福岡県弁護士会の弁護士・職員の読んだ本・オススメの本

社会(警察)

2007年02月27日

警察庁から来た男

著者:佐々木 譲、出版社:角川春樹事務所
 「うたう警察官」に続く、道警シリーズ第2弾です。北海道警察に警察庁から監査が入ります。東京からやってきたのはキャリアの監察官です。いったい、今度は道警の何を問題にしようというのか。道警本部は戦々恐々です。
 北海道には管区警察局がない。行政域の広さが他の地方の管区ほどもあるので、とくに管区警察局は置かれず、直接、警察庁の監督のもとに入っている。この点は、警視庁に似ている。
 私の大学時代の同級生の一人が警察庁に入り、県警本部長や首相秘書官(?)などを歴任したあと管区警察局長をつとめ、まもなく退官し、いまは天下りして公団理事をしています。管区警察局長はキャリア組の上がりのポストの一つになっているのです。
 道警本部では、有名な警部の不祥事のあと、生活安全部を強化すべく部長を警察庁から派遣されたキャリアになった。ところが、そのキャリア部長が自殺してしまったので、道警本部がポストを奪い返し、今では道警本部採用の準キャリアが部長になっている。
 ファイル対象者とは、私生活や素行に問題があると見られる警察官のこと。いったんファイルが作成されると、その警察官がどこの所轄署や部局に異動になろうと、ファイルそのものもついてまわる。上司は対象者に対し、必要に応じ、監督と指導を行う。
 ススキノ交番は、4階建て。勤務する警察官は50人。いわば小さな城塞だ。
 監察の対象となった事件は2つ。一つは、タイ人の若い女性が売春させられているところから逃げ、交番に走りこんだのに、交番の警察官が追ってきた暴力団に何ごともなかったように身柄を引き渡した件。もう一つは、ボッタクリ・バーでトラブった客が不自然な転落死をした件。二つの事件のどこに共通項があるのか・・・。
 推理小説(最近は、警察小説と言います)ですから、もちろん、ここで、そのタネ明かしはできません。なかなかよく出来た本だという感想を述べるにとどめます。
 警察官にとって、退職後どうするのかは、職業人生の半ばを過ぎたあたりから、昼も夜も頭を離れない大問題となる。警察と関係の深い自動車学校や交通安全協会の役員は幹部の指定席。ウェイティングリストまである。
 大部分の警察官は、退職後は自力で再就職先を探し、現場労働者として働いて年金給付年齢がくるのを待つ。つまり、ほとんどの退職警官は、何の専門性も生かせない民間企業に再就職し、慣れない仕事で苦労して、たちまちのうちに老けていく。
 キャリア組は違う。天下り先に事欠かず、困ることもない。
 警察でも団塊世代の大量退職が始まりました。老後をいったいどう過ごすのかは深刻です。釣り三昧などで悠々自適をしはじめると、とたんに亡くなってしまいます。そのため警察共済は、黒字だといいます。在職中にひどいストレスを受けて、それと共生してきていたのに、そのストレスから突然解放されると、今度は燃え尽き症候群のようになって、まもなく生命の炎が消えてしまうというのです。
 先日、「あるいは裏切りという名の犬」というフランス映画をみました。ジェラール・デパルデューも出演する警察映画です。デパルデュールは団塊世代です。私と生まれた月まで同じ(1948年12月)というのを初めて知りました。この映画では、野心満々、権力欲だけがギラギラしている警視の役まわりを演じています。
 フランスの警察には日本と違って労働組合があります。ときにはストライキをし、デモまですることで有名です。ところが、そんなフランスの警察はかなり高圧的で強暴なことでも定評があります。そして、暗黒街との癒着もあるようです。この映画には、そんな実話を下敷きにしています。寒々とした展開です。フランス映画の例にならって、どんな結末なのか、最後まで予想できませんでした。見終わったとき、重い疲労感が残りました。
 日本の警察もフランスと同じで、内奥まで入っていくと決して清潔とは言えないことを、この本は背景にしています。
 先日、名古屋の読者の方から、言葉づかいについて配慮が足りないというご指摘を受けました。私としてはズバリ本質をついた表現だと一人悦に入っていましたが、なるほど、そのような懸念もあるのだと反省し、早速、訂正しています。
 誰か読んでくれているのかなあ、なんて思いながら書いていますので、こういう形で反響があること自体は、とても手ごたえを感じるものです。今後とも、どうぞご愛読いただきますよう、よろしくお願いします。 

