弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

司法

2018年3月 3日

裁判官、当職そこが知りたかったのです


(霧山昴)
著者  岡口基一、中村真 、 出版  学陽書房

 弁護士のつっこみに裁判官がボケることなく、まともに応答していますので、なるほど、そうなのか...と、つい思うところが多々ありました。若手にかぎらず、ベテラン弁護士が読んでも面白く、役に立つ内容になっています。少なくとも買って読んで損をすることはありません。
 裁判官は忙しいので、訴状を読んでとりあえずの心証をとってしまう。裁判官は訴状の第一印象に、少なくともしばらくは拘束される。
たいした内容でもないのに、準備書面がやたら長いと、もうそれだけでダメ・・・。
 証拠説明書は重要。裁判官は、まず証拠説明書を読んでから証拠を見る。
当事者の陳述書は証拠価値はない。それは単なる尋問のためのツールでしかない。
証人尋問の前の練習しすぎもよくない、これは言わされているなと裁判官が思ってしまう。
 代理人に信頼されていない裁判官は、和解もなかなかできない。代理人とケンカしたら和解は無理。判決は書くのが大変なので、裁判官はできたら判決を書きたくない。和解のほうがいいのは裁判官の共通認識。
 昔は(15年前までは)裁判所内に飲みニケーション文化があり、ほとんど毎日のように飲み会があっていた。いまは、裁判官は孤独になっている。
上でひっくり返されないように意識するというのは裁判官全員の共通認識。
岡口判事は大分出身で行橋支部長もしていました。父親は牧師です。その「要件事実マニュアル」を私が利用するようになったのは、この数年のことです。それまでは若手弁護士が身近にいましたので、利用しなくてすみましたが、今はいませんので、必携です。そしてFB仲間として、その情報発信の恩恵を受けています。
(2018年1月刊。2600円+税)

