弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

人間

2020年1月 3日

作家と魔女の集まっちゃった思い出


(霧山昴)
著者 角野 栄子 、 出版  角川書店

著者の『魔女の宅急便』は良かったですね。舞台で演じられ、実写映画にもなったそうですが、私はアニメでみました。もちろん、本も読みました。
ホウキにまたがった魔女が宅急便の荷物を運ぶなんて、すごい発想ですよね。
この本を読むと、著者がものすごいバイタリティーの持ち主でもあることがよく分かります。なにしろ、24歳のときブラジルに渡り、2年間、そこで暮らしたというのです。そのとき知りあった母と子の話が本書で紹介されますが、子のほうは作家としてのデビュー作のネタになったのでした。
『魔女の宅急便』の原点は、著者の12歳の娘が描いた魔女の絵だったそうです。ほうきの柄にトランジスタラジオがぶらさがり、ビートルズの音楽でも聞きながら飛んでいるようで、魔女の周囲を音符が踊っている。そんな絵だったのです。それを見て、ひらめいたのでした。
魔女のキキには、あり得ないことと、あり得ることを飛んでつなげてもらう。そしたら物語は面白くなりそう。そのなかでキキは次第に自分の場所を見つけていく。こうやって自分の楽しみも広がっていった。
主人公の名前は、そこから物語の世界が始まるといってもいいくらい大切なもの。1ヶ月ほどして、魔女の女の子はキキという名前に決まった。モノカキを自称する私も、主人公そして登場人物の名前は苦労していますし、工夫しています。
言葉の意味にばかり頼りすぎると物語は次第に貧弱になっていく気がする。
言葉の意味よりも、言葉のときめきを大切にしたい。
ときめきは、形ある風景として立ち上がってくる。そこを読み手といっしょに歩いていく。そしたら、どんなに楽しいことか・・・。
84歳の作家は、いつまでも幼い少女のようなういういしさを失っていないようです。うらやましい限りですね・・・。
(2019年9月刊。1400円+税)

2019年12月28日

消えた山人、昭和の伝統マタギ


(霧山昴)
著者 千葉 克介 、 出版  農文協

私の終わりころから9年間、秋田などの東北の山で活動していたマタギを追った貴重な写真集です。
マタギは、「山をまたぐ」が語源と言われていますが、実際、1日に10キロといわず数十キロも歩いていた。
狩り、ケボカイ(皮はぎの神事)、熊祭り、山の神祭り、小屋かけ、火起こしなど、昭和時代の山中でのマタギの生態が写真によく残されています。忘れてはならない山の狩人たちです。
マタギは産火と死火を忌み嫌い、家で出産や死亡があると、火が穢(けが)れると考え、その家の人間は1週間、狩りに出かけなかった。また、クマ狩りの前の1週間は夫婦の性交渉もできなかった。
マタギには、「狩人」と「狩り」の両方の意味がある。漢字では、古くから「又鬼」と書かれる。
大正・昭和初めのマタギ装束の着方が写真で再現され、解説されています。カモシカの毛皮を上に着ます。背負うのは村田銃です。
クマの胆(い)は、万能薬として珍重され、金と同じ値段で取引されていた。1回に飲む量はゴマ粒3つ。
マタギにとって、クマは捨てるところがなく、クマの骨や血、冬眠時の糞も薬として売られていた。
クマが獲れるのは集落にとって大きな喜びで、老若男女が集まってくる。
クマの肉を骨ごとに煮込み、ナガセ汁をつくる。最高のマタギ料理だ。
マタギは個人であり、集団であり、それを支えてきたのは集落である。
今ではほとんど消え去ったマタギの生態をたくさんの写真とともに解説した貴重な本です。
(2019年8月刊。2500円+税)