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2007年07月05日

捜査指揮

著者:岡田 薫、出版社:東京法令
 私と同世代の元警察キャリアの人が刑事警察官の身につけるべきポイントを本にしたものです。私の知らなかった言葉をいくつか知りました。
賞詞・・・警察職員として多大な功労があると認められる者に対する表彰。ランクが高く、特別昇給を伴うことも多い。
賞誉・・・表彰の一種で、賞詞よりランクが下がる。
手口原紙・・・犯罪手口の分析が犯人割り出しに有効と考えられる罪種=手口犯罪(強盗、窃盗、詐欺、性的犯罪、殺人等)の被疑者を検挙したときに、作成する被疑者の手口に関する情報を記載した原紙。今はコンピューター化されているので、手口記録と呼ぶ。
可惜身命・・・あたらしんみょう。誘拐事件捜査などでは被害者の命の安全が最大の目的である。一番に被害者を無事に救出しなければならない。そのうえで犯人を逮捕する。
牛の爪・・・元から割れている事件のこと。
 組織では、上司よりも部下のほうが、その担当分野の専門家であり、精通しているということはよくある。そういう時期をどう乗り越えるかが勝負の分かれ目である。そのときには、その人より多く働くことしかない。その人たちに、あの警部は、ど素人だけども、少なくともオレよりは仕事をしている。オレよりは努力をしていると思わせるようにしなければ誰がついてくるだろうか。
なーるほど、たしかに、そのとおりでしょうね。努力して乗りこえるしかありませんよね。
 著者は打つ手に困ったときにどうするか、次のことを提起しています。
 情報を見直す。何回も何回も見直すと、何かのヒントが出てくる。
 常識的になっていることを疑う。ただし、捜査資料をよく読みこまないと疑いというのはなかなか出てこない。
 多角的な目で捜査資料を見る。捜査資料を別の発想で見ていくことが大切である。
 ポイント(流れ)をつかむ。
 実は、この本を読んで、一番、私の心に響いたのは次の指摘でした。
 決断の本質というのは捨てることにある。捨てられない人は決断できない。
 うーむ、なかなか含蓄のある言葉ですよね、これって・・・。
 決断力があるといって、何でも捨ててしまう人は困る。あまりにも思い切りがよすぎてもいけない。最高幹部にとって、もっとも重要な資質は簡単に決断しないことだ。
 さらに、常識的な知識・経験があったうえで、固定観念にとらわれないことが大切だ。
 さすがに、25万人もいる警察という巨大な官僚組織のトップに立った人の言葉には深みがあり、感心しました。

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2007年10月19日

越境捜査

著者:笹本稜平、出版社:双葉社
 推理小説のような警察小説ですので、粗筋を紹介するわけにはいきません。千歳空港の本屋で買って、福岡までの飛行機のなかで読了しました。えーっ、警察署って、暴力団と同じ暴力的な体質の組織だったんだー、と思いました。警察内部の派閥抗争は邪魔者は消せということで、馳星周ばりのバイオレンス物の展開です。
 背景にあるのは、警察のトップに君臨しているわずか300人ほどのキャリア組の高級幹部警察官による裏金分捕り合戦、そして、つけ足し的に東京の警視庁と神奈川県警のナワバリ争いが問題となっています。
 あっ、もう一つありました。警察と暴力団幹部とが、実は裏でよく手を結んでいるという事実です。
 いま、福岡県内では、北九州の暴力団制圧作戦が進行中のはずですが、見るべきほどの成果をあげているとは思えません。筑後地方の対立抗争事件では、一方の組長が射殺され、下部組織の組長2人が殺されているのに、警察は「自首」してきた組員以外、誰も捕まえてはいません。いったい、どうなっているんでしょうか。警察の捜査能力の低下は目を覆わんばかりのひどさだと語ってくれた知人がいましたが、まさにそのとおりです。
 警察は、公安優先ではなく、もっと刑事・交通分野を優遇し、人々が安心して生活できるようにがんばってほしいと思います。
(2007年8月刊。1600円+税)