2018年3月 2日

社会の中の新たな弁護士・弁護士会の在り方


(霧山昴)
著者  司法改革研究会 、 出版  商事法務

 司法改革について、失敗だったと単純に決めつける声が強くなっているようですが、それに関わった当事者の一人として、何事にもプラスとマイナスの面があるのですから、「政治改革」と称する最悪の改革に比べたら、司法改革はよほどましだと私は考えています。
「政治改革」って、結局のところ小選挙区制にしただけではありませんか。そして、この小選挙区制こそ、「アベ一強」という、まったく民意を反映しない、適正手続無視の狂暴政治をもたらした根源です。
その次の「郵政改革」だって、ひどいものでした。郵便局を民営化して、アメリカの資本が日本に入ってきて、身近な郵便局がなくなり、働く人はへとへとになるまで酷使されている現実があります。なんでも民営化すればいいっていうものではありません。国鉄民営化だって、もうけ本位でローカル線の切り捨てが進むばかりです。新幹線のホームに駅員が不在だなんて、恐ろしいばかりです。これでテロ対策を声高に言いつのるのですから、矛盾を感じます。
本題に戻ります。弁護士とは何か・・・。独立性、有用性、学識の3つが属性。他人のための奉仕を目ざし、金銭的報酬の多寡がその成功を測定する尺度とならない職業である。
弁護士の前身が代言人であることは周知のことですが、それは、江戸時代の公事師(くじし)の流れを引き継いでいること、江戸時代も明治初期も、今からすると想像を絶するほど裁判が多く、庶民にとって裁判は身近なものであり、公事師も代言人も、そのニーズにこたえていたこと、明治の代言人は自由民権運動において大活躍していたこと(この点は6頁で少し触れられていますが...)も紹介してほしかったと私は思いました。
弁護士法1条の制定をめぐって、三ヶ月章が根拠なき非難をしている(9頁)ことを知り、残念に思いました(23頁)。私は司法試験を受験するとき、民事訴訟法の基本書は三ヶ月章としていたからです(講義を受けたのは新堂幸司)。
弁護士の特質として在野精神というものがあげられます(33頁)が、では任期付公務員になったとき、また企業内弁護士にとっては、同じように通用するものでしょうか・・・。任期付公務員は、まだ200人ほどの弁護士しかいないようですが、私は、もっと多く10倍以上になってほしいと思います。少し前に国税不服審判所の担当官として弁護士が出てきて話が早くすすんで助かったことがありました。また、企業内弁護士のほうは既に1700人を突破しています。これまた、この2倍、3倍になっていいと思います。ただし、弁護士としての経験をせずにはいるのと、法廷にたったり、依頼者との打合せ・面談の苦労をせずに企業に入るのとでは、質が違うのではないかな・・・と心配はしています。その点、企業内弁護士がジレンマを抱えながら毎日仕事をしている(360頁)というのは、よく分かります。
中尾正信論文のなかに、戦前の弁護士のなかに「不良弁護士」「不正弁護士」「背任弁護士」として叩かれていたとありましたが、これは初めて知りました。弁護士が急増して弁護士の経済状況が一気に悪化し、事件屋と提携する弁護士が増えていたことまでは知っていましたが・・・。戦前には、警察官から弁護士なんかやめて正業につけと説諭されていたという涙の出るような話もありました。
私は明賀英樹論文にまったく同感です。つまり、中小企業の激減という社会構造の変化です。個人商店が立ちゆかず、商店街がシャッター通りになってしまい、小売・製造業が半減してしまったという現実は、中小企業に依拠してきた多くの弁護士の経済状態を悪化させてしまったのです。私の住む町にも、町の中心部と郊外に二つの大きなショッピングモールがあり、あとはコンビニ、ドラッグストアー、そしてコインランドリーだけになりつつあります。そうなると、家庭内の問題をめぐって法テラスを活用し、交通事故は物損をふくめてLAC(弁護士保険)を利用していくことになります。
現在、私のLAC案件は20件です。係争額は20万円からスタートします。過失割合が7対3か95対5かということで裁判にもち込むことが不思議ではありません。
法律事務所の大規模化は私も避けられない現象だと考えています。2009年に51人以上の法律事務所にいた弁護士が290人だったのが2015年には601人となり、101人以上だと1709人が2603人になったのは自然の成り行きだと思います。ただ、これが4万人になる弁護士総数に占める比率にかかわらず、弁護士会の役員に占める比重が多過ぎると、弁護士会の運営がギクシャクしてくるようになるのではないかと心配します。
各論のなかで取りあげてほしかったのは、弁護士報酬の問題です。タイムチャージをふくめて、独禁法違反と指摘されて弁護士会の報酬規準が撤廃されたあと、どのように運用されているのか、そこで何が問題になっているのか、大量のテレビ宣伝・チラシ広告の是非とあわせて究明すべき問題点があると思います。
いずれにせよ、400頁で研究成果をぎっしり詰め込んだ濃密な書物となっています。惜しむらくは、定価7000円とは、あまりに高額なので、手にとって読む弁護士はほとんどいないと思われるところです。その点だけが残念でした。
(2018年1月刊。7000円+税)

2018年2月27日

新・税金裁判ものがたり

(霧山昴)
著者  関戸一考・関戸京子 、 出版  メディアランド

私は税務署と長くたたかってきましたが、実は税務訴訟を担当したのは残念ながらそれほど多くありません。本当は、たくさんの納税者が無理・無法な課税処分に泣かされていると思います。しかし、税務署とたたかうには、本人に強烈な怒りを持続させることが必要ですし、取引先に恵まれないといけません。
税務署は反面調査と称して取引先に嫌がらせをしますし、本人への報復措置を平気でとってきます。これらを乗りこえるだけの怒りとそれを支える体制が必要なのです。この本の著者も本人に十分な怒りがあることを第一にあげていますが、まったく同感です。
著者は30数年間にわたって税金裁判を専門としてやってきました。かつては労働弁護士だったのが、今では税金弁護士へ変身したのです。その豊富な税金裁判の経験をふまえていますので、とても実践的な手引書です。
税金裁判で対峙することになる税務署(国)側の代理人は、実は裁判官が出向してきている人が多い。そして、彼らは全国的な検討会を定期的に開いている。だから、税務署とたたかって勝つためには、納税者の側も集団的議論をして検討・対応しなければいけない。税理士と共同し、学者や裁判官出身の弁護士と共同戦線を組むということが必要なのです。
とても信じられないことですが、税務署は関係書類を閲覧させても謄写は許さないという時代がごく最近までありました。法律の根拠がないというのが、その口実でした。自らは納税者の書類をさっさとコピーしたりするのに、自分はコピーを拒否してきたのです。つい最近、ようやくコピーをとるのか法改正で認められました。
また、審査請求のとき、課税庁に直接質問できるようにもなりました。私のときには一方的に主張するだけでした。税務署のなかには「納税者の権利」だなんて...と、せせら笑う人たちがいます。その典型で世間に顔を出さない佐川・国税庁長官です。
税務訴訟に至るまでの手続の流れが具体的に解説してあり、とてもイメージをつかみやすいと思います。そして、単に手続きの流れだけでなく、扱った事件でどんな苦労をしたのか、どんな成果をあげたのかも要領よく紹介されています。
たとえば、認知症の母から贈与契約について税務署が課税してきたのに対して、その無効を主張して、支払った贈与税を取り戻したというのです。すごいですね、この発想は・・・。物納許可がなかなかおりないうちに不動産の価額が上昇し、10年以上もたったあいだの未払金(延滞金をふくむ)の処理をどうしたらよいのかを争った件は、私の想定をこえる話でした。
推計課税の争い方にしても、税務署が他の人の青色申告書をなかなか開示しないのを開示させた例も紹介されていて、本当に明日からの実践に役立つことの多い本です。税金訴訟に関心のある人には必読文献です。
シャモニーなどの登山・トレッキング・ロッククライミングの写真が巻末にあるので、これには癒されます。やはり多忙のなかにも休息は必要です。
(2017年2月刊。3500円+税)

