弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生き物

2012年9月 3日

イルカの認知科学

著者   村山 司 、 出版    東京大学出版会 

 イルカは親子間の絆が深い。イルカは、一般に授乳期間は2年くらい。子イルカは、母イルカの上部にくっついている。母親のつくる水流に乗って前進できるので、楽になる。
イルカは、「音感の動物」とも言われるように、優れた聴覚能力を反映して音を使ったコミュニケーションを行っている。
 バンドウイルカは個体固有のホイッスルを一度獲得したら、一生変わらない。発信者の特定や個体を識別するための信号の役割をしている。
 イルカは、アイコンタクトが大切だ。イルカは、なんの報酬(エサ)も与えていないのに、嬉々として実験に応じる。かといって、どのイルカも、みんな喜んでずっと遊んでまわるというわけではない。
 ヒトがタバコをふかすしぐさをまねすると、子イルカが口から空気の泡を吹き出す。ヒトが手を上げるとイルカは胸ビレを上げ、ヒトが身体を回転させるとイルカが自分もそれに合わせるようにまわる。このように、イルカはヒトの動作をまねしたりする。
 シロイルカは、海のカナリアと呼ばれるように、ふだんから、さまざまな鳴音を発する。実に、にぎやかで、美しい声である。
海中にすむイルカの生態を研究するというのは、実に根気のいる仕事だと思いました。でも、そんな真面目な努力がこうやってまとまると、生物の能力のすごさを、私のような一般人が理解できるわけです。早いとこ、天草のイルカ・ウォッチングに行ってみたいものだと思ったことでした。
(2012年3月刊。3400円+税)

2012年7月 9日

ウイルスと地球生命

著者   山内 一也 、 出版   岩波新書

 2000年、ウイルスが人間の胎児を守っていることが明らかにされた。それまで、病気の原因とだけ見られていたウイルスが、実は、人間の存続に重要な役割を果たしていることが示された。ええっ、ウイルスって役に立つものだったんですか・・・。
 ヒトゲノムの9%は人内在性レトロウイルス、34%がレトロトランスポゾン、3%がVNAトランスポゾンだということが判明した(2003年)。
トランスポゾンとは、生物の間を自由に移動できる、いわば「動く遺伝子」であり、その大部分を占めるレトロトランスポゾンは数千万年前に感染したレトロウイルスの祖先の断片とみなされている。われわれ人類のもっている遺伝子情報の半分はウイルスに関連したものになる。ということは、ウイルスは、単に病気に原因というだけの存在ではありえないということを示している。
 ウイルスは30億年前には存在している。これに対して最古の猿人は700万年前、ホモ・サピエンスが出現したのは20万年前にすぎない。
人類(女性)は、妊娠すると、それまで眠っていた人内在性レトロウイルスが活性化されて大量に増えてくる。そして、この内在性レトロウイルスのエンベロープ・たんぱく質が胎盤を形成するのに重要な役割を果たしていることが実証された。
ウイルスは、細胞外では単なる物質と言える。しかし、細胞の中では、自主性をもった生物として振る舞う存在である。そして、無生物との間には、常識的なはっきりした線を引くのは難しい。
生物とウイルスとの大きな違いは、細胞の有無と増殖様式。ウイルスには細胞は存在しない。生物は、二分裂で増殖する。しかし、ウイルスは部品組み立て方式である。
 エイズの原因であるウイルス(HIV)には、二つのタイプがある。そして、全世界に広がったのは1型のHIVであり、20世紀のはじめに西アフリカでチンパンジーのウイルスにひとりの人間が感染して、それが人間のあいだに広がった。2型のHIVは、アフリカ産サルであるスーティマンガベイのウイルスに人間が20世紀半ばに感染したもの。これは西アフリカの中だけで広がっている。
 子孫を残すために共生するウイルスが貢献している側面は、哺乳類よりはるか以前に地球上に出現した昆虫に既に見られる。
 海に存在するウイルスを推算すると、少なくとも海水1ミリリットル中に、深海で100万個、沿岸だと1億個のウイルスが存在する。海洋全体では、10の31乗個のウイルスが存在する。ウイルスは、海洋の至るところで、さまざまなプランクトンに感染することで、地球規模の炭素循環に多大な影響を与えている。
 深海底から採取した堆積物に、1平方メートルあたり28兆個のウイルスが存在していた。また、ウイルスの活動は、地表の温度上昇を防ぐ雲の性瀬にも影響を及ぼしている。ウイルスは、硫化物の循環を介して地球の気候変動にも関係している可能性がある。
 人間の腸内には100兆個もの最近がすみついているが、ウイルスはそれを上まわる数で共生している。それが腸内細菌とどのような相互作用をしているのか、まだ未知の領域である。
ウイルスって、人間にとって有害なだけの存在かと思っていました。実は違っているんですね。ほんとうに、世の中って、知らないことだらけですよね。
(2012年3月刊。2800円+税)
 土曜日に、先日うけたフランス語検定試験(1級)の結果通知のハガキが届きました。61点でした。初めて5割を超えることができました。信じられない成績です。もちろん合格基準点は82点ですから、あと20点以上も上回らなければいけません。それにしても、続けていると少しずつ良くなるのが、うれしいものです。
 フランス語の授業のとき、原発はすぐなくすべきだと言ったら、みんなが電力不足が心配だからと反論してきました。そんなのウソだ、政府と電力会社にだまされてはいけないと言い返せず、悔しい思いをしました。まだまだです。

