弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

アメリカ

2018年8月 9日

インターネットは自由を奪う

(霧山昴)
著者 アンドリュー・キーン 、 出版  早川書房

全世界に水洗トイレを利用できる人は45億人であるのに対して、ケータイをもつ人は60億人。
インターネットのユーザー30億人が毎日、1分あたり2億400万通のメールを送り、72時間分の動画をユーチューブに投稿し、400万回の検索をグーグルで実行し、246万点のコンテンツをフェイスブックでシェアし、4万8000点のアプリをアップルストアでダウンロードし、8万3000ドル分の商品をアマゾンで購入し、27万7000回のつぶやきをツイッターに投稿し、21万6000点の写真をインスタグラムに投稿した。
このうち、私もメールを送受信し(私のできるのはメールを読むだけ)、フェイスブックを開いて眺めること、アマゾンで本を注文する(事務職員に頼みます)ことです。入力はできませんし、しません。ブラインド・タッチの入力なんて練習したくもありません。
アマゾンは雇用を生みだすどころか、雇用をつぶしている。2012年だけで、アマゾンは正味2万7000人分の雇用を破壊した。アマゾンには労働組合がなく、投資会社には金のなる木であっても、労働者にとっては悪曹のような職場だ。
グーグルは、2014年に時価総額4000億ドルで、世界の企業価値ランキングで、アップルに次いで2位を占めた。グーグルのオーナーであるブリンとペイジは、それぞれ300億ドルの資産をもつ世界屈指の大富豪だ。グーグルの従業員は4万6000人。ゼネラルモーターズの従業員は20万人をこえる。
フェイスブックは2014年に時価総額が、コカ・コーラ、ディズニー、AT&Tを上回る1900億ドルだった。
IT企業のオーナーは、頭脳・魅力・先見の明、知性、カリスマ性をもっている。ただし、彼らには、自分ほど成功していない人々への思いやりというものは欠如している。
ネット上で、女性軽視・嫌悪の犠牲となった女性はとても多い。ネット上の憎悪にみちた攻撃によって少年少女たちの心が傷つき、その結果として自殺してしまう少年少女が少なくない。
テロ集団、たとえばISISはソーシャルメディア(ネット)を効果的に利用している。
イスラエルとハマスとの紛争では、双方とも、それぞれ専門チームを編成して攻撃しあった。プロパガンダ、嘘の応酬があった。
これって、怖いですよね。何が真実か、容易に判明しませんので・・・。
ウィキペディアの医療関係項目の9割に間違いがあり、そのほとんどに「多くの誤り」があった。ネットを簡単に信用してはいけないっていうことなんですよね。それでも、手軽なものですから、つい信じ込んでしまいがちです。
IT企業のエンジニアのうち女性の占める割合はわずか3%ほどでしかない。
サンフランシスコは、全米でも格差の大きい四大都市の一つとなっている。極端な勝ち組が多く集まり、多数の負け組は狭い地区に閉じ込められているのです。
ネットは必要ですし、使いこなさなければなりませんが、階級差を一層拡大させる危険なものでもあることがよく分かりました。
(2017年8月刊。2300円+税)

