福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2006年5月号 月報

『あなたはチクリますか!?』

月報記事

−依頼者密告法案(ゲートキーパー制度)問題、重大な局面を迎える−

福岡部会 会員 山崎 吉男

1  皆さん、ゲートキーパー制度って知ってますか?多くの皆さんが、ご存じないか、なんか名前はきいたことあるよね、程度の認識のことと推察致します。

2003年6月20日、OECD加盟国を中心とする31国等が参加する政府間機関であるFATF(金融活動作業部会)が、弁護士、公認会計士などの専門職に対して、顧客の本人確認義務及び記録の保存義務と、マネーロンダリングやテロ資金の移動として疑わしい不動産売買、資産管理等の取引について、各国に設置されるFIU(金融情報機関)に報告する義務を課すことを定める勧告(改正)を出しました。このように、民間の専門職をゲートキーパー(門番)として、違法な資金移動を監視させ規制しようとするのが、ゲートキーパー制度です。

「テロ対策。うん、それは、良いことですね」と、思う方も多いかな。

2  それで、悪い国際法規にはよく従う日本の政府のことですから、それじゃぁ、早速我が国でも、ゲートキーパー制度を導入しなくては、ということで、2004年12月10日、政府の「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」は「テロの未然防止に関する行動計画」なるものを策定し、その中で専門職に対してのFATFの先ほどの勧告を完全実施することを決定しました。そして、2005年11月17日には「FATF勧告の実施のための法律の整備について」の決定で、その骨子を定めました。

この骨子では、疑わしい不動産売買、資産管理等の取引の報告先であるFIU(金融情報機関)を現在の金融庁から警察庁に移管することとし、FIUが十分な機能を果たすために必要な体制を確保する、と定められています。

もう「それは良いことですね」なんて思う方は、一人もいませんよね!!

そうです、ゲートキーパー制度は、依頼者を密告する制度であり、しかも、弁護士を「岡っ引きの犬」にまで、堕落させてしまうのです!!

3  この「疑わしい取引」を警察へ密告するという制度は(依頼者へは報告したことを黙って無くてはいけないんです。)、弁護士・弁護士会の存立基盤である国家権力からの独立性を危うくする(この点は、日本司法支援センターと全く同じですね。)だけでなく、弁護士としての職業の存立基盤を破壊するものです。

−弁護士という職業の中核的価値は、単に法律に関する専門知識を有するというだけではなく、公権力から独立して依頼者の人権と法的利益を擁護することにある。

その職責を全うするため、弁護士は、依頼者に対して、職務上知り得た依頼者の秘密を保持する義務があり、これは国家機関を含む第三者に対する関係では、重要な権利でもある。弁護士に厳格な守秘義務があり、かつ、それが法的に保障されているからこそ、依頼者は弁護士にすべての情報を包み隠さず開示することができる。

そして、そのような依頼者の全面的な情報開示があってはじめて、弁護士は効果的にその任務を遂行することができるのであり、すべてを打ち明けてもらうことで依頼者に合法的な行動をするよう指導することができる。これを依頼者である市民の立場から見ると、秘密のうちに弁護士に相談し、適切な法的アドバイスを受ける権利を有していることにほかならない。それは、弁護士としての依頼人に対する重大な職責であって、このことは、1990年12月に行われた国連の第45回総会決議『弁護士の役割に関する基本原則』の中でも「完全に秘密を保障された相談において、適切な方法で依頼人を援助し、彼と彼らの利益を守るための法的行為を行うこと」をもって、弁護人の依頼人に対する義務である旨述べているところである。

− (2006年1月18日前川副正敏会長声明から抜粋)

『疑わしい』取引というだけで、いつなんどき、こそっと警察にチクるかも知れないヤツに、誰が重要な相談をするもんですか!!

4  この依頼者密告制度については、イギリスでは既に1993年から存在し、2001年のEU指令により仏、独、ポルトガル等のほとんどのEU諸国で国内立法化されたこともあり(アメリカ等は作っていません。)、日弁連は、国内法化が進められたら、個々の弁護士の直接の報告先を「弁護士会」として弁護士会からFIU へ報告するような制度にしてもらいましょう(と、いつものように最初から崖っぷちまで退いて)、との姿勢でさしたる反対行動はしていませんでした。

ところが、上述の2005年11月17日の決定「FATF勧告の実施のための法律の整備について」によって、FIUが警察庁に移管することとされて、あわてて同月18日の日弁連会長の反対声明を皮切りに、各単位会でも同月22日の沖縄弁護士会の会長の反対声明から始まって各地で反対声明をあげ、上述のように今年の1月18日に福岡県弁も反対の会長声明を出しました。

もう崖から突き落とされたのですから、あとは、死に物狂いで崖から這い上がるしかありません(這い上がっても、また崖っぷちに止まっていては、いけませんですよ。また、いつ、突き落とされるか分かりませんから)。

5  そして、この依頼者密告制度はすでに立法化の具体的スケジュールが決まっており、法案が来年度の国会に上程される予定です。

日弁連では、5月26日の第57回定期総会において「弁護士による警察への依頼者密告立法(ゲートキーパー立法)を阻止する決議」(まだ、案の段階ですので仮題です)を上程する予定です。

また、県弁でも5月24日の定期総会において、反対ないし阻止決議を上程する予定になっております。

是非、みなさんも、顧客やお知り合いの方々、特に議員さん等へ、「大変だ!大変だ!大変な悪法ができそうだ。おい、君も困るだろう。絶対に潰さにゃいかん」と宣伝してください。

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