弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

韓国

2017年2月22日

少年が来る

(霧山昴)
著者  ハン・ガン 、 出版  クオン

 1980年5月18日。韓国全羅南道の道庁所在地である光州で、市民による自発的な民主化闘争が戒厳軍によって無惨にも武力鎮圧される事態が起きました。いわゆる光州事件です。当時、日本のマスメディアは手のつけられない暴徒を軍部がようやく鎮圧したと報道し、まるで、市民が暴徒化したのが悪いかのように描いたのでした。
 なにより厳重な情報統制により、詳細かつ正確な情報が日本に入ってこなかったのです。私自身も何か大変なことが韓国で起きているけれど、何が起きているのか分からないという、もどかしい思いで一杯でした。
 光州事件の真相が広く知られるようになったのは、7年後の1987年6月に軍部出身の廬泰愚(ノテウ)大統領候補が民主化宣言をしてからのことです。
 この本は光州事件をテーマとする小説です。いろんな手法で事件の真相、実情にアプローチしていますので、小説の作法として目新しさを感じました。
 軍人が殺した人々に、どうして愛国歌をうたってあげるのだろうか。どうして対極旗で柩を包むのだろうか。変だと感じた。まるで、国が彼らを殺したのではないとでも言うみたいだ。軍人が反乱を起こしたんじゃないの、権力を握ろうとして。真っ昼間に人々を殴って、突き刺して、それでも足りないみたいに銃で撃ったのを見たでしょ。そうしろって、彼らが命令したの。そんな彼らを、私たちの祖国の人たちだと、どうして呼べるのか・・・。
 機関銃と戦車がある精鋭部隊の戒厳軍が、朝鮮戦争のときに使っていたカービン銃をもっている市民軍を怖がるなんて考えられない。作戦の段取りをしているだけのこと。
軍人が撃ち殺した人たちの遺体をリヤカーに載せ、先頭に押したてて数十万の人々とともに銃口の前に立った日、不意に発見した自分の内にある清らかな何かに自分で驚いた。もう何も怖くはないという感じ。いま死んでもかまわないという感じ。数十万の人々の血が集まって、巨大な血管をつくったようだった新鮮な感じを覚えている。その血管に流れ込んでドクドクト脈打つ、この世で最も巨大で崇高な心臓の脈拍を感じた。
この日、軍人に支給された弾丸は80万発。当時、光州の人口は40万人。光州にすむ都市全住民に2発ずつ死を打ち込むことのできる弾丸が支給された。
 できる限り過激に鎮圧せよという命令が下っていた。そして、特別残忍に行動した軍人には、軍の上部から数十万ウォンずつの褒賞金が渡された。
 畜生のアカどもめ、降伏するってか、命が惜しくなったってか、くそったれめ、いかす映画みてえじゃないか。
両手をあげて前にすすんできた五人の生徒たちをM16自動小銃で撃ちまくった。
 特別に残忍な軍人がいたように、特別に消極的な軍人もいた。人に弾を当てないように銃身を上にあげて撃った兵士たちがいた。軍歌斉唱のとき、最後まで口をつぐむ兵士もいた。
 光州事件の実際をまざまざと思い起こさせてくれる小説集です。
(2016年10月刊。2500円+税)