2019年12月18日

ふたりの桃源郷


(霧山昴)
著者 佐々木 總 、 出版  文芸春秋

電気も水道もない山奥で暮らしている老夫婦を30年にわたってテレビで紹介していった番組について、裏話をふくめて活字にしたものです。似たような話があったような・・・、と私は映画のパンフレットを探し出しました。
2014年の韓国映画「あなた、その川を渡らないで」です。こちらは30年間ではなく1年3ヶ月間でしかありませんが、老夫婦はなんと98歳のおじいさんと89歳のおばあさんです。山奥の一軒家ではありませんが、小川の流れる小さな村に住んでいます。毎日、ふたりはおそろいの服(上着は、白で、チマはライトブルー)を着て、手をつないで歩いていきます。枯れ木や山菜をとりに山へ、市場へ買い物に出かけます。春には花を折って互いに飾り、秋には落葉を投げあってほほえみ、冬には雪合戦をしてはしゃぐ。そんな老夫婦の日々が淡々と紹介されます。韓国では480万人もの観客を動員していますが、その半数を20歳台の若者が占めたといいます。私も福岡・天神の映画館でみましたが、心が震えました。まだみていない方はぜひみてください。
日本のほうは、たびたびテレビのドキュメンタリー番組となり、全国放送もされています。2016年には映画(『ふたりの桃源郷』)化されたそうですが、残念ながら私はみていません。今も各地で上映されているそうなので、ぜひ、みてみたいものです。
寅夫じいちゃんは大正3年生まれ、2007年(平成19年)6月に93歳で亡くなった。フサコばあちゃんは大正9年生まれ、2013年(平成25年)1月に同じく93歳で亡くなった。
この二人が初めてテレビに登場したのは今から28年も前の1991年(平成3年)のこと。
地元の山口放送は1993年に30分番組で紹介した。それから2018年まで、実に27年間にわたって紹介したというのですから、中途半端な話ではありません。
桃源郷の山小屋には、電気も水道も通っていない。でも、四季を通じて山から水が湧き、切り拓いた土地をぐるっと囲むように2本の水流があるため、1年を通して水には困らない。何十メートルもホースをつなぎ、湧き水を山小屋のすぐ脇まで引いている。小屋の表にある水がめには、いつだってきれいな水があふれていた。
夜、明かりを灯したり、洗濯機をつかうときには発電機を回す。暖をとり、煮炊きするのには、もっぱら薪だ。毎日のように山の木々を切り出し、斧を振りおろして薪をつくるのは、70代も半ばを過ぎると、重労働だ。
1979年(昭和54年)秋、夫婦そろって18年ぶりに山に戻った。二人は、人生を山で再スタートしたのだ。
山口放送が取材して放送したのは27年間で100回にもなる。全国放送されたことも12回ある。
山には電話がないので、取材は事前にアポイントの取りようがなかった。テレビ取材は、アポなしの突撃取材だった。
風呂は五右衛門風呂。87歳のじいちゃん、82歳のばあちゃんの老夫婦二人だけの山での生活。「夫婦円満の秘訣は何ですか?」と訊くと、答えは、「そりゃあ、セックスじゃのう・・・」。これでは放送できない。東京から全国放送するとき、同じ質問があった。どうなるか・・・。答えは、「そりゃあ、『夜』じゃのう・・・」。
えがった、えがった・・・。なにしろナマ放送だったのです。
23年間続けた山での暮らしを寅夫じいちゃんとフサコばあちゃんは自分の意思で終わらせて、ふもとの町の老人ホームに入って生活するようになった。
こんな人生のすごし方も魅力的ですよね・・・。でも、山に住むということは、蛇だって、虫だって、すぐ身近な存在なんですよ。怖くもあります。都会生活に慣れていたら、やはり山に住むのは無理だと思います。窓にヤモリがくっつくのは可愛いものですが、ゴキブリが出てきて、ナメクジが台所あたりをはいまわるのが耐えられますか・・・。
(2019年10月刊。1500円+税)