2018年2月 1日

転落自白


(霧山昴)
著者 内田 博文 八尋 光秀、鴨志田 祐美 出版 日本評論社

 「日本型えん罪」は、なぜうまれるのか、というサブタイトルのついた本です。
 現実にあった間違った裁判のほとんどで、やってもいない人が「自白」をしています。この本は、やってもいない犯行を「自白」してしまうカラクリを明らかにします。
 この本の面白いところは、まず、やってもいない人が「自白」する流れを、一つの話としてまとめたところです。なるほど、無実の人がこうやって「自白」させられていくのが、読み手がぴんと来る仕掛けです。
 次に、実際にあった足利事件、富山氷見事件、宇都宮事件、宇和島事件を取りあげて問題点を解説します。警察官も検察官も、裁判官も、さらに弁護士までが、やってもいない「ウソの自白」を「ホントの自白」だと信じた。ところがひょんなことから、無実だと判断した。
 死刑判決が言い渡された事件でも冤罪事件はあった。免田(めんだ)事件、財田川(さいたがわ)事件、島田事件そして松山事件の4つ。死刑判決でも間違っていた。あやうく死刑が執行されそうになった人が少なくとも4人はいるのです。
いま、飯塚事件が問題となっています。死刑が確定して執行されてしまった人が無実だったのではないかという事件です。これは、そんな古い話ではありません。今でも、日本のどこかで無実なのにぬれ衣を着せられて泣いている人がいるかもしれないのです。
調書を中心とする供述分析は、世界中を見渡しても日本のほかには、あまり行われていない。日本の裁判は調書にもとづいてなされている。
 取り調べ場面を録音か録画されるのは、アジアでは韓国、台湾、香港ですでに実施されている。しかし、日本では、依然として取り調べ場面の全面的な可視化は実現していない。
 DNA鑑定の古いものは足利市の人口にあてはめると、同じ型の人が男性でも、100人もいるというレベルだった。ところが、新鑑定では、型が一致する確率は4兆7000億人に1人である。地球人口が70億人だとされているので、地球上に型の一致する別人はいないということを意味している。
供述調書の心理学的特性を究明する試みも紹介されています。
 犯行供述に被害者が不在であるという特徴のある供述調書は、体験記憶にもとづいて供述していると評価することは困難。
逮捕されたら、全生活を他者のコントロール下に置かれてしまう。食事、排泄、睡眠という基本的生活まで他者に支配され、自分が自由にできる範囲が大きく限局される。その結果、自己コントロール感を失う。誰も自分の無実を信じてくれる人がいないとの絶望感は、もはや無実を主張する気力を奪ってしまう。警察で認めたのに、検察庁や裁判所で否認すると厳しい取り調べをする怖い人にもどってしまうことを何より恐れる。
裁判官には、検察そして警察に対する仲間意識がある。裁判官は独立しているために孤立しがちである。
えん罪を日本からなくすために頑張っている若手弁護士との学者が、その勢いをもって書き上げた本です。広く読まれることを願います。ご一読ください。
(2012年7月刊。1900円+税)

