弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年2月 1日

転落自白

司法


(霧山昴)
著者 内田 博文 八尋 光秀、鴨志田 祐美 出版 日本評論社

 「日本型えん罪」は、なぜうまれるのか、というサブタイトルのついた本です。
 現実にあった間違った裁判のほとんどで、やってもいない人が「自白」をしています。この本は、やってもいない犯行を「自白」してしまうカラクリを明らかにします。
 この本の面白いところは、まず、やってもいない人が「自白」する流れを、一つの話としてまとめたところです。なるほど、無実の人がこうやって「自白」させられていくのが、読み手がぴんと来る仕掛けです。
 次に、実際にあった足利事件、富山氷見事件、宇都宮事件、宇和島事件を取りあげて問題点を解説します。警察官も検察官も、裁判官も、さらに弁護士までが、やってもいない「ウソの自白」を「ホントの自白」だと信じた。ところがひょんなことから、無実だと判断した。
 死刑判決が言い渡された事件でも冤罪事件はあった。免田(めんだ)事件、財田川(さいたがわ)事件、島田事件そして松山事件の4つ。死刑判決でも間違っていた。あやうく死刑が執行されそうになった人が少なくとも4人はいるのです。
いま、飯塚事件が問題となっています。死刑が確定して執行されてしまった人が無実だったのではないかという事件です。これは、そんな古い話ではありません。今でも、日本のどこかで無実なのにぬれ衣を着せられて泣いている人がいるかもしれないのです。
調書を中心とする供述分析は、世界中を見渡しても日本のほかには、あまり行われていない。日本の裁判は調書にもとづいてなされている。
 取り調べ場面を録音か録画されるのは、アジアでは韓国、台湾、香港ですでに実施されている。しかし、日本では、依然として取り調べ場面の全面的な可視化は実現していない。
 DNA鑑定の古いものは足利市の人口にあてはめると、同じ型の人が男性でも、100人もいるというレベルだった。ところが、新鑑定では、型が一致する確率は4兆7000億人に1人である。地球人口が70億人だとされているので、地球上に型の一致する別人はいないということを意味している。
供述調書の心理学的特性を究明する試みも紹介されています。
 犯行供述に被害者が不在であるという特徴のある供述調書は、体験記憶にもとづいて供述していると評価することは困難。
逮捕されたら、全生活を他者のコントロール下に置かれてしまう。食事、排泄、睡眠という基本的生活まで他者に支配され、自分が自由にできる範囲が大きく限局される。その結果、自己コントロール感を失う。誰も自分の無実を信じてくれる人がいないとの絶望感は、もはや無実を主張する気力を奪ってしまう。警察で認めたのに、検察庁や裁判所で否認すると厳しい取り調べをする怖い人にもどってしまうことを何より恐れる。
裁判官には、検察そして警察に対する仲間意識がある。裁判官は独立しているために孤立しがちである。
えん罪を日本からなくすために頑張っている若手弁護士との学者が、その勢いをもって書き上げた本です。広く読まれることを願います。ご一読ください。
(2012年7月刊。1900円+税)

