弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

イスラエル

2016年11月11日

水危機を乗り越える


(霧山昴)
著者 セス・M・シーゲル 、 出版  草思社

イスラエルが砂漠の国であること、そこで海水の淡水化をふくめて真水確保で大きな成果をあげていることを知りました。
イスラエルの学校では、最少の水で歯みがきする方法が教え込まれている。それだけ水の大切さが繰り返し教えられている。
パレスチナには1200万人がいて、イスラエルに800万人、ヨルダン川西岸とガザ地区に400万人が住んでいる。
1948年にイスラエルが独立を宣言したとき、国の人口は80万6千人だった。
ネゲブ砂漠を通る国営水輸送網が完成して、1200億ガロン(4億5千万立方メートル)の送水能力を得て、南部の荒涼たる土地でも、種類を選ばずに作物を育てられるほどに大量の水が利用できるようになった。そのため、イスラエルにたどり着いた移民はネゲブ砂漠に入植して農民として生計を立てていくことになった。
イスラエルで点滴灌漑の手法が開発され、実用化された。一滴ずつ灌漑すれば、水分の蒸発はおさえられ、作物の必要とする水を直接その根に届けてやることができる。節水効果はばつぐんで、蒸発や不必要な土壌への浸潤で減少する水はわずか4%にすぎない。
点滴灌漑農法によると、湛水灌漑やスプリンクラー灌漑を上回る収穫を必ずといってよいほど達成できる。現在では、2倍以上の収穫が標準だ。40%の用水を節約しながら、湛水灌漑より550%の生産量をあげている。
もちろん、点滴灌漑の装置は、降雨に比べると、はるかに高額だ。
この灌漑法では、水と溶解性の肥料の混合液が作物にたびたび投与される。これが養液点滴灌漑である。
イスラエルでは、点滴灌漑が標準農法で、灌漑されている耕作地の75%の地下もしくは地上部分に滴下装置を認めることができる。残る25%はスプリンクラー灌漑である。
この点滴灌漑農法がもっとも劇的に増加しているのは、中国とインドである。
今日、イスラエルでは排水の95%が処理され、利用されている。残る5%は汚水処理タンク方式で処置されている。
海水の淡水化にもイスラエルは取り組んでいる。ソレクに建造された施設は世界最大にして最新で、一日に62万立方メートル(1億6500万ガロン)の淡水を生産している。
海水淡水化はイスラエルの水事情を根底から変え、その影響はこの国の社会の隅々に至るまで感じられる。
海水淡水化とは、他人をあてにしなくてもよいということ。これがあるから、我々は自らの運命をコントロールできる。イスラエルの農家にとって、再生水は、今や貴重な水源で、処理して際しようするために国の廃水の85%が集められている。
イスラエルは水問題の解決法においてたくさんの発明をうみ出し、世界の水のあり方を変えてきた。
世界で「水戦争」が深刻化しているという本を読んだことがありますが、こうやって解決する方向で実践している国があるのですね・・・。日本は、その点、どうなっているのでしょうか。
この本の解説に日本がバーチャルウォーター(仮想水)を輸入していると書かれていますが、よく分からない文章でした。残念です。ともあれ、イスラエルという国を見直しました。世界の平和に少しは貢献しているのですね。
(2016年6月刊。2800円+税)

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2016年5月 8日

古代ユダヤ戦争史

(霧山昴)
著者  モルデハイ・ギボン、ハイム・ヘルツォーク 、 出版  悠書館

 旧約聖書におけるユダヤ人の戦いを現地の地勢に照らして、考古学的知見をふまえ、図解しながら再現している本です。なるほど、そういうことなのかと驚嘆しながら読みすすめていきました。もちろん、私は旧約聖書をきちんと読んだことは一度もありません。ただ、いくつかの戦いの名前だけは知っているという程度でしかありません。
 パレスチナは、ユーラシア大陸とアフリカ大陸とを結ぶ唯一の「陸橋」である。パレスチナの陸橋に、前12世紀から1200もの長きにわたって続いてた民族国家を形成したのは、ひとりユダヤの民だけだった。この長い期間、ユダヤの民は、しばしば数的劣勢を精神と献身でもって補うことを強いられた。
古代イスラエルで戦闘にかかわる者は、高い山岳地帯での戦いから、砂漠での戦いまで、極端なあらゆる場面での戦闘に精神していなければならなかった。
12世紀の戦いで、十字軍は飲み水に欠乏して憔悴していたのに対して、他方のサラセン軍は88キロ離れた山の斜面からラクダを使って次々に運ばせた氷で冷やした飲み物で喉をうるおしていた。
ユダヤ社会において「民」は、直接的であれ間接的であれ、常に国家に対して影響力をもつ存在だった。
 イスラエルの軍隊は、武装した一般民衆を中核として構成されていたが、イスラエルの民は、いつでも武器をとって戦う気がまえができていた。
 イスラエルの兵は、ほとんど全員が歩兵だった。イスラエルは諜報機関を大切にしていた。軍司令官は、自分の情報収集期間に対し、情報のたしかさを証明する証拠をできるだけ多く収集することの重要さを教え、その周知徹底につとめていた。
 宿屋は、いつの時代も、情報収集に非常に適した場所である。泊まり客たちの軽率なおしゃべりと、宿屋の主人の鋭い聴力が一つにあわさると、熱望された情報源となる。
訳者による解説が出色です。
優秀な指揮官であるかどうかの重要な決め手は、見えない「丘の向う側」の敵軍の動きを読みながら、あるいは想定外も考慮に入れつつ、迅速にして的確な対応ができるか否かである。そのためには、指揮下の偵察や諜報機関による情報収集が求めらえるだけでなく、報告された情報が果たして本当に正しいか、自分の責任において見極めなけれならない。
 そして「サウルのジレンマ」というのがあります。つまり、全軍の長たる父王の許可なしに配下の部下だけで敵の陣地を攻撃する単独行動をとったとき、そのために戦いに勝ったという場合に、「命令違反」として死刑に処していいのか・・・。というものです。勝ったんだから許せるとしたら、いつだって命令違反をしていいということになりかねません。難しいところですよね。よくぞ調べてあると驚嘆しました。
 

(2014年6月刊。4800円+税)

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