福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2013年1月 1日

◆憲法リレーエッセイ◆原発ジプシーと憲法

憲法リレーエッセイ

会 員 德 永 由 華(64期)

1 事故が起こらなくても

福島第一原発事故後、なにかと話題の原発ですが、実は事故が起こらなくても被ばくするのが、原発内で作業に当たる原発労働者です。社会の教科書等では、沢山の機械が並ぶ部屋の中から遠隔操作のみで発電できるかのような写真が使われてきました。

しかし、原発は通常運転でも、常に原子炉近く等で保安点検や補修、放射能漏れがあれば雑巾で拭き取って除染する等、被ばくを伴う現場の地道な作業がなければ運転できません。

また、年1度程度、定期検査が義務づけられていますが、発電による熱や振動、放射線によって原子炉等の原発施設は故障しやすい状態ですから、補修や点検が大事です。しかも、密閉された原子炉施設は熱も放射線も逃げにくく、最悪の労働環境です。

そして、被ばく量の限度は、労働安全衛生法等で一般人の年平均20倍(一般人は1msv/年、労働者は100msv/5年かつ50msv/1年)、緊急時は100倍(100msv/1年)まで許されています。しかし、通常の保守点検作業をしていては、すぐに限度量を超えて原発内で働けなくなるので、例えば、ボルトのねじを一つ締める作業でも、高線量の場所では防護服にマスク、鉛のカバーを肩にかけた完全装備で、離れたところから数人でヒット&アウェイを繰り返してねじを少しずつ締めていきます。被ばく量を分け合うために沢山の労働者が必要で、1基の定期検査で3000~5000人が必要とされています。

しかも、期間内に定期検査を終えなければ、下請業者は電力会社に1億円とも言われる罰金を払わなければいけません。しかし、電力会社と直接契約した下請業者だけでは人手が足りないので、6~7次下請まであります。危険な仕事のため人集めは難しく、強引に暴力団が人集めをする業者もあり、暴力団の資金源にもなっています。1次下請業者に電力会社から6~8万円支払われても、6~7次の下請労働者には中間マージンが順次とられて1万円ももらえないことも多いです。

定期検査で働く原発労働者は、定期検査期間しか仕事がなく、全国の原発の定期検査を渡り歩くことから、原発ジプシーと呼ばれています。

また、原発設置当初から被ばく隠しが横行しています。原発労働者は、安全教育を受けて、アラームメーターや線量計を持って作業するのですが、被ばく線量の限度を超えると仕事ができなくなるので、線量の低い所に置いたりして被ばく隠しをしながら作業します。

しかも、事故や労災はタブーなので、労災申請自体が少なく、福島原発事故が起こるまでに労災が認められたのは全国で10件だけです。健康保険や雇用保険・労災保険を準備している下請業者はあまりなく、被ばくして病気になっても、わずかな一時金をもらって終わりということが多いのです。


2 福島第一原発事故からもうすぐ2年

福島第一原発は、今もなお放射線を放出しており、福島原発労働者の被ばく限度量が法律で一般人の250倍(250msv/年)にまで引上げられています。より高線量の被ばくが予定されているのです。

福島第一原発では、毎日3000人ほどが作業にあたっていますが、それでも国は、廃炉までに30~40年かかると試算しています。

しかし、国は2011年12月、事故収束宣言をすると同時に労働者の検診の補助金を打ち切りました。また、6~7次下請構造は変わっていませんし、3000人の労働者に線量計をつけさせていなかったり、線量計に放射線を遮断する鉛のカバーをつけたり、被ばく隠しも相変わらず横行しています。むしろ、作業場所の放射線量が非常に高くなっていることから、定期検査のときよりも被ばくの危険が深刻になっています。


3 最後に

原発は、労働者に被ばくさせなければ運転も収束もできません。原発は、労働者の人格的生存権、健康、人権の根源である生命すら奪う恐れが高いものといえます。原発ジプシーなど原発労働者の命や権利と引き換えに得られるのは、2012年夏の電力ピーク時に原発なしでも十分賄えた「電力」でしかありません。 ジプシーは蔑称ですが、原発ジプシーには憲法に反する労働に従事しているという侮蔑の意味も込められているのかもしれません。

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