弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会(司法)

2018年2月 7日

ブラック職場


(霧山昴)
著者  笹山 尚人 、 出版  光文社新書

 電通に入社して2年目、24歳の女性社員が過労自殺してしまったことは本当に心の痛むニュースでした。電通には前科があります。何度も繰り返すなんて、ひどい会社です。憲法改正国民投票が実施されたら、またまた電通は大もうけするとみられています。テレビ番組の編成を事実上、牛耳っているからです。アベ改憲と手を組んで日本を変な方向にもっていきかねないので、ますます心配です。
 それはともかくとして、なぜブラック職場が日本社会からなくならないのか、本書はその根源をたどっています。
労働事件を担当して、たくさんの経営者と接してきたが、個々の経営者は、それぞれ普通の人間であり、他者の人生を平気で切り捨てることに何ら痛痒を感じない人には見えないことが多い。つまり、経営者個人が悪質な人間だというのではなく、そうした経営者が動かす企業体が組織の論理で利益を追求するという価値判断を行ったとき、人の人生を押しつぶすことをいとわなくなる。
 資本主義の世の中では、企業はとにかく無限に利益を追求する。したがって、事業の運営を人が理性をもってきちんと制御しないかぎり、利益の追及は無限の欲求となってたちあらわれてしまう・・・。
職場に労働契約が根づいておらず、労働組合が有効に機能していない。そもそも労働組合が存在しないところが多い。労働法が労働者を保護するために存在するということを知らず、考えたことのない労働者は多い。
著者は「やりがい搾取」というコトバを使っています。私は初めて聞くコトバでした。
仕事自体はとてもやり甲斐のある仕事。それを日々感じることができる。だから、給料が安くたっていいじゃないか、サービス残業が多いからといって問題にしなくていいじゃないかという考えで経営者があぐらをかいている。そのため長時間労働の問題にメスを入れず、長時間の拘束にきちんと対価を支払おうとしない。これを「やりがい搾取」という。なるほど、ですね。
「やりがい搾取」の本質は、「やりがい」を隠れ蓑にして、使用者が法律上そして契約上果たすべき責任をとらないことにある。
最近、裁判所で解雇事件についての解雇の正当性のハードルが以前に比べて下がってきているようだ。つまり、解雇しやすくなっている。
これは私の実感でもあります。やはり非正規雇用があたりまえ、ありふれた世の中になっていますので、クビのすげかえなんて簡単にできるものという風潮が社会一般にあって、裁判官もそれに乗っかかっているのです。
 この本で労働基準監督官が全国に3000人しかいない、本当は現場に出る人が5000人は必要だと指摘していますが、これまたまったく同感です。
労働基準法違反は犯罪だという感覚を日本社会は取り戻すべきで、そのためにも労働基準監督官の増員が必要なのです。
ブラック職場をなくすためには労働法の規制を強化すべきですが、いまアベ内閣はますます規制緩和しようとしています。残業時間の規制をゆるやかにし、解雇の自由をおしすすめようとしています。
若者を職場で使い捨てするような社会に未来はありません。安定した職場で、まっとうな賃金をもらって安心して働ける条件をつくり出す必要があります。
本書は職場の実情の一端を紹介するとともに解決策が示されています。若い人にも、中高年にも、ぜひ読んでほしい新書です。
(2017年11月刊。780円+税)

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