2012年6月 4日

左利きのヘビ仮説

著者   細 将貴 、 出版   東海大学出版会

 人間に右利きと左利きがいるように、カタツムリにも右巻きと左巻きがいます。
 この本は右巻きカタツムリを主食とするヘビが、左巻きのカタツムリは食べられないことを実証した研究の過程を詳しく紹介しています。そう書いてしまうと、なあんだ、たいしたことないやんか、と思われるかもしれません。でも、実は、ものすごく 面白いのです。その過程が。
 まず、カタツムリだけを食べるヘビがいるなんて知りませんでした。よくぞ、それだけで生きられるものです。カタツムリばかり食べるヘビは、西表島と石垣島にしか生息していないイワサキセダカヘビという。樹上で暮らす夜行性のヘビだ。同じようにミミズとかナメクジだけ食べるヘビもいるとのこと。たいていのヘビはごく一部の動物しか食べない偏食家である。シマヘビは何でも食べる変わりもののヘビ。
 そして、カタツムリの右巻き、左巻きです。カタツムリも、人間と同じようにほとんどが右巻き。それで、カタツムリを食べるヘビの頭(口)は、それに適応するように左右不ぞろいな格好をしている。口の形から歯の数まで違うのです。それを発見したのは偶然ですが、それは執念のたまものでした。そこで、右巻きカタツムリを食べるのに適したヘビが左巻きカタツムリを食べようとすると、いったいどうするのかを実験してみたのです。その実験装置をつくるのが大変でした。さらに、その状況を映像を残さなくてはいけません。このヘビは夜行性ですので、カメラをセットして自動撮影にしておきます。
 なんと、右巻きカタツムリを食べるのに適した口をもつヘビは、目の前の左巻きカタツムリを食べることができなかったのです。よくぞ映像にとらえたものです。著者の執念による成果でもあります。
 この本を読むと、人間にも左利きが必ずいるが、「ほどほどに少数」いて、実は一人もいないということはない。そして、それがなぜなのか、その理由は解明されていないというのです。
 人間の場合、左利きになるのは、教育の成果だけでは説明がつかない。利き手の決定には遺伝子が関係している。
右巻きのカタツムリと左巻きのカタツムリとが出会っても交尾はできない。これも考えてみれば不思議なことですよね。前にフランスの自然映画で、カタツムリの交尾の様子を見たことがあります。お互いに触れあい、相性を確かめあって交尾に至るのですが、それはもう、見ている方が思わず赤面してしまうほどなまめかしい愛撫でした。
 カタツムリばかり食べるヘビは、西表島と石垣島にしか生息していないイワサキセダカヘビという。樹上で暮らす夜行性のヘビだ。同じようにミミズとかナメクジだけ食べるヘビもいるとのこと。たいていのヘビはごく一部の動物しか食べない偏食家である。シマヘビは何でも食べる変わりもののヘビ。森の中に入り、このヘビやらカタツムリを採取するというのですから、学者も大変です。なにしろ夜間です。例の毒ヘビ・ハブだっているのですよ。かまれたときの応急薬も持参します。それにしても、怖いですね。夜に森の中に一人で入っていくなんて・・・。勇気がありますね。
 まだ30代になったばかりの若手研究者による苦闘の研究が実感をもって伝わってきます。知的刺激にみちた本でした。
(2012年2月刊。2000円+税)