2018年1月31日

気概


(霧山昴)
著者  小田中 聰樹 、 出版  日本評論社

 著者は司法改革に一貫して反対してきた学者です。当然、ロースクールも反対です。したがって、現在のロースクールの悲惨な状況は当然のこととみています。
 私自身は今回の司法制度改革を間違っていたと一刀両断するのには反対です。何事によらず歴史はジグザグしながらすすんでいくものです。司法改革のすべてをアメリカと財界の要求にもとづき発動したものとみるのは一面的すぎると考えています。
 それはともかくとして、長年にわたって司法制度の民主化のために奮闘してきた学者としてその主張には耳を傾けて、学ぶべき点が大きいと思います。この本は著者を3人の学者がインタビューした成果を基本としていますので、大変読みやすくなっています。
 著者が権力と戦ってきた原点は、小学生のとき中国大陸へ出征中の父に対して特高が治安維持法違反容疑で家宅捜索したのを目撃したことにある。たしかに、大変なショックだったでしょうね・・・。
 著者にとっての一番の教師は両親だった。このように言い切れるというのは、尊敬できる両親と良好な関係を維持していたということですね。うらやましい限りです。
 たくさんの論文を書いて本にしていますが、著者は体系的な教科書を書かなかったことが残念だということです。著者は、無罪判決請求権を中核とした刑訴法の体系をつくりたかったとのこと。いったい、どんな内容の法体系なのでしょうか・・・。
 弁護人と検察官がたたかい、最後には人民の力に依拠して勝訴し、そのことによって真実が明らかになるというのが著者の発想。これに対して松尾浩也教授は、裁判官の賢明さに信頼し、裁判官の権力によって真実が明らかになるとする。これは裁判官司法だ。
平野竜一教授は、裁判官を信頼するという立場で、誤判はめったにありえないと考えた。
東大の学者は、権力にすがって権威をもつという抜き難い考え方がある。権力の権威を笠に着て、その範囲でときどきは批判する。しかし、権力の真正面からぶつかることはしない。これが東大法学部の権威の原点。
 弁護人は被告人の意思に従属する存在ではない。弁護人には独立性があって、被告人とはある意味で対立してでも被告人の権利を守るためにたたかうべき場合がある。弁護士には弁護士固有の権利と義務があって、雇われ弁護士では言い尽くせない、独立性と権限がある。
著者の人物評は面白いです。宮本康昭さんは素晴らしく頭のいい人で、どこか飄々としたところのある心に余裕がある人だ。心に余裕があるから屈しなかった。岩村智文弁護士(川崎)は、ものすごく頭のいい人で、知恵袋、戦略家。寺西和史裁判官は、何があってもめげない、何というか不思議な人。非常に独特な個性の人。
司法改革は、ロースクールにせよ、法曹人口の増加、刑事訴訟法の部分的な改正といい、あらゆる面で失敗だった。やはり権力は狡知に長けている。権力を侮ってはならない。部分的な改正に目がくらんで、全体として見る目を失ってはいけない。
なるほどと思うところは確かに多い本でした。いろいろ問題はありますが、私はそれでも司法制度は前より少しはましになってきているところが多々あると私は考えています。引き続き著者には鋭い指摘を期待します。
(2018年1月刊。1400円+税)

2018年1月16日

粉飾決算VS会計基準


(霧山昴)
著者  細野 祐二 、 出版  日経BP社

 この本を読むと、大企業の経理って、本当にいいかげんなものだと思いました。また、大手の監査法人も大企業の言いなり、その召使でしかない存在だと痛感します。これじゃあ真面目に税務申告して税金を払っているのがバカらしくなってきます。まあ、国税庁の長官が例の佐川ですから、「アベ友」優先の税務行政はひどくなるばかりでしょうね・・・。それにしても、公認会計士って、実に哀れな職業なんですね。みんな何のために苦労して資格をとったんだろうかと信じられない思いがしました。
 360頁もある大作ですし、会計学のことは分かっていませんので、誤解しているところも多々あるかもしれませんが、ともかく最後まで読んでみました。
 公正なる会計慣行は常に二つ以上ありうる。アメリカに上場している日本の大企業は、日本の会計基準ではなく、アメリカの会計基準にしたがった財務諸表を作成して開示している。目的による優劣に差のある複数の公正なる会計慣行のなかで、さらに目的により優劣に差のある複数の会計処理の方法が並存可能であり、それは会計の常識であって、社会はこれを許容している。ところが、日本の裁判所は最高裁も含めて、「公正なる会計慣行は唯一だ」としている。これは、そもそも前提が間違っている。
税法基準とは、税務上損金処理できるものが計上されてさえいれば、あとは何をやってもいいということで、このようなふざけた会計慣行が、当時の大蔵省銀行統一経理基準において、公正なる会計慣行として立派に認められていた。
 粉飾決算とは、事実と異なる重要な財務情報を悪意をもって財務諸表に表示する決算行為をいう。悪意がなければ、たとえ重要な虚偽表示があろうと、それを粉飾決算とは言わない。悪意が経営者にあったかどうかは、経営者の心の中の問題である。外形的かつ客観的にこれを判別することはできない。会計基準の錯誤は、故意を阻却する。
監査報告書の製品差別化ができない監査業界において、監査法人が営業努力により新規の監査契約をとるのは難しい。しかし、監査法人がいったんとった監査契約を解約するのは、それ以上に難しい。上場会社の監査契約は適正意見を暗黙の前提として継続されるというのが社会的通念となっている。監査法人が交代するというのは、世間には言えないのっぴきならない事情があると考えられる。監査法人により不正会計処理が発見されるのは、監査法人が交代したあとの、新しい監査法人による新年度監査のときが圧倒的に多い。
 日本の4大監査法人のうち最大級の2監査法人(あずさと新日本)がこのざまでは、他の監査法人も推し知るべしで、社会は粉飾決算の発見防止機能について、もはや何の選択の余地も残されていない。日本の公認会計士監査制度については、抜本的な検討がおこなわれるべきだ。
ほとんどの日本の監査法人は、監査調書のドキュメンテーションと、有価証券報告書の作成補助に汲々としており、会社の内部統制から独立した会計監査などできもしなければ、事実としてやっていない。日本社会は、この現実を直視すべきである。
東芝は、監査法人にとってまことに良い顧客で、結果として何の意味もなかった例年の監査において、新日本監査法人に10億円、EYに17億円という、美味しい監査報酬を支払っていた。しかも、粉飾への共謀が明らかとなった2016年3月期には、粉飾訂正のためという口実で、新日本監査法人に53億円、EYに26億円、合計79億円の報酬を支払っている。ちなみに金融庁が、東芝の粉飾決算に対する監査について新日本監査法人に課した課徴金は21億円あまり。これでは新日本監査法人は焼け太りで、金融庁の課徴金など、たいた意味をもたない。
 今では公認会計士ではない著書の一連の鋭い指摘について、公認会計士側からの反論があれば、それもぜひ読んでみたいと思いました。
(2017年10月刊。2400円+税)

2018年1月15日

明るい失敗


(霧山昴)
著者 原 和良 、 出版  クロスメディア・パブリッシング

 いい本です。読んでいるときから、気持ちが軽くなっていき、読み終わったときには、さっぱりした気持ちになって、さあ、あすはどんなあしたが待っているかなと期待できるようになります。軽い本です。200頁の本に明日から明るく生きていくヒントが満載です。そうか、そういうことだったのか、自分を振り返ることができます。
 忙しいとは、心をなくすと書く。充実した人生を送ろうとすると、人生は本当に時間がない。人は、世の中で大切にされていない、と感じたとき、やり甲斐や充実感を失い、同時に自分の生きている時間を奪われていると感じ、忙しいという感情をもってしまう。
忙しい人に仕事が集中する。なぜか・・・。本当に忙しい人は、短時間で質の良い仕事を仕上げる努力をする。
 忙しい人が忙しいなかで、長期にわたって効率的に仕事を続けるには必要条件がある。それは心身の健康状態を常に最高レベルに保つこと。
 忙しいと思うときこそ、適当なリフレッシュや休息が必要。
 ビジネスで一番大事なのは、貯金ではなく、他者からの信頼の貯金である。
 大なり小なり、人生には思いがけない災難がふりかかってくる。どんな災難がふってかかろうとも、前進するためには、いったんその災難を受け入れ、そこから前に進むしかない。
 他人(ひと)に助けを求めることが必要なときもある。しかし、自分自身に乗り越える覚悟がなければ、他人は助けようがない。
 弁護士である著者は、離婚事件を見ていて、何が幸福かを決めるのは、社会や他人ではなく、その当事者本人であることをつくづく感じると言います。私も、それは同感です。
 そしてまた、著者は弁護士として、たくさんの逆境を見てきた。弁護士の仕事は逆境を引き受け業とも言える、と言います。
逆境は永遠に続くものではない。どんな嵐も時間の経過とともに過ぎ去っていき、乗り越えることができる。
 まったく私も同感です。私は、付け加えると、辛い思いをした依頼者には、しばらく旅に出たらどうですかと進めています。時と場所を変えてみると、なあんだ・・・、なんで、あんなに苦しんでいたのだろう・・・と、自分を客観的にとらえ直すきっかけをつくってくれることがあるのです。
 失敗したときこそ笑いましょう。著者のこの呼び替えに私は大賛成です。人生には笑いが必要です。辛さや悔しさを乗り越えるためには、笑い飛ばす力が欠かせません。
 佐賀県出身で、東京で大活躍している弁護士の本です。映画『それでもボクはやっていない』のモデル事件となった痴漢冤罪事件の弁護人でもありました。一読を強くおすすめします。

(2017年10月刊。1380円+税)

2017年12月 1日

反核・平和を貫いた弁護士・池田眞規

(霧山昴)
著者 池田 眞規 著作集刊行委員会 、 出版  日本評論社

昨年(2016)11月に88歳で亡くなった池田眞規弁護士を追悼する著作集です。その一生涯を反核・平和のために過ごしたと言ってよい池田弁護士は世界中に知己をつくっていたようです。
問題を多方面から見ながら生まれる豊かな発想、ときに周囲をはらはらさせる天衣無縫、自由な行動、そしてそれを進める強い意思と頑固さ。
池田弁護士は、ものすごいバイタリティーで世界中を駆け巡りました。
この本の圧巻は、反核・平和のための世界法廷での池田弁護士の活躍ぶりを紹介した部分です。このとき、日本の外務省は核兵器廃絶に反対する立場から、陰に陽に足をひっぱったようです。本当に残念なことです。たとえば、広島・長崎の市長は世界法廷に出廷するとき、証人として意見は言えないと外務省はタガをはめようとしました。とんでもないことです。しかも、両市長の発言内容への干渉もしたのです。
外務省は両市長に対して事前に発言原稿を見せろと求め、それに応じた長崎市長は12回も訂正を求められた。他方、広島市長は、「原稿ができていない」と言って逃げた。また、事前に公表するのは、裁判所に対して失礼にあたると言って逃げきり、当日は、核兵器の使用等は違法だし、国際法にも反すると陳述した。日本の外務省は政府の方針を忠実に実践しているだけとは言え、あまりにも情ない限りです。アメリカの核兵器によって日本の平和が守られているなんて神話に取り込まれすぎです。
池田弁護士は百里(ひゃくり)基地の訴訟にも関与しています。一審で敗訴したとき、原告団が弁護士たちを次のように言って励ました。
「裁判だから、勝つこともあらあな・・・。敗けることもあらぁな、へへへ・・・」
自衛隊が憲法違反かどうか調べるため、防衛庁(当時)の統幕部長や空幕長(源田実)を証人として呼んで法廷で質問しています。合計9人です。そして、二審でも12人もの学者などを証人として調べています。すごいことです。
いま、全国で安保法制が憲法違反だということを明確にさせる裁判が係属中です。ぜひ裁判所に明確な違憲判決を出してほしいものです。
故池田弁護士の遺思を受け継ぎ、次世代に反核・平和の動きの橋をつないでいくうえで、大いに役に立つ追悼集だと思いました。
(山形・T氏)