2018年8月 7日

核戦争の瀬戸際で

(霧山昴)
著者 ウィリアム・J・ペリー 、 出版  東京堂出版

アメリカ国防長官をつとめていた著者は、核兵器に抑止力なんてないと断言しています。まったく、そのとおりです。
著者はキューバ危機以来、核兵器を扱う政府の指導中枢にいた。核戦略を選択する場に身を置き、それに関する最高機密に直接アクセスできる人生を歩んできた著者の出した結論は、核兵器は、もはや我々の安全保障に寄与しないどころか、いまや、それを脅かすものにすぎない。
9,11同時多発テロは数千人レベルの死者を出したが、核爆弾テロは即死者8万人、重傷者10万人超となり、9,11テロの100倍の犠牲者を出すだろう。
世界の人々は、今や偶発の事故にせよ人間の判断ミスにせよ、核のひきおこす大惨事の可能性にさらされるようになった。この危険性は、決して単なる理論上のものではない。アルカイーダが宣言した目標は、9,11のような、単にアメリカ人を数千人殺害するのではなく、数百万人を殺害することにある。そのため、核兵器を入手すべく懸命の努力を続けている。
キューバ危機のとき、全世界は核兵器によるホロコースト、つまり人類滅亡の瀬戸際まで追い込まれた。世界を未曾有の破滅から救ったのは、キューバからの撤退を決断したフルシチョフのおかげである。
大規模な核攻撃の破壊力に対して、何ら可能な防御手段は存在しない。
唯一意味のある防御手段は、それを起こさせないこと。
我々が優先すべきは、核攻撃からの防衛という無意味なことに資源を投入するのではなく、むしろ攻撃を未然に防止することに投入すべきである。
アメリカ陸軍は、信じられないことに、戦術核兵器をほかの爆弾と同じように使える大型爆弾と見なし、おかげで正常の爆弾ほど数はなくしてすむくらいに考えていた。
アメリカの国防長官だった人が核兵器の抑止力なんて全然ないし、核兵器はなくすべきだと公然と主張している画期的な本です。南北会談そして6月12日の米朝会談の意義を過小評価したがる人は少なくありません。そうは言っても少なくとも朝鮮半島での戦争の復活はなさそう(あったら困ります)し、朝鮮半島の平和が確立したら、アメリカ軍基地が日本国内にある「必要」はないでしょうし、日米安保条約だって無用となるでしょう。ところでイージス・アショアが当初1基800億円だったのが3000億円かもしれない(2基で6000億円)というニュースが流れました。呆れてモノが言えません。必要のないものに、効果だってないのに、こんな大金を投入するなんて、馬鹿げています。アメリカ軍需産業は喜ぶでしょうが、日本の福祉・教育予算がますます削られてしまいます。
本書の一読を強くおすすめします。
(2018年1月刊。2500円+税)