2019年12月16日

人体、なんでそうなった


(霧山昴)
著者 ネイサン・レンツ 、 出版  化学同人

人間の身体についての貴重な指摘、知らなかった驚くべき事実が満載の本です。
人体の解剖学的構造は、適応と不適応とが不格好に入りまじっている。
欠点があるからこそ、人間には人間らしさが表れる。
進化は絶え間なく続く交換ゲームだ。進化の大半には犠牲がともなう。
私は本年(2019年)3月、椎間板ヘルニアで苦しみました。なにしろ、駅のホームでまっすぐ歩けず、しばらく立ち止まって休んでいたほどです。この本は、なぜ椎間板ヘルニアが起きるのかについても解説しています。
人間の椎間板は、直立歩行者ではなく、ゴリラのようなナックル歩行者に最適の状態に調整されている。時間の経過とともに、アンバランスな圧力のせいで、軟骨の一部がはみ出てくる。この椎間板ヘルニアは、ヒト以外の霊長類には、ほとんどみられない。
ヒトの身体は、体内で必要な栄養素をつくり出すことができないので、食事としてとる必要がある。人間は、必要な栄養素をすべて取り入れるためには、やたら変化に富んだ食事をとらなければならない。
ビタミンCがなければ、コラーゲンがつくれない。犬は自分でビタミンCをつくることができる。地球上のほとんどの動物は必要なビタミンCを自分の肝臓でたっぷりつくっているので、食べ物からとる必要がない。
飢饉のときの最大の死亡原因は、カロリー不足ではなく、タンパク質と必須アミノ酸の不足にある。
ヒトがカルシウムを吸収するには、ビタミンDが必要。乳児は摂取したカルシウムの60%を吸収できる。成人はせいぜい20%ほど、引退する年代だと10%未満となる。
絶えずカルシウムとビタミンDを補充していないと、骨粗鬆症になって、骨がもろくなる。
野生では肥満した動物が見あたらないのは、大半の野生動物は、いつだって餓死の一歩手前にいるからだ・・・。
犬や猫がテレビにあまり興味を示さないのは、その網膜のニューロンは、人間よりずっとすばやく働くので、断片的な写真として見えていて、人間のように動画としてみれないからだ。
人間の身体の不思議さは尽きないところがあります。それをとても分かりやすく解説してくれています。
(2019年10月刊。2400円+税)

2019年11月30日

僕のリスタートの号砲が、遠くの空で鳴った


(霧山昴)
著者 田原 照久、竹島 由美子 、 出版  高文研

うまいですね、しっくり読ませます。さすが演劇指導し、劇の台本を書いている人だけあって、若者(高校生)と教師の揺れ動く微妙な心の奥底が見事な文章となり、視覚化されています。
今まで学校で学ぶことができなかったNと、そのかたくなで攻撃的な性格のために友人に恵まれなかったIは、ともにほとんど方言を使わない。同世代との会話を楽しむ何気ない日常が閉ざされていたからだろう。
高校生が方言を使わないというのに、こんな深い意味があっただなんて・・・、驚きました。
教室に入るとき、「おはよう!」と声をかけてたとき、前を向いて「おはようございます」と返してくるのは半数ほど。下を向いたままか、あるいは顔を上げていても視線は力なくさまよっている。「引き籠もり」の若者が急増していると言われる社会現象が事実だということを彼らは教えてくれる。
高校1年生のクラス。考え方の違いがはっきりするにつれて、複雑にもつれあったり対立しながら、クラスのなかはいくつにも分裂していく。その混乱を眺めているのは少々面倒ではあるけれど、この分裂こそが高校生らしいつながりを生み出していく・・・。
夢中になるものがあると、時間の流れをとても速く感じる。まさしく、そのとおりですよね・・・。
15歳から18歳の高校生たちは、信じられないスピードで大きく変化していく。ときには、大人の予想など平然と蹴散らして、まるで別人に生まれ変わる高校生だっている。それが高校という空間のもつ不思議な力だ。
同級生から自信にあふれた存在と思われているにもかかわらず、本人の内面では自分に納得できずに自己否定を繰り返す高校生。
高校生の世界は、まさにモザイク。まさに混沌。閉じていない世界。閉じようにも閉じることのない世界。いや、むしろ、世の中との間に扉のない世界・・・。
今どきの高校生たちの置かれている社会の実際。そして、演劇を通して友人、そして自分とぶつかりあい、また自己認識を深めていく・・・。じっくり、しっくり読みすすめ、なんだかほっこりとした気分になりました。
福岡の宇都宮英人弁護士よりいただいた本です。ありがとうございました。みなさんに、ご一読を強くおすすめします。
(2019年11月刊。1600円+税)

