福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2004年7月号 月報

当番弁護士日誌

月報記事

田村雅樹

1 当番出動と受任の経緯

当番弁護士の出動要請があったのは三月のある日。窃盗の疑いで警察署に在監中の男性(以下Aさん)

当日接見に赴き事情をきくと、前日、スーパーでリュックサック一個(9800円相当)を万引きした、外に出たところで警備員に声をかけられ逃げたが、状況を察知した付近にいた男性に追跡され捕まった、とのこと。被害品は特に傷もついていないらしい。

現在、一人暮らしで、仕事は嘱託作業員をしている。特に連絡をとってほしい親族友人等はいない。

動機については、「もともとリュックサックを買うつもりだったのだが、意外と高かったのでつい盗んでしまった。手持ちの現金は4000円しかなかったが、銀行口座には6万円程度はあったのだが・・・」と話す。

理解できないではないが、安易に物を盗んでしまう心理傾向の持主のように思われ、常習性があるのではないかと案じ、余罪関係についてきいてみるが、「他にはやっていない。」と言う。警察からも一通り余罪の追及は受けているが、厳しいものではないらしい。

逮捕時の状況については、現場から自転車で逃げたものだから、スクーターで追跡衝突される形で逮捕された、と話していた(あとでやや問題となるが、このときはたいして気にしなかった。)。

示談する気はあるのか、と尋ねると、お金はあるので示談をしたい、と言う。

初回接見時の印象として、動機等、やや疑問にも思ったが、内気でまじめそうな青年という感じをもった。しきりと自分の今後の処分について気にしており、勾留されるだろうか、起訴されるだろうか、といったことを何度も心配そうに聞いてきたことをよく覚えている。

状況をきき、事実関係は取調べでも素直に認めて話しているとのことなので、スーパーとの示談を早期にすすめ身柄を解放する必要が高く、また、勾留にまで持ち込ませないようにしなければならないと考え、扶助にて受任。

2 勾留は阻止できず

接見した翌日(逮捕から三日目)の午後、検察庁の本件担当事務官(検事が担当ではなかった)に電話。

ちょうどAさんの弁録中であったようだが、事案軽微であり、かつ早期に示談に動く予定であるから、勾留はしないでいただきたい、と申\し入れた。

「検討をする。」とのことだったが、翌日(逮捕から四日目)朝、再度電話をすると、勾留請求することにした、とのこと。ただし、示談が成立すれば、早期釈放を考える、とのこと。

同日午前中には勾留され、やむを得ず、示談を早期にすすめることとした。

3 示談活動

同日午後、スーパーに電話をすると、当時の警備担当者につなげられた。私は、被害品を買い取る形で早期に示談をしたい旨を申し入れたところ、支配人が現在いないのでなんともいえない、との前提だが「Aさんを捕まえた人が留学生なのだが、捕まえるときにスクーターが衝突して大破している。店側としては、留学生に協力していただいた手前もあり買い替え代をもたなければならないことになりそうで、そうすると、Aさんにその分(買い替え代分)も請求せざるをえなくなるかもしれない。」とのこと。

被害品の買取の形で簡単に示談し、すぐに釈放になると思っていただけに、直ちには示談ができず、やっかいなことになったな、と思った。

いずれにしても、週明け月曜日(逮捕から七日目)以後に連絡してもらうこととなった。

月曜日には結局スーパーからの連絡がなく、火曜日(逮捕から八日目)朝、Aさんに接見に行き、そのように店側からいわれていることを伝えた。

私は、「確かにその留学生はあなたのせいでスクーターが大破してしまっているが、だからといってそれを弁償しなければならないということには必ずしもならないだろう。ただし、店側がそのように言っているので、応じた方が早く示談は成立するだろう。」と伝えた。

Aさんは、少し考えていたが、やはり、早く示談をしたいとのことで、25万円程度までならキャッシングをすれば払えるので、それ以内の額で示談してもらえば、釈放後直ちに支払うとのこと。

事務所に戻ってすぐに店側に連絡するが、支配人が今日はいないので明日以後連絡してくれ、と言われ、翌日(逮捕から九日目)になって、ようやく支配人と連絡がとれた。

私は、リュックサックの買取に加えてスクーターの買い替え代も出す意向であることを伝えた。

支配人は当方の申出を了承し、スクーターは中古だから9万円から10万円程度で済むと思う、とのことで、今後、留学生と早急に話をする、とのこと。

4 意見書提出と釈放

支配人との電話により、示談の方向性がみえてきたので、電話後直ちに、検察庁に対して、現在の状況からして釈放後すぐに示談が成立する見込であること、被疑者が反省していること等を記載した意見書を提出した。