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2016年11月 6日

おにぎりの本多さん

(霧山昴)
著者 本多 利範 、 出版  プレジデント社

 韓国にセブン・イレブンを定着・展開させていく苦労話です。日本と韓国の食習慣の違いなどもよく分かり、面白い本です。
 ダイエット中の私は、ときにお昼をコンビニのおにぎり(ねり梅)1個ですますことがあります。パリパリした海苔と梅干がご飯によくあって美味しく食べられます。コンビニにとって、1個100円のおにぎりは主力商品なのですね・・。
現在、セブン・イレブンでは平均して1日1店舗が320個のおにぎりが売れている。店舗は1万8千店なので、セブン・イレブンだけで1日に576万個も売っている。コンビニ全体では1日に1228万個が生まれている。1年間にすると、44億8220万個という途方もないおにぎりが売られている。
 ところが、韓国人にとって、冷めた食べ物を食べる人は、お金のない人。だから、はじめのうち、韓国ではおにぎりが売れなかった。
 韓国海苔は、あえて繊維を残して厚さにムラを出し、硬い触感を楽しむタイプ。そして、塩と油で味付けされた味付け海苔が主流。海苔という食べ物は、すでに双方の国で、形も味も、ともに理想形が確立していて、国民的食べ物にまで昇華されている。そこで、妥協の産物として韓国のコンビニで売られているおにぎりは、シートに入った海苔は、ところどころ向こうが透けて見える韓国海苔風だが、食べると日本の絶妙なパリパリ感も味わえるものとなっている。
韓国ではキムチを具としたおにぎりは売れなかった。なぜか・・・。韓国の食堂では、キムチは無料。だからキムチおにぎりは、無料の具材を入れただけでお金を取ろうとしていると思われ、価値を見出してもらえなかった。なるほど、ですね。
 韓国でおにぎりがブームになったのは2001年から。そのころ、日本では年間28億個だった。この年、韓国は2000万個。翌2002年に、ようやく1億個になった。
ハンバーガーは年間17億個が売れているので、まだまだおにぎりも売れるはずと踏んだ。
著者は韓国のテレビに出演して「おにぎりの本多さん」として有名になったとのことです。
韓国では、天ぷらおにぎりもダメだった。韓国では天ぷらの地位が低すぎた。天ぷらは高級料理ではなく、屋台料理か刺身屋のおかずでしかない。うひゃあ、信じられません・・・。
この本を読んで、私はスーパーマーケットとコンビニの根本的な違いを認識しました。
スーパーマーケットは、生鮮三品(肉・魚・野菜)を核として売り場がつくられている。いつもと変わらない売場のほうが客にとって買い物もしやすいし、安心。変化は緩やかなほうが好まれる。
 コンビニは、季節はもちろん、その日その日の天候、店舗周辺のイベント、そして朝、昼、晩の時間帯と、消費者を取り巻くあらゆる微細な変化に対応していく必要がある。コンビニだからこそ出来る細やかな「変化対応」にこそお客は価値を見出す。そのための売り場づくりを日々考え抜いている。
コンビニの面積は、日本は30坪、韓国はもっと狭くて22坪。
韓国のコンビニの平均日販は20万円ほど。日本は50~70万円。
コンビニには、1日3回の商品搬入がある。コンビニでは、人は自宅にストックするための高い商品は買わない。その時々に必要になったものを買いに走る。商品の消費期間は短いものが多い。
韓国にはインスタントラーメンを食べさせる粉食店が街のいたるところにある。そして、町中が不動産屋だらけ。さらに、韓国の受験戦争は厳しく、子どもたちはコンビニのおにぎりを口にして塾を飛びまわる。
韓国人は、荷物を手に持って行動するのは貧乏くさいとして嫌う。周囲から軽く見られないためには、重い荷物を自分で持ってはいけない。
コンビニでコーヒーやフライドチキン・ドーナツを売るようになった。そのとき、「美味しすぎてはダメ」なのだ。美味しすぎるというのは、すぐ飽きられるということに直結する。ここが商品の開発の難しいところであり、肝でもある。
ふむふむ、そうなのか、そんなに日常生活習慣が違うものなのか・・・。驚くばかりでした。
著者は、私と同じ団塊世代ですが、今もファミリーマートの専務として、現役で頑張っています。
 
(2016年8月刊。1500円+税)

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2016年10月16日

受難

(霧山昴)
著者  帚木 蓬生 、 出版  角川書店

済州島に行くフェリーが沈没し、修学旅行のために乗船していた韓国の高校生が300人も亡くなった、世にも悲惨な事件は、私にも忘れることが出来ません。本当にひどい話でした。
この本は、その実話を取り込んだ小説です。事件の背景がよく分かる展開です。
沈没してしまった船は、もとは日本の船でした。それを韓国の船会社が買って大改造したのです。乗客を積め込めるだけ積め込む利潤本位でしたから、安全性は完全に無視。問題は、それを見逃した当局の監視体制の甘さです。
そして、事故が起きたときの対処にも問題がありました。なにしろ、船長たち幹部船員が真っ先に船から脱出し、高校生たち乗客には、じっとして動くなという船内放送を繰り返して、脱出のチャンスを奪ったのでした。こんなひどい話はありません。
ところが、船員は船長以下、ほとんど非正規社員だったというのです。愛船精神が生まれる余裕なんて、なかったようです。となると、オーナーと海運当局、そして救難体制の不備が問題となります。
それはともかく、300人もの前途有為な高校生をいちどに失った親族の悲しみはなんとも言えない深さです。国家的損失でもあります。本当に思い出すだけで悲しい、悔しい話です。
この本は、この事故で水死した少女が細胞再生技術によってよみがえる話を中心にして進行していきます。やや出来すぎという感を受けましたが、それも小説だから許せます。
日本だって、安全第一のはずの原発で大事故が起きたのに、今なお原発の安全神話にしがみつき、金もうけしか念頭にない電力会社と政治屋の一群がいます。それには、本当に許せない思いです。
それにしても、人間の再生技術って、簡単なことではないでしょうが、それは是非やめてほしいと思いました。人間が人間ではなくなりますから・・・。
(2016年6月刊。1800円+税)

