福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2005年6月号 月報

当会における弁護士過疎解消に向けて

月報記事

石渡一史

  1. 熊本県弁護士会の弁護士過疎解消に向けた取組み  当会月報三月号に、長弁護士が日弁連ひまわり基金による熊本地方裁判所八代支部管内の公設事務所へ赴任するにあたっての記事を寄せている。その八代で、八代ひまわり基金法律事務所の開所式と披露パーティーが五月一〇日に日弁連副会長、九弁連理事長、熊本県弁護士会会長、八女市長等が出席して、盛大に行われた。  私は、かねがね弁護士過疎地域に行く弁護士こそ、優秀な弁護士が行くべきだということを持論としており、その意味でもふさわしい弁護士を送り出すことが出来たと思っている。長弁護士が、八代の地でつつがなく派遣弁護士としての任務を全うされるよう願う次第である。  九弁連だより四月号には、やはり当会から玉名ひまわり基金法律事務所に行った田中裕司弁護士が記事を寄せており、熊本県弁護士会の弁護士過疎地域克服に対する積極的な取組みがうかがえる。
  2. 当会に弁護士過疎はないか  同じく九弁連だより四月号に当会筑後部会の弁護士過疎対策についての記事も掲載されている。この記事によれば、多数の若手の定着が筑後部会の最大かつ最善の「過疎対策」であり、おそらく本当の過疎地域から見れば筑後はもはや過疎地域ではないと言われるかもしれないとのことである。しかし、この見解には、にわかには賛同し難い。まず、筑後部会に五二名の弁護士がいる(日本弁護士連合会会員名簿平成一六年度版による)ことからどうして筑後地域全体が過疎でないという結論が導かれるのであろうか。(ちなみに、久留米市から八女市、大牟田市は、公共交通機関とタクシーで裁判所へ行くとどちらも四五分であるが、大牟田市の弁護士が〇になった時も弁護士過疎はないということになるのだろうか。)
  3. 弁護士が足りているかどうかは住民の視点からも検討が必要  私は、弁護士がその地域に必要であるかどうかは、弁護士の視点だけでなく、住民の側の判断にも委ねるべき問題であると考えている。(九弁連だより四月号で田中裕司弁護士が言っているように、弁護士が常駐することにより、いままで眠っていた事件や、知識不足ゆえに不当な扱いをうけたりするケースも発掘される。私たちは街中まで相談に行けばいいじゃないかと思うが、そういう風に考えられるのは行動範囲が広い一部の人たちで、実際は地元から出たことがない人も多いし、ましてや何のものかも分からない遠方の弁護士のところに相談に行くのは一大決心で躊躇してしまう人も多いのであるという意見には同感である。)  私は、弁護士過疎であるかどうかを判断するにあたって裁判所の管轄のみが基準になるとは思わないが、弁護士会の部会が基準になるとも思わない。ちなみに、平成六年の久留米部会の弁護士数は三二名(うち久留米市二四名、大牟田市五名、八女市一名、柳川市〇名、その他二名)、同一六年度では、五二名(うち久留米市四一名、大牟田市六名、八女市〇名、柳川市一名、その他四名)である。つまり、増えているのは久留米市だけと言ってもよい
  4. 当会の弁護士過疎問題について積極的な議論を望む  九弁連だよりの筑後部会の弁護士過疎対策に関する記事では、部会制度という福岡県弁護士会の独特のあり方や公設事務所の評価に関する理念的な問題とも絡むため、もう少し議論を整理しながら、あるべき方向性を見いだしていきたいと述べられており、結論として八女、柳川への公設事務所の設置を否定している訳ではない。  もし八女や柳川に公設事務所が設置されても、住民のニーズがなければ、住民は公設事務所には行かず、久留米市の弁護士のところへ行くだけであろう。(全国の例で言えば、公設事務所は盛況であり、やはり地元に法律事務所があることを住民は望んでいる。)最初から弁護士過疎はないというのではなくいろいろな角度から弁護士過疎対策をやってみていいのではないか。  法律相談センターを久留米に最初に作ろうとしたとき、当時の久留米部会では、積極論と消極論の対立があったが、現在では、急速な弁護士増加の原因の一つとして揚げられるほどになっている。また、弁護士実務修習を久留米支部で制度的に実施するに至った目的は、筑後部会全体の弁護士過疎の解消ではなく、筑後部会内の各地域の弁護士過疎の解消にもあると考えるべきではなかろうか。
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