  • URL

2018年2月 2日

これが人間か

ドイツ


(霧山昴)
著者 プリーモ・レーヴィ 誠二 、 出版  朝日新聞出版

 「アウシュヴィッツは終わらない」の改正完全版です。前にも読んでいますし、このコーナーで書評を紹介したと思いますが、ポーランドのワルシャワ動物園でユダヤ人救出を実行していた実話が映画になったのをみたばかりでしたので、改めて読んでみました。その動物園では、園長宅の地下室を中継地点としてユダヤ人をゲットーから救い出して逃亡させていたのでした。命がけで、そんなことをしていた人々がいたのですね。そんな勇気と知恵には頭が下がります。
著者は1943年12月に24歳のとき、捕えられました。まだ若かったので、生きのびることができたのですね、きっと、、、。
 貸車に詰め込まれて運ばれます。著者と一括の貸車にいた45人のうち、家に戻れたのはわずか4人のみ。
 収容所に着いたとき、96人の男と29人の女だけが助かり、残りの500人は2日と生きていなかった。その選別はあまりに手早く簡単なものだった。ナチス第三帝国に有益な労働ができるかどうかが選別の基準だった。
 ラーゲル(強制収容所)では、死は靴からやって来る。囚人は自分にあわない木靴をはかされる。足はふくれあがり、歩くのに困難となる。しかし、この判断で病院に入ると死が待っている。
起床時間になると、多くの者が時間の節約のため、獣のように走りながら小便をする。というのも、5分後にパンの配給があるからだ。パンは、収容所ではただ一つの貨幣でもあった。
 よごれ放題の洗面所の汚れで毎日体を洗っても、健康をたもてるほど体がきれいになるわけではない。しかし、活力がどれだけ残っているかを知る手がかりとしては重要だし、生きのびるための精神的手段としては不可欠なのだ。
 収容所(ラーゲル)とは、人間を動物に変える巨大な機械だ。だからこそ、我々は動物になってはいけない。ここでも生きのびることはできる。だから生きのびる意思をもたねばならない。証拠をもち帰り、残すためだ。そして、生きのびるためには、少なくとも文明の形式、枠組、残骸だけでも残すことが大切だ。我々は奴隷で、いかなる権限も奪われ、意のままに危害を加えられ、確実な死にさらされている。だが、それでも一つだけ能力が残っている。だから、全力を尽くしてそれを守らねばならない。なぜなら、それは最後のものだから。それは、つまり同意を拒否する能力のことだ。そこで、我々は石けんがなく、水が汚れていても、顔を洗い、上着でぬぐわなければならない。人間固有の特質と尊厳を守るために、靴に墨を塗らなければならない。体をまっすぐに伸ばして歩かなければならない。生き続けるため、死の意思に屈しないために、だ。
 収容所にいる人々にとって、月日は、未来から過去へ、いつも遅すぎるほどだらだらと流れるものにすぎなかった。なるべく早く捨て去りたい、価値のない、余裕なものだった。未来は、月の前によけ壊しがたい防壁のように起状もなく圧色に横たわっていた。歴史などなかった。
 冬が何を意味するか、それは、10月から4月までに、10人のうち7人が死ぬことを意味する。
 人を殺すのは人間だし、不正を行い、それに屈するのも人間だ。
 ドイツの軍事産業は収容所体制の上に築かれていた。収容所体制こそがファシズムにおおわれたヨーロッパを支えた基本制度だった。
 アウシュヴィッツ収容所の内外における人間行動を直視し、究明することは、私たちとは何が、何をなすべきかを考えさせてくれます。
(2017年10月刊。1500円+税)

  • URL

2018年2月 3日

杉山城の時代

日本史(戦国)


(霧山昴)
著者  西股 総生 、 出版  角川選書

 杉山城って、聞いたこともない城ですよね。でも、これが今注目されている城なんです。なぜか・・・。
 杉山城は、埼玉県比企(ひき)郡嵐山(らんざん)町にある「土の城」。城といっても、城主である殿様以下の武士たちが居住していたものとは、どうやら違うようです。戦国時代の戦闘に備えた砦(とりで)のような城なのです。なぜ、それが注目されているのか、そして、誰が、いつつくった城なのか、少しずつ解き明かしていく本です。
 杉山城は、標高95メートル、比高42メートル。杉山城の特徴は、土橋や虎口(こぐち。出入口)に対して徹底的に横矢を掛けていること。横矢を掛けるための工夫(施設)を横矢掛りと呼ぶ。虎口から堀を渡った対岸に設けられたスペースのことを馬出(うまだし)という。馬出は一般に、城兵が逆襲に転ずる際に攻撃の足がかりとなる場所。これを局限することによって、虎口を一気に突破されないという効果も期待できる。
 杉山城の縄張りは大変に複雑だが、塁壕や通路をランダムに屈曲させた結果ではない。縄張りを構成する各部分は、敵の侵入を効果的に防ぐという観点から、いずれも合理的な説明が可能。したがって、城兵が正常に配置され機能したとしたら、攻城軍は容易には主郭に到達できないだろう。その縄張りは、あまりに緻密で論理的であるから。
 杉山城の発掘調査は、この城が領主の日常生活とも地域支配とも無縁な、純然たる軍事施設であったことを物語っている。戦国時代の比企(ひき)地方には、純然たる軍事施設としての城が次々に築かれていたのだ。
著者は杉山城について、次にように分析しています。杉山城に与えられた任務と守備隊の人数を具体的に意識し、弓・鉄砲をもつ兵を選抜して、ここに3丁、あそこに5丁といったように決められた火点に配置し、鑓(やり)をもった兵たちは白兵戦力として、まとまって使うことを考えていた。杉山城の特徴は、障碍(しょうがい)の主体を徹して横堀に求めていることにある。
 杉山城は2017年に、日本名城100選(続)に選定されたということです。かの忍城(おしじょう)とあわせて、埼玉県には見るべき城がたくさんありますよね。ぜひとも現地に行って縄張りを実感してみたいものです。
(2017年11月刊。1700円+税)