2019年11月16日

いつもそばには本があった。


(霧山昴)
著者 國分 功一郎、互 盛央 、 出版  講談社

私も本はよく読んでいるほうだと思うのですが、この二人は哲学的分野で深みがあります。とてもとても、かないません。
1996年は出版界で売り上げがピークを迎えた。この年は本の販売金額は2兆6500億円。その後は減少傾向にあり、2017年は1兆3700億円なので、まさしく半分になった。ところが、新刊点数のほうは、1996年に6万3000点だったのが、2017年には7万5000点を大きく増加している。1980年代は3万点だったから、そのころに比べると2倍以上となる。
かなり多くの人が自分の研究する分野以外の本をほとんど読んでいない。文系の大学院に行って研究しようとしている人たちがこうなのだから、本が売れないのも当然だ。
今は、自分の知りたいことしか知りたくないという傾向がどんどん強まっているのではないか・・・。
今どきの若者が新聞を読まず、ネットを見ただけで世の中のことを分かった気になっているのに、通じている気がします。
この謎を解明したい。この論点について、もっと知りたい。この思想を分かりたい。そのような欲望に突き動かされて読書することが、読書において何よりも大切なこと。
解明したい、知りたい、分かりたい、そのような欲望のなかにいて、その欲望にこたえてくれる本に出会い、それを読んでいるときの喜びは格別のものがある。その喜びをずっと感じていたいという気持ちが、読書に駆り立てる最大の要因だ。
もちろん、何かを分かりたいと思って読書をしていると、分かりたいと思う別の何かにも出会うことになる。次々と欲望の対象があらわれ、解明したい、知りたい、分かりたいという留まることを知らない欲望に捕まえられる。このプロセスの中に居続けることが、読書の理想なのだ。
これは、まったく私と同じなのです。知りたい、謎を解明したいと思い、次々に本を読みます。すると、どんどん謎は深まり、広まっていくのです。ですから、読書の幅は無限大に広がっていきます。そして、その欲望の充足感にほんのひととき浸っているのが至福の境地なのです。
(2019年3月刊。900円+税)

2019年11月 5日

皮膚はすごい


(霧山昴)
著者 傳田 光洋 、 出版  岩波科学ライブラリー

人間の身体がいかに良くできているか、またまた認識が深まりました。
人間の先祖であるアウストラロピテクスは全身が体毛で覆われていた。つまり、いまのように体毛がなくツルツルの肌というのではなかったのです。では、いつ体毛がなくなったかというと、120万年前のこと。体毛がなくなり、皮膚がむき出しになったことから、人間に何が起きたのか・・・。表皮を環境にさらすことで、さまざまな情報が全身を覆う表皮からもたらされるようになった。
人間の全身を覆うケラチノサイトの数は1層で200億あるので、少なくとも1000億個以上はある。これは脳の神経細胞数と同じレベル。その一つ一つが温度や圧力や電磁波などの物理現象、化学刺激のセンサーを複数もっていて、情報処理施設であり、かつ、身体や脳に指示を出す能力がありことを考えると、表皮からもたらされる環境情報は膨大な量になる。
瞬時の情報処理は、表皮とせいぜい脊髄でなされ、脳にもたらされた情報のあるものが記憶として脳に保存される。
表皮は可視光のみならず、紫外線から赤外線まで感知できる。音については、耳の限界、2万ヘルツを超えた超音波まで感知できる。表皮は大気圧を感じ、酸素濃度を感知し、地球の磁場程度の弱い磁気も感知し、電場にも応答する。
人間は、本来、自分の身体を守るためのものだった表皮から体毛をなくし、あえて外界にさらし、世界を、そして宇宙を知る装置に変えた。いわば、皮膚を世界に宇宙に向けて開放したと言える。
人間の皮膚やトマトの皮の表面は、死んだ細胞が重なって出来ている。
人間の皮脂には、水をはじくスクワレンという脂質が入っている。
人間の皮膚にいちばん似ているのはカエルの皮膚。
激しく運動したあと、身体を冷やすために汗をかくのは人間と馬だけ。
人間が体毛を失ったことの結果なのか、それを目的として体毛をなくしたのか、それも知りたいと思ったことでした。とてもとても知的刺激にみちた本です。
(2019年9月刊。1200円+税)