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2016年9月19日

沸点

(霧山昴)
著者  チェ・ギュソク、 出版  ころから

韓国の1987年6月の民主抗争の推移をマンガで紹介しています。
1979年10月26日、朴正熙大統領が側近のKCIA部長の銃弾に倒れた。それによって「ソウルの春」が訪れたが、それも束の間、全斗煥を中心として軍部がクーデターで権力を掌握した。
1980年5月、金大中が内乱罪で逮捕された。5月には、光州で民衆抗争が始まった。
1983年、全政権は融和措置をとり始めた。
1985年、金大中が帰国して、野党が躍進した。
1987年1月、ソウル大生の朴鐘哲が治安本部で拷問により死亡した。
朴鐘哲の死は、それまで民主化運動とは無縁だった母親たちの怒りを呼び起こした。民主大連合がつくられ、宗教界そして、マスコミも呼応していった。
1987年6月10日、全国一斉デモが起きた。全国のデモは2145回、参加者500万人。治安当局がつかった催涙弾は3万発にもかかわらず、6月民主抗争は成功した。
それでも、1987年末の大統領選挙では、民主陣営の分裂によって、盧泰愚が36%の得票で大統領に当選した。
韓国では、学校で「アカ」の恐ろしさを徹底してたたきこまれるようです。ところが、大学に入り、社会に入って現実を知るようになると、「アカ」と言われているものが、実はまっとうな権利を主張している人々であって、そのために当局から嫌われているだけだということが実感できるようになります。これは一定の確率で、それほど増えていくわけではありませんが、少なくとも一定の固い支持者層がいるようですね。
韓国現代史の一断面を知る有益なマンガ本です。一読をおすすめします。
(2016年6月刊。1700円+税)

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2016年8月23日

韓国軍と集団的自衛権

(韓国)
著者 裵 淵弘 、 出版 旬 報社 

 日本でも安保法制が施行され、いつ日本の若者たちがアフリカの戦場で殺し殺されるか分からない事態が迫っています。戦後70年間、一人の戦死者も出さなかった日本ですが、戦死者続出という事態になれば日本社会の雰囲気が一変し、今より一層ギスギスした社会状況になるのではないかと本気で心配しています。もちろん、被害者になるだけではありません。加害者となり、「敵の一味」として、テロリストによる報復を恐れなくてはならなくなるでしょう。新幹線や地下鉄、飛行機に安心して乗れない、50ケ所以上もある原発が狙われてしまったら、狭い日本列島どこにも住めなくなってしまいます。
安倍首相のいう国際安保環境が激変してから、しまった、あのときアベに反対しておくんだったと後悔しても手遅れだった、、、。   
そんな日が来ないことを、私は心から願っています。
べトナム戦争のときの、日本アメリカからの参戦要求を断ることができました。安保法制がなかったからです。お隣の韓国は、アメリカの命じるまま大量の韓国軍をベトナムに派遣しました。その結果、韓国社会には経済的発展がもたらされた一方で、多くの韓国の若者たちが人知れず泣きました。その深刻な実情が明らかにされています。
1964年から1973年までの8年あまりの間にベトナムに派遣された韓国兵は25万3000人。今も生存しているのは19万人。うち14万人がベトナムで浴びた枯葉剤による後遺症に苦しんでいる。 除隊後に病死した6万人の死因も疑わしい。
ベトナム帰りの元韓国兵の平均年齢は70歳。韓国人の平均寿命は80歳なので、死亡率がとても高い。しかも、6万人近くの人が重篤な患者だ。
アメリカがベトナムでつかった枯葉剤の毒性は強く、イペリットやサリンよりも強力。10億分の1グラムでガンを引き起こす。
ベトナム戦争に従軍したアメリカ兵は259万人。その1割に枯葉剤の被害が認められる。
ところが、当時は誰もが害のない除草剤か殺虫剤だと思い込み、アメリカ軍隊から散布された霧状の薬品を、わざわざ服を脱いで浴びていた。そうすると気持ちがいいし、蚊にも刺されなかった。
朴正煕大統領は、在韓米軍の削減を恐れていた。そして、アメリカの要求にこたえることで、1億5000万ドルが韓国に提供されることになった。日本とアメリカの援助によって、朴大統領は「漢江の奇跡」を演出することができた。
国家存亡にかかわる安保危機が経済建設の利権に様変わりした。
アメリカの求めに応じて戦闘部隊を送り出したのは韓国だけだった。オーストラリア4533人、フィリピン2063人など、派遣はしたが戦闘部隊ではなかった。
しかし、現地で指揮をとった韓国軍司令長官は、誰より戦争に悲観的だった。
「ベトナムでのゲリラ戦に勝つ見込みはない」
行かないわけにもいかず、しかも勝つこともできない戦争だった。
韓国軍の戦費は、兵士の月給をふくめて、すべてアメリカ政府から支給された。兵士の給料の8割は本国に送検され、残り2割も現地で韓国産テレビを買わせるなどして、100%が韓国に流れ込んだ。それは総額2億ドルをこえ、高い失業率と外貨不足に悔やんでいた韓国経済を救った。
ベトナムに「現代建設」や「韓進高事」がアメリカ軍の下請として入って、事業規模を大きく拡大し、韓国の高度経済成長を牽引していった。ベトナム特需は10億ドルに以上のぼった。
 いま、韓国でも兵役を拒否する人がいる。10年間で5723人。毎年500人以上の若者が兵役に応じず、刑務所に入っている。
 大変勉強になりました。考えさせられます。憲法違反の安保法制を一刻も早く廃止しましょう。
(2016年 6月刊 1400円+税)

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2016年5月11日

新・韓国現代史

(霧山昴)
著者  文 京洙 、 出版  岩波新書

 韓国は、軍事政権のあとは、革新的な大統領になったかと思うと、保守的な大統領に戻ってしまったり、政権交代が続いています。
 そして、直近の国政選挙では朴大統領の与党が第二党に転落してしまいました。その立役者は、どうやら若者の票のようです。日本でも、野党の統一候補の擁立がすすんでいますので、日本の若者があきらめることなく(選挙に棄権せず)、野党候補へ一票を投じる可能性が高まってきました。
 安保法制、TPPそして労働法制の規制緩和など、今の安倍政権のやっていることは、あまりにも国民、とりわけ若者を無視しています。それに対して「ノー」という審判を下したら、世の中は大きく動きます。今まさに、ワクワクする政治が目の前に到来しているのです。ぜひとも、一人でも多くの若者にそのことを自覚してほしいと切に願います。
 2014年4月16日に起きたセウォル号の沈没事件には、私も泣かずにはいられませんでした。ひどい、ひどすぎる。許せない、そう思いました。だって、前途有為の若者たち(高校生)が300人も死んでしまったのですよ。きちんと誘導・避難していれば、相当数の高校生が助かったと思います。雇われ船長が下着姿で船から脱出している様子は、とても正視できません。お金もうけがすべて。これって、まさに日本の経団連と同じです。ひどいものです。
目先の金もうけのためには、軍需産業を大々的に育成する。そのために税金投入を政府に求めるというのが日本の財界です。どうしようもない連中です。そのくせ、日本の経団連は道徳教育の強化に熱心だというのですから、世の中は間違っているというか、狂っています。
いまの朴大統領の父親である朴正煕が部下の金載売から射殺されたのは、1979年9月のことでした。まったく衝撃的な出来事として、私も記憶が鮮明です。軍人の世界も食うか食われるか、かなり厳しいものなんだと思ったものです。
そして、1995年10月に盧泰愚が、12月には全斗煥が逮捕された。全斗煥は無期懲役盧泰愚は懲役17年の刑が宣告された。すごいですね。すぐに釈放されたとはいえ、強権をふるった元軍人の元大統領が逮捕され、無期とか17年の懲役刑が宣告されたとは、すばらしいです・・・。
 日本にも、まさるともおとらぬ大きな矛盾を社会内にかかえている現代韓国の内面をたどる手頃な新書です。

(2015年12月刊。840円+税)

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