職員が接見室内に立ち入り、さらに撮影した写真を消去するまで拘置所からの退去を認めなかったことなどを原因とする「田邊国賠」であり、私は上記二つの国賠訴訟の原告弁護団に加わっている。

本稿では、接見室での写真撮影と接見交通権の問題について、後者の田邊国賠の状況にも触れながら報告したい。

なお、以下、接見交通権の語には、特に断りのない限り秘密交通権の意を含む。また、写真撮影行為とビデオ録画行為とを合わせて写真撮影等ということがある。

3 田邊国賠の概要

平成24年2月29日、小倉拘置支所にいる被告人から「ケガをした」旨の電報を受け取った田邊会員は、同日に小倉拘置支所に赴き、午後6時50分から接見を開始した。そして、田邊会員が拘置所職員の暴行による被告人のケガの状況をカメラ付き携帯電話で撮影したところ、拘置所職員が接見室内に立ち入って接見を中断させ、田邊会員に対し撮影した画像を消去するよう要求した。田邊会員がこれを断ると、拘置所職員は接見室内から出て行ったものの、接見が終了した午後7時20分、田邊会員に対し、南京錠で施錠されている控室に同行を求め、「画像を消去しないと帰すことはできない」などと繰り返し述べた。30分に渡る押し問答の末、午後7時50分、田邊会員は、退去するためにやむなく画像を消去し、拘置所職員が田邊会員の携帯電話の画面を見て画像を消去した事実を確認した後、ようやく拘置支所から退去することができた。

以上の事実を請求原因とし、田邊会員を原告、北九州部会刑事弁護等委員会有志を中心とした当会会員を代理人として、平成24年6月20日、福岡地裁小倉支部に国家賠償請求が提起された。

その法的主張は、当然ながら、弁護人と被告人との接見交通権の侵害を理由とする不法行為を主張するものである。

4 国側の主張

これに対する国側の反論は概要以下のようなものであった。

(1) 接見とは、「当事者が互いに顔を合わせ、その場で相互に意思疎通を行うことをいい、それ以外のものを含むものではない」

(2) 撮影行為等を「接見」に含めると、「撮影行為等により未決拘禁の目的を没却したり、未決拘禁者のプライバシーを侵害したり、刑事施設の保安警備上の重大な支障が生じたりするおそれが高い」

(3) 職員の立入は刑事収容処遇法117条に定める権限の適切な行使である

(4) 接見室内での写真撮影等は、『被収容者の外部交通に関する訓令の運用について』(H19・5・30矯成3350矯正局長依名通達。以下「平成19年通達」という。)に基づき、「刑事施股の長の庁舎管理権の行使によって禁止されてい」る

(上記(1)乃至(4)の「 」内は国側準備書面からの引用である。)

かかる国の主張に理由がないこと、特に「接見」の意義を極めて過少、限定的に解することにより妨害を正当化しようとしていることの問題点は明らかであり、本稿執筆中の1月14日現在、原告側において反論の準備書面を起案中である。

5 拘置所の対応が全国統一のものであること

田邊国賠のような写真撮影等に対する拘置所の対応は、残念ながら特異なものではない。

拘置所は、平成22年以降、全国的に、弁護人の接見室内での写真撮影等を徹底して抑圧しようとしており、かかる対応が法務省矯正局の統一された意思によるものであることは疑いがない。

具体的には、京都拘置所、名古屋拘置所、大阪拘置所及び東京拘置所で同様の事例が報告されている(各事例の概要は髙山巌「接見室内での録音・録画をめぐる実情と問題の所在」季刊刑事弁護72号68頁以下に詳しいので参照されたい。)。

特に、東京拘置所では、体調不良を訴える外国人(希少言語使用)被告人との接見において、弁護人が接見状況を録画していたところ、拘置所職員が接見室内に立ち入り、被告人を接見室から連れ出して接見を強制的に終了させ、しかも、東京拘置所長が、個人名で、東京弁護士会に対して当該弁護人の懲戒請求を行った事例が報告されている。

これに対しては、東京弁護士会は速やかに懲戒請求を却下し(懲戒しない旨の決定)、当該弁護人を原告、東京三会の有志を代理人として、接見交通権侵害を理由とする国家賠償請求が平成24年10月12日東京地方裁判所に提起されている。