検察庁からは翌々日(逮捕から11日目)の朝、電話が入り、「今日午前中に釈放する。」との連絡を受けた。

Aさんからは、同日昼前に事務所に連絡が入り釈放された旨確認できた。

5 示談成立と起訴猶予

Aさんには、釈放翌日、さっそくスーパーに謝罪に訪れてもらい、その後、若干の交渉を経て、結局、店側とはリュックサックを買い取る形で、留学生にはスクーター買い替え代7万円を支払うことで話がまとまり、いずれについても、釈放されてから四日後に支払った。

検察庁にはその旨報告書を提出し、最終的に起訴猶予処分となった。

6 顧みて

改めて事件を振り返ると、9800円のリュックサックの万引きで、事実を認めていながら、結局、逮捕日を入れて11日間身柄拘束をされる羽目になってしまった。

そもそもAさんには、示談をする意向は当初からあったので、積極的に勾留裁判官に面会し勾留の必要性のないことを説得する必要等があったのではないかと、反省している。

また、示談活動も、もう少し早くできなかたったかとも思う。

ただ、Aさん本人は、その後無事もとの職場に戻れ、また、多少高額のスクーター弁償費用を支払ったことも自分のしたことが原因と割り切って納得されているようだったので、その点は救いではある。

軽微な自白事件ではあったが、それだけに、身柄拘束下の被疑者弁護活動では、その一日一日の活動が重要であることを、改めておもいしらされた。

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ITコラム 「IT化は一日にしてならず」

月報記事

田中雅敏

鴻和法律事務所は、平成九年ころからホームページを立ち上げていました。

また、同時期から、事務所内のパソコンはLANで接続し、文書管理なども、一つのサーバに集約して、相互に利用できるようにしてあるため、事務所に所属している弁護士の文書財産の共有化を図ることができるのは、大きなメリットです。

コンピュータを事務所に導入することやインターネットの利点については、すでにこれまで何度かコラムで取り上げられてきていますので、このような点はさておくとして、今回は「IT化」のデメリット、というか苦労話をいくつかしたいと思います。

コンピュータやネットワークを導入し、ホームページを設置することのもっとも大きな「苦労」は、何と言っても、「管理」の一言に尽きると思います。

事務所のLANシステムは、第一次的には事務局員が管理をし、何か問題が起きた場合は、専門の業者に来てもらうことにしています。業者の方は、何か起きればその日のうちに出動してくれるため、大変重宝しているのですが、それでも、「突然サーバが落ちた(止まった)」という事態で、二〜三時間既存の文書が開けない、などということになると、非常にいらいらします。

このようなときのために、毎日のバックアップや、サブシステム(サーバが落ちても、なお影響を受けない別システムのネットワーク)の構築などが欠かせません。

ところで、このような管理以上に難しいのは、何と言っても「ホームページの更新」でしよう。

事務所のホームページは、実は、平成九年の開設以来、弁護士の人数の変更程度の更新しかしておらず、事実上、七年間更新無しという状態が続いていました。

私自身もずっと気になっていたのですが、なかなか更新する時間がとれず、更新するとしてもそのコンテンツはどうするのか、といった点が決まらないこともあって、結局、放置されていたという現状でした。

今年に入り、久しぶりに事務所のホームページをみて、いつのまにかあまりに時代遅れになっていることに愕然とし、発作的に、その週末にホームページビルダーとマニュアル本を購入し、土日の二日間の突貫工事で作り直したのが、現在のホームページです。

同時に、プロジェクトチーム(?)を編成し、コンテンツの案を考え、10人いる弁護士各自に、作成の割り振りを行いました。

しかし、結局、原稿は集まらず、その先は、またしても遅々として進んでいない状態です。あたりまえのことですが、IT化と言っても、勝手にコンピュータが原稿を書いてくれるわけではない以上、コンテンツを作る人間の努力なくして、IT化の効用は見込めないということなのでしょう。

そこで、結論。IT(情報通信技術)は、あくまで道具にすぎません。設備投資をして「IT化」を進める前に、「何をやりたいのか?」「何が発信したいのか?」を、よくよく熟考し、発信可能なコンテンツの質と量を見越した上で、環境整備を行うことを、お勧めします。

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