2019年11月 4日

秋元治の仕事術


(霧山昴)
著者 秋元 治 、 出版  集英社

私は、『こち亀』を読んだことは1回もありませんが、それが毎週連載を40年間も続けていた人気マンガだということは、もちろん知っています。
その著者が40年間も休まずに毎週連載を続けられた理由を大公開した本です。
読んでみると、著者の才能が大前提ではありますが、なるほどと思うことばかりでした。
マンガの世界は先のことが予想できない。突然、終わりを迎えてもおかしくない。そこで、とにかく面白いものを描き、1回1回、乗り切っていくことだけを考えてやってきた。先のことまで考えない。変化を恐れず、常に新しいネタを仕入れ続けてきた。
好きなことだけをやってきた。仕事を苦痛だと思ったことは一度もない。
漫画家はネタを考えるのが仕事の根幹。ネタを考えるのが不得意な人は、漫画家には向いていない。
漫画家はリスキーな職業なので、深く考えることができる人なら、まず選ばない道。
何事もなかったかのように、変化なくずっと毎日続ける。これこそが集中力を持続させるコツ。いつまでもくよくよ悩まず、ある程度悩んだら、さっと切り換えて次に行く。
『こち亀』のレギュラー連載は、十分なストックをもっていたので、落ちるというピンチを感じたことはなかった。
この書評も20年近く続けていますが、この間、1日たりとも切れていません(ときに飛んだのは、アップ担当者が急に休んでしまったからで、私が原因なのではありません)。
そのためのスケジュール管理を厳密にやっている。時間は、自分から積極的に生み出さないといけない。1本の『こち亀』に初めは7日間をかけていたが、6日間に短縮し、5日間で仕上げるというペースを確立した。
仕事をするのは朝9時から夜7時まで。昼と夕には食事のための休憩時間を1時間ずつとる。残業はなるべく少なくし、徹夜はしない。社員も、きちんと休みをとり、タイムカードで出退勤管理をしている。
著者は午前2時までには就寝し、起床は7時半。このようにして時間をきちんと守ると、社会的つきあいもできるようになる。
ギリギリの仕事はしない。原稿はいつも早めに担当者に渡す。
ながら族で仕事をする。マンガを描くときにはFM放送(ラジオ)を流しっぱなしにしている。ラジオから、新商品の情報や最新のニュースが頭に入ってきて、次のマンガのネタになっていく。
ネットでの評価は見ない。そしてつまらない批判は無視する。ファンレターは読む。
本屋には気分転換をかねて出かける。
眠いときは、無理をせず、しばし仮眠をとる。健康を保持し、仕事を続けるための一番の特効薬は、悩まないこと。
私より4歳だけ年下の著者ですが、私の考えと著者のやっていることに共通するところが多く、大変共感を覚えました。180頁あまりの本ですが、立派な仕事術がぎっしりの本ですので、あなたにも一読をおすすめします。
(2019年8月刊。1200円+税)

2019年11月 2日

極北のひかり


(霧山昴)
著者 松本 紀生 、 出版  クレヴィス

1年の半分をアラスカで過ごし、厳寒のなかで動物やオーロラを撮影する写真家の体験記です。
クマを用心し、蚊の大群と戦い、猛吹雪に耐える生活です。ところが、日本では写真を撮らないという徹底ぶりにも驚きました。
この本を読んで、クマよりも寒さよりも、何より蚊との戦いこそが、もっとも大変だと想像しました。アラスカに発生し生息する蚊は、なんと17兆匹。これはアラスカの総人口の2400万倍だ。
蚊をおびき寄せるのは、汗、体温そして呼吸。テントの真上5メートル付近の空洞が黒く染まり、揺れ動くほどの蚊の大群にテントは包まれる。外で用を足そうとして下半身をむき出しにしたら蚊の格好の餌食となる。うひゃあ、これはたまりませんね・・・。
蚊の対策はネットで頭を覆う。そして、アメリカ陸軍が開発した薬(ディート)を使う。
蚊はカリブーにも襲いかかる。カリブーが蚊にやられて衰弱していく。
食事は、朝も夕も同じ、豆雑炊。異なるのは、ふりかけの種類だけ。なぜ、豆雑炊なのか・・・。軽量で安価。腐らないので長期保存できるうえ、あっという間に調理できる。そして、匂いを発しないので、クマを誘引することがない。
アラスカのキャンプは食事を楽しむ場ではない。そう割り切る。いい写真を撮るためにここにいるのだから・・・。
クマ対策として、食料専用のテントを生活用テントから100メートルほど離して設営する。そしてクマよけの電気柵で取り囲んでおく。
いやはや良い写真を撮るためには大変な努力が、そして工夫と忍耐力が求められるのですね。おかげで、自宅でぬくぬくとしながらオーロラのすばらしい写真をみることができるわけです。ありがとうございます。
(2019年4月刊。1600円+税)

2019年9月18日

かこさとしの世界


(霧山昴)
著者  加古 里子PT 、 出版  平凡社

絵本『どろぼうがっこう』は大傑作です。子どもたちに何度よんでやったかしれません。校長のくまさか先生は、歌舞伎役者そのもののいでたちで教壇に立ちます。教室に座って授業を受ける生徒たちは、いずれおとらぬ典型的なヤクザのおっさんたち。よく小学校に見かける小さな机と椅子におとなしく座っているのも愛敬です。そして、抜き足さし足で大きな建物に忍び込むのです。そして、その大きな建物とは・・・。
いやあ、こんなのって、子どもの教育上よくないんじゃないの・・・、そんな非難も受けたそうですが、子どもが絵本の楽しさを味わえるなら、いいじゃないですか・・・。少しくらい「プチ悪」のほうを子どもは好むものです。いつだって品行方正というのは面白くないし、長続きしませんよね。
そして、絵本『からすのパンやさん』も大人気でした。黒くて不気味なカラスは身近な鳥としては不人気そのものです。でも、こうやって絵本になると、どうしてどうして可愛らしいものです。それに、いろんなパンが登場してきて、楽しいのです。
絵本『だるまちゃんとてんぐちゃん』も楽しいですよ。わが家でも大人気でした。
下手(へた)うまと言ったら、怒られそうですが、飛び抜けて絵がうまいわけではありませんが、ともかく親近感のあるだるまちゃんとてんぐちゃんですので、子どもたちは目を離せなくなるのです。
かこさとしは東大工学部を卒業して昭和電工に入り技術者として仕事しながら、なんと川崎市古市場でセツルメント活動として子ども会に関わったのです。私も同じ古市場で若者サークルとかかわる青年部に所属していました。私の入ったサークルは「山彦サークル」といいますが、そのときの仲間に「かっちゃん」がいます。つい先日、50年ぶりに突然、「かっちゃん」から電話がかかってきて大変おどろき、また、うれしく思いました。
かこさとしは古市場のセツルメント子ども会活動のなかで、紙芝居をつくって披露しました。ところが、子どもたちは正直です。つまらないと思えば、紙芝居を放ってどこか別のところへえ遊びに行ってしまうのです。かこさとしは、ではどうやったら子どもたちの心をつかめるのか、研究を重ねました。それが絵本作家の道につながったのでした。
川崎(古市場)セツルメントの大先輩として、心より敬意を表したいと思います。みなさんも、ぜひかこさとしの絵本を手にとって読んでみてください。きっと圧倒されますよ・・・。いえいえ、子ども心に立ち戻れて幸せな気分に浸れますよ。
(2019年7月刊。2000円+税)

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