  • URL

2018年2月 5日

すごい進化

生物(人間)



著者  鈴木 紀之 、 出版  中公新書

 一見すると不合理の謎を解くというサブタイトルがついています。
つわり。妊娠初期に妊娠が特定の匂いに対して過敏に反応してしまう。このつわりには、それなりの効用、すなわち進化的な合理性がある。実は、胎児を守るために機能している。つわりのときに反応しやすい匂いの中には、胎児によくない影響を支える物質が含まれている可能性があり、とくに外的な刺激が胎児の成長に影響を与えやすい時期にだけ、こうした反応が出やすい。つわりが起きれば妊婦はそうした匂いをもたらす物質を遠ざけようとし、結果として流産などのリスクを抑える効果がある。
 なーるほど...、人間の体はうまく出来ているのですね。
カフェインは、コーヒーの木やお茶の原料となるツバキの仲間やチョコレートの原料になるカカオ、そしてオレンジやガラナといった植物にも含まれる化学物質。これは、本来は葉を食べる昆虫から身を守るために植物が生産しているもの。
 オスの目的は自分の子を残すこと。たとえ別種に似ていようが、同種のメスである可能性が少しでもあるなら、ためらわずにアタックすべし。同種のメスへ求愛したところで、交尾までたどり着ける可能性は少ないのだから、他種のメスかもしれないというリスクがあったとしても、同種と交尾できたときのリターンがとてつもなく大きいので、オスのみさかいのなさはなくならない。なんせ、生涯に1回でも交尾できれば御の字なのだから。これが、別種を識別する能力がいつまでたっても進化しない背景だ。
 なるほど、生物の世界には、もちろん人間様も同じですが、一見すると不合理な行動のように見えていても、実はそれだけの理由があることがほとんどなのですね。だったら、失恋しても、そんなに嘆き悲しむ必要はないのですが...。
 一味ちがった角度から生物の実際を眺めることができるようになる本です。
(2017年5月刊。860円+税)

  • URL

2018年2月 6日

インターネットによる郷土史の発信(2)

日本史(戦後)


(霧山昴)
著者  樋口 明男 、 出版  久留米郷土研究会

 筑後部会の樋口明男弁護士は郷土史を丹念に調べて写真とともにインターネットで発信しています、一冊の冊子になっています(2冊目です)。大変小さな活字ですし、たくさんの情報が詰まっていますので、読みにくいという難点はありますが、その豊富な情報と写真に思わず圧倒されてしまいました。
 久留米には、第一次世界大戦に日本軍が参戦し、中国の青島(チンタオ)にあったドイツ軍の要塞を攻略したあと日本に連れてきた、ドイツ兵捕虜を収容していた収容所がありました。全国5ヶ所に4800人のドイツ兵を分散収容したのですが、久留米には、そのうち1300人がいました。
そのドイツ兵たちはスポーツ大会をしたり、コンサートを開いたりしていました。また、ビールを飲み、ハムを製造したりしていたのです。その様子を伝える写真がたくさんあります。収容所には2つの楽団があったというのも驚きです。日本軍は第二次世界大戦での北京大虐殺のような残虐行為をしなかったということですね。相手がドイツ人(白人)だったというのも大きいような気がします。
この青島要塞攻略戦には、私の亡母の異母姉の夫(中村次喜蔵。終戦時に師団長・中将)も参加していて、宮中に呼ばれて天皇へ進講しています。久留米市史にも載っている話です。高良内には今も石碑が建っています。
大牟田の三池炭鉱の歴史についても豊富な写真つきで解説されています。三井港倶楽部は今もレストランとして残っていて、大牟田支部の裁判官の送別会の会場としてよく利用しています。そこに暗殺された団琢磨の小さな銅像があります。新大牟田駅前には巨大な全身像がそびえています。これは少し違和感があります。
三池炭鉱には、私も一度だけ坑底におりて採炭現場まで行ったことがあります。三川鉱の坑口から坑内電車に乗り、マンベルトに乗ったりして採炭現場までたどり着くのに1時間ほどかかりました。もちろん周囲は漆黒の闇です。その怖さといったらありません。ずっと生きた心地はしません。二度と入りたくはありませんでした。
大きな炭鉱災害がいくつも起きていますし、大小さまざまな事故が頻発していました。炭鉱存続というのは、人命尊重の立場からは簡単には言えないことだと、実際に、ほんのわずかの体験から考えています。
著者はまだまだ発信中ですが、こうやって冊子にまとめられると、一覧性があり、身近な郷土史の記録集として歴史をひもとくのに便利で活用できます。
樋口弁護士の今後ますますの健筆を期待します。
(2017年10月刊。非売品)