2018年7月20日

マーティン・ルーサー・キング

(霧山昴)
著者 黒崎 真 、 出版  岩波新書

私にとっては、マルティン・ルーサー・キングですので、そう呼びます。彼がメンフィスで凶弾にたおれたのは1968年4月のこと。私は大学2年生です。東大闘争が2ヶ月後の6月に始まりました。全世界がなんとなく騒然としていたころのことです。
といっても、日本の学生デモはまだ平穏な状況にありました。アメリカのような黒人の群衆がたちあがり、白人がいらだって武力で弾圧するというのは、対岸の火事でしかありませんでした。ヨーロッパ、フランスやドイツが騒がしくなるのも5月以降のことです。
等身大のキングが描かれていると思いました。英雄として美化されすぎることもなく、その苦悩の日々が紹介されています。
キングは、アメリカにおける黒人解放運動が、インドのガンジーのような非暴力主義路線で成果をあげることができるのかという難問に直面していたのです。白人側は野蛮な、むき出しの暴力で襲いかかってくるのです。それを非暴力で迎えたら、しばり首で木に吊り下げるだけではないのか・・・。とても重い問いかけです。生半可なことではやってられません。
南部において、黒人教会は黒人の社会生活の全領域に密着した最も重要な社会組織だった。都市では、黒人自身が黒人教会を所有しており、黒人牧師は白人に解雇される心配がなかった。黒人牧師は概して白人社会に経済的に依存しない分、言論と行動に関して相対的に自由な立場にあった。
キングは、3世代にわたる牧師の家系に生まれた。祖父アダムが教会を父が引き継いだ由緒ある黒人教会だった。家庭環境は、キングの人格形成に大きな影響をもった。それは何よりも、キングが心身ともに健康に成長し、肯定的な世界観をもつことを助けた。
黒人会衆がもっとも聴きたい説教とは何だったか・・・。それは、神は確実に自分たちの自由の問題に関与していること、そして最後には自分たちは確実に自由になれると説く説教だ。「神の臨在」の体験こそ、過酷な環境を生き抜き、たたかう霊的活力を黒人たちに与えてきたものだった。
キングの説教は、抽象論に陥ることなく、人々の日々の経験や生活に即して語るように努めたものだった。
キングは、神のご臨在を体験した。「マルティン・ルーサーよ、大義のために立て。正義のために立て。真理のために立て。見よ、私はおまえと共にいる。世の終わりまで共にいる」
キングは、たたかい抜けと呼びかけているイエスの御声をたしかに聞いた。イエスは決して一人にはしないと約束してくださった。1956年1月27日の夜、自宅のキッチンでの出来事だ。
1877年から1950年にかけて、南部では4000人(大半は黒人)がリンチされている。
キングは27歳のとき、公民権問題における全国的シンボルになった。
キングはガンジーの非暴力に共鳴した。①非暴力は、勇気ある人の生き方である。②非暴力は友情と理解を勝ちとろうとする。③非暴力は、人ではなく、不正を打ち倒そうとする。④非暴力は自ら招かざる苦しみが教育し、変容させると考える。⑤非暴力は憎悪の代わりに愛を選ぶ。⑥非暴力は、宇宙が正義の側に味方すると信じる。
1963年8月28日、ワシントンでの大集会でキングは演説の最後に5分間のアドリブを加えた。有名な歴史的演説です。先日、キングの孫娘が、銃をなくせという大集会で感動的な演説をしました。
私には夢があります。イエース。それは、いつの日か、この国は立ち上がり、すべての人間は平等につくられているという、この国の信条を生き抜くようになるだろうという夢です。イエース。私には夢があります。ウェル。それは、いつの日か自分の4人の小さな子どもたちが、皮膚の色によってではなく、人格の中身によって評価される国に住むようになるだろうという夢です。
このキングの演説を聞いた聴衆は万雷の拍手でこたえた。少しのあいだ、あたかも神の国が地上に出現したかのようだった。
何度きいても、また読み返しても素晴らしい演説です。残念なことに、その夢の実現はアメリカでも、そしてこの日本でも、ほど遠いのが現実です。ヘイト・スピーチなんて、やめてほしいです。
 キングは、ベトナム戦争に公然と反対したのですが、それはアメリカ国民の反発を買ってしまったのでした。アメリカ国民の多くは、このころ、まだベトナムで正義の戦争をしているという幻想に浸っていたのです。
きびしい人種差別と貧困のため、黒人の若者は軍隊のほうがましだとベトナム戦争に志願し、その多くが戦死していった。しかも大義のない、間違った戦争のために・・・。
キング暗殺の実行犯は白人男性。共謀者がいたのではないかと疑われているが、真相は今なお不明。
キングは財産をほとんど残さなかった。5000ドル(50万円)の預金しかなかった。長く借家ずまいで、4人のこどものために買った家は1万ドル(100万円)だった。
キングは黒人の公民権運動だけでなく、経済的正義や貧困問題についても取り組んでいた。このことを忘れてはいけない。
キングは「普通の人」だった。子どもが大好きだったし、女性関係という矛盾もかかえていた。
それでも、キングを今の私たちは忘れてはいけない。強く思ったことでした。
240頁の新書です。ご一読を強くおすすめします。読むと、勇気というか元気が出てきます。
(2018年3月刊。820円+税)

2018年7月 4日

漂流するトモダチ、アメリカの被ばく裁判


(霧山昴)
著者  田井中 雅人、エィミ・ツジモト 、 出版  朝日新聞出版

3・11大震災のとき、アメリカ軍がトモダチ作戦を展開していたことは知っていました。アメリカ軍が大震災を利用して、それを口実に軍事演習を展開していたと考えていました。
ところが、たとえば原子力空母ロナルド・レーガンの乗組員5000人が大量の放射能を浴びて、その結果、多くの兵士たちが白血病などにかかって苦しんでいるというのです。そして、彼らは裁判に訴えます。その原告は400人以上にのぼります。
トモダチ作戦で、アメリカ軍と自衛隊は、過去に例のない規模で「共同作戦」を実施し、「日米同盟の絆」を盛んにアピールした。
原告らは東京電力を被告として、アメリカのカリフォルニア州サンディエゴの連邦地裁に提訴した。損害賠償として1000万ドル、懲罰的賠償として3000万ドル、医療費をまかなうための1億ドルの基金の設立。これを原告らは求めている。
空母レーガンは、攻撃海域で、何度も放射性プルーム(帯状の雲)に包まれた。熱い空風が吹き抜け、口の中にアルミホイルをなめたような感触だった。甲板にいた乗組員は、やがて皮膚が焼けるように熱くなって、ヒリヒリした。そして、頭痛に襲われた。
空母は艦載機が発着するため、常に外気にさらされている。これに対して、駆逐艦はカプセルのようなもので、圧力調整された艦内には外気が入ってこない。巨大な換気フィルターは、放射性物質をしゃ断するので、放射能による汚染の心配はない。
その空母レーガンには5000人もの乗組員がいて、「浮かぶ都市」のようなものだ。警察もあれば、刑務所もある。空母レーガンの艦長は指揮官として、「水が汚染している恐れがある。飲むな」と全乗組員に指示した。3日目のこと。
レーガンの航海日誌によれば、3月16日夜から翌17日朝にかけて、5時間ほどプルームに入っていた。症状としては、全身に「はっしん」し、しこりを感じる、頻脈などなど・・・。
東電側は、法廷で次のように明言した。
被告東電は、たとば放射性物質の放出は認めるが、その放射量はきわめて微量。
トモダチ作戦に従事した7万人もの兵士から、300人から400人の被害者が出たという情報が著者にもたらされた。
トモダチ作戦によるアメリカ軍兵士たちの被害回復を目ざす裁判にも注目しようと思いました。。
(2017年10月刊。1600円+税)