2012年5月28日

教授とミミズのエコ生活

著者   三浦 俊彦  、 出版   三五館

 自宅でミミズを飼う某女子大学教授の体験記です。ミミズをずっと飼い続けるって大変なことなんだと思い至りました。まさに奮闘努力の甲斐もなく・・・、という事態の連続なのです。
 簡単なようで、実はとても大変なのがミミズの飼育です。著者がミミズコンポストを始めたのは10年前。三層のたらい型容器とミミズ3000匹を3万5000円で購入。ミミズは釣り餌になるシマミミズ。シマミミズなら、私もよく分かります。至ってフツーのミミズです。
ミミズに塩分と柑橘類をやるのは現金。片栗粉も固まってしまうのでダメ。
 ミミズコンポストの目的は、なにより生ゴミ減らしにある。
ミミズはデリケートな生き物だ。ミミズは1日に自分の体重の半分の量を食べる。
ミミズの卵は、直径2~3ミリ。球根のような、レモンのような、ラグビーボールのような形をしていて、橙色に輝く、きれいな粒だ。2~3週間後に赤ちゃんが生まれ、4~6週間で生殖年齢に達する。シマミミズの個体は4年ほど生きる。
ミミズは健康食品の重要な素材になっている。咳止めや熱冷ましに使われる「地龍」は、漢方系の風邪薬の成分として定番である。血液サラサラのサプリメントとしても使われている。
 ミミズが大量に死ぬと、身体から流れ出す酵素によって仲間のミミズに害をなす。ミミズの大絶滅は、ミミズ飼育においては、ごくありふれたこと。
ミミズはもともと冷たい生き物である。ひんやり感が心地よい生き物なのだ。
 ミミズは、一匹一匹が個体というよりも、2万匹全体が個体というか超個体であり、一匹一匹は超個体を構成する細胞なのだ。
 スイカの皮はミミズの大好物。ミミズは、意外に場所の好みが激しい。ミミズにも個性がある。
ミミズを飼っていると、死に絶えるというハプニングは当たり前。実感されるのは、命の軽さ、命への代替可能性、命の偶然性。そんな一種のニヒルな悟りを受ける。
 ある一定の状態をこえるとミミズは死滅してしまうが、その直前に卵を異常に産む。これは、種を残すための行動だろう。
 ミミズを飼うことで生命の神秘をも感じさせる面白い体験記でした。私もミミズなら平気で触れます。なにしろ、フナ釣り大好き人間でしたから・・・・。今、わが家の庭にもたくさんのミミズがいます。もちろん、それを食べて生きるモグラも。
(2012年2月刊。1400円+税)

2012年5月11日

先生、モモンガの風呂に入ってください

著者   小林 朋道 、 出版   築地書館

 なんとシリーズ第6巻です。偉いですよね。文体が軽くて面白く読めるうえに、観察の対象となった生き物たちが可愛らしいばかりでなく、著者と学生たちの対応がほのぼのしていて、いつも一気に読了してしまいます。場所は鳥取県の山奥深いところが舞台です。
 そこの森に棲むモモンガを探検し、よくよく観察します。
地上から6メートルの高さのところに据え付けた巣箱にモモンガの赤ちゃんを発見。そっと地上に降ろして計測して観察します。洞窟も探索します。冬眠中のコウモリを見つけました。さらに、カエルまで・・・。
 モモンガは、巣の材料として、杉の樹皮を使う。モモンガは巣の中で、スギの香りに包まれて、癒されながら休息する。
モモンガを捕まえると、顔の写真をとり、尾の毛を少し刈り、さらに注射器でマイクロチップを尻の皮下に入れる。いずれも、あとで個体識別できるようにするため。
 こんなユニークな教授とともに森の奥深くまで入りこんで実地調査できるなんて、この鳥取環境大学の学生はなんと幸せなことでしょう。
 恐らく学生である本人たちはそう思っていないでしょうから、私が代わりに言わせていただきます。
 先生、この調子で第7弾を続いて飛ばしてくださいね。
(2012年3月刊。1600円+税)

2012年5月 4日

豚のPちゃんと32人の小学生

著者   黒田 恭史 、 出版   ミネルヴァ書房

 小学生のクラスで3年間、豚を飼っていたという体験記です。そのクライマックスは、なんといっても、卒業のときの残された豚の処遇をめぐるクラス討論会の模様です。
 次の学年に引き継ぎ、ずっと学校で豚を飼い続けるという声が有力です。でも、豚って、あまりに大きくなりすぎると、自分の足で身体を支えられなくなるようですね。ゴロンと横になって、喰っちゃ寝の生活をするとのこと。そんな巨大な豚を小学生が本当に世話できるでしょうか。
 もちろん、食肉センターに引き渡すという声もありました。でも、それは自分たちが食べるというのではありません。もう誰も学校で面倒みられないから、豚を手放すだけなのです。決して豚を殺して食べていいというわけではありません。たとえ、結果として、そうなったとしても、そこまではもう子どもたちの考え及ばない世界なのです。
 映画は見ていませんが、今から9年前に出版された本を読んだのです。実際の話はそれよりさらに10年前、1993年のことでした。テレビで放映されると、反響は大きく、抗議の電話がじゃんじゃんかかってきたそうです。それでも、動物愛護映画コンクールで内閣総理大臣賞を受賞しました。私も受賞してよいと思います。実際、毎日のように、私たちは豚肉を食べているわけですから、子どもたちの教育実践として生きた豚を飼って悪いはずがありません。
 それにしても豚の世話って、大変なようです。
 ぶた(Pちゃん)の好きなものはトマト、嫌いなものはキャベツ。
 子どもたちはPちゃんの処遇を決める過程で、食肉センターへ見学にも行きました。もちろん、希望者のみ、親が同伴して、です。
32人のクラスは食肉センター派と引き継ぎ派と16人対16人、真っ二つに分かれた。同じように3年間かかわってきた子どもたちが、見事に分かれてしまった。不思議だった。筋書きのない授業をすすめるなかで、このクラスを担任した教師は悩みました。結局、Pちゃんは食肉センターに送られ、子どもたちが豚を食べるわけでもありませんでしたが、そこに至る教師の苦悩がリアルに伝わってきました。それを感じることが出来ただけでもいい本だと思います。橋下流の「教育改革」では、こんなことをしている著者なんて最低評価しかされないことでしょう。なぜなら、直接的に「学力向上」に役立つとは思えないからです。
 でも、本当の学力、考える力、仲間を支えあう力は大いに育成できたのではないでしょうか・・・。
(2008年11月刊。2000円+税)

2012年4月23日

ヒトの見ている世界、蝶の見ている世界

著者   野島 智司 、 出版   青春新書

 視覚を通して人間と昆虫など他の生物との異同を考えている面白い本です。
 人間の視覚にとって、脳は非常に重要な役割を果たしている。脳の3分の1から2分の1の部位が、視覚情報の処理に費やされている。人間が大きな大脳をもっているのは、実のところ物を見るためと言って過言ではない。
実際には、網膜上に映った像をそのまま見ているのではなく、本来は見えていないはずの部分も推測で補ったり、あまり重要ではない情報はあえて意識しなかったりしている。
 ヒトは、自らの生活にとって必要な情報を瞬時に取捨選択している。
 昆虫の複眼は、ショウジョウバエという小さなハエで800、アゲハチョウは1万2千、トンボに至っては5万もの個眼から成っている。
 複眼には網膜がない。個眼全体が光ファイバーのようになっていて、一つの個眼に入ってきた光を、内部の視細胞層で受けとる。
 個眼には複数の視細胞が入っているが、その内部に像を結ぶわけではなく、個眼に入った光は内部の視細胞を一様に刺激する。したがって一つの個眼に入った光は、一つの情報いわばデジタルカメラの画素に相当する。
 もし、複眼の視力をヒトの視力に換算すると、0.1に満たない。ミツバチは、ヒトと同じ三原色で世界を見ているが、赤、緑、青の三色を感じる視細胞がなるのではなく、緑、青、紫外線の三色を感じる視細胞をもっている。だから、紫外線を感じることができる代わりに、赤を見ることができない。
 ミツバチやアリは、景色だけを頼りにしているわけではなく、方角を理解する能力がある。
 ミツバチやアリ、そして多くの昆虫が、偏光を見分けることができる。
 景色に目印の乏しい砂漠に住むアリは、偏光を使った方角と自分の歩いた歩幅を積算することで、現在地の巣からの相対的な位置を把握することが分かっている。
 鳥は、他の動物に比べると大きな眼球をもっている。その重量は脳のそれをこえることさえ少なくない。巨大な眼球をもっているため、眼球そのものを自由に動かすのは難しい。鳥は見る方向に眼球を動かすのが得意ではない。イヌワシの視力はヒトの8~10倍もある。
 鳥の眼は、一度に広い範囲にピントを合わせられ、近くも遠くもヒトよりずっと広い範囲を同時に見ることができる。
鳥の9割が、紫外線反射によってオスとメスを識別することができる。
 渡り鳥は太陽コンパスを用いている。同時に、星の分布と時刻によって方角を知ることも可能だ。
ハトは、磁気を感じることもできる。ハトなど長距離を飛行する鳥は、太陽や星座、磁気、景色などを手がかりとして総合的に方向を判断して飛行ルートを決めている。そのうちのどれか一つということではない。
 眼の誕生が、カンブリア紀の生き物の爆発的な進化を引き起こした。視覚の登場が、生き物たちの暮らす世界を大きく変え、そのことが急速な種分化を引き起こしたと考えられる。
 なにげなく見ている風景も、よくよく考えると、大変な進化の産物なんですね。見ることの意義を改めて考えさせられました。
(2012年2月刊。943円+税)

2012年4月16日

飼い喰い

著者  内澤 旬子  、 出版  岩波書店 

 壮絶としか言いようのない3匹の豚の飼育体験記です。しかも、うら若き(?)女性一人で1年間にわたって仔豚3匹を育て、立派な肉豚として屠蓄場に送り、飼っていた豚をみんなで食べたのです。
 すごいです。とても、私には真似できません。そして、なにより、3匹の豚に名前をつけ、その個性を描き分けているのです。いやはや、彼らの、なんと人間的な、いえ人間そっくりの性格でしょうか・・・・。
 3匹の豚のうち、もっとも図体が大きい豚は最下位にランクされ、エサに十分ありつけずに肥育レベルが遅れてしまったほどです。要領よくひたすら食べ続けていた豚は、もちろん肥え太ります。そして、他人(他豚)を押しのけてまで食べまくる豚は意地きたなく生きのびます。そして、ついに3頭の豚を一挙に死に至らしめて人間様が食べようというのです。それも、フランス料理、韓国料理そしてタイ料理でいただくのでした。すごいですよ。
 雑誌『世界』に連載されていたそうですが、私はこの本を読むまで知りませんでした。勇気ある女性のおかげで、日頃食べている豚について、いろいろ知ることができました。
 豚は生後半年ほど、肉牛は生後2年半ほどで屠蓄場に出荷され、屠られ、肉となる。
 日本で現在もっとも一般的なかけあわせパターンは、仔豚を安定してたくさん生む、つまり繁殖性の優れたランドレース種(L)と繁殖性に加えて産肉性、つまり手早くふくふくと肉をつけて太ってくれる大ヨークシャー種(w)をかけあわせた雑種第一世代豚(LW)を子取り母豚(ぼとん)とし、さらに止雄豚としてサシが入るなど、肉質の優れたデュロック種(D)をかけあわせたLWDである。
 母豚は、少なくて8頭、多いと13頭の子豚を生む。生まれてすぐに、上下4本の犬歯の先をニッパーで切る。大きくなったとき、ケンカしたり作業員を噛んだりして危ないからだ。豚はよくかむ。豚は土も食べる。
豚は3キロ食べて、1キロ太る。70キロの枝肉をつくるのに115キロの生体重にするとして、345キロのエサを食べて、980キロの糞尿を出す。人間の14倍もの糞尿を出す。豚を110キロまで育てるのに、その3倍の330キロの餌を食べさせている。そして、消費者に肉として売れるのは、だったの23キロだけ。1年かけて育てた豚が、わずか2万円でしか売れないなんて・・・・。
一つの囲いの中に、何頭か豚を入れると、必ずケンカして序列を決める。
それにしても豚たちはよく寝る。一日のリズムのようなものも特になく、気がつくと起きてごつごつと餌箱に鼻をぶつけるようにして餌を食べ、水を飲み、また、ごろりと横になる。まさに、喰っちゃ寝なのだ。豚の道具は、鼻と口がすべて。
豚はきれい好きで、糞尿する場所を決めている。水浴びのときを選ぶように放尿する。ところが、身体を分まみれにするのも大好きなのだ。
夢は自分の名前まで認識していた。3頭の豚は、著者の声と他人の声と完全に聞き分けていた。しかし、自分の名前まで把握していたのは夢だけだった。3頭の豚の名前は、伸、秀、そして夢でした。
豚をかわいいって思ったらダメなんだよ。ペットじゃないんだから、割り切らないと・・・・。
 これは著者が豚を飼いたいと言ったときの養豚家の人に言われたセリフです。そうですよね。
 そして、3頭の豚を著者が口にしたときの描写がすごいです。
 噛みしめた瞬間、肉汁と脂が口腔に広がる。驚くほど軽くて甘い脂の味が口から身体全体に伝わったその時、私の中に、胸に鼻をすりつけて甘えてきた3頭が現れた。
 彼らと戯れたときの、甘やかな気持ちがそのまま身体の中に沁み広がる。帰って来てくれた。夢も秀も伸も、殺して肉にして、それでこの世からいなくなったのではない。私のところに戻って来てくれた。今、3頭は私の中にちゃんといる。これからもずーっと一緒だ。たとえ肉が消化されて排便しようが、私が死ぬまで私の中にずっと一緒にいてくれる。
 うむむ、なんとなく分かりますよね、この気持ちって・・・・。
 生き物とは何かを考えさせてくれる、とてもいい本でした。
 著者は乳がんで何回も手術したそうですが、これからも元気で今回のようないい本を書いて紹介してくださいね。
(2012年2月刊。1900円+税)

2012年3月 5日

動物が幸せを感じるとき

著者  テンプル・グランディン  、 出版   NHK出版

 大切なことは、子どものころに他者との触れあいがたっぷりあり、健全な環境で暮らしたということ。発達初期の外界からの刺激には神経を保護し、脳を保護する働きがある。
オオカミは、人間のように家族単位で暮らす。オオカミの集団、つまり家族には、一組しかペアがいない。オオカミの子は、親や兄弟とは交尾しない。人間と同じように両親が家族を支配する。親は、いつまでたっても親。オオカミの家族では、優位をめぐって子どもたちが親に挑むことなどない。うへーっ、そうなんですか。オオカミの家族が人間の家族とそっくりだなんて、意外でした。
 オオカミが大きな群れで行動しない理由の一つは、捕食種なので、被捕食種のような護身の群れをつくる必要がないこと。オオカミの兄弟は優位をめぐるけんかをしない。
犬にとっていちばん自然な生活は、柵がなく、人間の飼い主がいて、おもに野外で過ごす暮らしだ。
犬は、いわば成長が停止したオオカミだ。顔がオオカミに似ている犬種ほど、おとなのオオカミと似た行動をとる。犬が母親と娘のような家族同士でないのなら、犬を飼うなら2匹にとどめたほうがよい。
犬は、オオカミの血を引いているので、「探索」の欲求が強い。オオカミは放浪する動物で、日中に知的な刺激をたくさん受け、一日に何度もさまざまな決断を下す。
犬は群れをつくると危険だ。犬は、とても社交的なので、何時間もひとりぼっちでは楽しくない。孤独と退屈で苦しんでいる犬があまりに多い。
犬は人間が喜べば、自分もうれしくなる。人間と犬は意識せずに常に互いを訓練している。
エサを取りあげられても気にしないように子犬を訓練することが大切だ。子犬にとって欲求不満を我慢させる訓練でいちばんいい方法は、「待て」と「おあずけ」を教えること。
 犬は、一日に少なくとも1時間はかまってやる必要がある。
子犬の性格を見分けるテスト。子犬をそっと仰向けにして、それから、その胸を軽く押さえつける。起きあがれない程度の圧力をかけたあと、手を離し、そのときの子犬の態度をみる。怒った目でにらみつけたり、おそろしがったりする犬は困る。ちょっとした遊びだと受け止める犬がおすすめ。
猫を飼うとき、心に留めておくべきことは、猫は本当には飼い慣らされていないこと。犬と人間の関係は共生的だが、猫と人間の関係は相互利用的。猫と人間とは、一緒にいて得る利益以上には互いをそれほど必要としてこなかった。ネコは、ある意味で、居間にすむ超小型のトラのようなものだ。
猫は環境にこだわり、小さな変化にもいちいち気がつく。猫は、犬と比べてはるかに自分の流儀にこだわり、新しい環境にうまく適応しないことがよくある。
馬は、犬に似ているところが少しある。人間を喜ばせたいのだ。馬は細部にとても敏感だ。絶対に怒りながら馬に近づいてはならない。
家畜の牛は、馬ほど恐怖心が強くないが、常に捕食者を警戒している。牛は群れで暮らす。そのため、仲間や家族と一緒にいる必要がある。
豚はとても好奇心が強い。先祖のイノシシが自然の中で長い時間をかけてエサを探していたことと関係がある。豚はかなり社交的で、性格も優しい。豚は、とても賢い。頭のよさは、アライグマ、犬、猫に次ぐ。
生き物についての深い考察がなされていて、驚嘆しました。著者は自閉症の動物学者です。
(2011年12月刊。2200円+税)

朝、ウグイスが上手に鳴くので目が覚めます。澄んだ声でホーホケキョと春到来を告げます。
庭にはアネモネの紅い花、黄水仙。チューリップのつぼみはぐんと伸び、もう少しで咲きそうです。
ついに花粉症が始まりました。目元がかゆくて、鼻水が止まりません。鼻詰まりのため、夜中に目が覚めてしまいます。春到来を待ちこがれているのですが、これだけは困ります。
子どもにも花粉症が増えているようです。その原因の一つに日本人のあまりの清潔好きがあるという記事を読みました。文明化もいいことだらけではないようです。

2012年2月 5日

著者   マイケル・ウェランド 、 出版   築地書館

 砂にまつわる話が満載です。よくぞここまで調べあげたものです。残念ながら、砂に棲む蟻地獄(虫)は登場してきません。
 それにしても、地球上に砂は無数(無限)にあります。同じ無数といえば、宇宙の星だってそう言えます。では、地球上の砂と宇宙の星とを比べると、どちらが多いのか。
 うひゃあ、そんな発想をしたことなんてありませんでしたよ。ところが、それを計算してみた学者がいるのですね。すごいものですよね。
 その学者って、有名なカール・セーガンです。彼は、宇宙にある星の数は、地球上の砂浜にある砂つぶ全部より多いと言ったのです。本当でしょうか?
 実はこの本によると、どちらも10の20乗くらいだというのです。あとは砂の定義次第というわけです。ええーっ、宇宙の星のほうが圧倒的に多いんじゃないかと思っていました。だって、広大無辺の宇宙の星が、地球というちっぽけな天体にある砂つぶほどもないなんて、イメージがこわれてしまうじゃないですか・・・。
 乾いた砂は、気味が悪いほど液体とよく似た動きをする。濡れた砂は、水が多すぎない限り、どちらかというと固体に近い性質を示す。
 砂は、わずか1%の水を加えるだけで驚くべき固体に変容し、水の含量が10%をこえてもこの特徴は変化しない。粒子と粒子の間の空間に水と空気の境界面があり、その面積が大きいので表面張力が働いて粒子どうしがくっつく。うむむ、なんだか分かったようで・・・。
 砂に埋まった人は、コンクリートで固められたのと同じ状態になる。固まった砂地獄から足を抜くのに必要な力は、中型の自動車を持ち上げるのと同じだと推定されている。解決策は身体をくねらせること。先日、イタズラのつもりで砂の落とし穴に埋められて新婚カップルが亡くなったという事件が起きましたよね。砂って、怖いんですね。
薪の調達、過剰放牧、過剰耕作などが近年の「砂漠化」の原因の90%を占めている。
 地球の砂漠化が進行しているようで、私も心配しています。
(2011年8月刊。3000円+税)

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