  • URL

2018年2月 7日

ブラック職場

社会(司法)


(霧山昴)
著者  笹山 尚人 、 出版  光文社新書

 電通に入社して2年目、24歳の女性社員が過労自殺してしまったことは本当に心の痛むニュースでした。電通には前科があります。何度も繰り返すなんて、ひどい会社です。憲法改正国民投票が実施されたら、またまた電通は大もうけするとみられています。テレビ番組の編成を事実上、牛耳っているからです。アベ改憲と手を組んで日本を変な方向にもっていきかねないので、ますます心配です。
 それはともかくとして、なぜブラック職場が日本社会からなくならないのか、本書はその根源をたどっています。
労働事件を担当して、たくさんの経営者と接してきたが、個々の経営者は、それぞれ普通の人間であり、他者の人生を平気で切り捨てることに何ら痛痒を感じない人には見えないことが多い。つまり、経営者個人が悪質な人間だというのではなく、そうした経営者が動かす企業体が組織の論理で利益を追求するという価値判断を行ったとき、人の人生を押しつぶすことをいとわなくなる。
 資本主義の世の中では、企業はとにかく無限に利益を追求する。したがって、事業の運営を人が理性をもってきちんと制御しないかぎり、利益の追及は無限の欲求となってたちあらわれてしまう・・・。
職場に労働契約が根づいておらず、労働組合が有効に機能していない。そもそも労働組合が存在しないところが多い。労働法が労働者を保護するために存在するということを知らず、考えたことのない労働者は多い。
著者は「やりがい搾取」というコトバを使っています。私は初めて聞くコトバでした。
仕事自体はとてもやり甲斐のある仕事。それを日々感じることができる。だから、給料が安くたっていいじゃないか、サービス残業が多いからといって問題にしなくていいじゃないかという考えで経営者があぐらをかいている。そのため長時間労働の問題にメスを入れず、長時間の拘束にきちんと対価を支払おうとしない。これを「やりがい搾取」という。なるほど、ですね。
「やりがい搾取」の本質は、「やりがい」を隠れ蓑にして、使用者が法律上そして契約上果たすべき責任をとらないことにある。
最近、裁判所で解雇事件についての解雇の正当性のハードルが以前に比べて下がってきているようだ。つまり、解雇しやすくなっている。
これは私の実感でもあります。やはり非正規雇用があたりまえ、ありふれた世の中になっていますので、クビのすげかえなんて簡単にできるものという風潮が社会一般にあって、裁判官もそれに乗っかかっているのです。
 この本で労働基準監督官が全国に3000人しかいない、本当は現場に出る人が5000人は必要だと指摘していますが、これまたまったく同感です。
労働基準法違反は犯罪だという感覚を日本社会は取り戻すべきで、そのためにも労働基準監督官の増員が必要なのです。
ブラック職場をなくすためには労働法の規制を強化すべきですが、いまアベ内閣はますます規制緩和しようとしています。残業時間の規制をゆるやかにし、解雇の自由をおしすすめようとしています。
若者を職場で使い捨てするような社会に未来はありません。安定した職場で、まっとうな賃金をもらって安心して働ける条件をつくり出す必要があります。
本書は職場の実情の一端を紹介するとともに解決策が示されています。若い人にも、中高年にも、ぜひ読んでほしい新書です。
(2017年11月刊。780円+税)

  • URL

2018年2月 8日

夜の放浪記

社会


(霧山昴)
著者  吉岡 逸夫 、 出版  こぶし書房

 東京の夜をさまよって得た取材記です。
 都内を夜に走るダンプカーが必要なのは分かります。午前2時半から5時まで、横浜と町田間の90キロを走るのです。積荷は建設用の砂。ダンプの運転手は、夜10時から午前1時半まで3時間半眠り、仕事が終わって、朝6時半から寝て9時半に起きる。あとは自由。
 トラックはデコトラ。派手に装飾されている。映画「トラック野郎」(菅原文太主演)に協力・出演した。デコトラのクラブが全国に500もある。すごいですね。でも、前ほどは見かけない気がします。
 新宿の新大久保には24時間の青果店があり、客の9割は外国人。中国人、韓国人、ベトナム人、ネパール人などなど。タイ人もいれば、ミャンマー人も来る。深夜にも客が絶えないとのこと、どうなってるんでしょうか・・・。
 渋谷区の恵比寿横町には、ギターを手に夜の酒場をめぐる「流し」の歌姫がいる。そう言えば、昔はギターを抱えてスナックやクラブを渡り歩く「流し」をよく見かけました。今は、私の身近には見かけません。そもそもスナックもクラブも人口減少のあおりもあって不景気で、それどころではないようです。
 両国の国技館の売店で売られている焼鳥は夜中に全自動でつくられている。うひゃぁ、そうなんですか・・・。
眠らない職場といえば、私の身近にも多いのが介護施設です。介護の現場で働く人には、本当に頭が下がります。必要な仕事ですが、きつい割には低賃金のため、定着率が良くないですよね。残念です。役にも立たないイージス・アショアにまわすお金(2600億円以上もします。とんでもない大金です)があるんだったら、そんなのやめて介護・福祉予算にまわすべきです。
そして、24時間保育園もあります。夜の仕事をしている母親にとって、なくてはならない施設です。でも、ここでも保育士の確保に苦労しているようです。
私は24時間コンビニなんていらないという考えですが、それでも病院のように24時間オープンの施設が必要なことも現実です。その一端を改めて認識させられた本です。取材した記者(著者)も病気で倒れたとのこと。気をつけてがんばって下さい。
(2017年12月刊。1800円+税)

  • URL

2018年2月 9日

女子高生の裏社会

社会


(霧山昴)
著者  仁藤 夢乃 、 出版  光文社新書

 現代日本社会にこんな現実があるって知りませんでした。女子高生が路上で客引きをして売春まがいの行為をしているという現実があるんですね、驚きました。前川喜平氏ではありませんけれど、そんな場所に出かけていって、なぜそんなことをしているのか、その実際と原因をしっかり認識したいと思いました。本書は、そんな願いを代わって実行した成果です。
家庭や学校に居場所がなく、社会的なつながりを失った高校生を難民高校生と呼ぶ。
子どもの6人に1人が貧困状態にある。高校中退者は年間5万5千人。不登校は中学校で年間9万5千人、高校で年間5万5千人。未成年の自殺者は年に500人以上、10代の人工中絶は1日55件、年間2万件以上。
JR秋葉原駅をおりると、「JKお散歩」や「JKリフレ」の店が並んでいる。そして、女子高生が路上で客引きをしている。
都内のJKリフレ店は80店。JKお散歩店は秋葉原だけで96店。1店舗につき、20~40人が働いていて、年間60人が働いている。都内だけで5000人以上が「立ちんぼ」をしている。
JKお散歩やJKリフレのスカウトは、水商売や風俗店のスカウトマンがやっていることが多い。彼らは、少女たちに声をかけ、店に紹介し、紹介料をもらう。女子高生に声をかけ、巧みな話術で連絡先を聞き出す。
高校生はまだ子供だ。声をかけられるとすぐに信用したり、抵抗なく連絡先を教える。スカウトする大人は目が肥えていて、連絡先を教えてくれそうな少女を目利きできる。
高校生を一人つかまえたら、そのあとは簡単。友だちも一緒に働けるよというと、たいてい一人は不安だから誰か誘おうと思い、友人を連れてくる。その少女がまた友人を紹介して・・・、芋づる式に集まってくる。
大人たちが本当に少女を心配していたら、不特定多数の男性とお散歩なんかさせるはずがない。彼らは、少女を「商品」として気にかけているにすぎない。しかし、少女たちは、自分は心配されていると錯覚し、安心する。
「観光案内ツアーガイド募集」「がんばり次第で1日3万円以上稼げます」「お客様を案内する仕事です」「入店祝い金として1万円を差し上げます」「モデル事務所と提携しています」「風俗店ではありません。個室や接触、女の子が嫌がることは一切ありません」
たしかに、これに惹かれる女子高生は少なくないのでしょうね。
友達紹介制度は、最初の1ヶ月間、友人が稼いだ売上げの10%が紹介者の少女に入る仕組みだ。
JK産業で働く女子高生の平均月収は6万7千円。
働いていることを親に隠していると答えたものが31人のうち27人。友人には25人が内緒にしている。JKリフレやお散歩で働く少女の多くは家庭から排除されている。彼女らにとって自宅は安らげる場所ではない。
性被害にあったとき、誰にも頼れず苦しむ女性は多い。誰にも言えない経験から少女が家族や学校、社会から孤立していってしまうことは少なくない。取材に応じた31人のうち4人がレイプ被害にあっていた。
貴重なレポートです。考えさせられる現実を知りました。
(2014年9月刊。760円+税)

  • URL

2018年2月14日

心  愛さんへ

人間


(霧山昴)
著者  寺脇 研 、 出版  ㈱ぎょうせい

 文部省(今は文科省)のキャリア官僚としてがんばった河野愛さんの追悼集です。20年前に発刊されたものを最近になって手に入れて読みましたので紹介します。キャリア官僚のハードな日常生活、そして彼らが毎日何をしているのか、その情景をまざまざと思い浮かべることができました。
愛さんは文化庁伝統文化課長として、太宰府の国立博物館の建立、小鹿田(おんだ)焼きの重文指定そして唐津くんち保存など、九州の文化保存にも大いに貢献していることを初めて知りました。
原爆ドームが平成7年6月、史跡に指定され、翌8年12月に厳島神社とともに世界遺産に登録された。これにも愛さんは関わっています。
 本省の課長職のときには、連日、10組、20組という訪問客に対応します。1組30分から長いと2時間の対応です。机の前は人でごったがえして、休む暇もない、同時に2組ということもある。夕方6時や7時には、のどはガラガラ。ときどきせきをすると、べっとり血のかたまりが出たりする。昼間とにかく聞いた話も、時間に追われてゆっくりとは聞いていないので、指示が不足していたり、軌道修正が必要なものが出て、夜に思い出して眠れなくなり、寝汗をびっしょりかいて、うなされて起きることもしばしば・・・。
こんな生活を愛さんは20年以上も続けたようです。たまりませんね。私も官僚を漠然と志向したこともありましたが、ならなくて良かったです。
愛さんはリクルート事件に直面します。文部省全体が巻き込まれました。愛さんは「不正に対して自分の生き方でたたかっていく」と書きしるしました。その正義感が許さなかったのです。
愛さんは、文部省労働組合の中央執行委員にもなっています。愛さんはカラオケでは「カスバの女」をうたいました。飲む場では盛り上がるのです。
愛さんは、仕事には厳しく、部下たちの手抜き仕事を見つけると、「このいい加減なやり方は許せない」とすさまじい形相で怒鳴り込んでいった。また、「仕事でしょ。いつから自分の好き嫌いで仕事を選ぶほど偉くなったの・・・」と叱りつけた。
そして、愛さんは「サロン・ド・愛」を主宰していました。キャリア官僚のほか、新聞記者、教授その他の10人前後がワイワイガヤガヤ・・・。昭和の終わりから平成にかけてのころのことです。
愛さんは40歳前後で働きざかり。こんな、「河野学校」とも呼ばれる場があり、後輩たちを引っぱっていました。そのなかに若き寺脇研氏がいて、前川喜平氏がいたのです。
「文部省も変わっていかなくてはいけない。従来の文部省のタイプの人間ばかり利用しているようではダメ。斬新な発想を文部行政に反映させていかなくては」と、愛さんは熱っぽく語っていたのでした。
私にとって、愛さんは東大駒場時代の同じ川崎セツルメントのセツラー仲間です。彼女のセツラーネームはアイちゃん。大柄で、明朗闊達、物怖じせず、いつもズケズケものを言うので、私たち男どもは恐れをなしていたものです。この本では東大では水泳部に所属していたと紹介されています。彼女は私と同じ年に東大に入学し、2年生の6月からは東大闘争に突入して一緒に試練をくぐり抜けたことになります。東大闘争たけなわの1968年9月、セツルメントの秋合宿に彼女も参加していることが写真で確認できます。私たちは、民主的なインテリとして社会に関わりながら、大学を出てからどう生きていくのかを真剣に議論していました。
アイちゃんは20年前に47歳で亡くなりました。お葬式には文部省の一課長なのに1500人もの参列者があったとのことです。それだけ人望があり、別れを惜しむ人が多かったというわけです。
今回、佐高信氏が「河野学校」の卒業生として前川喜平氏をFBで紹介したことから、アイちゃんの追悼集があることを知り、同じくキャリア官僚だった知人に頼んで入手して読みました。本文343頁の追悼集を全文読み通して、久々に学生時代のセツルメント合宿での熱い議論をまざまざと思い出しました。それにしても早すぎる死が惜しまれます。アイちゃん本人も残念なことだったと思います。
追悼集はよく編集されています。アイちゃんの生前の仕事上の活躍ぶりだけでなく、カラオケ、グルメを愛していた私生活も伝わってきて、アイちゃんの飾らない人柄がにじみ出ていました。本当に残念です。
(1998年2月刊。非売品)

  • URL

2018年2月16日

国境なき医師団を見に行く

社会

著者  いとう せいこう  、 出版  講談社

 勇気ある人々ですよね。戦場近くまで出向いて、傷ついている人々を、敵も味方もなく、両方とも無条件で治療するというのです。偉い人たちです。そして、たとえばこの組織に参加するために看護師の資格をとったという女性たちがいます。すごいことですね...。
 日本人の女性も何人も参加しています。ありがたいことです。医師団を支えているのは医師だけではありません。ロジスティクス、つまり建物をつくり、維持し、安全性を確保するといった人々も必要です。危険地帯のなかでも医師団体は丸腰で安全性を確保しているとのこと。それでもテロの巻き添えを喰って亡くなる人も出ています。残念です。
 国境なき医師団を現地で見ておこうとしたとき、出発前に「俺しか知りえない単語」を紙に書いて、封筒に入れ渡すよう求められた。なぜ...。誘拐されたとき、たしかに本人なのかを確認するための仕掛けなのだ。プルーフ・オブ・ライフと呼ばれている。うひゃあ、そういう仕組みがあるのですか、それほど危険な仕事なのですね...。
 MSF(フランス語です。国境なき医師団の略称)の施設に入るには、あらゆる武器が放棄されなければならない。
 建物をつくったり直したり、水を確保すべく工事するロジスティックがいなければ医療は施せない。
ひどい拷問を受けると、不眠やパニック、あるいは発狂する場合もあるので、心理ケア団体には精神科の医師も必要となる。
 難民施設にいると、未来が見えない。子どもたちは、まず勉強がしたい。そして、早く故郷に帰りたいと訴える。
MSFは、政治を変えようとしてここに来ているわけではない。あくまで医療不足を埋める方法を提示するにとどまる。
 ファミリープランニングを訴えるなかで、コントンムの使い方を教えることもある。避妊用インプラントというものがあるそうですね、知りませんでした。
 MSFを聖人君子の集まりみたいに見ないでほしい。なかでは、ビール飲んで、文句たらたら言って、悪態ついて、それでも働いているんだから...。なるほど、ですね。
 たくさんの写真とともにMSFの活動状況の一端が手にとるように分かります。
(2018年1月刊。1850円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー