弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

タイ

2018年3月31日

だから、居場所が欲しかった


(霧山昴)
著者 水谷 竹秀 、 出版  集英社

タイのバンコクのコールセンターで働いている日本人を取材した貴重な労作です。
日本企業は、いま経費削減のため、電話による受注業務を海外に移転させている。経費が日本よりも3分の2ほどに圧縮できる。なぜか・・・。タイのコールセンターは、最低賃金が適用されず、賃金が最低ラインよりも低く設定されている。それでも、タイの物価は日本の3分の1から5分の1ほどなので、十分に生活できる。なにしろ、衣服費がかからないし、食べ物は日本人好みのものが安くて美味しい。
コールセンターは、時差の関係で、午前7時に始まり、1時間に平均5件、1件につき10分ほど対応する。8時間勤務だと1日40件に対応する。あるコールセンターでは日本人オペレーターが110人、平均年齢は30代前半、男女比は半々。
コールセンターの仕事は時間ぴったりに終わり、ノルマの残業もない。単価の安いタイでは、月に3万バーツもあれば普通に生活できる。コールセンターは大手2社で計300人。小さいコールセンターをふくめると合計500人ほど。こんなに大勢の日本人が働いているのですね、知りませんでした。
ところが、コールセンターで働いているというのは、日本人社会ではイメージが悪く、一段低く見られてしまう。
タイに進出している日系企業は、4500社(2015社5月現在)。タイには日本人は6万7400人。これは、アメリカの42万人、中国の13万人、オーストラリアの8万9000人、イギリスの6万8000人に次いで多い。シンガポールの3万7000人を大きく引き離し、イギリスを抜く勢いで増えている。
駐在員の給与は年収1000万円ほど。現地採用者(ゲンサイ)は、駐在員の5分の1から半分ほどでしかない。
タイにはフィリピンに次いで困窮邦人(日本人)が多い。2015年の外務省の統計では、フィリピンに130人、タイは29人いる。
そもそも日本で出来ることのなかった人がタイへ渡り、タイで出来る仕事がないのでコールセンターで働く。行くも地獄、帰るも地獄。
タイの観光街に日本人男性が群がっているという話は有名です。それは今もあるようですが、この本では、同じように日本人女性がゴーゴーボーイと呼ばれるタイの若い男性を買っている実情をレポートしています。ゴーゴーボーイの大半は貧困層の出身で、若いイケメンを求める日本人女性との間で利害が一致する。バンコクであれば、それほどの大金を積まなくても、狙った獲物を自分の好き放題にすることができる。ゴーゴーボーイの3割はゲイとされ、訪れる客の多くもゲイ。タイでは、コンビニとかスーパーに行けば、1人くらいはニューハーフがいるので、一般の人は免疫ができている。そこが日本とは違っている。
日本の社会で異端児扱いされることが多かったので、居場所が欲しい人がバンコクへやってくる。自分のことを認めてくれる環境を探し求めていた。他人に好かれ、嫌われないような人間でありたかったという人たちだ・・・。日本社会は生きづらい。しかし、そもそも、こんな日本社会に順応する必要があるのか・・・。
世の中には知らないことがあまりにも多いということを、またまた思い知らされました。

(2018年2月刊。1600円+税)

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2015年12月18日

タイ、混迷からの脱出

(霧山昴)
著者  高橋 徹 、 出版  日本経済新聞出版社

 私はタイのバンコクに10年ほど前に一度だけ行ったことがあります。仏教を信じる人が多く、おだやかな人々の暮らしが営まれているという印象でした。個人的には、繁華街の路上でフットマッサージをしてもらい、心地良かったことも思い出します。
ところが、そんなバンコク中心部をデモ隊が占領したり、果ては暴動の現場となったり、バンコクとタイへの印象をすっかり変えなければいけない事態が頻発しました。言わずと知れた、タクシン派と反タクシン派の抗争です。激しい政争というのは理解できるのですが、暴力的な占拠や衝突、そして軍部によるクーデダまで起きると、私の理解をはるかに超えてしまいます。
この本は、タイの政治の内情を新聞記者らしく紹介しています。
民主主義のルールを無視し、議会政治をないがしろにした、力任せの「街頭政治」がまかり通ってきたのが、ここ数年のタイの状況だ。
タクシン派は「選挙がすべて」と叫び、国民の多数の支持を受けたという権力の「正統性」を主張する。それに対して、恩赦法案のような多数派の横暴は、権力行使の「正当性」を欠くと反タクシン派は訴える。
タクシン政権の圧倒的な議席数におごった強権的な政治姿勢や不透明な政策プロセス、一族や取り巻きの企業に露骨に利権誘導する金権体質が、官僚や企業経営者、知識人、そして都市中間層など保守勢力の反感を招いた。
2014年10月の時点で、タイに住む日本人は6万4千人。これは、アメリカ、中国、オーストラリア、イギリスに次いで5番目に多い。そして、タイに進出している日本企業は4600社。バンコクの日本人学校(小・中学)は、3000人の小・中学生徒が通う、世界最大規模だ。
外国からタイへの投資額の6割を日本が占める。
日本に来たタイ人は、2013年に45万人、2014万人に66万人。
タイで売れる新車の9割は日本製。和食や日本アニメも大人気。
タイの中心部を流れるチャオプラセ川を一般名詞の「川」と呼んだのが川の名前だと勘違いした。
タイの都市部の識字率は96%。タイが「アジアの工場」として発展したのは、この識字率の高さと無関係ではない。
タイでは華人が積極的に同化することもすすんでいる。現在のタイで、華人への偏見、差別は、まったくない。
1976年、タマサート大学の構内で抗議デモをしている学生たちへ警察隊が無差別発砲して、46人の死者を出した。血の水曜日事件と呼ばれる。その後、森に入った学生闘士は3千人にのぼると言われた。
2001年2月、51歳のタクシン首相が誕生した。漢字で丘達新と書く。警察士官学校を首席で卒業し、警察官となった。副業としてコンピューター関連の仕事をし、ケータイ分野に乗り出し、通信王と呼ばれるほどに成功した。タクシン人気は、農村振興と貧困対策を基にしている。これによって世帯収入の低いコメ農家の多い東北部、北部の有権者に熱狂的に支持された。タイも貧富の格差が大きい。11.1倍。日本は6.5倍。
仏教国のタイでも、最南部の3県では、住民の9割がイスラム教徒で占める。タイでは、クーデターのたびに憲法の廃止と制定を繰り返し、最近も12回目の憲法制定がなされた。
タイでも汚職は状態化している。政治軍人も政治実業家も、汚職体質という点では、同じ穴のムジナだ。
王室の「中立性」が揺らいでしまった。王室は反タクシン派と寄りみられるようになった。
ジャーナリストとしての視点がありますので、概説としてはいいのですが、もっと本質的な突っ込んだ分析がほしいと思わせる本でもありました。
(2015年9月刊。2600円+税)

仏検(フランス語検定試験)の結果を知らせるハガキが届きました。11月に受けた準一級の試験です。予想どおり合格でした。自己採点で87点でしたが、なんと2点も上回っていて、89点です。合格点は73点ですから16点もオーバーしています(150点満点です)。いつも控え目で謙虚な私の性格から自己採点が低かったとつぶやいたところ、「えっ、なんのこと、、、」という反応がありました。つい本当のことを言っただけなのですが、、、。1月下旬に、口頭試問を受けます。難行苦行が続きます。

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