2018年6月23日

トレイルズ


(霧山昴)
著者 ロバート・ムーア 、 出版  A&F

アメリカ東部には全長3500キロメートルという長距離自然歩道、アパラチアン・トレイルなるものがあるのだそうです。初めて、知りました。全長3500キロメートルというと、下関市から青森市まで歩いて、折り返して下関市に戻ったときに3000キロメートルだそうですから、とてつもない長さだというのが少し実感できます。
幅300メートルの自然保護区域が帯状につながっています。そして、ここを毎年200万人以上の人が歩いているとのこと。信じられません。
なぜ、そんなところを歩くのか・・・。道を歩くことは、世界を理解すること。
長距離ハイキングは、自分にとって現実的で必要最小限のアメリカ式歩行瞑想だ。
トレイルは、その制約のため、より深く考える自由を精神に与える。悟ることは出来なかったが、かつてないほど幸せで健康だった。
歩くペースは徐々に上がっていった。初めは10~16キロだった。それが、24キロ、そして32キロになった。しまいには、1日に48キロも歩いていた。
山のなかで半年近くすごしたあと都市に戻ると、都市は驚異であり、奇怪だった。徹底して人間の手で変形させられている場所だ。いちばんの衝撃は、その硬直性。直線と直角、舗装道路、コンクリートの壁と鉄の梁、政府の定めた厳格な規則。廃棄物があふれ、あらゆるものが壊れている。
なぜ歩くのか。納得できる答えは返ってこない。もちろん、理由はひとつではない。体を鍛えるため、友だちとの絆、野生に浸り、生を実感するため、征服するため、苦しみを味わうため、悟のため、思案に耽るため、喜びのため・・・。だが、何にもまして探し求めているのは単純さ、道がいくつにも枝分かれした文明からの逃避だ。
トレイルを歩く一番の喜びは、明確に境界を定められていること、毎朝、選択肢は二つしかない。歩くか、やめるか。その決断をしてしまえば、ほかのことは、あるべき場所におさまっていく。選択からの自由という新たな開放は大きな安心感をもたらす。
夏の原水禁止大会に向けた平和行進は、集団で歩くものです。また、日本全国を歩いて旅している人が昔(江戸時代にも・・・)も今もいます。
歩くことの意義を改めて考えてみました。毎日、せわしなくあるいていますが、実際には1日8000歩も歩けばいいほうです。
(2018年3月刊。2200円+税)