また、田邊国賠における上記4記載の国側の主張をみても、拘置所、更には検察庁を含めた法務省が一体となって接見室内での写真撮影等を抑圧しようとしていることが窺える。

というのも、国側が、「接見」の意義について「当事者が互いに顔を合わせ、その場で相互に意思疎通を行うことをいい、それ以外のものを含むものではない」と定義したことは着目すべき点であり(過去の裁判例で「接見」の内容を具体的に定義したものは見当たらない。)、かかる定義付けを一法務局(福岡法務局)のみで行ったとは考えがたく、かかる主張を行うにあたって法務省訟務局、法務省矯正局と協議がなされていることは確実といえ、更に接見交通権という権利の性質に鑑みると、検察庁との協議も行われていると考えるのが妥当である。

かかるように、国は、検察庁を含め法務省全体として事に当たっている。

6 日弁連の対応

かかる法務省の動きに対し、日弁連も具体的な対応を始めている。

日弁連は、別掲のとおり、平成23年1月20日付けで「面会室内における写真撮影(ビデオ録画を含む)及び録音に関する意見書」(以下「日弁連意見書」という。)を表明し、「面会室内において写真撮影(録画を含む)及び録音を行うことは憲法・刑事訴訟法上保障された弁護活動の一環であって、接見・秘密交通権で保障されており、制限なく認められるものであり、刑事施設、留置施設もしくは鑑別所が、制限することや検査することは認められない。」との意見を明らかにしている。

各会員におかれては、理論的側面を含めて、いま一度日弁連意見書を確認されたい。

また、昨年末には、日弁連刑事弁護センター、日弁連接見交通権確立実行委員会などを中心とした「面会室内における写真撮影等の問題に関する連絡会議」が立ち上がり、全国横断的な情報の交換と、全国の国賠訴訟のバックアップが開始された。

法務省矯正局首脳が「写真撮影問題は裁判で決着をつける」と公言したといわれていることからすれば、一般指定問題以来の全国的な接見国賠訴訟の係属が予想されるところであり、かかる日弁連の動きは当然といえるし、一人一人の弁護士が自覚をもって事に当たる必要がある。

7 怯むことなく

ところで、なぜ法務省はかかる抑圧を始めたのであろうか。

個人的な感想であるが、法務省には、被疑者国選対象事件の拡大など、被疑者・被告人の防御権を拡大する動きに対する危機感があるのではないだろうか。

拘置所による接見妨害が報告され始めたのは平成22年に入ってからであるが、その前年の平成21年は被疑者国選対象事件が必要的弁護事件全てに拡大された年である(また、裁判員法が施行された年でもある。)。

平成19年通達が平成19年5月に発せられたにもかかわらず、平成22年になってから具体的な妨害事例が報告され始めたことに鑑みると、平成21年から平成22年にかけて法務省で接見室内での写真撮影の抑圧に向けた方針策定がなされたと考えられ、その動きは上記のような刑事訴訟制度の変化、なかでも被疑者・被告人の防御権を拡大する動きと無縁とは思われないのである。

もっとも、法務省の方針を正確に知ることはできないし、知る必要もないといえる。

私たち現場の弁護士にとって重要なのは、拘置所が接見妨害を行っている現実である。

かかる現実に対し、怯むことは許されないであろう。

接見は、憲法34条に定められた弁護人依頼権(弁護人から実質的な援助を受ける権利)を実現するためのツールであって、特に捜査弁護活動においては実質的な防御の機会を確保するための必要不可欠の手段であり、その確保・確立は弁護士の本質的使命であると同時に、市民に対する責任でもある。

小田中聡樹教授がいうように「捜査段階における弁護活動の権利が歴史上最も遅く登場し、しかもその権利保障が捜査当局の絶えざる妨害・侵害により弱いものとなる傾向を持つのはそのため(筆者注:国家の刑罰権、治安維持の要求との対立を指す。)である。そうであればこそその権利性は、その確立・強化をめざす自覚的弁護士層の各種の実践的活動が日常的に展開されている状態の中でのみ存在しうる」(「現代司法と刑事訴訟の改革課題」日本評論社234頁)のである。

もちろん、接見国賠訴訟は、国、なかでも検察庁を含めた法務省と鋭く対立することとなる。しかし、事柄の性質上、一部の裁判官に判断させるのではなく、できるだけ多くの裁判官に判断を迫る必要がある。 そのためにも、各会員におかれては、日弁連意見書の趣旨にのっとり、怯むことなく弁護活動に励まれたい。その中で接見妨害に遭うようなことがあれば、速やかに各部会刑事弁護等委員会に報告されたい。国家賠償請求等を含め十全なバックアップが得られることと思う。


面会室内における写真撮影(録画を含む)及び録音についての意見書(日弁連)
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