世界(イラク)
2007年06月26日
父さんの銃
著者:ヒネル・サレーム、出版社:白水社
著者はイラク生まれのクルド人で、現在はフランスで活躍している映画監督です。 1964年生まれですから、現在43歳。17歳までイラクにいて、フセイン政権によるクルド人弾圧を逃れてイタリアへ亡命します。フィレンツェで勉強しながら、観光客相手に絵を描いていたこともあるそうです。そして、子どものころから夢見ていた映画監督になることができました。この本は、イラクにいた子ども時代を描いた自伝的小説です。
クルド民族は、まさに孤立無援の状態だった。かつてソ連に裏切られ、またアメリカにも裏切られた。著者は少年のころ、アメリカの支援があるので、クルド民族の独立は達成できると信じていたようです。しかし、その信頼は無惨にも裏切られてしまいました。アメリカは、クルド人のいる油田地帯を確保したかっただけなのです。
フセイン大統領の時代は、帽子を風にさらわれるな、という格言に誰もが従う時代だった。そして、クルド人のいる地方に、何十万人ものアラブ人労働者が押し寄せてきた。
著者は14歳のとき、ゲリラ部隊に入ります。しかし、そこの隊長は次のように言って著者を戒めました。
ここがおれたちの祖国だ。おまえたちは学生だったな。いま我々に必要なのは、教育を受けた人間だ。そして同時に、市街で戦う人間も必要としている。
もし、おまえたちに勇気があるなら、故郷の町にもどって学問をつづけろ。勉強しながら、ともに破壊組織ではたらくんだ。
こう言いながら、隊長は火器や銃器の使い方を教えたのです。
いいか同志、人生とは危険なものだ。生まれるってのは危険なことなんだ。
これって、いまの日本では絶対に聞けないセリフです。そして、聞きたくない、言いたくないセリフでもあります。
クルドの戦士だった父親がフセイン政権の強圧下で次第に元気をなくしていく様子も描かれています。
家にいると、父が少しずつ気力を失っていくのが分かった。父は何があっても腹を立てることもなく、考えるのは絶望的なことばかり、他人を避け、ひとりで引きこもることが多くなった。
クルド人は、紀元前2000年前までさかのぼることのできる古い民族。独自の言語と文化をもつ、中東の先住民族。3500万人といわれる人々が、イラク、シリア、イラン、トルコ、アルメニアなどに分断された地域に住んでいる。祖国なき世界最大の民族とも言われている。
そんな苦悩するクルド人の生きざまを少年の眼から明らかにした本です。
2007年09月14日
たたかう!ジャーナリスト宣言
著者:志葉 玲、出版社:社会批評社
著者はイラクでアメリカ軍に拘束されました。そのときのタグには、戦時敵性捕虜と書かれていました。スパイ容疑で8日間、アメリカ軍の収容所に拘束されていたのです。日本大使館は、拘束3日後にはアメリカ軍からの通報によって、そのことを知っていたのに、8日間も拘束されていたなんて・・・。いったい日本の外務省は何をしているんでしょう。きっと厄介者が来て困った、自力でなんとかしろとつぶやいていたんじゃないでしょうか。
イラクのサマワに陸上自衛隊がいるときにも取材に出かけています。恐るべき事実が明らかにされています。
自衛隊の宿営地で浄化された水は、およそ半分が550人いる自衛隊員の生活用水に使われ、残りの半分が給水に回される。その対象者は2万人。給水活動を自衛隊員がするわけではない。イラク人ドライバーに丸投げでまかせていた。だから、不公平があり、地元民から不満が出ていた。
学校の校舎の修復工事も同じで、実際に工事をするのはイラク人の土建業者。自衛隊員は、週4日、様子を見に来るだけ。しかも、現場には10分くらいしかいない。
さらに、土建業者が手抜き工事をしているため、壁や天井から崩れ落ちることがあって、とても危険な状態のところがあるという。そもそも、地元の人間に業務を委託するのなら、600人もの自衛隊員がサマワにいる必然性はあるのか。
先日の参院選で自民党議員になった佐藤隊長は、迷彩色の自衛隊員が行って対日感情が悪くなったとしても、あくまで武装した自衛隊員がイラクに行くことが重要なのだという趣旨で説明したといいます。ひどい話です。
ひどい話と言えば、この佐藤議員は、近くのオランダ軍が襲撃されたら、その現場に駆けつけて、ともに敵と戦うことを意識的に企図していたと高言しました。とんでもない話です。憲法で交戦権の認められていない自衛隊が、外国軍のため外国で戦争の渦中にとびこんで交戦しようなんて、絶対に許されないことです。こんな軍部の思いあがりが、日本を破滅の道へ追いやってしまいました。憲法違反の暴言を吐いた佐藤氏は即刻、議員を辞職すべきです。大臣より自分が偉いと思っている防衛事務次官といい、軍人という人種は昔も今も、傍若無人そのものです。
2003年から2006年まで自衛隊をイラクに派遣してつかったお金は785億円。うち武器などに209億円、運搬費として134億円、手当が128億円。これだけで6割471億円になる。すごい税金のつかい方です。
それにしてもイラクの実情が日本にきちんと伝えられていませんよね。これだけ巨額の税金をつぎこんでいったい効果があったのか、どんな効果があったのか、私たち国民に政府は報告するのが当然だと思います。マスコミにしてもそうです。いつまでもフリージャーナリストに頼ってばかりいたのではいけませんよ。
(2007年6月刊。1800円+税)
2008年11月13日
イラク崩壊
著者:吉岡 一、 発行:合同出版
日本は今もアメリカのイラク侵略戦争に深く関わっています。一見、平和な日本は遠く離れたイラクの人々をアメリカ軍が殺しているのに加担していることは動かしがたい事実です。4月の名古屋高裁判決も、そのことを明確に指摘しています。ところが、多くの日本人は私を含めて、そのことの実感が持てないままでいます。無理もありません。イラクの実情がほとんど日本に伝えられていないためです。
この本は、朝日新聞の元中東アフリカ総局特派員として、バクダッドにも駐在していた記者による生々しいレポートです。支局周辺だけでなく、イラクに住む普通の人々のナマの現実をもっと知りたいと思いますが、そうは言っても、この本だけでもすごい迫力があります。アメリカのイラク侵略戦争が間違いだということは、この本からも明らかです。ですから、少なくとも日本は一刻も早くアメリカのイラク侵略戦争に加担するのをやめるべきです。
バグダッド陥落時にアメリカ軍が真っ先に占領したイラク石油省を、アメリカは2004年春に手放した。アメリカのつぎ込んだ戦費が91兆円(8,450億ドル)。アメリカの支払った代価の総額は324兆円(3兆ドル)をこえたと言われる今、石油利権だけでイラク戦争を説明するのは難しい。
イラクにいたとき、強盗に襲われることを考えて、1万ドルの現金を次のように小分けして身体に身につけていた。まず、4000ドルを二つにわけ、ビニール袋に入れて靴底に隠す。財布の中には800ドルを入れ、最初に強盗にくれてやる分とする。さらに1200ドルをウェストポーチの隠しポケットに入れる。強盗が「まだあるだろう」と言ってきたときに差し出す。さらに、腹巻の中に残る4000ドルを隠す。命を奪われそうな時にはこれを差し出す。
うーん、な、なーるほど。ここまで小分けして次の手を繰り出して時間を稼いで、生命だけは助かろうというのですね。すごい工夫ですよね。
イラク人は、武器を家庭に備える習慣がある。だから、一家に1丁や2丁は必ず拳銃がある。
大きな問題は、アメリカ軍がいい加減なタレこみ情報に基づいて「容疑者」宅を襲撃すること、そして、男ならだれでも捕まえてしまうやり方にあった。容疑者には、2500ドルの報奨金がアメリカ軍から支払われる。そして、アメリカ兵は家宅捜索のたびに、イラク人の持っている現金を持ち去る。
アメリカ兵にとって、見えない敵、不気味な沈黙、突然の襲撃、というゲリラ戦の恐怖が次第に募った。それが、無実の市民の拘束や誤射による市民の殺害、デモ隊への発砲という不始末を積み重ねる要因となっていった。
イラクの人は次のように言う。
ここの人間は、今や誰でもアメリカと戦う。子どもも同じだ。いま、アメリカと戦う人間は2種類いる。直接に武器を持って戦う人間、そして、聖戦士に資金を援助する人間だ。
アメリカ軍は、今なお、アメリカ軍に対する攻撃者をテロリストと呼んでいる。しかし、それはもはや、一部の孤立した武装集団による攻撃ではない。イラクの国民運動なのである。
いま、イラク政府の腐敗はすさまじい。イラク国防省では、ヘリ購入契約を巡って250億円が闇に消えた。電力省は、2億ドルの発電所建設契約をアメリカの企業と結んだ。しかし、実際に支払われたのは3億ドル。しかも、発電所は完成されなかった。
イラク復興資金は20億ドルを使ったというが、まともに使われたのは500万ドルもあるだろうか、という状況である。
イラクでは、2005年の1月に月に2回、国政選挙があった。どちらもシーア派が過半数をとった。ところがアメリカが介入した。アメリカは敵国イランの強い影響下にあるシーア派政権を認めることが出来ない。そこで、多数党派の連立政権が誕生した。政党の間で内戦に突入していった。犠牲者は1日80人ペースにまでなった。
挙国一致内閣は、身動きならず、なにも出来ないままだった。
アメリカは、イラクだけでなく、中東全体で民文化の芽を摘んでしまったことになる。2008年時点で、500万人のイラク人が家そして故郷さらに国を追われて異郷の地をさまよっている。これはイラク人口の2750万人の20%に近い。
イラクの自爆件数は、08年7月末まで658件。爆弾テロによる死者は1万6千人、負傷者はその2倍の3万4千人近い。爆弾テロのうち自爆テロが37%を占める。
自爆攻撃で死ぬのは、常に若者であり、命じる年長者は最後まで死なない。
殉教攻撃で死んだ者は天国に行くことができる。そこでは、一生72人の処女が付き従ってくれる。このように信じて死地に赴く。自爆テロを止めるには、アメリカ軍がイラクから撤退するしかない。
イラクにアメリカ兵は16万人いる。基地業務などで働く民間人が15万人をこえる。民間軍事(戦争)会社の要因が1万3千人。そのすべてが、イラクの国内法の適用が除外される特権的な存在である。
この本の最後に、私もよく知っている高松あすなろの会の鍋谷賢一氏の名前があがっていたのに驚きました。最初に原稿を読んで応援したのだそうです。えらいものです。
日弁連会館前にある日比谷公園は、すっかり秋景色でした。皇居前広場の銀杏並木は見事に黄金色となっていました。晩秋になって寒さも一入、コート姿が目立つようになりました。皆さん、風邪などひかれませんように。
(2008年9月刊。1800円+税)