2018年6月20日

ターゲテッド・キリング


(霧山昴)
著者 杉本 宏 、 出版  現代書館

大統領が暗殺を命じてよいのか。
裁判手続によらずして処刑するというのは許されることなのか。
アメリカが、その強大無比の軍事力でもって、他国の主権を無視してよいのか。
この本は、これらの疑問を考える素材を提供しています。
私は、いずれの問いにも、NON!否と答えます。
ターゲテッド・キリング(標的殺害)とは、国家が安全保障上の脅威と見なす人物を特定し、狙い討ちにすること。国家による無差別・大量殺害と対義の関係にある。
この本は、CIAの諜報員が戦場以外で「非公然活動」の一環として行う国家殺害を扱っている。アメリカ政府が影で糸を引いていることを分からないように工作して行う謀殺、つまり闇討ちである。
アメリカ軍は非公然活動には適さない。アメリカ軍も機密作戦を展開することはあるが、非公然活動にまでは手を染めない。これがペンタゴン(アメリカ国防総省)の公式見解だ。アメリカ軍のなかの非正規の特殊部隊が、身元を隠して非公然のブラックな隠密作戦を展開している。
9・11以前は、非公然にテロリストを殺害することには、暗殺という負のイメージがこびりついていた。しかし、2001年9月7日、ブッシュ大統領が署名した文書によって、対テロ標的殺害と計画・実行する権限をCIAに一括委託し、テロリスト狩りにゴーサインを出した。それで、CIAは、標的殺害のたびに大統領の許可を求める必要はなくなり、CIA長官が作戦の「最高指揮官」となった。
しかし、この戦術は、マイナス面も深刻である。いかに非公然型の標的殺害が効率的であったとしても、民間人の巻き添えによる犠牲は避けられない。オバマ政権当時の無人機攻撃(パキスタン)による民間人の犠牲者は600人を上回る。このうち70人前後が子どもだ。
アメリカとテロリストとのあいだでは、妥協の余地がないため、お互いの利害にもとづく「暗黙の了解」は成立しにくい。この新しいゲームには、ルールがまったくない。
対テロ戦争が拡大するなかで、CIAとアメリカ軍の活動、公然と非公然の境界があいまいになった。本来は文民の情報機関であるCIAが戦闘集団化し、無人機攻撃をひんぱんに行ったり、公然の軍事行動を本務とするアメリカ軍の特殊部隊が、CIAの非公然型と似たような対テロ標的殺害を多用したりするようになった。9・11の衝撃で、公然と非公然の境界が崩れだした。
非公然のテロ標的殺害によるテロリストの死者は少なくとも3000人と推定される。
標的殺害を実行するCIAの準軍事要員に戦闘員の資格が認められるのか・・・。答えは、ノーだ。CIAは軍隊の要件を満たしていない。
アメリカ軍の無人航空機は、2017年末に9347機もいる。アメリカ人の過半数が無人機をつかった対テロ標的殺害を支持している。さらに、無人航空機に標的を殺害すべきかどうかの判断がまかされようとしている。
ビンラディン殺害(2011年5月1日)は、無法地帯でも、自然が復活すると予期される状態でもないのに、裁判抜きの「処刑」が行われた。
アメリカが日本以外でやっている軍事作戦を容認すれば、同じことを日本国内でもアメリカ軍はやれるし、そのことを許すことになります。本当に、そんなことを許していいのでしょうか・・・。
知らないことは恐ろしいことです。知ったら恐ろしいけれど、まだ、この状況から逃れることを考える余裕があると思います。いかがでしょうか・・・。
(2018年3月刊。2200円+税)

2018年5月22日

ウルフ・ボーイズ


(霧山昴)
著者 ダン・スレーター 、 出版  青土社

テキサス州のメキシコ国境の町に育つ少年たちが闇の社会に足を踏み入れていく経過をたどった、背筋も凍る恐ろしい本です。少年たちは、メキシコの麻薬カルテルに雇われ、対抗勢力に対する冷酷な暗殺者として働くようになりました。
ある青年はアメリカで警察官となり、麻薬摘発に生き甲斐、仕事の張りあいを感じていたが、やがて麻薬取引全体に及ぼす効果は、実はほとんどないことに気がついて、うんざりしてきた。麻薬の摘発率は、せいぜい2%から5%ほど。公式発表でも10%。密売人が逮捕され、服役する刑務所は麻薬取引の現場で押収したお金で運営され、捜査官の乗っている車は押収したお金で買ったもので、捜査官の残業代は押収したお金で支払われる。おとり捜査も、押収したお金を資金源にしていたりする。そして、いくつかある捜査機関同士が事件や資金を奪いあい、摘発やら起訴やらの功績をめぐって争っている。国境地帯での麻薬の取り締まりは、目的達成のためというより、州当局の功績のシンボルにすぎない。国境は劇場なのだ。
この町の高校に通う生徒は二種類いると校長は言う。麻薬ビジネスに進む者と、それを追いかける側になる者の二つだ。
警察の証拠保管室におかれた麻薬や現金、そして車が、別の場所で使われているということは、いくらでもあった。誘惑に負けた警察官は、もう一度やる。
密輸業者たちは賄賂をばらまいた。連邦司法警察にはいくら、そして、司法長官や警察署長にはいくらと決まった賄賂を手渡す。連邦犯罪抑止警察のボスと、連邦ハイウェイ警察のボスに対しては月に6千ドルから1万ドルを与える。警部補だと月3000ドルもの賄賂を受けとる。
メキシコでは、ペソの価値が下落するにしたがい、麻薬組織のために警護や密輸といった実際の労働を提供した。メキシコでは、警察官だけでなく、兵士までもが汚職に弱かった。
権力や階級の移り変わりが早いのが、カルテルの世界の特徴だ。刑務所を支配することが、いかに重要であるか・・・。
競馬は、資金洗浄をおこなうにはうってつけの方法だった。自分の住む地域に仕事がないと、銀行を脅して、お金を取りあげる。
メキシコの麻薬戦争のとんでもない実情が明かされます。私は見ていませんが、既に映画化されているようです。
仕事とお金がないことから、少年たちが麻薬カルテルに手先として雇われ、対抗するカルテルのメンバーを次々に暗殺していきます。死体はドラム缶に入れて灰になるまで焼き尽くします。
大物の犯罪者は逮捕されても、司法取引によって軽い罪ですみ、実行した下っ端は刑務所で一生を送ることになる。そして、少ない金額なら賄賂になり、莫大な金額ならクリーンな資金になる。
麻薬戦争の現場に踏み込んで、取材した著者によるものですから、リアリティーがありすぎるほどです。やっぱり麻薬は怖いです。人生を狂わせてしまいます。