2017年11月26日

知らぬは恥だが役に立つ法律知識

(霧山昴)
著者 萩谷 麻衣子 、 出版  小学館新書

弁護士生活も40年を過ぎてしまうと、自分の法律知識は果たして大丈夫なのかと、つい不安になってしまうことがあります。いえ、認知症の心配をしているのではありません。そうではなくて、新しい法律がどんどん生まれていて、法改正も次々になされているので、ちゃんと追いついているのか不安になるのです。
それで、ときどき、こんな一般向けの法律解説書を読んでみます。すると、やっぱり教えられることが多々あります。
自転車は、車両の一種である軽車両にあたるので、お酒を飲んで運転したら飲酒運転が成立するとのこと。恥ずかしながら、私は知りませんでした。そして、自転車の運転に青切符的な制度が導入されている。自転車についても賠償保険に入っておかないと大変です。
痴漢と間違われたとき、堂々と立ち去れる状況なら立ち去るのがベスト。下手に駅長室に入ってきちんと事情を説明して冤罪だと分かってもらおうとすると、現行犯逮捕されたとして勾留されることがあるのです。怖い世の中です。
過払金の返還について、「消費者問題に取り組む弁護士たちが、苦労の末に勝ち取ったもの」だと著者は正しく評価しています。本当にそのとおりです。過払金の取戻は全国のクレサラ問題対策協議会のメンバーの血と汗の結晶だったのです。
未払残業代の請求について、先日、相談を受けました。2年間の時効の問題もありますが、残業したことをどうやって立証するかがポイントになります。記録、メモ、タコグラフなど、なにか手がかりになるようなものがほしいです・・・。
不倫の慰謝料の相場を、この本は300万円から400万円としています。これは合計金額で、その内訳を夫が200~250万円、愛人が100~150万円とします。福岡でも同じようなものではないでしょうか・・・。
離婚不受理届について、6ヶ月という有効期間がなくなっていることを初めて知りました。取り下げ申請するまで効力があります。
死後離婚というのは姻族関係終了届です。姻族の了解を得る必要はなく、いつでも提出可能。
不倫した社員をそれだけで懲戒処分することは出来ない。何らかのトラブルが起きて業務に支障をきたしていれば別だが・・・。
テレビでコメンテーターしている女性の弁護士のようですが、私も勉強になりました。
(2017年10月刊。780円+税)

2017年11月14日

破天荒弁護士クボリ伝

(霧山昴)
著者 久保利 英明・磯山 友幸 、 出版  日経BP社

私の先輩になりますが、まだまだ若い、現役バリバリの弁護士です。
日本一訪問した国が多い弁護士。なんと170ヶ国。私の自慢はもっとささやかです。日本全国、行ってない県はありません。
日本一著作の多い弁護士。本書が76冊目にとのこと。巻末に、そのタイトルが紹介されていますが、私が読んだのは数冊だけだと自覚しました。私も自費出版の小冊子を含めて40冊ほど刊行していますが、せいぜい半分ですね。
よく働き、よく遊べ。これは真似できません。なにしろ著者は、年に5週間(夏3週間、冬2週間)も、海外へ出かけているのです。私も30歳代から年に1回は海外旅行してきましたが、最長40日で、あとは長くて1週間から2週間です。とても著者にはかないません。
23期司法修習生の終了式のとき「騒動を起こした」首謀者として罷免された阪口徳男修習生について、この終了式に携帯用テープレコーダーを持ち込んでいたのは著者だったことを初めて知りました。阪口修習生の発言時間はわずか1分13秒間だったのです。明らかな冤罪事件です。これも権力犯罪ですよね。
弁護士とは闘争業だ。法律という「権力の言葉」を操りながらも、弱者の側、正義のある側に寄り添って、より良い社会を実現するのが弁護士の役割。目的と手段に正義を要求する。単なる法律解釈から一歩も二歩も踏み出して、戦略を練り、戦術を工夫して、武器を改良し技量を練磨して、依頼者の思いに応えるのが弁護士の仕事。必ず解決法を明確に提示する。
社長と専務(この二人は親子)を同時に解任するという離れ技(わざ)を実現したというのには驚きました。綿密に計画を立て、入念に予行演習して成功したとのこと。さすがです。そして、取締役会のスタートと同時に社長室と専務室に鍵をかけて入れないようにしたのでした。うむむ、見事ですよね・・・。
目立った存在になってから、著者は東京地検特捜部から狙われたことが2度もあるとのこと。さすが大物です。そして、そのとき、裁判官面前調書として尋問を受けたのでした。いやはや、この手があったのか・・・。と驚きました。私が弁護士になった40年以上も前のことですが、同じように裁判官面前調書を活用するという話をしていたのを懐しく思い出してしまいました。
ヤクザや総会屋だけでなく、ときには依頼者の側に立って国家権力と対峙する。それが他の職業では味わえない弁護士の醍醐味である。
著者が1日1食主義だというのに驚きました。タバコを吸い、酒は毎日欠かさず、塩分もカロリーも紫外線も気にしない。嫌なことはせず、やりたいことだけする。
新しい弁護士の活躍できる分野を次々に開拓していった著者ならではの意気込みあふれた本です。後輩にあたる私も、いささか発奮してしまいました。多くの若手弁護士に一読をおすすめします。
(2017年11月刊。1700円+税)

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