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2007年12月11日

悪果

著者:黒川博行、出版社:角川書店
 警察ハードボイルドです。読みはじめたら、その後の展開がどうなるのか、目が離せない思いで、一心不乱に読みふけってしまいました。
 ここではストーリーを展開するわけにはいきませんので、この本に書かれている警察の実情を紹介します。どこまで本当なのでしょうか?
 暴犯係の刑事はヤクザの犯罪を取り締まるのが仕事であり、どれだけの情報をもっているかでその手腕が分かる。日頃から組事務所に顔を出して様子をうかがい、ときには個人的な相談に乗って情報を拾う。組員とのつきあいにどこで一線を引くかは各人の裁量に任されている。
 暴犯係の刑事は、つかんだ情報をめったなことでは他にもらさない。刑事に情報開示は無縁。自分なりに裏づけをとって、これはいけると確信したときに、はじめて口を開く。そういう縄張根性と、手柄をひとり占めしようとする意思があってこその刑事稼業だ。
 刑事は情報が命であり、相手が上司であれ同僚であれ、不用意にたれ流していたら自分の首を絞めることになる。情報は独占してこそ値打ちがあり、もちネタが多ければ多いほど、この世界ではうまく立ちまわれる。
 ヤクザと飲み食いするのも仕事のうち。勘定はもちろんヤクザもち。こちらが弱みを見せればこそ、向こうもスキを見せる。それがマル暴担の刑事の度量だ。
 ひとりで組事務所に出入りしたり、ひとりで内偵捜査をしたがるマル暴担当の刑事は、ヤクザに取りこまれていることが多い。
 県警の監察の役目は警察官の犯罪や不正を摘発することではなく、いかにしてその犯罪を隠蔽するかにある。とりわけ保安や暴犯担当の長い刑事は女や博打や組筋とのつきあいで身をもち崩すことが多く、定年まで勤めあげる刑事はほかの部署に比べて圧倒的に少ない。優秀なマル暴担ほど、途中でドロップアウトする。
 警察はヤクザよりひどい。ヤクザの守り料は定額で、それ以上は要求しないし、払えば守ってくれる。だが、警察は守り料をとらないかわりに、しょっちゅうタダで遊んでいくし、マナーが最悪だから女の子も嫌がる。おまけに盆暮れの挨拶、異動時の餞別、各署対抗の武道大会のご祝儀なども要求され、際限なくお金を払わされる。もし払わないと営業停止になるので、いいなりになるしかない。
 これは風俗店の経営者の言葉です。
 マル暴担という利権を手にしながら気の利いたシノギのひとつも見つけられないような奴は出世する見込みがない。たとえばマンションころがし。マル暴担の刑事が第三者名義でヤクザが入居しているマンションを競売などで安く買う。そして暴対法の中止命令などをかけてヤクザを追い出し、マンションの値が上がったところで転売する。
 保安係、風紀係は最高の利権だ。飲食業や風俗業に対する許認可権と取締権の両方をもち、おのれの胸三寸でどうにでもできる。業者からの接待攻勢はひきもきらず、飲み食いはもちろん、ゴルフコンペ、温泉旅行と、次々にお座敷がかかって身体の空くヒマがない。
 元マル暴担はヤクザよけになるからツブシがきく。金融、保険、流通といった民間企業の顧問を5、6社もすれば、それで食っていける。
 警察官には三とおりある。ごますりの点取り虫と、まじめなだけのボンクラと、ほんまもんの捜査ができる本物の刑事だ。
 署長賞や部長賞や本部長賞といった褒賞をいくら受けたところで、巡査が巡査部長に昇進するわけではない。昇任試験を受けて合格しない限り、巡査は永遠に巡査のまま。警察という絶対の階級社会の中ではまじめに働く人間が損をし、試験に長けた要領のいいやつが得をする。
 警察官は、試験にとおって星の数を増やしたらうまい汁が吸える。妙な使命感や正義感は出世の妨げだ。
 日比谷公園を歩いてきました。見事に黄金色に色づいた銀杏の木から風に吹かれて大量の黄金の葉っぱが落ち、まるで黄金の大雨が降っているような夢幻の光景でした。師走も半ば近くになり、気ぜわしさを感じます。
(2007年9月刊。1800円+税)

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2008年02月01日

警官の血

著者:佐々木 譲、出版社:新潮社
 うむむ、すごい、すごい。この著者の小説にはいつも感嘆してしまいます。警察ものでは『嗤う警官』『制服捜査』『警察庁から来た男』どれも素晴らしい出来具合いでした。今回も期待を裏切りません。じわじわ、じっくり読ませます。電車のなかで時間を忘れるほど読みふけりました。
 今回は警官一家の歴史を静かにたどっていきます。私は、警察官2代目が私と同世代であることに途中で気がつきました。
 ときは学園闘争はなやかなりし頃のことです。高校の成績はいいのに、父親のいない民雄は大学に入らず警察学校に入る。ところが、警察学校に入ったら、警察が費用を出すから国立大学を受験しろというのです。それから猛勉強して北大に入学。北大でも学生運動は活発だった。民雄はビラを集め警察へひそかに流します。やがて、民雄は活動家にオルグされます。共産主義同盟(ブント)からです。京大の塩見孝也を中心とするグループがブント主流派を軟弱だと批判して赤軍派を結成。その赤軍派からオルグされたのでした。民雄は、情報収集を命じられた対象である新左翼の活動家に対して拒否感はなく、むしろその真面目さに敬服していました。
 ところが、オルグされた民雄は、活動家と一緒に上京することを命ぜられます。でも、民雄は、もうボロボロでした。2年間、仮面をかぶって生きてきた。どっちが本当の自分なのか、どっちが仮面なのか、分からなくなってきている。これって結構きついことだ。
 そうでしょう、そうでしょう。私にも、なんとなく、よく分かります。それでも民雄は赤軍派と一緒に同行します。私服刑事と列車内で連絡をとりあいながらの上京です。
 ところが、行き着く先は都内ではなく、大菩薩峠、赤軍派の武闘訓練の場でした。50人ほども集まり、ピース缶爆弾などもつかって訓練します。
 やがて民雄の秘密通信も功を奏して、機動隊が山小屋を包囲して一網打尽にしてしまいます。民雄もうまく逮捕されます。しかし、そのあと民雄は、不安神経症と診断されます。神経がボロボロになりかけていました。感情の鈍麻、ものごとに対する関心の減退、幸福感の喪失という症状があらわれていました。
 実は、私も司法試験の苛酷な勉強のせいで、合格したあと不安神経症と診断されたことがあります。自律神経失調症の一歩手前だということでした。
 学生運動のセクトのなかに警察がスパイを送りこんだり、活動家を抱きこんでスパイに仕立てあげるということは多かったようです。スパイ役をさせられた人たちの多くは、この民雄と同じように不安神経症になったのではないでしょうか。
 警察官であって二部(夜間)大学生だという人は当時、少なくありませんでしたから、彼らのなかにはスパイ役をさせられた人もいることでしょう。
 九州(大分)で起きた菅生事件のときのスパイ役であった戸徳公徳(警察官)は、自ら事件を起こしたあと、警察にかくまわれていましたが、新聞記者が摘発したのちは、むしろ警察官の世界で異例の大出世していき、最後まで高給・優遇されて余生を過ごしました。
 人生を考える素材が、また一つ提供されました。
(2007年9月刊。1600円+税)

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