(2018年3月刊。2400円+税)

2018年4月25日

炎と怒り

(霧山昴)
著者 マイケル・ウォルフ 、 出版  早川書房

トランプ大統領って、本当に知性のカケラもない人間だということがよく分かる本でした。
わがニッポンのアベ首相と共通点がありすぎです。
トランプには良心のやましさという感覚がない。
トランプとクリントンのアウトローぶりは、二人とも女好きで、セクハラの常習犯だ。そして、二人とも、ためらいなく大胆な行動に出る。
トランプのスピーチは、だらだらと長く、支離滅裂で、すぐに脱線し、どう思われようがおかまいなしの主張の繰り返しだ。
これも、わがアベ首相の国会答弁そっくりです。答えをはぐらかし、質問とかけ離れた持論をだらだらと展開し、変なところで急に断定する。
トランプは、社交の形式的なルールを一切身につけていない。トランプは礼儀をわきまえているふりすらできない。
トランプの髪型は、頭頂部にある禿(はげ)を隠すために、周囲の髪をまとめて後ろになでつけ、ハードスプレーで固定して隠している。
トランプを相手に、本物の会話は成り立たない。情報を共有するという意味での会話はできないし、バランスよく言葉のキャッチボールをすることもできない。
トランプの率いる組織は軍隊式の規律からほど遠い。そこは、事実上、上下の指揮系統は存在しない。あるのは、一人のトップと彼の注意をひこうと奔走するその他全員という図式のみ。そこでは、各人の任務は明確ではなく、場当たり的な対処しかない。
トランプは文字を読まず、聞くこともしない。常に自分が語る側になることを好む。実際には、つまらない見当違いだとしても、自分の専門知識をほかの誰よりも信じている。
トランプは文字を読もうとしない。読み取る能力が乏しい。トランプには、そもそも読書の経験がない。一冊も本を読み切ったことがない。話を聞くにしても、自分が知りたい話にしか耳を傾けない。トランプは、公式情報、データ、詳細情報、選択肢、分析結果を受けとることはない。トランプにはパワーポイントによる説明など何の役にも立たない。


トランプは集中力の持続時間が、きわめて短い。
トランプ政権の矛盾は、他の何よりもイデオロギーに突き動かされた政権であると同時に、ほとんどイデオロギーのない政権もあるということ。
トランプは驚くほど、アメリカの重要な政策をなにひとつ知らないし、知りたくない。
アメリカ・ファーストとは、アメリカさえ良ければ、あとはどうなってもかまわないという意味なのだ。
トランプには、そもそも読書の経験がない。一冊も本を読み切ったことがない。
よくぞ、こんな低レベルの人物が偉大なアメリカの大統領になれたものですね。
トランプは、自分を律することが出来ない。政治的戦略と立てる能力も皆無だ。どんな組織のなかでも歯車の一つになれず、どんな計画や原則にも従うとは思えない。
不動産業界出身の大統領は、トランプの前には一人もいない。というのも、不動産市場は規制が緩く、多額の債務と激しい相場の変動に耐えなくてはならない。
ホワイトハウスに入ると、「完全に健康体の人間」でも、やがて老いぼれて不健康になっていく。
噂どおりの本で、面白く読みました。しかし、同時にこんな男が核ボタンをもっているかと思うと背筋が氷る思いです。
(2018年2月刊。1800円+税

2018年3月16日

ハッパのミクス


(霧山昴)
著者  トム・ウェインライト 、 出版  みすず書房

 いろいろと大変勉強になりました。刑務所の処遇を非人間的なものにしておくことは、マフィア予備軍を養成しているようなもので、安上がりのつもりが、かえって社会的コストは高くつくことになる。なーるほど、です。
マフィアはフツーの商取引、たとえばゴミ収集・処理にも介入していて、2~5%の手数料をとる(5%のときには、政治家が2%とる)。これは、日本の建設会社と暴力団の関係と同じです。
コカイン(ヘロイン)のアメリカの得意客には、白人の中年女性が大きな比重を占めている。薬物依存症の人々だ。アメリカの医師がオピオイド系鎮痛薬を処方すると、その過剰処方によって薬物依存症の患者が生まれる。アメリカのヘロイン中毒者の3人に2人は、処方鎮痛薬の乱用から依存症にすすんだ。
 アメリカでは年間170万人が麻薬がらみで逮捕されていて、25万人が刑務所に収監されている。違法薬物との戦いに年間200億ドルを拠出している。1990年代以降、アメリカのコカイン常習者は150万人から200万人のあいだで推移している。
 コカインは世界各国で消費されているが、そのほとんどが南米の3ヶ国、ボリビア、コロンビア、ペルーに発する。コカイン畑の掃討作戦は成功をおさめてきたはずだが、実際には、コカイン市場は変わらず持ち直している。南米におけるコカの作付面積は25%も減少したが、生産効率の向上によって、コカインの量はむしろ3割ほど増加している。アンデス地方で軍が続けているコカ掃討作戦は、どうみてもムダでしかない。
メキシコでは麻薬カルテルの紛争激化で6万人のメキシコ人が死亡した。エルサルバドルでは対立していた2派が手打ちしたため、4000人ものエルサルバドル人が救われた。
ドミニカの刑務所には定員1万5000人のところに2万6000人が押し込まれている。殺人は日常茶飯事で、大量虐殺も珍しくない。
犯罪組織にとって、刑務所は人材の獲得や訓練の重要な拠点となっている。囚人は、犯罪集団に雇われ、訓練を受け、出所後の仕事を約束される。カリブ海諸国の犯罪者たちは、悪臭ただよう刑務所を求人センターとして利用し、人材確保の問題を解決している。
メキシコの刑務所では、囚人たちが、エアコン、冷蔵庫、DVDプレイヤー完備の贅沢な監房をつくっていた。
ラテンアメリカの刑務所の大半は軍や警察が運営している。この状況は悲惨だ。軍や警察の底辺の人々が仕事をしている。しかし、ドミニカ共和国は、従来の3倍の給料で職員を働かせている。そのため職員を買収するのは難しくなる。
劣悪で危険な環境に置かれると、囚人は身の安全や特権を求めて犯罪集団に加わる。刑務所を安全な場とし、職業訓練をほどこせば、出所後に犯罪以外の道に進む選択肢が生まれる。
麻薬密売人は、運び屋の家族の住所と氏名を確認している。裏切ったら家族への報復がある。
小物のギャングと巨大な組織犯罪グループが手を組む一番シンプルな方法はフランチャイズ契約を結ぶこと。ただし、これも、系列組織のたったひとつの大失敗がカルテルの上層部に大打撃を与えるというリスクがある。
違法薬物は、今ではインターネットのオンライン・ショッピングで簡単に入手できるようになっている。そして、その支払いはビットコインでできる。
なるほど、世の中はこうなっているのか、いろいろ考えさせられる本でした。日本でも広く読まれるべき価値のある本だと思います。
(2017年12月刊。2800円+税)

2018年3月 1日

ルポ 不法移民


(霧山昴)
著者  田中研之輔 、 出版  岩波新書

 この本は社会学を研究する日本人学者がカリフォルニア大学バークレー校で学ぶかたわら、2年間にわたって路上で中南米諸国からの出稼ぎ労働者とともに働いた経験をもとにしていますので、大変なリアリティーがあり、説得力があります。著者の勇気と行動力に敬意を表します。
 立ん坊をした道路は、危険地帯ではありません。ハースト通りは、白人の中流階級の人々が穏やかに暮らす住宅街にある。雇い主の生活水準が高いので賃金トラブルが少なく、また暴力に巻き込まれることも少ない。
 路上で立って仕事を得るにはコツがある。色の暗い作業服よりも黄色や赤、白色と言った目立つ服を着て、身ぎれいにしておく。そして、いち早く自動車の運転手とアイコンタクトをとる。英語を流暢に話せることも有利。
彼らは仕事をくださいとこびることはしない。プライドがある。時給15ドルを呈示する。
 路上で立って仕事を求めているのは正規滞在資格のない不法移民たち。職種は、引っ越しの手伝い、個人宅の庭掃除や屋根掃除、家具の配置換え、建設現場の補助、コンクリート粉砕作業、剪定作業、外壁の塗装、配管清掃など、誰でも問題なく作業できるもの。日雇い労働者の平均月収は3万円ほどでしかない。
 雇い主には一切の文句を言えない。雇い主を怒らせたら、すぐに警察に通報して、たとえば、民家の軒先をこわしていると通報する。すると、それがすべて事実となり、不法移民の声が取り上げられることはない。警察が駆けつけたら、刑務所行きはまちがいない。
黒人の二人組は要注意。仕事をさせてもお金を払わない。また、ストレス発散の対象として殴る蹴るの暴行を受けることがある。しかし、それにも耐える。警察の助けは呼ばない、呼べない。
 メキシコからの不法移民は多い。1993年以降、国境で3800人が亡くなっている。そのうち1000人は身元確認できず、墓標のない墓に埋葬されている。
 メキシコで麻薬を売ってコヨーテ(密入国を手助けする案内人)に3500ドル(40万円)をつくり、アメリカに入ってきた。メキシコの最低賃金は1日430円、アメリカでは時給15ドル(1680円)というように決定的な経済格差がある。
 何をしたって、何があっても生きないと意味がない。
これは、メキシコで麻薬を密売していた不法移民のコトバ。ギャング同士の抗争で命を落としたくなかったので、アメリカにやってきた。
 グアテマラの刑務所。ここではなかで働けるし、毎週土曜日には売春婦をよんで刑務所内でセックスができる。毎月第2週の土曜日には刑務所内でダンスパーティーが開かれる。
 不法移民の半数はメキシコ出身で585万人。エルサルバドル70万人、グアテマラ53万人、ホンジュラス35万人。このほか、インド50万人、中国33万人も正規滞在資格をもたず(ビザの有効期限をこえて)アメリカで暮らしている。
 不法移民は、地元住民から罵られ、そこにたたずむことも許されず、警察に通報される。
出稼ぎに来た労働者の9割が何らかの罪で現行犯逮捕され、刑務所に入った経験がある。職歴は増えず、犯罪歴だけが増えていく。
 カリフォルニア州には270万人の不法移民が居住している。男性53%、女性47%。不法移民の66%が10年以上、アメリカで暮らしている。
 アメリカは「移民の国」だ。滞在資格をもつ正規移民と、滞在資格をもたない非正規移民の二つからなる移民国家だ。どちらの移民もアメリカを支えている。
 アメリカでは200万人もの刑務所人口がある。世界第一の経済大国アメリカで第三の巨大産業として懲罰産業が拡大成長を続けている。カリフォルニア州では、5年間に9つの監獄が新設された。監獄建設の急増は、監獄が不況の影響を受けにくく、公害も出さない新たな産業だから。
 懲罰産業複合体とは、監獄関係者、多国籍企業、巨大メディア、看守組合、議会・裁判所が相互に共生関係にある複合体だ。アメリカの厳罰化はこのような懲罰産業の拡大に役立っているというわけです。
 アメリカの底辺の生々しい実態をつぶさに実験した思いをさせてくれる貴重なレポートです。ぜひ、ご一読ください。
(2017年11月刊。820円+税)

前の10件 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー