福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2005年12月号 月報

英国便りNo.11 イギリスのテレビ番組事情(2004年8月6日記)

月報記事

刑弁委員会の皆様

松井です。日本は猛暑と聞きますが、皆さんお体は大丈夫ですか?

こちら英国は去年に比べ涼しい夏を迎えています。

夏休みになり、(英語のヒアリングの練習だと正当化しつつ)、だらだらテレビを見ることも多くなりました。

そこで今回はイギリスのテレビ番組についての感想を述べたいと思います。

ロンドンでは、TVを買って、TVライセンス料(受信料)年二万四〇〇〇円を払うと、国営のBBC二局、民放三局の地上波放送が見れます

日本の番組を流す衛星放送もありますが、契約料や受信機が高いので私は入っていません(ダイエーホークスの中継が見たいのは山々ですが)。こちらでは、野球中継はなく、スポーツ放送といえばサッカーかラグビー、あるいはルールのさっぱり分からないクリケットやスヌーカー(ビリヤード)ばかりです。

一、不動産好きのイギリス人

イギリスのテレビ番組で特に多いのが、不動産関係の番組です。  不動産関係にもいろいろあって、例えば、

  • 家の内装をかっこよく改造する番組
  • 家の庭をかっこよく改造する番組
  • 汚れた家をきれいに掃除する番組
  • 格安の家を買って、手入れをして高く売って儲ける番組
  • オークションに出ている家を買う番組
  • 土地を買って個性的な家を建てる番組
  • 海外の「ドリームホーム」を買いに行く番組
  • などなど、枚挙に暇がありません

これらを見て分かったのは、イギリスでは築何年というのは古いほど喜ばれ、内装や設備がしっかりしていれば、家の価値は下がらないということ、そのうえ、家を新築するためには、日本よりずっと難しい許可手続(安全性だけでなく、景観や近隣関係も含む)をとらなければならないことです。それで、イギリス人は、古い家の内装をいかに立派にして価値を高めるかに相当の思い入れを持っているようです。

二、古いもの好きのイギリス人

古い建物といえば、「Restoration」という番組があります。これは、朽ち果てつつある古い城や教会などを紹介して、保存するための基金を募る番組です。いったん放送されると、視聴者から多額の寄付が実際に寄せられるのは驚きます。

骨とう品関係の番組もたくさんあります。地方へ出張して住民の持ち寄った骨とう品を値踏みする「アンティークロードショー」は、日本でもNHKで放送されておなじみですが、こちらではオークションからみの番組をよく見かけます。これも、家と同様、掘り出し物を安く買ってオークションで高く売って利益を出すという内容です。私はこれまで、骨とう品集めは金のかかる趣味だと思っていましたが、実は、最初にある程度買い集め、あとはそれを転売して次の資金とするという具合に、金をかけずに楽しんでいる人がたくさんいることを知りました。

三 議論好きのイギリス人

日本の討論番組は、たいてい専門家どうしで討論するものばかりですが、イギリスでは、素人中心でやっている討論番組がたくさんあります。例えば、BBCの「You are talking」という番組では、参加者の一人が自分の体験や意見を語り(例えば、「自分はタバコが嫌だから街中禁煙にして欲しい」など)、それに対して他の参加者が賛成したり、反論したりします。感心するのは、素人とはいえ、皆しっかり自分の意見をもっていて、それを堂々と言っていることです。時にはかなり辛らつに相手を攻撃する人もいて、和を尊ぶ日本人の私はハラハラしてしまいます。

ラジオ番組でも、DJとリスナーが議論する形をとるものが多く、最初にその日のテーマをDJが提供すると、次々と電話がかかってきて、例えば「俺はトラックの運転手をしているが、最近の警察に言いたいことがある」などと喋りはじめ、DJが、「それはあんたのほうが悪いんじゃないの?」などと答えて渡りあっています。

とにかく、違う意見をぶつけて楽しむ、といった雰囲気があるのです。

四 日本でも是非やってもらいたい陪審番組

犯罪ものや裁判ものも多いのですが、中でも特筆すべきは「Courtroom」(法廷)という番組です。これは、架空の刑事事件を題材にして、陪審法廷の様子を、冒頭陳述から、検察側証人尋問、弁護側証人尋問、被告人質問、論告弁論、評決まで一事件毎回三〇分にまとめて放送するものです(模擬裁判のようなもの)。

これがとてもよくできていて、結論の微妙な事件が、争点を絞って(かつ書証なしで)提供されています。ドラマのような派手な演出はなく、検察官や弁護人が淡々とポイントを突いた鋭い尋問を積み重ねていく様子にはリアリティがあり、思わず自分も陪審員のひとりになったような気になって真剣に見入ってしまいます。

論告弁論後の裁判官の陪審員に対する説示も、「被告人の前歴に惑わされずに、被告人が被害者を殴ったという証拠が十分にあるか、それだけを判断するように」など、的を得ています。

この番組は、将来陪審員に呼ばれるであろうイギリス市民にとって、裁判の流れや事実認定のポイントなどを知る絶好の機会となっていると思います。裁判員制度の導入が決まった日本でも、ぜひこのような番組を作って繰り返し放送してもらいたいものです(とりあえず、この番組を輸入して日本語に吹き替えて放送しても十分効果があるでしょう)。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー