福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2008年4月号 月報

福岡商工会議所との勉強会 第8回 「ITに関する法律問題」

月報記事

会員 丸山 和大(56期)

1月24日、「福岡商工会議所との勉強会」第8回が福岡商工会議所ビルにて行なわれました。この勉強会は、中小企業の事業承継に関する法的問題を研究することを主な目的とし、福岡商工会議所職員と当会会員とが参加して月に1回開催されている勉強会です。

第8回勉強会は、事業承継から少し外れて「ITに関する法律問題」というテーマで行なわれました。というのも、昨年12月に行なわれた懇親会の二次会において、福岡商工会議所職員の土斐崎美幸氏が、「意外とITに関する法律相談も多いんですよ。」と発言した(口を滑らした)ことから、その発言を聞きつけた池田耕一郎弁護士が「じゃあ、次回はそのテーマでやろう。発表者は土斐崎さんと…(たまたま近くにいた私に目を付け)丸山さんね。」と決定したからでした。

当日の勉強会は、私が「情報システム開発取引契約における留意点の概要」を報告した後、福岡商工会議所経営支援部主任土斐崎美幸氏が「商工会議所におけるITに関する相談事例」について報告し、相談事例を出席者で検討していくという形式が採られ、午前10時から正午まで行なわれました。出席者は福岡商工会議所の職員が6名、当会会員が8名、合計14名でした。

まず、私の「情報システム開発取引契約における留意点の概要」についてですが、これは昨年4月に経産省の「情報システムの信頼性向上のための取引慣行・契約に関する研究会」が公表した「情報システム・モデル取引契約書」をもとに、若干のアレンジを加えて講義しました。

情報システム取引の特徴は、無から有を作ることも珍しくなく、ユーザとベンダ(情報システム会社=開発受託者)の情報格差もあって開発当初においてはユーザが成果物の最終的な完成形を認識していないことも多いということです。このため、ユーザがベンダに開発を丸投げすることが多く、その結果、「自分が想像していたものが違う」「成果物では業務上の使用に耐えられない」といった紛争が頻発することになります。

上記モデル契約書では、このようなリスクを低減させるため、開発のフェーズごとに契約を締結する「多段階契約方式」をとることが提唱されています。例えば、企画プロセスにおいては準委任契約としてのコンサル契約を、開発プロセスでは請負契約としての設計契約を締結するなどです。段階ごとに契約を締結することで、ユーザにとっては開発フェーズごとに自己の注文・委託範囲を認識し、ベンダと交渉することができ、ベンダにとっては自らの受注・受託範囲を明確にすることで責任範囲を限定することができます。

その反面、多段階契約方式ではベンダが自己の責任範囲を小さく「切り取る」ことができ、不当にベンダの責任を軽減することになるのではないか、といった問題点も指摘されています。当日の勉強会においても、弁護士会出席者からこの点を指摘する意見が出されました。個人的意見ですが、ベンダの責任範囲が明確になることはユーザにとっても好ましい側面があること、多段階契約方式は継続的取引における基本契約・個別契約を垂直方向に引き直したものともいえ、従来の継続的取引論に親和性があるように感じられること、などからデメリットよりメリットが大きいと思われ、実際に私は実務で多段階契約方式を推薦しています。

次に、福岡商工会議所の土斐崎主任から、ユーザがベンダを変更した際にベンダが情報システム内の個人データの引渡を拒否するなどした事例など、福岡商工会議所に寄せられた最近の3例のITに関する相談事例が紹介されました。そして、3例を概観したときの問題点として、契約書がないか、あっても極めて杜撰であること、ユーザの問題としてユーザの要望がころころと変わること、ベンダの問題としてベンダの担当者がすぐに変わることなどが報告されました。

土斐崎主任の報告の後は、相談事例の解決方法についてのディスカッションが行なわれ、予定していた2時間を使い切って勉強会が終了しました。

福岡商工会議所との勉強会は毎月開催されており、最近2回は福岡商工会議所に寄せられた具体的相談を題材として議論を交わす形式が採られ、開始当初に比べより中身の濃い勉強会となっています。興味のある方は、ぜひ一度ご出席ください!

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー