福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2002年11月号 月報

事務所内での情報の共有化

月報記事

植松 功

「IT」とは一体何のことだろうか。

Information Technologyの頭文字をとったものらしいことは何となく知っているが、そのまま訳して「情報技術」と言ってみても、何かよく分からない。

仕方ないので、インターネットで調べてみたら、「入手、収集可能な情報資源を積極的に活用して、ビジネスを有利に展開するためのしくみ。それを実現するために使用可能\なさまざまな情報技術のこと。」とある。

「ビジネスを有利に展開する」というのは何か「競争」とか「利益」とかを連想させ、ちょっといやらしいが、なるほど「入手、収集可能な情報資源を積極的に活用できるシステム」というと、弁護士業務にも大いに関係ありそうである。

情報資源はいろんなところにある。

最も身近なのは、事務所内での情報だ。僕のところは弁護士が五人いるが、それぞれが毎日毎日カチャカチャとキーボードを叩いていて、その作成文書量は大変なものとなっている。そして、それらは調査し、悩み、苦労した末に完成したものも少なくないはずで、貴重なノウハウとなっているに違いない。

これを共有の財産とし、簡単に検索できれば、それはまさに「情報資源の積極的な活用」である。

そこで、わが事務所ではLANを組んで、共有化を図っているのであるが、「LANを組んで、共有化すればいいというものではない」という事態に陥っている。インフラは整備されているが、肝心の活用ができていないといってもいい。

なぜ、そういうことになっているかというと、ファイル名とフォルダの作り方にルールがなかったためだ。

ある者は、継続事件と終了事件というフォルダを作り、事件が終了したときにファイルを継続事件から終了事件のフォルダに移すときの感慨に耽っているし、またある者は依頼者を几帳面に五十音順に並べてフォルダを作り、マ行の依頼者が少ないとどうでもいいことに感心したりしている。

ファイル名に至っては、フォルダに当事者名をつけているためか、「訴状」とか「仮処分申立書」とか「契約書」だけで、他人にはその中身はさっぱり分からない。

もちろん、検索して、それらしきものに当たりをつけて、中を見るということはできないではない。しかし、何と言ってもルールがないため、検索もかなり抽象的に単語を設定しなくてはならず、妙な虫眼鏡みたいなアニメーションがひたすらグルグル回っていて、とても時間がかかるし、そのようにして抽出されたファイルも膨大で、とてもじゃないが面倒で中を見る気になれない。

さらに困るのは、独自のルールで文書等を保存して数年が経過してしまうと、「何とかしなければ」と思っても、あまりにファイルが多すぎて手をつけられず、「何ともできない」ということである。かといって、「過去のものはともかく今後はこのルールで」という訳にもいかない。そんなことをしてしまうと、己の使い勝手が悪くなって、急ぎのときなどは逆上するのは必至だからだ。

そういう訳で、わが事務所では、LANを組んで、情報の全てを共有できるような万全の環境の中で、

「こんな事件なんだけど、やったことある?」

「何年か前にやったことある気がする。あの当事者は誰だったかなぁ。」

「思い出して、見つかったらプリントアウトしておいて。」

「思い出したらね。」

という形で情報を共有しているのである。

Technologyの香りがさっぱりしないが、これをITと呼んでいいのだろうか。

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福祉の当番弁護士

月報記事

迫田登紀子

会員の皆様、「福祉の当番弁護士」という電話相談の窓口があるのをご存知でしょうか。これは、行政機関、福祉団体、施設等において高齢者や障害者の相談を担当している方を対象に、それらの方の疑問を法的な側面からアドバイスすることを目的とした電話相談です。現在「あいゆう」に登録をした会員(福岡部会中120名)の中から、登録を承諾された49名の会員によって担われています。

2000年9月18日から始まった「福祉の当番弁護士」の丸2年を記念して、去る9月20日に九弁連及び当弁護士会主催の記念シンポジウムが行われました。本稿では、このシンポのプレ企画として9月12日に行われた、高齢者ご本人の相談をも含む電話と面接による相談会についてご報告します。

当日は、朝10時の開始直後から2台の電話ともにふさがるという盛況ぶりで、午後5時の終了までに合計30件もの多数の相談がよせられました。相談の会場には、新聞・テレビの記者が大勢駆けつけ、テレビカメラも数台入りましので、相談の状況がお昼のニュースに流れると、また途絶えることなく相談の電話が続きました。(この日私は、テレビカメラがきているなど全く知らず、「今日は人に会わないもんねえ。」とぼさぼさの頭のまま、相談会場に出かけたのでした。にもかからず、なぜかテレビにうつる羽目になり、そんな日に限って、たくさんの人から観られていて・・・。何人もの依頼者が、にこにこと「先生、見ましたよ!」声をかけてくださるので、何故だかとても落ち込みます。)

相談は、福祉団体や施設からが4件、その他は高齢者ご本人やその家族からでした。

主だった内容としては、行政手続き・行政とのトラブルに関するものが9件、負債関係が5件、家族間のトラブルに関するものが3件、弁護士とのトラブルに関するものが3件、遺産分割・遺言に関するものが2件、入所者の対処に関する施設からの相談が2件ありました。行政手続に関する質問や法的観点からのアドバイスは必要ないと思われる質問も少々見られましたが、このことは、相談窓口が分からずに1人で悩みを抱えておられるご高齢者が多いこと、そして「弁護士による相談」に対する期待・信頼が高いことの証でもあると思います。

これらの他にも、労働問題、刑事手続き、消費者問題、医療過誤に関する相談などもありました。高齢者の相談といっても、成年後見をはじめとする高齢者特有の相談ばかりでなく、一般相談と同様に幅広い相談がなされたと分析できると思います。

この企画の後に行われた2周年記念シンポジウムでも、高齢者や障害者の権利擁護のために、弁護士と関係各機関とが連携をすることや、その中における弁護士の役割の重要性が確認されました。

幅広い市民の皆様に弁護士を知って頂き、そして利用していただこうとしているこの司法改革の中で、高齢者や障害者の分野は、まだ私たちがなかなか手をつけられないでいる未開拓の分野であるといえるのではないでしょうか。会員の皆様、高齢者・障害者へのリーガル・サービスの提供のため、是非「あいゆう」そして「福祉の当番弁護士」にご登録ください。

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心神喪失者等医療観察法案について 

月報記事

森 豊

1 去る9月27日(金曜日)午後6時から、福岡県弁護士会研修委員会の主催で『心神喪失者等医療観察法案に関するパネルディスカッション』が県弁護士会館三階ホールで開催されました。

この法案は、正式名称を「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(案)」と言い、平成13年の大阪池田小学校事件に対する高い社会的関心や一部マスコミの煽情的報道もあって、重大犯罪を行った精神障害者の処遇を求める立法化の動きが一気に加速化し、ついに全文121条の法案として本年度通常国会に上程され、継続審議となっているものです。

2 このような急速な立法化の動き及びその結果としての法案の問題点に対してはすでに患者団体や日弁連・各地単位会はもちろんのこと、精神科医の学会・諸団体からも多くの反対声明が出されていますが、国会審議における対決法案となっていないため、これら反対論をも踏まえた十分な審議を経ないまま可決されるおそれが危惧されています。

『パネルディスカッション』は、法案(裁判官1人と精神科医1人で構成される合議体が重大犯罪行為を行った者の精神障害による「再犯の可能\性」を判断して入通院治療を強制するか否かを決定する審判制度の設置を中核とする)について、従来から指摘されてきた一般的な問題点を整理・確認するにとどまらず、さらに法案が規定する弁護士の付添人としての活動の内容に踏み込んだ問題点の洗い出しをも目指すことによって、研修委員会主催の会員研修に則したものになるように企画されました。

3 パネラーの高木茂先生は、日弁連刑事法制委員会において上記の立法化の動きをずっとフォローされ、措置入院審査会(精神科医2人、看護士、精神保健福祉士等の医療関係者の他に、弁護士及び検察官を構成員とする)で入通院治療を強制するか否かを決定する新制度の設置を中核とする対案の取りまとめに尽力されてきた立場から、立法化の経緯、裁判官が入退院の判断をする制度の弊害、判断の対象となる「再犯のおそれ」という要件の不明確性等の重要な問題点を一つずつ丁寧に指摘されました。

もう一人のパネラー池永満先生からは、国際人権規約も踏まえ人に医療を強制する制度はどうあるべきかという観点から、司法関与自体は肯定できるが、裁判官が判断すべきことと医者が判断すべきことの混同、強制入院期間が容易に継続され刑事罰と著しい不均衡が生ずる危険性、一事不再理原則の違背等の問題提起がなされました。さらにこれを補足する形で精神保健委員から、法案に規定された審判手続の種類、手続、付添人の権限等について、主に少年事件付添人と比較した問題点の洗い出し作業の報告がされました。

刑事法制と精神保健の両論客の仲裁の大役を担う司会者は、精神保健に深い見識をお持ちの八尋光秀先生で、司会者として適宜の解説等をしながらも、新制度の設置そのものに反対する持論を時折披露されました。

4 法案反対・精神医療全体の改善こそ最良の問題解決策であるという共通項がありながらも、法案反対のスタンスがそれぞれ異なる三者の間の緊張をはらんだ議論のやりとりに、2時間の所定時間はすぐに消化されました。

週末、夕刻の時間帯で強い雨ということもあり、参加会員は必ずしも多くはありませんでしたが、この法案の重大な問題点や反対する立場の多様性をよく理解して頂けたのではないかと思います。

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吃驚仰天!

月報記事

渕上陽子

ある晴れた日の午後、公園を散歩して店に入る。海(男・仮名)は、日焼けした顔でパクリとドーナツを食べ、私を見てニッと笑う。まさに至福の時……。

でも、当番弁護士として出会ったばかりの海(当時一八才)は、幸福とほど遠い姿だった。首は包帯でぐるぐる巻き、顔も全身も傷だらけ。公務執行妨害罪で逮捕されてから4日経つけど、それにしてはボロボロすぎない?

海の話を要約すると、次のとおりであった。

その夜、元同級生の送別会に行くため、友だちと待ち合わせをしていたら、昔のワル仲間に声を掛けられた。彼らは、近くの広場に集まってシンナーを吸っていた。少年院を出てから真面目な日々を送っていた海であったが、恋人に裏切られた傷心もあって誘惑に負けた。

シンナーを吸い始めてすぐ、パトカーが来た。多くの少年が逃げたが、海は職務質問に応じた。ところが、いきなり両腕をひねり上げられ、パトカーの方に引きずられそうになった。「普通に話しているじゃないですか。手を離してください。」と言ったが、首をも絞められ、お腹も跳び蹴りされた。警察官はどんどん増え、何重にも囲まれた。抵抗しようにも、体中押さえつけられて動けない。あまりの痛さに、ひねられた腕を振りほどこうとしたら、左腕がスポッと抜けて、手の甲が警察官の眼鏡に当たって眼鏡が飛んだ。そのとたん、「公務執行妨害罪で逮捕する」と言われた。海は思わず「助けて!」と悲鳴を上げたが、そのままパトカーに押し込まれ、警察署で尿を取られた……。

「警察は、僕が右手の拳骨で警察官の頬を殴りつけたと言っているけど、嘘です。お願い。信じてください。」と、海は子犬のような目で私を見つめる。しかし、この時点の私は、まさか警察がそこまで?などと思わないでもなく、一〇〇%彼を信じたわけではなかった。ゴメンネ、海。

しかし、海は、その後も一貫して否認を続けた(シンナーを吸ったことは、最初から認めている)。逮捕から一〇日以上経っても調書を取られず、「認めないと少年院に行くぞ。」などと説得(脅?)され続ける毎日だったが、「今辛いけど、やってもいないことを認めたら一生後悔する。」と自分に言い聞かせていたようだ。

実際、警察の対応は凄まじかった。ある日、自己紹介をした私に、「先生は、あの子を少年院に行かせたいのか。警察官が、『殴られた』と言っている以上間違いない。無理にでも認めさせるのが弁護士の仕事でしょうが。」と大声でまくし立ててきた。「現場に目撃者はいませんでしたか。」と聞くと、「少年側の人間なんか、調べる必要はないっ。」とはねつけられた。

海は、こういった強烈な取調べに、よく耐えていたと思う。それでも、S.O.S.の電話は一日に何度も架かってきた。駆けつけると、「陽子先生!」と叫んで嬉しそうに立ち上がる姿が切ない。

期待もむなしく、公務執行妨害についても家裁送致された。実況見分調書すらないズサンな記録を読み終え、ため息をついた。これだけ食い違うとは、まさに『羅生門』(映画の)である。警察側の目撃者の調書もあったが、夜一一時過ぎ(現場はほとんど真っ暗)、約五〇メートルも離れた場所から、「『右手の拳骨で』殴りつけたのを見た」、などと言われてもね…。

しかし、海の側にも立派な証拠があった。彼は気付いていなかったが、待ち合わせをしていた友人二人は、職務質問開始とほぼ同時に現場に着いたそうで、状況を目撃していたのだ。これで、海の供述はほぼ全面的に裏付けられる。海は、ラッキーだったんだろう。彼らがいなかったら、と考えると恐ろしい。

さて、家裁では、まず中間審判で海の言い分を聞かれた。第一回目の審判では証人尋問(海側、二人)が行われ、第二回目に、いよいよ裁判所の判断が下されることになった。その前に海に会ったが、最初の頃とは別人のように落ち着いていた。「無実の罪に泣く人がいなくなるように、自分は絶対にこの経験を忘れません。」なーんて言っている。彼のたくましさと成長ぶりには、学ばされる一方だった。

結果は、「非行事実なしの不処分」(毒劇法違反は試験観察)。「ふんっ、当然だよね。」とばかりに海の方を見ると、海ったら、私を見て泣いているではないか。

よかったね、海!

こんな事件は、二度とあってはいけない。

海は、最近一九才になった。仕事と野球で真っ黒になり、また急に大人っぽくなった。近ごろ「嬉しいこと」があったらしい。今度、教えてね!

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